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== 解説 ==
平安時代初期のハ行[[子音]]の音価は[[無声両唇摩擦音]]{{IPA|ɸ}}(現代のファ行の子音にあたる)であったが、平安時代中期に至ると以降、[[唇音退化]]現象により{{IPA|ɸ}} は以下のように[[両唇音|両唇]][[接近音]]{{IPA|ɰ}}に変化した。
 
*かは(川) {{IPA|kaɸa}} → {{IPA|kaɰa}}
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なお「フ」を除く語頭のハ行も、のちの唇音退化現象により唇を使わない声門摩擦音{{IPA|h}}に音韻変化している。こうして{{IPA|ɸa, ɸi, ɸe, ɸo}}の音は、いったん日本語の音としては消滅したが、近代以降に外来語として導入された「ファ」「フィ」「フェ」「フォ」は現代語において{{IPA|ɸ}}で発音されているとされる<ref>[http://daijirin.dual-d.net/extra/nihongoon.html 三省堂 Dual大辞林 第三版 特別ページ 日本語の世界5 日本語の音] (2012-5-12閲覧)</ref>。これによれば、{{IPA|ɸ}}は日本語において復活したことになる。
 
この現象により日本語の語彙において、語中・語尾にハ行音があるもの(合成語は除く)は鎌倉時代このハ行転呼の現象以降に成立した語彙であることが分かる。また特殊な例として「はは(母)」のように一旦、「はわ」に変化したのち、再び「はは」に戻ったものもある。これは「ちち(父)」「ぢぢ(爺)」の対応する「はは(母)」「ばば(婆)」の体系を維持しようとして引き起こされた変化と考えられる。また助詞の「は」「へ」は一語であるが、語尾に準じて転呼し、ワ行音となっている。
 
== 仮名における表記 ==
しかしハ行転呼音は、実際には依然としてハ行の仮名で記される場合が多かった。これは、それまで慣習的に行われていた言葉の表記を音韻の変化によって大きく変更することは、語の識別に支障を来たすことになったからである。「こひ」(恋)の表記は文献上「こひ」に落ち着いており、「おもふ」(思ふ)のように[[活用語尾]]の[[連体形]]や[[終止形]]が「ふ」で終わるものも、類推によって「ふ」が「う」になるようなことはなかった。これは[[藤原定家]]著の『[[下官集]]』を濫觴とする[[定家仮名遣]]においても同様である。ただし使用頻度の低い言葉や用例の少ない言葉の場合には、ワ行の仮名で記されてもいる。「こひ」(鯉)は恋と違って「こい」「こゐ」という表記が『仮名文字遣』にみられ、また『[[伊勢物語]]』の冒頭では、
 
:むかし、おとこうゐかうぶりして…(天福本)
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とあり、「う'''ゐ'''かうぶり」(初冠)は本来「う'''ひ'''かうぶり」であるが「うゐ」となっている。「うひかうぶり」という言葉はこの『伊勢物語』のほかにほとんど見られないもので、語の識別の上からは「ゐ」と記されても支障はなかったのである。
 
[[江戸時代]]に入ると、音韻の変化する以前の平安時代及び上代の表記を規準が正しいした表記方法を主張する、いわゆる契沖仮名遣が[[国学者]]の間で規範的と支持され、これを源流とした[[歴史的仮名遣]]が、[[明治時代]]に正書法として学校教育の中でにおいて教えられた。しかし歴史的仮名遣いは実際の発音と乖離しており、知識的負担量の多い仮名遣いであった。<!--誤表記と思われる例はいくらでも現れる。-->戦後、保守派を退けて[[現代仮名遣い]]が行われ、それまで「は」「ひ」「ふ」「へ」「ほ」で綴られていた語中語尾の仮名文字も、現代音に従って「わ」「い」「う」「え」「お」で表記されるようになった。しかし[[格助詞]]の「は」と「へ」を発音どおりに「わ」「え」と表記しないことは仮名遣いとして残った。
 
== 漢字音への影響 ==