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「'''メエルシュトレエムに呑まれて'''」(メエルシュトレエムにのまれて、''A Descent into the Maelström'')は、1841年に発表された[[エドガー・アラン・ポー]]の短編小説。巨大な渦巻「[[メイルストロム|メエルシュトレエム]]」に舟を呑み込まれた水夫漁師の脱出譚である。ポーの作品の中では「推理能力を中心に展開する物語(tales of ratiocination)」に分類され、また初期の[[サイエンス・フィクション]]とも見なされている<ref>Tresch, John. "Extra! Extra! Poe invents science fiction!" collected in ''The Cambridge Companion to Edgar Allan Poe'', Kevin J. Hayes, ed. Cambridge University Press, 2002: 116–117. ISBN 0-521-79727-6</ref>
 
日本では、翻訳者・書籍によって『大渦に呑まれて』、『大渦の底へ』、『メールシュトレームに呑まれて』その他幾つかの題名が用いられている。
『グレアムズ・マガジン』5月号が初出<ref>Bittner, William. ''Poe: A Biography''. Boston: Little, Brown and Company, 1962: 164.</ref>。1845年に短編集『物語集』に収録された<ref>Thomas, Dwight & David K. Jackson. ''The Poe Log: A Documentary Life of Edgar Allan Poe, 1809–1849''. Boston: G. K. Hall & Co., 1987: 540. ISBN 0-8161-8734-7</ref>。
 
== あらすじ ==
語り手は水夫年老いた漁師に先導されて、[[ノルウェー]]海岸の近くにあるロフォーン州の山ヘルゲッセンの頂に着く。そこは断崖絶壁になっており、眺望が開けて海と島々の様子が見渡せる。海は荒れ狂っており、一旦静まったかと思うと海流が変化し、突然巨大な渦巻きが現れた。どんな巨船も逃れられないであろう猛烈な大渦。これが「メエルシュトレエム」であった。水夫漁師は語り手に大渦を目の当たりにさせながら、3年前に自身に起こった出来事を語り始める。
 
水夫は二人の兄弟とともに漁船を出し、渦の起こる近くで漁をしていた。他の漁師たちは大渦巻きを恐れて近寄らないが、そこはいつたくさんの水揚げがあった。普段はちゃんと時間を計り見ながら潮が緩んで大渦が発生していない滞潮時に引き上げるのだが、しかしその日は運悪く、長い海上生活の経験でも予測できなかった嵐に遭遇してしまう。弟はしがみ付いていたマストもに海の中に投げ吹き飛ばされて消え彼と兄が乗った船は風によってどんどん急速に渦の方へ追い押しやられてしまう。時間を計っておいた水夫漁師は、じきに滞潮メエルシュトレエムの活動が終わる頃になるに違いない、と希望を抱いていたのだが、それもしかった。水夫の時計は止まっており、もうすぐ滞潮にな終わるどころか、メエルシュトレエムが荒れ狂っている真っ最中であったのだ。
 
船はだんだん大渦に捉えられ、回転運動をしながら次第に渦の中心に近づいていき、水夫漁師ほとんど観念して渦の様子を見守る。渦の漏斗には船の破片など様々なものが飲み込まれてっている。その様子を観察しているうちに、水夫はやがて、体積の大きいもの、それから球状のものは早く飲み込まれ渦の中心に落下しくのに対して、円柱状のものは飲み込まれるのに時間がかかっていることに気付く<ref>漁師は、「助かった後に学校の教師にこの話をして、物体のそうした振る舞いの違いが科学的事実であることを確認した」云々と物語の中で語っており、こうした部分にSFの要素が見出せる。</ref>。兄にそれを伝えて共に脱出しようとするが、恐怖で錯乱した兄は言う事を聞かなかった水夫は覚悟を決め、一か八かで円筒状の樽にしがみ自分の体を縛りて海のなかに飛び込んでいく。そうして案の定、船がそのあとすぐに渦の中心に飲み込まれてしまったのに対し、円筒状の樽は飲み込まれずに留まり、渦が消滅するまで持ちこたえることができた。「恐ろかしさに髪は真っ白になり注意を促まるで老人のように変わってまっ、助けてくれた漁師たちは誰聞こう私だわからなかった兄は船とともに飲み込まれてしまった。あなた(語り手)もロフォーデンの漁師仲間と同じで、こんなことはとても信じられないでしょう」と最後に水夫漁師締めくくる。
 
作品内には[[サルトスラウメン]]のメエルシュトレエムについて書いたノルウェーの歴史家[[ヨナス・ラムス]]への言及がある<ref>ヨナス・ラムスの記述として、大渦が船や鯨の群れや熊を飲み込む様子、際立って猛烈な時にはその衝撃で海岸の家さえ崩れた、等々の内容が書かれている。</ref>。また冒頭の<!--エピグラフ--><!--エピグラフという語もありますが、ここはエピグラムの方が適切なように私は思います。-->エピグラムに[[ジョセフ・グランヴィル]]のエッセイ『Against Confidence in Philosophy and Matters of Speculation』(1676年)からの引用が取られているが、ポーはかなり言い回しを変えている<ref>Sova, Dawn B. ''Edgar Allan Poe: A to Z.'' New York: Checkmark Books, 2001: 65–66. ISBN 0-8160-4161-X</ref><ref>ポーが本作の冒頭に記したグランヴィルの言葉の大意は以下のようである
:神の御業(みわざ)は、人間の行為とは比較にならぬほど偉大である。それは、デモクリトスが言う原子の世界よりさらに深い。</ref>。
 
== 成立と反響解題 ==
本作は、ポーの作品の中では「推理能力を中心に展開する物語(tales of ratiocination)」に分類され、初期の[[サイエンス・フィクション]](SF)とも見なされている<ref>Tresch, John. "Extra! Extra! Poe invents science fiction!" collected in ''The Cambridge Companion to Edgar Allan Poe'', Kevin J. Hayes, ed. Cambridge University Press, 2002: 116–117. ISBN 0-521-79727-6</ref>。『グレアムズ・マガジン』の1841年5月号が初出<ref>Bittner, William. ''Poe: A Biography''. Boston: Little, Brown and Company, 1962: 164.</ref>。1845年に短編集『物語集』に収録された<ref>Thomas, Dwight & David K. Jackson. ''The Poe Log: A Documentary Life of Edgar Allan Poe, 1809–1849''. Boston: G. K. Hall & Co., 1987: 540. ISBN 0-8161-8734-7</ref>。
「モスケンの大渦巻き」とも言われる[[メイルストロム|メエルシュトレエム]]に触発された作品であり
 
「モスケンの大渦巻き」とも言われる[[メイルストロム|メエルシュトレエム]]に触発された作品でありの難破から生還した水夫漁師の語る話、という作品構成は[[サミュエル・テイラー・コールリッジ]]の『老水夫行』(The Rime of the Ancient Mariner、1798年)を思わせる<ref>Sova, Dawn B. ''Edgar Allan Poe: A to Z.'' New York: Checkmark Books, 2001: 66. ISBN 0-8160-4161-X</ref>。ポーの他の冒険作品『[[ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語|アーサー・ゴードン・ピムの冒険]]』や『ユリウス・ロドマンの日記』と同じく、「メエルシュトレエムに呑まれて」の内容は読者から事実に基づいて書いたものと思い込まれ、作品内の一文が事実に基づく描写として[[ブリタニカ百科事典]]の第9版に引用された。皮肉なことに、この一文はそもそもポーが同じブリタニカ百科事典の以前の版から剽窃したものであった<ref name=Meyers125/>。なおポーは掲載に間に合わせるために完成を急ぎ、そのために結末部分が不完全になったと後に述べている<ref name=Meyers125>Meyers, Jeffrey. ''Edgar Allan Poe: His Life and Legacy''. New York: Cooper Square Press, 1992: 125. ISBN 0-8154-1038-7</ref>。
 
発表直後の4月28日付け『デイリー・クロニクル』では、「エドガー・A・ポー氏の「メエルシュトルーム(Maelstroom、原文ママ)に呑まれて」は、より大きくより広大な範囲をものしうる彼の才能には見合わない筆業だ」と評されている<ref name=PoeLog324>Thomas, Dwight & David K. Jackson. ''The Poe Log: A Documentary Life of Edgar Allan Poe, 1809–1849''. Boston: G. K. Hall & Co., 1987: 324. ISBN 0-8161-8734-7</ref>。他方『イヴニング・スター』紙は、「興味深さの点で、彼が最近ものした傑作「[[モルグ街の殺人]]」に匹敵する」と評した<ref name=PoeLog324/>。
 
フランスでは最初に「モルグ街の殺人」が(ポーに無断で)翻訳されたのち、フランスの読者はポーの他の作品を求め、結果「メエルシュトレエムに呑まれて」がそのうちで最も早く翻訳された<ref>Silverman, Kenneth. ''Edgar A. Poe: Mournful and Never-ending Remembrance''. New York: Harper Perennial, 1991: 320. ISBN 0-06-092331-8</ref>。
 
フランスの作家でSFの開祖の一人とされる[[ジュール・ヴェルヌ]]の作品『[[海底二万里]]』には、最終部分でノーティラス号がノルウェー沖の「マエルストローム(Maëlström)」に飲み込まれる描写があり、ポーの影響が見られる。
 
== 翻案 ==
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*日本のSF漫画家[[星野之宣]]は、[[2001夜物語]]第4夜で同じく舞台を宇宙に移し変えた『大渦巻III』を1984年に発表している。
 
== 出典・脚注 ==
日本語訳は『ポオ小説全集3』(創元推理文庫、1974年)所収の小川和夫訳を参照した他、『世界文学全集8』(河出書房新社、1968年)、『豪華版 世界文学全集9』(講談社、1976年)、『筑摩世界文学大系37』(筑摩書房、1999年8刷)も参考とした。
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