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'''粒子状物質'''(りゅうしじょうぶっしつ、Particulate Matter, '''PM''', Particulate)とは、一般的には[[マイクロメートル]](μm)の大きさの[[固体]]や[[液体]]の微粒子のことをいう。主に[[燃焼]]による[[煤塵]]、[[黄砂]]のような飛散[[土壌]]、[[海塩粒子]]、工場や建設現場で生じる[[粉塵]]等などからなる。これらを[[大気汚染]]物質として扱うときに用いる用語。
[[File:U.S. STEEL CHIMNEYS EMIT SMOKE 24 HOURS A DAY - NARA - 545441.jpg|thumb|right|250px|製鉄所からの黒い煤煙、1972年アメリカ]]
[[File:SMOKE FROM THE NEIGHBORING STEEL PLANT SETTLES ON EVERYTHING. THE MIXTURE OF RAIN, WATER AND THE FERROUS OXIDE IN THE... - NARA - 545469.jpg|thumb|right|250px|煤煙で汚れた自動車のボディー、1972年アメリカ]]
'''粒子状物質'''(りゅうしじょうぶっしつ、Particulate Matter, '''PM''', Particulate)Particulates)とは、一般的には[[マイクロメートル]](μm)の大きさの[[固体]]や[[液体]]の微粒子のことをいう。主に[[燃焼]]による[[煤塵]]、[[黄砂]]のような飛散[[土壌]]、[[海塩粒子]]、工場や建設現場で生じる[[粉塵]]等などからなる。これらを[[大気汚染]]物質として扱うときに用いる用語。
 
== 類義語と指標 ==
[[File:Particulate matter classification ja.png|thumb|right|250px|PM10, SPM, PM2.5の分級(捕集効率)特性。SPMはPM6.5 - 7.0に相当する<ref name="envkentou07"/>。]]
「粒子状物質」は一般的には大気汚染の原因となる微粒子全般をいうが、日本では[[大気汚染防止法]]が定める自動車排ガスの中の「粒子状物質」のみに限定して用いる場合があるので注意を要する<ref name="erca1">「[http://www.erca.go.jp/taiki/taisaku/geiin_towa.html 大気汚染の原因 【ばいじん、粉じん、浮遊粒子状物質(SPM)とは?】]」''大気環境の情報館''(環境再生保全機構)、2013年1月25日閲覧</ref><ref>「[http://www.erca.go.jp/yobou/taiki-kw122 粒子状物質(PM)]」''大気環境・ぜん息などの情報館''(環境再生保全機構)、2013年1月25日閲覧</ref>。一般的用法としての「粒子状物質」には、いくつかの類義語と指標がある。
; SPM(Suspended Particulate Matter、[[浮遊粒子状物質]])
: 大気中に浮遊する微粒子のうち、粒子径([[空気動力学径]]、以下同)が10μm以下のもの。粒子径10μmで100%の捕集効率を持つ分粒装置を透過する微粒子。PM6.5 - 7.0に相当する。大気汚染の指標として日本などで用いられる<ref name="env1">「{{PDFLink|[http://www.env.go.jp/council/07air/y070-25/mat04-2.pdf 大気中の微小粒子状物質(PM2.5)の測定方法について]}}」環境省 微小粒子状物質(PM2.5)測定法評価検討会、2008年12月、2013年1月25日閲覧</ref><ref name="envkentou07">「微小粒子状物質健康影響評価検討会 第7回 {{PDFLink|[http://www.env.go.jp/air/info/mpmhea_kentou/07/mat02.pdf 資料2 適切な粒径のカットポイントの検証]}}」環境省、2013年2月6日閲覧</ref>。
; PM10
: 大気中に浮遊する微粒子のうち、粒子径([[空気動力学径]]、以下同)が概ね10μm以下のもの。粒子径10μmで50%の捕集効率を持つ分粒装置を透過する微粒子。大気汚染の指標として世界の多くの地域で用いられる<ref>「[http://www.eic.or.jp/ecoterm/?act=view&serial=4204 PM10]」''eicネット''(環境情報センター)、2012年5月16日更新版、2013年1月25日閲覧</ref><ref name="env1"/>。
; SPM(Suspended Particulate Matter、[[浮遊粒子状物質]])
: 大気中に浮遊する微粒子のうち、粒子径([[空気動力学径]]、以下同)が10μm以下のもの。粒子径10μmで100%の捕集効率を持つ分粒装置を透過する微粒子。PM6.5 - 7.0に相当する。大気汚染の指標として日本などのみで用いられる<ref name="env1">「{{PDFLink|[http://www.env.go.jp/council/07air/y070-25/mat04-2.pdf 大気中の微小粒子状物質(PM2.5)の測定方法について]}}」環境省 微小粒子状物質(PM2.5)測定法評価検討会、2008年12月、2013年1月25日閲覧</ref><ref name="envkentou07">「微小粒子状物質健康影響評価検討会 第7回 {{PDFLink|[http://www.env.go.jp/air/info/mpmhea_kentou/07/mat02.pdf 資料2 適切な粒径のカットポイントの検証]}}」環境省、2013年2月6日閲覧</ref><ref>“[[#aqg05|Air quality guidelines]]”2005年、11頁、32頁、217-220頁</ref>。
; PM2.5(微小粒子状物質)
: 日本では訳語として「[[浮遊粒子状物質#微小粒子状物質|微小粒子状物質]]」の語が充てられるが、日本以外では相当する単語はなく専らPM2.5と呼ぶ。大気中に浮遊する微粒子のうち、粒子径が概ね2.5μm以下のもの。粒子径2.5μmで50%の捕集効率を持つ分粒装置を透過する微粒子。PM10と比べて小さなものが多いため、健康への悪影響が大きいと考えられている。1990年代後半から採用され始め<ref name="nitta09"/>、世界の多くの地域でPM10とともに大気汚染の指標とされている<ref name="erca1"/><ref name="env1"/><ref>「[http://www.eic.or.jp/ecoterm/?act=view&serial=2234 PM2.5]」''eicネット''(環境情報センター)、2009年10月14日更新版、2013年1月25日閲覧</ref>。
; PM0.1
: 日本では訳語として「超微小粒子」などと呼ばれる。PM2.5よりもさらに一桁以上小さい、粒子径が概ね0.1μm以下([[ナノメートル]]の大きさ)の微粒子を指す。PM2.5と比べて健康影響が大きいとされるが、研究途上にある<ref name="unep">「[http://www.unep.org/tnt-unep/toolkit/pollutants/facts.html Pollutants: Particulate matter (PM)]」国連環境計画(UNEP)、2013年1月29日閲覧</ref><ref name="nies22">「{{PDFLink|[http://www.nies.go.jp/kanko/kankyogi/22/22.pdf 微小粒子の健康影響 アレルギーと循環機能]}}」『環境儀』No.22、2006年10月、国立環境研究所、2013年1月29日閲覧</ref><ref name="kishimoto03"/>。
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最も古い疫学的研究としてアメリカにおける[[二酸化硫黄]]と粒子状物質の健康影響に関する研究(1974年)等がある。1980年には「一般の大気環境の濃度範囲の粒子状物質や二酸化硫黄が健康な人に死亡を引き起こすような証拠はない」と結論付ける論文が発表されて議論となった事があるが、すでにこの時期には汚染の濃度が低下しつつあり急速な健康影響が生じなくなっていた(長期的な暴露による影響に主題が移っていった)のではないかという考察がある。その後1980年代後半から研究報告が増え、Pope, Schwartzらをはじめとして都市部で日常的に観測される濃度での死亡率との関連性を肯定する報告、長期的な暴露に関する報告が複数発表された<ref name="nitta09">新田裕史「{{PDFLink|[http://www.jsae-net.org/KANTO/repo/090304_4.pdf 微小粒子状物質の健康影響評価について-疫学の視点からの考察-]}}」大気環境学会、[http://www.jsae-net.org/KANTO/rect/2009.php 平成21年「粒子状物質の動態と健康影響」講演会要旨]、2009年、2013年1月29日閲覧</ref>。
 
(Dockeryら、1993年、Popeら、1995年)をまとめた(新田、2009年)の報告によれば、「ハーバード6都市研究」と呼ばれる[[コホート研究]]の結果、PM2.5の濃度と、全死亡および[[心臓病|心疾患]]・[[呼吸器学|肺疾患]]による死亡の相対リスクとの間で、有意な関連性が認められている。また(Popeら、1995年、2002年、Krewskiら、2000年)をまとめた(新田、2009年)の報告によれば、米国癌[[アメリカがん協会|アメリカがん学会]]の研究を利用しアメリカの50都市30万人を対象に1989年までの7年間(追跡調査では1998年まで)行われた解析調査で、PM2.5の濃度と、全死亡および心疾患・肺疾患・[[肺癌]]による死亡との間で、有意な関連性が認められている。アメリカではこれらの研究が明らかになったことを契機にPM2.5の環境基準が設定されるに至った。日本でもSPM濃度と肺癌による死亡との関連性を示唆する研究報告がある<ref name="nitta09"/><ref name="kishimoto03"/>。
 
各種研究をまとめたWHO(2005年)によれば、PM10が10μg/m<sup>3</sup>増加した時の1日当たり死亡率は、呼吸器疾患によるものが1.3%(95%[[信頼区間|CI]]値 0.5-2.0%)、[[心血管疾患]]によるものが0.9%(同 0.5-1.3%)、全死因で0.6%(同 0.4-1.8%)、それぞれ上昇する。またアメリカがん学会の調査を利用したPopeらの研究("ACS CPS II", 1979–1983)によれば同じくPM10が10μg/m<sup>3</sup>増加した時の長期的な死亡率は、心肺疾患で6%(95%CI値 2-10%)、全死因で4%(同 1-8%)、それぞれ上昇する<ref>“[[#aqg05|Air quality guidelines]]”2005年、275頁</ref>。
定量的な推計報告の主な例では、1990年において大気浄化法のによる規制がなかった場合と比較して年間184,000人が助かったとの推計(アメリカ[[アメリカ合衆国環境保護庁|環境保護庁]]、1997年)、PM10への短期暴露により8,100人が死亡しているとの推計(イギリス[[保健省 (イギリス)|保健省]]・大気汚染健康影響委員会、1998年)、ディーゼル排気による発癌を被る人は年間5,000人余りとする推計(日本、岩井・内山、2001年)などがある<ref name="kishimoto03"/>。
 
定量的な推計報告の主な例ではとして、1990年において[[大気浄化法]]による規制がなかった場合と比較して年間184,000人が助かったとの推計(アメリカ[[アメリカ合衆国環境保護庁|環境保護庁]]、1997年)、PM10への短期暴露により8,100人が死亡しているとの推計(イギリス[[保健省 (イギリス)|保健省]]・大気汚染健康影響委員会、1998年)、ディーゼル排気による発癌を被る人は年間5,000人余りとする推計(日本、岩井・内山、2001年)などがある<ref name="kishimoto03"/>。
 
== 環境への影響 ==
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=== WHO ===
[[世界保健機関]](WHO)は、公衆衛生の進展度が異なる各国が環境基準を定める際のガイドラインとして、粒子状物質を含む「大気質指針」(Air Quality Guidelines)と暫定目標を定めている。1987年にWHO欧州地域事務局がヨーロッパのガイドラインを定めて以降、健康影響に関する評価を進めて世界全体を対象としたガイドラインに拡張し、2006年10月 - 2007年3月にかけて公表した。以下のような構成となっており、最終的には「大気質指針」が理想であるが、各国の状況も尊重され、これと異なる独自の基準を設定することを妨げるものではないと表明している。なお、下表の24時間平均は、99パーセンタイル値(この値を超えない日は年間365日のうち99%、超える日は1%=3日間まで)<ref>“[[#aqg05|Air quality guidelines]]”2005年、275-280頁</ref><ref name="env2">「{{PDFLink|[http://www.env.go.jp/council/07air/y070-24/mat02_1.pdf 資料2-1 欧米における粒子状物質に関する動向について]}}」環境省、2013年1月25日閲覧</ref>。
{| class="wikitable"
|+ WHO大気質指針
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=== 日本 ===
{{see also|公害|日本の環境と環境政策|大気汚染#日本の状況}}
{{main|浮遊粒子状物質}}
日本では[[大気汚染防止法]]において環境基準を設定すべきと定め、1972年に浮遊粒子状物質(SPM)の基準を初めて設定した。PM2.5の基準は1990年代に設定された欧米と比べて遅れていたが、2007年に和解が成立した[[東京大気汚染訴訟]]においてその対策が言及されたことを受け、[[中央環境審議会]]において検討が進められ、2009年に基準が初めて設定された。現行では[[環境省]][[告示]]としてSPMと微小粒子状物質(PM2.5)の基準を定めている<ref>「[http://www.env.go.jp/kijun/taiki.html 大気汚染に係る環境基準]」環境省、2013年1月25日閲覧</ref>。
* SPM:1時間値の1日平均値0.10mg/m<sup>3</sup>(100μg/m<sup>3</sup>相当)以下、かつ1時間値が0.20mg/m3(200μg/m<sup>3</sup>相当)以下であること(1973年5月8日告示・現行1996年改正版「大気の汚染に係る環境基準について」<ref>「[http://www.env.go.jp/kijun/taiki1.html 大気の汚染に係る環境基準について] 」環境省、2013年1月29日閲覧</ref>)。
* PM2.5:1年平均値が15μg/m<sup>3</sup>以下、かつ1日平均値が35μg/m<sup>3</sup>以下であること(2009年9月9日告示・現行「微小粒子状物質による大気の汚染に係る環境基準について」<ref>「[http://www.env.go.jp/kijun/taiki4.html 微小粒子状物質による大気の汚染に係る環境基準について] 」環境省、2013年1月29日閲覧</ref>)。
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! !!一級!!二級!!三級
|-
|TSP||24時間平均 0.12mg/m<sup>3</sup>(120μg/m<sup>3</sup>)<br/>年平均 0.08mg/m<sup>3</sup>(80μg/m<sup>3</sup>)||24時間平均 0.3mg/m<sup>3</sup>(300μg/m<sup>3</sup>)<br/>年平均 0.2mg/m<sup>3</sup>(200μg/m<sup>3</sup>)||24時間平均 0.5mg/m<sup>3</sup>(500μg/m<sup>3</sup>)<br/>年平均 0.3mg/m<sup>3</sup>(300μg/m<sup>3</sup>)
|-
|PM10||24時間平均 0.05mg/m<sup>3</sup>(50μg/m<sup>3</sup>)<br/>年平均 0.04mg/m<sup>3</sup>(40μg/m<sup>3</sup>)||24時間平均 0.15mg/m<sup>3</sup>(150μg/m<sup>3</sup>)<br/>年平均 0.1mg/m<sup>3</sup>(100μg/m<sup>3</sup>)||24時間平均 0.25mg/m<sup>3</sup>(250μg/m<sup>3</sup>)<br/>年平均 0.15mg/m<sup>3</sup>(150μg/m<sup>3</sup>)
|-
|colspan="4" style="font-size:small"|一級は都市部、二級は半農半牧畜の地域、三級は農業や林業の地域。
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{{脚注ヘルプ}}
{{reflist|2}}
 
== 参考文献 ==
* {{Anchors|aqg05}}“Air quality guidelines -Global update 2005- Particulate matter, ozone, nitrogen dioxide and sulfur dioxide”World Health Organization(世界保健機関)、2006年 ISBN 92-890-2192-6(Web版[http://www.euro.who.int/en/what-we-publish/abstracts/air-quality-guidelines.-global-update-2005.-particulate-matter,-ozone,-nitrogen-dioxide-and-sulfur-dioxide]) - 大気質指針の2005年改正版
 
== 関連項目 ==
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* [[放射性降下物]] - 粒子状物質に該当する大きさの微粒子が多く含まれる。
 
{{環境問題|||uncollapsed|}}
{{DEFAULTSORT:りゆうししようふつしつ}}
[[Category:大気汚染]]
219 ⟶ 228行目:
[[en:Particulates]]
[[es:Partículas en suspensión]]
[[fi:Pienhiukkanen]]
[[fr:Particules en suspension]]
[[ko:미세먼지]]
232 ⟶ 242行目:
[[ru:Взвешенные частицы]]
[[sk:Pevné častice (emisie)]]
[[fi:Pienhiukkanen]]
[[sv:PM10]]
[[th:ฝุ่นละออง]]