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'''植物油'''({{lang-en-short|vegitable oil}})とは[[植物]]に含まれる[[植物性脂肪|脂肪]]を[[採油 (油脂)|抽出]]・[[精製]]した[[油]]である。特に脂肪含有率の高い[[ヤシ]]や[[大豆]]、[[菜種]]などの[[種子]]や[[果肉]]から精製され、食・調理用や加工用に利用されている他、古くは燈火の燃料としても使われ、20世紀後半から[[バイオディーゼル]]用途の需要も拡大している。
{{see also|植物油の一覧|植物性脂肪}}
 
== 歴史 ==
[[人類]]が使い始めた最初の油は[[動物性油脂]]と考えられている。[[旧石器時代]]には[[動物]]の[[脂肪]]を[[灯り]]として利用していた。動物性油脂にくらべ、抽出がより困難な植物性油脂の利用には技術などの発展が待たれた<ref>日清オイリオ [http://www.nisshin-oillio.com/q_a/5_q1.shtml 「油の歴史はじめてものがたり」] </ref>。
植物から油脂を抽出し([[搾油]])植物油としての利用を始めたのは[[古代]]に遡る。[[エジプト]]では[[ピラミッド]]に油脂の使用の痕跡が見つかっている。[[地中海]]沿岸では5-6千年前に[[オリーブ]]の栽培が始まったと考えらており、[[ローマ帝国]]の拡大に伴い、栽培も[[小アジア]]から帝国全土に広まっていった<ref>香川県農業試験場[http://www.pref.kagawa.jp/noshi/olive/rekishi.html 「オリーブいろいろ」] </ref>。オリーブ同様に収量も多く搾油が容易なココナッツオイルも数千年の歴史があると考えられる<ref>Coconut Research Center [http://www.coconutresearchcenter.org/Japanese%20Index.htm ココナッツ] </ref>。
 
日本でも同様に最初に使われ始めたのは分離が簡単な魚や獣からの動物性油脂であると考えられる。植物油に関しては[[縄文]]晩期にアフリカ原産の[[ゴマ]]が日本に伝わり<ref>日本植物油協会 [http://www.oil.or.jp/trivia/wagashi.html 「南部せんべい」] </ref>、[[日本書紀]]に[[ハシバミ]]から油を抽出したとの記述があり、3-4世紀ごろには始まっていた。[[奈良時代]]にはゴマの搾油技術が伝来しており、[[大化改新]](645年)の頃には[[荏胡麻]](えごま)油が税として徴収されていた。[[平安時代]]には搾油機が発明され、より大量の植物油が供給されるようになった。[[鎌倉時代]]には様々な[[油屋]]があったがそれぞれ独占権を与えられていた。当時は植物油は貴重であり[[灯油#灯油(ともしびあぶら)|灯油(ともしびあぶら)]]が主な用途であった。ごま油を例にとるとゴマ40-45株から約300グラムのゴマが収穫でき、それから約150グラムのごま油が得られるのみである<ref>日清オイリオ [http://www.nisshin-oillio.com/q_a/2_q4.shtml 「食用油を作るのにどのくらいの原料が必要なの?」] </ref>。当時は食用に利用出来るのは富裕層に限られていた<ref>biwa.ne.jp [http://www.biwa.ne.jp/~n-320/abura.html 「植物油」] </ref>。 
 
庶民においては植物油は食用はもちろん燈火用にも高価であり、[[魚油]]などが使われていた。 [[ろうそくの歴史|ろうそく]]は植物油よりさらに高価なものであった。 [[江戸時代]]になり[[菜種油]]や[[綿]]の生産増に伴う[[綿実油]]の生産が増加し始め、庶民による植物油の利用が広まっていった。18世紀初期には江戸では一人あたり平均年間約7.2リットル<ref>この数値は主である燈火用の消費が含まれているので現在の食用消費量とは比較できない。</ref>の消費まで増加していた<ref>東京油問屋市場 [http://www.abura.gr.jp/contents/shiryoukan/rekishi/rekish27.html 「江戸積油問屋」] </ref>。燈火用と食用の比率は分からないが、庶民層においては消費量自体が小さく燈火用が主であったと考えられる。
 
[[明治]]に入り燈火用には[[ケロシン]]が植物油にとって代わるが食の洋風化と共に食用の消費が増え、[[大正]]には大規模な製油工場も稼働を始めた。[[昭和]]になるとさらに食の洋風化が加速し植物油の消費も増えていった<ref>農林水産省 [http://www.maff.go.jp/j/pr/aff/1111/spe2_01.html 「植物の恵みで元気に! 植物油」] </ref>。
 
== 製法 ==
油分の多い原料では[[圧搾]]し油を絞り出す。[[大豆]]や[[米ぬか]]など油分が少ない原料では圧搾は行なわず化学的に[[ヘキサン]]などの[[溶剤]]を使い油分を分離したあと蒸溜し油分を取り出す。油分の多い原料の場合は圧搾と[[抽出]]を併用する場合もある。この圧搾、抽出の工程は搾油、得られたものは[[粗油]]と呼ばれる。粗油には油分以外の澱(おり、[[ガム質]])が含まれており、これを[[遠心分離器]]で除去し原油を得る。この原油が脱酸、水洗、脱色、ろ過などの最終精製工程を経て最終商品となる<ref>日本植物油協会 [http://www.oil.or.jp/kiso/seisan/seisan06_01.html 「6.植物油の製造法」] </ref>。
 
* [[サラダ油]]は、原料は菜種、綿実、大豆、ごま、サフラワー(紅花)、ひまわり、とうもろこし、米(米糠)、落花生またはこれらを混合したもの(調合サラダ油)で、脱蝋・精製処理をし固化しやすい成分を除去したものである。
* [[天ぷら油]]は、香りを重視し調合された油。色や香りの強いごま油の他、綿実油、椿油、オリーブオイルやなたね油も使われる。
 
== 成分 ==
{{main|植物性脂肪}}
多くの植物油は融点が低い不飽和脂肪酸を多く含むため常温で液体であるが、融点の高い飽和脂肪酸を多く含むココナッツ油やカカオバターなどもある。
 
== 規格 ==
食用植物油脂は日本では[[JAS]](Japanese Agricultural Standard)法「農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律」でその品質基準が制定されている。日本油脂検査協会が農林水産大臣より登録認定機関として認められており、同協会が製油工場およびその製品の認定を行ない合格品にJASマークが付けられる<ref>日本油脂検査協会 [http://www.oil-kensa.or.jp/jas/jas.html 「JASとは」] </ref>。各植物油に関しては[[色]]、[[酸価]]、[[比重]]、[[屈折率]]、[[けん化価]]、[[ヨウ素価]]などの規格が制定されている<ref>日本油脂検査協会 [http://www.oil-kensa.or.jp/pdf/JAS-kikakuti.pdf 「JAS規格値」] </ref>。[[添加物]]として認められているのは[[酸化防止剤]]として[[トコフェロール]]、容量4kg以上の製品の[[消泡剤]]として[[シリコーン]]、栄養強化剤として[[ビタミンE]]のみである。
 
[[欧州]]においては食用油における[[ベンゾピレン|ベンゾ[a]ピレン]]などの[[多環芳香族炭化水素]]の含有を規制している<ref>日本食品分析センター [http://www.jfrl.or.jp/item/noxiousmatter/a.html 「ベンゾピレン分析に関する緊急メニューのお知らせ」] </ref>。
 
== 植物油の原材料 ==
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{| class="wikitable" style="text-align:center; margin:1em auto;"
|+ 各油糧種子の含油率 <br>(油分重量/油糧種子重量)<ref>島根大学・生物資源科学部 [http://www.ipc.shimane-u.ac.jp/food/kobayasi/hikaku7_2007.html 「比較作物論 第6回 油料作物 後編」] </ref>
! 作物 !! 含油率 !!
|-
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| ココナッツ、こぷら || 60-70% ||
|-
| 大豆 || 20% ||
|-
| 菜種 || 35-50% ||
|-
| ひまわり || 大粒種10-20% || 小粒種20-35%
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| 亜麻の種子 || 32-38% ||
|}
参考までに[[玄米]]の含油率は2.9%で[[米ぬか油]]の原料の[[米ぬか]]では18.3%<ref>メタボ-ダイエット [http://metabo-diet.net/page/seibunview/01/3010/ 「食品成分表 米ぬか」] </ref>、[[コーン油]]の原料のトウモロコシの含油率は1.2%であるが、胚芽では40-55%である<ref>日清オイリオ [http://www.nisshin-oillio.com/q_a/2_q2.shtml 「植物油には、どんな種類があるの?」] </ref>
 
=== 油糧作物の生産量 ===
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! 作物 !! 生産量 !! 主要産地国(百万トン)
|-
| 大豆 || 265.79 || 米国(90.6)、 ブラジル(75.3)、アルゼンチン(49.2)、中国(15.1)、インド(9.5)以上5ヶ国で世界生産の9割を占める。 
|-
| 菜種 || 60.69 || カナダ(13.1)、中国(12.2)、インド(7.1)、ドイツ(6.0)、フランス(4.8)、オーストラリア(2.4)以上6ヶ国で四分の三を占める。
|-
| 綿実 || 43.31 || インド(10.8)、中国(10.6)、米国(5.5)、パキスタン(3.7)以上4ヶ国で7割を占める。
|-
| ひまわりの種 || 33.51 || ウクライナ(8.0)、ロシア(5.7)、アルゼンチン(3.7)、中国(1.7)、フランス(1.6)以上5ヶ国での6割を占める。
|-
| ピーナッツ || 25.79 ||USDAでは36百万トンと集計しており、主な生産国は中国(15.6)、インド(5.9)、米国(1.9)、ナイジェリア(1.6)、<ref>USDA [http://www.fas.usda.gov/psdonline/psdreport.aspx?hidReportRetrievalName=BVS&hidReportRetrievalID=918&hidReportRetrievalTemplateID=1#ancor Table 13 Peanut] </ref>。
| ピーナッツ || 25.79 ||
|-
| パーム果実 || 217.93 || インドネシア(90.00)、マレーシア(87.83)この2ヶ国で8割を占める。他ナイジェリア(8.50)、タイ(8.22)<ref>FAOSTAT [http://faostat3.fao.org/home/index.html#DOWNLOAD download] 日本植物油協会の資料に掲載されていなかったのでFAOから直接転記データは2010年度</ref>
|-
| パーム核 || 12.75 || アブラヤシの種子
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{| class="wikitable" style="text-align:center; margin:1em auto;"
|+ 油糧種子の主な輸入国と輸入量 (百万トン)
! 輸入国 !! 2006<br>/7 !! 2007<br>/8 !! 2008<br>/9 !! 200<br>9/0 !! 2010<br>/1 !! 2011<br>/2 !!
! 輸入国 !! 輸入量 !!
|-
| 中国 || 28.7 || 37.8 || 41.1 || 50.3 || 52.3 || || 1996年に内需拡大から輸入国となった。2004/5年度は25.8百万トンで倍増している。
|-
| メキシコ || 3.8 || 3.7 || 3.3 || 3.7 || 3.5 || ||
|-
| オランダ || 4.0 || 4.0 || 3.5 || 3.3 || 3.2 || ||
|-
| スペイン || 2.5 || 3.3 || 2.9 || 3.2 || 3.1 || ||
|-
| 日本 || 4.1 || 4.0 || 3.4 || 3.4 || 2.9 || || 2004/5年度から2007/8年度は4百万トン前後の輸入であった<ref name=JA2011>資料の数値は2010年10月から2011年9月で[[東日本大震災]]の影響で数値が例年とは異なる可能性がある。</ref>。
|-
| ドイツ || 2.8 || 2.7 || 2.5 || 2.4 || 2.6 || ||
|-
| 台湾 || 2.4 || 2.1 || 2.2 || 2.5 || 2.5 || ||
|}
これらの国で総輸出量の77%が輸入された。
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{| class="wikitable" style="text-align:center; margin:1em auto;"
|+ 油糧種子の主な輸入国と輸入量 (百万トン)
! 輸入国 !! 2006<br>/7 !! 2007<br>/8 !! 2008<br>/9 !! 2009<br>/0 !! 2010<br>/1 !! 2011<br>/2 !!
! 輸入国 !! 輸入量 !!
|-
| 日本 || 2.2 || 2.3<ref name=JA2011/>|| 2.1 || 2.3 || 2.3 || ||
|-
| メキシコ || 1.3 || 1.4 || 1.2 || 1.3 || 1.5 || ||
|-
| 中国 || 0.96 || 0.81 || 3.0 || 2.2 || 0.93 || || 2004/5年度から3倍に急増している。
|-
| パキスタン || 0.79 || 0.61 || 0.56 || 0.97 || 0.85 || ||
|}
これらの国で総輸出量の53%が輸入された。
171 ⟶ 196行目:
| 綿実油 || 4.7 ||
|-
| style="white-space:nowrap"|ピーナッツオイル || 4.0 ||
|-
| オリーブオイル || 3.3 ||
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世界のバイオディーゼルの生産能力は8千万トンと推定されているが、2011年(暦年)には2千万トンが生産された。
米国では2.95百万トン、ドイツ2.73百万トンとフランス1.78百万トンをふくめたEUで9.13百万トン、アルゼンチン2.43百万トン、ブラジル2.35百万トン、インドネシア1.10百万トンが主な生産国で全世界で21.7百万トンのバイオディーゼルが生産された。
 
== その他 ==
『[[油しめ]]』・『油祝い』は旧暦11月15日に行なわれた行事で、貴重な油を使った料理を神前に備え油の収穫を祝っていた事が発祥で、後に冬に備えて油料理を食べる意味合いが付加され全国各地で[[けんちん汁]]、[[天ぷら]]、[[きんぴらごぼう]]等の油料理が食べられるようになった。この習慣は製油業が盛んな西日本で始まり関東・東北へ広まっていった<ref>日本植物油協会 [http://www.oil.or.jp/trivia/abura.html 「油祝いとは」] </ref><ref>ミキ薬局 [http://miki-ph.jp/tabe_info/tabe10/2012/920 「行事食 No.43 油祝い・油しめ」] </ref>。
 
[[書]]に使う[[墨]]には古くは植物油の[[煤]]から造る[[油煙墨]]、[[松]]の[[ヤニ]]の煤から造る[[松煙墨]](しょうえんぼく)が利用されており、近年は[[鉱物油]]からの普及品もあるが、菜種油から作られた墨が最上と言われている<ref>日本植物油協会 [http://www.oil.or.jp/trivia/yuenboku.html 「油煙墨」] </ref>。
 
[[離宮八幡宮]] 神主がエゴマから搾油したのが我が国の製油の始まりといわれており、当神社が油の製造販売の特権を持ち、後に油業で栄え[[油座]]が作られるなど油に関わりの深い神社である。毎年4月3日には油にまつわる[[日使頭祭]](ひのとさい)が祝われる。[[油懸山地蔵院西岸寺]]も同様に油商人にちなんだものである<ref>日本植物油協会 [http://www.oil.or.jp/trivia/shinbutsu.html 「油にまつわる神仏」] </ref>。また各地に油の製造・流通に由来する地名がある。例)[[油山]](福岡)は油を製造していた、[[油堀川]](東京)、[[油屋町]](京都、名古屋)は油の販売、[[荏原]](えばら)や[[荏田]](えだ)は油の原料のエゴマに因む<ref>日本植物油協会 [http://www.oil.or.jp/trivia/chimei.html 「油にちなむ地名」] </ref>。
 
==注釈、出典==
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* [[食用油]]
* [[食料自給率]]
* [[トランス脂肪酸]]
 
{{DEFAULTSORT:しよくふつゆ}}