「ブラウン・ラチェット」の版間の差分

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== ファインマンのブラウン・ラチェット ==
 
[[画像:Feynmans_Ratchet.jpg|thumb|180px240px|ファインマンのブラウン・ラチェット]]
[[リチャード・ファインマン|ファインマン]]の装置の基本部分は古くからあるただの[[ラチェット|ラチェット機構]]である。 このようなラチェット機構は、非対称な歯をもつ歯車 (ラック) をバネなどで抑え付けられた爪が支えており、一方向への回転のみを許し逆方向には回転できないようになっている。 一方、これとは別に軸の回りで自由に回転できる水車のような極めて小さな羽根車を用意し、ある一様な温度の気体の中に入れたとする。 羽根車には分子が乱雑に衝突し、 [[ブラウン運動]]として羽根車を左右に揺り動かす。 この運動自体には方向性はなく[[仕事 (物理学)|仕事]]をなすことができない。 しかし、この羽根車の軸を上述のようなラチェットの歯車の軸と組み合わせるなら、ラチェットは一方向にしか回らないはずなので、これは一方向への回転運動を生み出すと考えられる。 回転軸に小さなおもりを付けておけばこの歯車は仕事をなすことになる。
 
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== 細胞内でのブラウン運動の利用 ==
 
[[画像:Ratchet_Potential.png|thumb|240px|ラチェット・ポテンシャルを繰り返し印加することにより、ブラウン運動を利用してイオンは確率的に坂道を登ることができる。]]
上述の議論は逆に、もし一定の制動機構を働かせ続けるなら、激しい分子運動によりブラウン運動を受ける環境の元で、そのブラウン運動を利用して上述のようなブラウン・ラチャットの歯車を回転させ続けることができることを意味する。
 
上述のラチェットの歯車の歯に似たノコギリ状の非等方的な構造を持つポテンシャル (ラチェット・ポテンシャル) が与えられていると仮定しよう。 このポテンシャルの障壁を乗り越えられないレベルのエネルギーを持つ粒子は、片方の方向に偏った位置 (例えば右) にある極小点のまわりに捉えられる。 このノコギリ状のポテンシャルを外部から取り除くと、爪が外された歯車のように粒子はその回りで自由に等方性のブラウン運動を行なえるようになる。 再びポテンシャルをかけると粒子は再びどこかの極小点に捉えられるが、極小点の位置が右に偏っているため、それが移動するときには左よりも右に移動する確率が高くなる。 この過程を繰り返せば正味の運動として粒子の右向きの運動を取り出すことができる。
 
実際これは、細胞膜上でイオン勾配に逆らってイオンを運搬 ([[能動輸送]]) している膜蛋白である[[イオンポンプ (生化学)|イオンポンプ]]のモデルである。 運搬されるイオンは電位勾配の他に分子衝突によるブラウン運動を行なっている。 一方、イオンポンプの蛋白であるトランスポーターは化学的に作用するエネルギーにより形が絶えず変化して偏ったポテンシャルを作り出しては消している。 これによってランダムな運動を利用しつつイオンポンプはイオンを勾配に逆らって運搬すると考えられている。