「ポリティカル・コレクトネス」の版間の差分

削除された内容 追加された内容
Dodonga (会話 | 投稿記録)
編集の要約なし
3行目:
[[1980年代]]に[[多民族国家]][[アメリカ合衆国]]にて始まった、「用語における差別・偏見を取り除くために政治的 (political) な観点から見て正しい (correct) 用語を使う」という意味で使われる言い回しである。「偏った用語を追放し、中立的な表現を使用しよう」という運動のみでなく、差別是正全体を指すこともある。この運動は日本語など、他の言語にも持ち込まれ、いくつかの用語が置き換えられるに至った<!--「修正」「改正」だとは限らない-->。
 
[[日本語]]では「'''政治的に正しい'''」と訳される場合があるが、それを皮肉った『-おとぎ話』などの書籍も存在する。
ポリティカル・コレクトネスは[[名詞]]形で、[[形容詞]]形は「'''ポリティカリー・コレクト'''」(politically correct) となる。
 
== 概要 ==
[[日本語]]では「'''政治的に正しい'''」と訳される場合があるが、それを皮肉った『-おとぎ話』などの書籍も存在する。
この立場では、[[職業]]・[[性別]]・[[文化]]・[[人種]]・[[民族]]・[[宗教]]・[[ハンディキャップ障害]]・[[年齢]]・[[婚姻]]状況などによる社会的な[[差別]]・[[偏見]]が含まれていない公平な表現・用語を推奨している。適切な表現が存在しない場合は、新語が造られることもある。
 
[[英語]]の[[敬称#英語の敬称|敬称]]においては、男性を指す「{{ルビ|{{lang|en|Mr.}}|ミスター}}」が未婚・既婚を問わないのに対し、女性の場合は「{{ルビ|{{lang|en|Miss}}|ミス}}」(未婚)、「{{ルビ|{{lang|en|Mrs.}}|ミストレス}}」(既婚)と区別されるが、それを女性差別だとする観点から、未婚・既婚を問わない「{{ルビ|{{lang|en|Ms.}}|ミズ}}」という表現に置き換えられるようになった。「Ms.」この語本来、「mistress」(「{{lang|en|mister}}」の女性形で、未婚・既婚を問わない)の略で、語として17世紀頃に使用されていたが、その後、「{{lang|en|Miss}}」「{{lang|en|Mrs.}}」に置き換えられていた。それがポリティカル・コレクトネスによって復活したことになる。ちなみに、「mistress」は現代では「[[妾]]」を意味し、「Ms.」とは別々の言葉として扱われている。しかし、女性の中には「Ms.」と呼ばれるのを嫌がる者もいる。
== 概要 ==
この立場では、[[職業]]・[[性別]]・[[文化]]・[[人種]]・[[民族]]・[[宗教]]・[[ハンディキャップ]]・[[年齢]]・[[婚姻]]状況などによる社会的な[[差別]]・[[偏見]]が含まれていない公平な表現・用語を推奨している。適切な表現が存在しない場合は、新語が造られることもある。
 
人種・民族においては、[[ネグロイド|黒人]]を指す「'''{{ルビ|{{lang|en|Black'''}}|ブラック}}」がアフリカ系アメリカ人を意味する'''{{ルビ|{{lang|en|African American'''(}}|アフリカン・アメリカ人)ン}}」に置き換えられた。しかし、両者は厳密には同一ではない(肌が黒いからアフリカ系だとは限らず、アフリカ出身だから黒人だとも限らない)。また、「アフリカ系アメリカ人」という表現は、アメリカでの歴史が長い家系(奴隷の子孫で、英語を母国語とする者)とそうでない近年の移民(英語を母語としない者)を同じ枠で括ってしまうことになるため、特に前者の中にはそう呼ばれるのを嫌がる者もいる。
[[英語]]の[[敬称#英語の敬称|敬称]]においては、男性を指す「Mr.」が未婚・既婚を問わないのに対し、女性の場合は「Miss」(未婚)、「Mrs.」(既婚)と区別されるが、それを女性差別だとする観点から、未婚・既婚を問わない「Ms.(ミズ)」という表現に置き換えられるようになった。「Ms.」は本来、「mistress」(「mister」の女性形で、未婚・既婚を問わない)の略で、17世紀頃に使用されていたが、その後、「Miss」「Mrs.」に置き換えられていた。それがポリティカル・コレクトネスによって復活したことになる。ちなみに、「mistress」は現代では「[[妾]]」を意味し、「Ms.」とは別々の言葉として扱われている。しかし、女性の中には「Ms.」と呼ばれるのを嫌がる者もいる。
 
一方、本来は[[インド]]人を意味する「{{ルビ|{{lang|en|Indian}}|インディアン}}」が[[アメリカ州の先住民族]](インディアン)を指すことが多かったため、カナダでは「{{ルビ|{{lang|en|First Nation}}|ファースト・ネーション}}」、米国では{{ルビ|{{lang|en|Native American(American}}|ネイティブ・アメリカン}}」という表現に置き換えられた。
人種・民族においては、[[ネグロイド|黒人]]を指す「'''Black'''」が「'''African American'''(アフリカ系アメリカ人)」に置き換えられた。しかし、両者は厳密には同一ではない(肌が黒いからアフリカ系だとは限らず、アフリカ出身だから黒人だとも限らない)。また、「アフリカ系アメリカ人」という表現は、アメリカでの歴史が長い家系(奴隷の子孫で、英語を母国語とする者)とそうでない近年の移民(英語を母国語としない者)を同じ枠で括ってしまうことになるため、特に前者の中にはそう呼ばれるのを嫌がる者もいる。
 
[[職業]]名に(伝統的に男性であることを示唆する)「~{{lang|en|man}}」がつくものは[[女性差別]]的であり、ポリティカル・コレクトネスに反するとして、「~{{lang|en|person}}」などに変更されているものがある。
一方、本来は[[インド]]人を意味する「Indian」が[[アメリカ州の先住民族]](インディアン)を指すことが多かったため、「Native American(ネイティブ・アメリカン)」という表現に置き換えられた。
 
{|class=wikitable
[[職業]]名に(伝統的に男性であることを示唆する)“-man”とつくものは[[女性差別]]的であり、ポリティカル・コレクトネスに反するとして、“-person”などに変更する。議長は“chairman”から“chairperson”に変更するか、または単に“chair”とする。警察官は“policeman”から“police officer”、消防官は“fireman”から“fire fighter”、実業家は“businessman”から“businessperson”、“ある物事における要の人物”は“key man”から“key person”など、すでに定着している表現も多くなってきた。[[専業主婦]]など、女性であることが当然と決め付けるような表現も問題となる。固有名詞である[[スーパーマン]]や[[スパイダーマン]]はスーパーパーソンやスパイダーパーソンとは言い換えない。同様に[[アンパンマン]]もアンパンパーソンと言い換える必要はない。一方、[[ダイナマン]]のようにそれを職業ととらえるかで議論の余地のある物もある。そのためか、[[ギンガマン]]を最後に[[スーパー戦隊シリーズ]]で「マン」のついた物は放映されていない。
!職業!!伝統的な表現!!ポリティカル・コレクトな表現
|-
|議長||{{lang|en|chairman}}||{{lang|en|chairperson}} または {{lang|en|chair}}
|-
|警察官||{{lang|en|policeman}}||{{lang|en|police officer}}
|-
|消防官||{{lang|en|fireman}}||{{lang|en|fire fighter}}
|-
|実業家||{{lang|en|businessman}}||{{lang|en|businessperson}}
|-
|要の人物||{{lang|en|key man}}||{{lang|en|key person}}
|}
 
[[職業]]名に(伝統的に男性であることを示唆する)“-man”とつくものは[[女性差別]]的であり、ポリティカル・コレクトネスに反するとして、“-person”などに変更する。議長は“chairman”から“chairperson”に変更するか、または単に“chair”とする。警察官は“policeman”から“police officer”、消防官は“fireman”から“fire fighter”、実業家は“businessman”から“businessperson”、“ある物事における要の人物”は“key man”から“key person”など、すでに定着している表現も多くなってきた。[[専業主婦]]など、女性であることが当然と決め付けるような表現も問題となる。固有名詞である[[スーパーマン]]や[[スパイダーマン]]はスーパーパーソンやスパイダーパーソンとは言い換えない。同様に[[アンパンマン]]もアンパンパーソンと言い換える必要はない。一方、[[ダイナマン]]のようにそれを職業ととらえるかで議論の余地のある物もある。そのためか、[[ギンガマン]]を最後に[[スーパー戦隊シリーズ]]で「マン」のついた物は放映されていない。
また、身体的特徴を持つ人を述べる際には、その特徴に直接言及することは避けて婉曲表現を用いる(例:mentally challenged(精神障害のある)、hearing-impaired(耳の不自由な))。
 
また、身体的特徴を持つ人を述べる際には、その特徴に直接言及することは避けて婉曲表現を用いる:mentally challenged(えば、「精神障害のある」を意味する「{{lang|en|mentally challenged}}」という表現hearing-impaired(耳の不自由な))」を意味する「{{lang|en|hearing-impaired}}」という表現
特定の用語の使用だけでなく、言葉の表現の仕方だけで問題になる場合もある。例えば、アメリカの大統領候補であった[[ロス・ペロー]]は、ある公開質問の場において、黒人の観衆からの質問に対して「あんたたち」(You People) という表現を多用した。これが黒人をよそ者扱いしているとして批判された。
 
特定の用語の使用だけでなく、言葉の表現の仕方だけで問題になる場合もある。例えば、アメリカの大統領候補であった[[ロス・ペロー]]は、ある公開質問の場において、黒人の観衆からの質問に対して「あんたたち」(({{lang-en-short|You People) }})という表現を多用した。これが黒人をよそ者扱いしているとして批判された。
さらに、特に北米などで多様な宗教に配慮をしようという動きも含まれる。例えば[[クリスマス]]は[[キリスト教]]の行事であるため、公的な場所・機関、大手企業では他の宗教のことも考慮して「メリー・クリスマス」と言わずに、「ハッピー・ホリデーズ」(他の宗教の人たちも年末年始は休日になるので)と言い換えたほうがよいとされる。クリスマスカードも「Season's Greeting(季節のご挨拶)」に書き換えられているものが多い。[[2004年]]の年末の記者会見では、[[ジョージ・ウォーカー・ブッシュ|ブッシュ]]アメリカ合衆国大統領も「メリー・クリスマス」ではなく、「ハッピー・ホリデーズ」と述べた。また、[[イタリア]]では[[小学校]]の年末の演劇会において、例年恒例であった[[キリスト]]生誕劇を止めて、『[[赤ずきん]]』に変えるというところも現れた。しかし、これらに対しては伝統や文化の否定であるという意見もあり、論争となっている。
 
さらに、特に北米などで多様な宗教に配慮をしようという動きも含まれる。例えば[[クリスマス]]は[[キリスト教]]の行事であるため、公的な場所・機関、大手企業では他の宗教のことも考慮して「メリー・クリスマス」と言わずに、「ハッピー・ホリデーズ」(他の宗教の人たちも年末年始は休日になるので)と言い換えたほうがよいとされる。クリスマスカードも「{{lang|en|Season's Greeting(Greeting}}(季節のご挨拶)」に書き換えられているものが多い。[[2004年]]の年末の記者会見では、[[ジョージ・ウォーカー・ブッシュ|ブッシュ]]アメリカ合衆国大統領も「メリー・クリスマス」ではなく、「ハッピー・ホリデーズ」と述べた。また、[[イタリア]]では[[小学校]]の年末の演劇会において、例年恒例であった[[キリスト]]生誕劇を止めて、『[[赤ずきん]]』に変えるというところも現れた。しかし、これらに対しては伝統や文化の否定であるという意見もあり、論争となっている。
{{誰範囲|date=2012年8月|「[[マンホール]] (manhole)」を「パーソンホール (personhole)」と言い換えるのはさすがに行き過ぎであるとの批判も存在する。}}また{{誰範囲|date=2012年8月|[[日本]]における[[言葉狩り]]の批判と同じように、表層を変えるだけで何の本質的な意義がないとの批判も存在する。}}“visually challenged”(視覚障害のある)や“physically challenged”(身体障害のある)に倣った戯言として、short(身長が低い)→“vertically challenged”(垂直的障害のある)、blind(盲目の)→“optically challenged”(光学的障害のある)などが皮肉的に用いられることもある。
 
{{誰範囲|date=2012年8月|[[マンホール]]を意味する語を「{{lang|en|manhole}}」から「{{lang|en|personhole}}」と言い換えるのはさすがに行き過ぎであるとの批判も存在する。}}また{{誰範囲|date=2012年8月|[[日本]]における[[言葉狩り]]の批判と同じように、表層を変えるだけで何の本質的な意義がないとの批判も存在する。}}「聾唖」を「聴覚に障害がある」にするなど、遠回りな表現に言い換えることを揶揄して、「背が低い」を「直的障害のある」、「盲目」を「光学的障害のある」などと皮肉的に言い換えられることもある。また、1993年には「ポリティカリー・コレクトという概念を盲目的に信仰する」姿勢を皮肉り、敢えて自分の意見を主張するという趣旨のトーク番組『[[:<ref>「{{lang-en:Politically Incorrect-short|Politically Incorrect]]』}}」</ref>の放送が始まった([[ビル・マー]]も参照)。
 
一部の言語では、元来女性がその職務に就くことが想定されていなかったため、単純に女性形にすると「(職業名)の妻」などの意味になってしまうなど、適切な女性形がない場合もある。
 
 
*[[ドイツ語]] Zimmermann(大工)・Kaufmann(商人)・Fachmann(専門家)。不定代名詞manもMann(男)・英manと同語源。
{|class=wikitable
*[[オランダ語]] 同様に、timmerman(大工)・koopman(商人)。不定代名詞menもman(男)・英manと同語源。
!言語!!言葉
*[[スウェーデン語]] 同様に、timmerman(大工)・köpman(商人)・fackman(専門家)。不定代名詞は一般名詞のman(男)と同形、かつ英manと同語源。
|-
|[[ドイツ語]]
|
*{{lang|de|Zimmermann}}(大工)
*{{lang|de|Kaufmann}}(商人)
*{{lang|de|Fachmann}}(専門家)
|-
|[[オランダ語]]
|
*{{lang|nl|timmerman}}(大工)
*{{lang|nl|koopman}}(商人)
|-
|[[スウェーデン語]]
|
*{{lang|sv|timmerman}}(大工)
*{{lang|sv|köpman}}(商人)
*{{lang|sv|fackman}}(専門家)
|}
 
また、名詞の性によって動詞や形容詞の活用が左右されるため、男性形と女性形を分けるのが基本である[[フランス語]]のように、このような言い換えが馴染まない言語も少なくない。
39 ⟶ 69行目:
{{要出典範囲|近年のアメリカ合衆国においては、保守派の巻き返しにより、人権政策において、政策をポリティカル・コレクトネスと表現する場合は、見てくれのみを狙った政策であるという批判の意味で使われる場合もある。|date=2012年8月}}
 
{{独自研究範囲|date=2012年8月|なお、ポリティカル・コレクトネスは、「その対象に対して、どのように述べ、考え、行動するのが“私各人にとって政治的に正しいのか」というような意味で用いられる事もある(大元の意味はこちらであった)。これは決して「差別も偏見もなく、ニュートラルな」という意味ではない。
}}
 
== 日本における実例 ==
日本においても、ポリティカル・コレクトネスの考え方により、用語が改正された事例がある。
 
96 ⟶ 126行目:
|イザリウオ||[[カエルアンコウ]]||2007年、日本魚類学会による改名
|-
|オシザメ|| [[チヒロザメ]]||2007年、日本魚類学会による改名
|-
|セムシウナギ||[[ヤバネウナギ]]||2007年、日本魚類学会による改名
108 ⟶ 138行目:
|}
 
== 関連項目 脚注==
<references />
* [[表現の自主規制]]
 
* [[言葉狩り]]
==関連項目==
* [[性差別]]
* [[表現の自主規制]]
* [[言葉狩り]]
* [[性差別]]
 
== 参考文献 ==
=== 批判的立場 ===
* [[:en:Henry Beard|ヘンリー・ビアード]]・[[:en:Christopher Cerf|クリストファー・サーフ]]著、[[馬場恭子]]訳『当世アメリカ・タブー語事典』([[文藝春秋]]、[[1993年]]、ISBN 4-16-348070-6、"The Official Politically Correct Dictionary and Handbook"Villard Books, [[1992年]] ISBN 0-586-21726-6 の訳)
 
{{DEFAULTSORT:ほりていかるこれくとねす}}