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[[ファイル:Night vision.jpg|thumb|250px|right|[[イラク]]で使用された[[アメリカ陸軍]]の暗視装置画像]]
'''暗視装置'''({{Lang-en|Night vision device, '''NVD'''}}; '''暗視鏡'''とも)は、夜間や暗所でも視界を確保するための装置。航空機用のものについては'''ANVIS''' ({{Lang-en-short|Aviator's Night Vision Imaging System}}) と略称される。
 
元々は[[軍事技術]]として開発・発展したものだが、1980年代後半から天文用としても注目された。自動車など民生用に使用されることもある。まれに玩具として販売されることもある。
 
== 概要 ==
[[ファイル:F16PilotNationalGuard.jpg|thumb|200px|ANVISを装着した[[F-16 (戦闘機)|F-16]]パイロット ([[バーモント空軍州兵]])]]
[[可視光線]]の波長の中間の色が[[緑|緑色]]で、最も[[視覚|知覚]]しやすい色であるとされるため、暗視装置の画像は、たいていは緑色に調整されている。なお、赤外線にあるのは強弱であって、赤外線自体は可視光線ではないのでそれ自体に色はない。
もちろん可視光線と同様に、赤外線を周波数や波長ごとに分けて表示することは困難ではないが、普段の生活における目視の色の区別の感覚とはまったく異なるために、実用上まったく無意味である。
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=== 呼称/表記について ===
暗視装置は'''イメージ・インテンシファイア'''(''Image Intensifier'' 、'''I.I.''')、'''ノクトビジョン '''(''Nocto Vision'' )と表記/呼称されることもある。「''nocto''」とは[[ラテン語]]で「夜」を意味する。また、「'''“ナクト”'''ビジョン」という表記/呼称が使わることもあるが、これはドイツ語で「夜」を意味する「''Nacht''」(ナハト)を英語風の読みにしたもので、暗視装置を世界で初めて実用化したのがドイツであることから、単語が混用されて生まれたものである(ドイツ語で「暗視装置」を正しく表記/呼称する場合は「Nachtsichtgerät」ナハト・ズィヒト・ゲレート)
 
現代では「暗視装置」と呼称/表記されることが一般的であるが、時代の古い資料や書籍などでは「ノクトビジョン」「ナクトビジョン」の表記も多く見られる。
 
=== 一般的な誤解 ===
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== 可視近赤外 (VNIR) 帯域 ==
暗視装置の登場以来、一貫して、[[可視光線]]と[[赤外線#近赤外線|近赤外線]]({{Lang-en|Visible and Near Infrared, '''VNIR'''}}; 波長およそ0.3~1.4[[マイクロメートル|μm]])を使用する機種が主流となってきた。
 
=== アクティブ方式 ===
[[ファイル:M3_Sniperscope.jpg|thumb|250px|M3カービン・システム。最上段が赤外線[[ランプ (光源)|ランプ]]、その下が暗視スコープ。背嚢には[[バッテリー]]が収納される]]
'''第0世代'''と区分される、もっとも初期の暗視装置は、[[JEDEC]]番号でS-1型の分光感度特性を備えていた。すなわち、近紫外線から近赤外線におよぶ広い波長域に感度を示すものの、いずれも感度が低いものであった。このため、目標の像を捉えるためには、こちらから光線を照射して、反射光を増強してやる必要があった。可視光を照射しては暗視装置の意味がないため、照射光としては近[[赤外線]]が用いられる。
 
近赤外線は、人間の[[目]]では知覚できないものの、それ以外の点では、可視光線とほとんど変わらない特性を備える。従って、第0世代暗視装置の基本的な原理としては、通常の照明の代わりに近赤外線ライトで対象を照らしだして、その反射光を暗視装置で捉え、知覚できるように変換することになる。そのため、「照射装置」と「受像装置」の二組をセットで運用する必要があり、イメージ増幅管が高い電圧を必要とするために、動作電力源として重い積層バッテリーもセットで持ち歩かなければならなかった。仕組みとしては光学式のスコープに赤外線フィルタを付けただけのもので、バッテリーは赤外線ライトのためだと誤解されることがあるが、ライトの電源としてはそれほど大きなものが必要なわけではない。反射してきた赤外線を赤外線フィルタ越しに見ても人間の目には見えない。赤外線フィルタはライトから可視光線が出ないようにするためのものである。
 
この種の暗視装置は、[[第二次世界大戦]]中にドイツ軍が[[パンター戦車]]搭載用として、世界で初めて実用化に成功した。また個人用としては、大戦末期の[[1945年]]に[[ドイツ軍]]が実用化した「ZG1229 Vampir(ヴァンピール:「[[吸血鬼]]」の意)」が最初のものである。これは[[StG44 (突撃銃)|StG44]]に装着して使用されるアクティブ赤外線方式の暗視スコープであり、有効距離は100mほどしかなかった。後に[[アメリカ軍]]でも[[U.S.M1カービン|M3カービン]]として同様の装置が実用化され、[[ベトナム戦争]]のころまで使用されていた。M3カービンは、銃を含めたシステム一式の重量が14 kg14kgもあり大変に重くてかさばる装備だった。重量の半分以上は[[バッテリー]]であるため、後年になるほどバッテリーの小型化による重量軽減が進むが、それでもかなり重い装備であることに変わりなかった。
 
このような暗視装置は赤外線ライトの出力によって視認距離が変わるため、ドイツ軍では装甲[[ハーフトラック]]に大型の赤外線照射灯を搭載した車両も作られた。「[[Sd Kfz 251#バリエーション|Sd Kfz 251/20 ウーフー]](Uhu:[[ワシミミズク]]の意)」と呼ばれたこの車両は60cm口径の赤外線サーチライトを装備しており、1,500mの距離で目標を視認することが可能であった。
 
ただし、近赤外線は人の目には見えないものの、相手も同様の装置を持っている場合は相手から照射源が暴露してしまう欠点があった。1960年代には[[ソビエト連邦軍]]を初めとする共産圏でも同様の装備が出現し、また光電子増倍管の技術進歩によって投光せずとも十分な像を得ることができるようになったことから、第0世代の暗視装置は徐々に退役していくことになった。
 
=== パッシブ方式 ===
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: ダイノード型[[光電子増倍管]]による可視光増幅方式を採用しており、分光感度特性はS-20型、光増幅率は1,000倍程度であるため、[[月の光]]程度の明るさが必要となる。有効視認距離はおおむね100メートル前後であった。
:* AN/PVS-2 - {{USA}}
:* NSPU / 1PN34 - {{SSR}}
; 第2世代
: [[マイクロチャンネルプレート]] (MCP) (MCP)型光電子増倍管による可視光増幅方式を採用しており、分光感度特性はS-25型、光増幅率は20,000倍程度まで向上しており、有効視認距離は星明かりで1,500メートル、月明かりで2,700メートルとされている。ただし、高速の移動目標に対する結像能力に問題があり、[[戦車]]などの照準用としては不適であった。
:* [[:en:AN/PVS-4|AN/PVS-4]] - {{USA}}
:* [[AN/PVS-5]] - {{USA}} ※PVS-5Dは第3世代相当
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:* [[75式照準用微光暗視装置II型 (B)]] - {{JPN}}
; 第3世代
: 第2世代と同様、MCP型光電子増倍管による可視光増幅方式を採用している。ただしS-25型光電子増倍管にかえて[[ヒ化ガリウム]] (GaAs) (GaAs)素子を採用することによって、検知可能な帯域が近赤外領域まで拡大しているほか、イオンバリア・フィルムにより被覆することで、より感度を向上させ、ノイズを削減している。光増幅率は30,000~50,000倍に向上し、有効視認距離も25%25%増加したとされている。また、通常の可視光増幅方式に加え、[[#パッシブ遠赤外線方式|パッシブ遠赤外線方式]]を併用する機種も出現している。
: なお、高性能であることから、第3世代暗視装置の多くは生産国による輸出入規制が適用されており、使用者は官公庁に限られる。
:* [[AN/AVS-6]] ANVIS - {{USA}}
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:* [[AN/PVS-14]] - {{USA}}
:** [[個人用暗視装置 JGVS-V8]] - {{JPN}}
:* [[AN/PSQ-20]] - {{USA}}パッシブ遠赤外線方式併用。
:* PN16K / PN21K - {{RUS}}
 
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[[ファイル:PEO AN PAS-13 View.jpg|250px|thumb|[[:en:AN/PAS-13|PAS-13]]熱線映像装置による映像]]
{{See also|赤外線捜索追跡システム|FLIR}}
物体から放出される[[赤外線#遠赤外線|熱赤外線]](波長 8~15μm、{{Lang-en|Thermal InfraRed}})を可視化する装置。これによる画像がいわゆる[[サーモグラフィ]]画像であり、このための装置を'''熱線映像装置'''({{Lang-en-short|thermal imager}})と称する。[[軍用機]]に搭載されている暗視装置の多くがこの方式を採用しており、前方象限を対象としたものを[[FLIR|赤外線前方監視装置 (FLIR) (FLIR)]]、全周を対象としたものを[[赤外線捜索追跡システム|赤外線捜索追跡システム (IRST) (IRST)]]と称する。なお、第0世代のアクティブ式暗視装置が使用していたのは近赤外線であり、熱線映像装置で使用される熱赤外線と近い周波数ではあるが、特性上大きく異なるものである。
 
あらゆる物体はそれ自身の温度によった遠赤外線を出している([[黒体放射]])ため、熱線映像装置は、光源が無い場所でも目標を視認することが可能となる。また、遠赤外線は可視光線と比較して、解像度が劣る一方で透過能力に優れるため、ある程度であれば煙越しに像を捕らえることもできる。例えば兵士や対空砲台が森に隠されていれば、その微妙な温度差による赤外線の強さを画面に表示して見分けられる。
 
初期のものは、重量と容積が過大で、歩兵用装備として実用的なものではなかった。小型化を難しくした原因は、おおむね下記の二点であった。
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== 天文分野での使用 ==
対象が暗いことから、1980年代後半に天文用としても注目された。肉眼では光害の少ない場所でも6等星までしか見えないが、50mmF1.4のレンズの後ろにイメージ・インテンシファイアを取り付け出力側蛍光面を50mmのアイピースで見ると、9から10等星まで見ることができる。また光電管の分光感度が赤外線部にまで伸びているためHα線などほとんど目に見えない光での観測ができる利点もあった。
 
ただしバックの光も増幅されるため、光害の少ない場所でないと利点を生かすことができない。また解像力やS/N比は低い。
 
== 自動車の暗視装置・システム ==
[[ファイル:Lexus night vision HUD full.jpg|250px|thumb|[[レクサス]]の暗視装置[[ヘッドアップディスプレイ|HUD]]]]
自動車の暗視装置・システムは、赤外線カメラでとらえた映像をディスプレイに表示し、夜間の視界を拡大することで安全走行に寄与する夜間運転支援システムである。遠赤外線カメラを用いて熱源を検知するものと、近赤外線を照射し赤外線カメラで検知する2つのタイプがある。コスト的には近赤外線タイプが優れるが、検知距離では遠赤外線タイプに劣るなど一長一短がある。各自動車会社が考案し実用化しているが、コストなどの問題から全車に装備するまでは至っておらず、採用されているのは一部の高級車もしくは用途の特定された専門車に限られている。