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{{電磁気学}}
'''電磁ポテンシャル'''は[[物理学]]、特に[[電磁気学]]において、[[電磁場]]を記述する方法一つポテンシャル概念ある[[スカラーポテンシャル]]と[[ベクトルポテンシャル]]の総称である。
 
[[特殊相対性理論|相対論的]]には電磁ポテンシャルは[[4元ベクトル]]を為す。
== 概要 ==
また、[[ゲージ理論]]としてみると、U(1) ゲージ対称性に対する[[ゲージ場]]である。
 
以下断りがない限り、古典電磁気学のケースを想定して説明する。
ポテンシャルの概念は物理学の様々な分野で定義されており、電磁気学でも'''[[電位]]'''('''静電ポテンシャル'''とも)という電場のポテンシャルがある。
電場を<math>\boldsymbol{E}</math>で表す時、電位は
 
* <math>\boldsymbol{E}_{(x,y,z)} = - \mathrm{grad}~ \phi(x,y,z)</math> ....(a)
 
を満たす関数φ(x,y,z)として定義される。ここで(x,y,z)は空間上の任意の点である。
'''静磁場の場合は'''そのようなφが存在する事が知られており、
φ(x,y,z)は<math>\boldsymbol{E}</math>の[[線積分]]として計算される。
 
しかしながら静磁場という条件がない時は、(a)を満たすφ(x,y,z)は存在せず、電位の概念が定義できない事が知られている。
仮に<math>\boldsymbol{E}</math>の線積分をφ(x,y,z)として定義しようとしても、
線積分の値が積分経路に依存してしまう為、積分結果は(x,y,z)の関数にならないので、
(x,y,z)の関数である電位φ(x,y,z)の定義としては用いる事はできない。
(なお静磁場でありさえすれば静電場でなくとも電位の概念は定義でき、この場合電位は時間に依存する事になるが、
上では簡単のため、時間tへの依存性を陽には書かなかった。)
 
'''電磁ポテンシャル'''は、静磁場とは限らない場合にも定義できるポテンシャル概念で、
電場のみに対するポテンシャルである電位と違い、電磁場(すなわち電場と磁場の双方)に対するポテンシャルである。
cを光速とするとき、電磁ポテンシャルは4成分
 
{{Indent|
<math>(\phi(t,x,y,z)/c,A_1(t,x,y,z),A_2(t,x,y,z),A_3((t,x,y,z))</math> ...(b)
}}
 
からなり、<math>\phi(t,x,y,z)</math>の事を'''スカラーポテンシャル'''、
他の三成分をならべた<math>\boldsymbol{A}(t,x,y,z)=(A_1(t,x,y,z),A_2(t,x,y,z),A_3((t,x,y,z))</math>
の事を'''ベクトルポテンシャル'''という<ref>「スカラーポテンシャル」、「ベクトルポテンシャル」という言葉はそれぞれスカラー、ベクトルを用いて表せるポテンシャル概念一般を表す場合もあるので注意が必要である。本項目では特に断りがない限り、これらの言葉は電磁ポテンシャルのものを表すものとする。</ref>。以下紛れのない限り、引数の(t,x,y,z)は省略する。
 
静磁場の場合はスカラーポテンシャルは(a)を満たす事が知られており、したがってスカラーポテンシャルの概念は静磁場の場合には電位の概念と一致する。この意味においてスカラーポテンシャルは電位の概念を静磁場とは限らない場合に拡張したものとなっている。
 
なお、静磁場において電場に対する電位が一意に定まらず定数分だけの自由度があるように、
電磁場に対する電磁ポテンシャルも一意には定まらない。(しかも自由度が大きい為、定数分の差を除いても一意に定まらない。)
したがって必要に応じてさらなる条件(ローレンツゲージ、クーロンゲージ等)を課して電磁ポテンシャルを(定数分の自由度を除いて)一意に定める場合がある。
 
以上ではまず電磁場からスタートしてそこから電磁ポテンシャルの概念を導入したが、マクスウェル自身は逆に電磁ポテンシャルからスタートして電磁場の概念を導出した。
 
 
=== 物理学の諸分野における電磁ポテンシャル ===
 
電磁場をラグランジュ形式で記述する時、ラグランジアンは電磁場ではなく電磁ポテンシャルを用いてかける為、
電磁ポテンシャルの概念はラグランジュ形式で重要である。
 
また電磁ポテンシャルは[[ローレンツ変換]]に対し共変である事が知られている為、[[相対論]]においても電磁ポテンシャルは重要である。
[[ゲージ理論]]としてみると、U(1) ゲージ対称性に対する[[ゲージ場]]である。
 
[[古典電磁気学]]では、観測にかかる本質的な物理量は[[電場]]や[[磁場]]であって、ベクトルポテンシャルやスカラーポテンシャルは便宜的に導入された道具にすぎないとも考えられる。また[[ゲージ変換]]も理論の不定性を増すだけの余分な性質のようにも思える。しかし量子力学などの立場からは、電場や磁場よりも電磁ポテンシャルの方が本質的な物理量である。その最も著しい表れ方が[[アハラノフ=ボーム効果]]である。またゲージ変換は、荷電粒子と電磁場との相互作用の形を一意的に決定しているために便利である。<ref>{{Cite book|和書|author=光物性研究会組織委員会|year=2006|title=光物性の基礎と応用|publisher=オプトロニクス社|isbn=4902312166}}</ref>
 
== 概要定義 ==
 
マクスウェル自身の原著論文『[[電磁場の動力学的理論]]』や原著教科書『[[電気磁気論]]』では、ベクトルポテンシャル
[[マクスウェル方程式]]を満たす電磁場の存在を仮定し、
<math>\boldsymbol{A}(t, \boldsymbol{x})</math>
及びそのような電磁場を用いてスカラーポテンシャルとベクトル・ポテンシャルを定義する。
 
<math>\phi(t, \boldsymbol{x})</math>
この為に以下の事実([[ポアンカレの補題]])を用いる:
によって
3次元ベクトル空間上の任意のベクトル場<math>\boldsymbol{X}</math> に対し、
 
: <math>\mathrm{div} \boldsymbol{X} = 0</math>なら<math>\mathrm{rot}~ \boldsymbol{A} = \boldsymbol{X} </math>を満たすベクトル場<math>\boldsymbol{A}</math>が存在する。...(c)
: <math>\mathrm{rot} \boldsymbol{X} = 0</math>なら<math>-\mathrm{grad}~ \phi = \boldsymbol{X} </math>を満たす関数<math>\phi</math>が存在する。...(d)
 
今電場と磁束密度をそれぞれ<math>\boldsymbol{E}</math>、<math>\boldsymbol{B}</math>とすれば
[[マクスウェル方程式]]から磁束密度は
 
: <math>\mathrm{div} \boldsymbol{B} = 0</math>
 
を満たすので、(c)より、
 
: <math>\mathrm{rot}~ \boldsymbol{A} = \boldsymbol{B} </math> ...(d)
 
を満たすベクトル場<math>\boldsymbol{A}</math>が存在する。
(d)を満たす<math>\boldsymbol{A}</math>を<math>\boldsymbol{B}</math>の'''ベクトル・ポテンシャル'''という。
 
一方スカラー・ポテンシャルを定義する為、[[マクスウェル方程式]]の一式
 
: <math> \mathrm{rot}~ \boldsymbol{E} = - \frac{\partial \boldsymbol{B}}{\partial t}</math>
 
の右辺を
 
: <math> - \frac{\partial \boldsymbol{B}}{\partial t} = - \frac{\partial}{\partial t} \mathrm{rot}~ \boldsymbol{A} = - \mathrm{rot}~ \frac{\partial \boldsymbol{A}}{\partial t} </math> 
 
と書き換えた上で左辺に移項すれば
 
: <math> \mathrm{rot}~ \left( \boldsymbol{E} + \frac{\partial \boldsymbol{A}}{\partial t} \right) = 0</math>
 
となり、右辺が消える。したがって(d)より
 
: <math>-\mathrm{grad}~ \phi = \boldsymbol{E} + \frac{\partial \boldsymbol{A}}{\partial t} </math>...(e)
 
を満たす関数<math>\phi</math>が存在する。
(e)を満たすφを'''スカラーポテンシャル'''という。
 
そして光速をcとするとき、φと<math>\boldsymbol{A}</math>から(b)により定義されたベクトルを'''電磁ポテンシャル'''という。
 
なお静磁場における電位の場合と同様の議論により、関数
 
: <math> \psi(P) = - \int_C \left( \boldsymbol{E} + \frac{\partial \boldsymbol{A}}{\partial t} \right) \cdot \mathrm{d}s </math> ...(f)
 
が経路''C'' に依存しない事が言える([[電位]]の項目も参照)。ここで''C'' は基点と''P'' とを結ぶ任意の経路である。
φ=ψとした場合φが(e)を満たす事が知られており、逆に(e)を満たす関数が(必要に応じて基点を取り換えれば)必ず(f)の形に書ける事も知られている。
 
 
== 真空中のマクスウェル方程式の電磁ポテンシャルによる記述 ==
 
以上では電場<math>\boldsymbol{E}</math>と磁束密度<math>\boldsymbol{B}</math>からスタートして
スカラーポテンシャル、ベクトルポテンシャルを
{{Indent|(0-a) :
<math>\boldsymbol{E} = -\nabla \phi -\frac{\partial\boldsymbol{A}}{\partial t}</math>
19 ⟶ 115行目:
<math>\boldsymbol{B} = \nabla\times \boldsymbol{A}</math>
}}
により定義した。
として、[[電場]]'''E'''と[[磁束密度]]'''B'''からなる電磁場が定義されている。
 
しかし逆にまずスカラーポテンシャル、ベクトルポテンシャルありきでスタートし、
上の2式を電場<math>\boldsymbol{E}</math>と磁束密度<math>\boldsymbol{B}</math>の定義とみなす事もできる。
この場合マクスウェル方程式の2式
 
後にヘルツによって電磁ポテンシャルが消去され、この二式は
{{Indent|(1-a) :
<math>\nabla\cdot \boldsymbol{B} = 0</math>
29 ⟶ 128行目:
+\frac{\partial\boldsymbol{B}}{\partial t} = 0 </math>
}}
は定義から自動的に従う事を示す事ができる。
となった。現在では電磁ポテンシャルの消去後のものをマクスウェルの方程式とみなされている。
そのため、(0)式は、逆に電磁ポテンシャルの定義式とみなされるようになった。
 
真空中のマクスウェル方程式の残りの式
{{Indent|(2-a) :
<math>\varepsilon_0\nabla\cdot \boldsymbol{DE} = \rho</math>
}}
{{Indent|(2-b) :
<math>\nabla\times \boldsymbol{H}/\mu_0
-\varepsilon_0\frac{\partial\boldsymbol{DE}}{\partial t}
= \boldsymbol{j} </math>
}}
 
であるが、[[電束密度]]'''D'''と[[磁場]]'''H'''に対して真空中では '''D''' = &epsilon;<sub>0</sub> '''E'''、&mu;<sub>0</sub> '''H''' = '''B'''の関係があるので
に 光速cに関する等式<math>c^2 = 1/\epsilon_0\mu_0</math>を適応の上(0-a)、(0-b)式を代入すると、
{{Indent|(2'-a) :
 
<math>\frac{1}{c}\nabla\cdot \boldsymbol{E} = \mu_0\rho c</math>
}}
{{Indent|(2'-b) :
<math>\nabla \times \boldsymbol{B}
-\frac{1}{c^2}\frac{\partial\boldsymbol{E}}{\partial t}
= \mu_0\boldsymbol{j} </math>
}}
となる。ここで、c は光速度で <math>c^2 = 1/\epsilon_0\mu_0</math> である。
これに(0)式を代入すると、
{{Indent|(3-a) :
<math>\frac{1}{c}\nabla^2 \phi +\nabla\cdot \frac{1}{c}\frac{\partial\boldsymbol{A}}{\partial t}
59 ⟶ 149行目:
<math>- \nabla (\frac{1}{c^2}\frac{\partial}{\partial t} \phi + \nabla \cdot \boldsymbol{A}) + (-\frac{1}{c^2}\frac{\partial^2}{\partial t^2}+\nabla^2)\boldsymbol{A} = -\mu_0 \boldsymbol{j}</math>
}}
が得られる。したがってスカラーポテンシャルとベクトルポテンシャルからスタートした場合は(3-a)、(3-b)が満たすべき条件式となる。
が得られる。
 
なおマクスウェル自身の原著論文『[[電磁場の動力学的理論]]』や原著教科書『[[電気磁気論]]』はここでの議論と同じくスカラーポテンシャルとベクトルポテンシャルからスタートし、上式により<math>\boldsymbol{E}</math>と<math>\boldsymbol{B}</math>を定義している。
後にヘルツによって電磁ポテンシャルが消去され、(1-a)、(1-b)を電磁場の条件式とするようになった。
 
== 静的な場のポテンシャル ==