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{{言語学}}
 
'''語用論'''(ごようろん, '''運用論'''ともいう)とは、理論[[言語学]]の一分野で、言語表現とそれを用いる使用者や文脈との関係を研究する分野である。
 
自然言語は一般に、発話された場面によって指示対象が変わる「あなた」「ここ」「明日」などの[[直示]]表現(ダイクシス)をもつ。また、例えば「すみません、今何時か分かりますか?」という発話は、形式の上ではyes/no疑問文であるが、意図されている内容は明らかに時刻を教えてほしいという依頼である。これらの現象が語用論の研究対象となる。
 
語用論は1960年代の哲学者[[ジョン・L・オースティン]]の発話行為の研究に端を発し、[[ジョン・サール]]による[[適切性条件]]の議論や、[[グライス]]による[[協調の原理]]の解明によって一定の到達点に達した。その後は、グライスの理論を批判的に継承した[[ディアドリ・ウィルソン]]と[[ダン・スペルベル]]による[[関連性理論]]と呼ばれる枠組みが展開されている。
 
語用論は[[統語論]]などの研究者から見れば枝葉の研究と見なされがちである一方、実際の使用と切り離して文法や意味の理解に至ることはできないという立場をとる研究者もいる。
 
==主要な語用論研究==
 
===オースティンの発話行為論===
 
[[ジョン・L・オースティン]]は、言語表現が命令・依頼・約束などの機能を果たす側面に注目し、はじめて体系的な議論を行った。オースティンは「命じる」「誓う」のように、それを用いること自体で何らかの行為が実行される動詞を遂行動詞と呼び、遂行動詞の用いられていない文について隠れた遂行的機能を明らかにすることを[[遂行分析]]として定式化した。オースティンはまた、話すこと自体を発話行為、それによって行われる命令・約束などの行為を発話内行為、それによって間接的に引き起こされる行為を発話媒介行為として区別し、言語表現がもつ発話内行為を引き起こす力を指して[[発話の力]]と呼んだ。
 
===サールの発話行為論===
 
オースティンの研究を継承して[[発話行為]]の分析を行ったのが[[ジョン・サール]]である。サールは、現実の会話において重要なのは真偽ではなくその状況における適切性であるとし、命題内容条件・準備条件・誠実性条件・本質条件の4つからなる[[適切性条件]]を提案した。サールによれば、「今何時か分かりますか」という発話は、相手が時刻を伝えることが可能であるという適切性条件の成立を確認することで、実際には時間を教えてくれという依頼([[間接発話行為]])として機能する。
 
===グライスの協調の原理===
 
[[ポール・グライス]]は言語表現が間接的に果たす機能を説明する[[協調の原理]]を提案し、今日の語用論の基礎を作り上げた。協調の原理は、次の4つの会話の公理からなる。
 
*'''量の公理''' - 求められているだけの情報を提供しなければいけない。
*'''質の公理''' - 信じていないことや根拠のないことを言ってはいけない。
*'''関連性の公理''' - 関係のないことを言ってはいけない。
*'''様式の公理''' - 不明確な表現や曖昧なことを言ってはいけない。
 
これらの公理は、会話の参加者が情報を効果的に伝達しようとしている場合に、守られていると仮定されるものである。例えば、「今いくら持ってる?」と聞かれて、実際には1200円持っているにもかかわらず「200円持ってる」と答えた場合、論理的には真であるが、量の公理に違反しているために不適切な発話となる。
 
また例えば、「カラオケ行かない?」と聞いて「明日試験なんだ」と言われた場合、相手が会話に協力的であると考えるならば、関連性の公理に基づいて、試験がカラオケに行けない理由であることが推論される。話し手の発話が会話の公理に沿って解釈できない場合は、会話に協力的でないか、あるいは冗談として見なされる。
 
[[ジョフリー・リーチ]]はこれを発展させ、新たに[[丁寧さの公理]]を導入して[[敬語]]や[[皮肉]]表現などの分析を行った。
 
===関連性理論===
 
[[関連性理論]]は[[ディアドリ・ウィルソン]]と[[ダン・スペルベル]]が[[1986年]]に提唱した理論で、グライスの理論では曖昧であった関連性を理論の中心に据え、意図的な情報伝達とは、それが最適な関連性をもつということを伝達するものであるとする理論である。最適な関連性とは、できるだけ少ない労力で最大の情報が得られることを指している。また、表意と呼ばれる「文字通りの意味」と、そこから得られる推意と呼ばれる「言いたいこと」との区別を厳密に定式化している。
 
==語用論の関連分野==
 
一部の[[形式意味論]]では文を越えた現象を扱うこともあり、[[意味論]]と語用論の境界はそれほど明確ではない。また、[[認知言語学]]の立場では、文脈を離れた言語の命題的意味を切り離すことはできないと考えることが多い。また、表現の背後にある意図を読み取ることは、コンピュータによる[[自然言語処理|自然言語理解]]にとっても究極的な課題の一つである。
 
[[category:言語学|こようろん]]
 
[[ast:Pragmática]]