「突然変異」の版間の差分

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'''突然変異'''(とつぜんへんい)とは、[[生物学]]の用語で、単に'''変異'''とも言う。ある集団の大多数の[[形質]]と異なる形質を持つようになること。[[デオキシリボ核酸|DNA]]あるいは[[リボ核酸|RNA]]上の[[塩基配列]]に物理的変化が生じることを[[遺伝子突然変異]]といい、[[染色体]]の数や構造に変化が生じることを[[染色体突然変異]]という。突然変異の結果[[遺伝情報]]にも変化が表れる。このような変異の結果、[[表現型]]に変異が生じた細胞または個体を'''突然変異体'''(ミュータント, ''{{lang-en-short|mutant''}})と呼び、変異を起こす物理的・化学的な要因を'''[[変異原]]'''という。英語やドイツ語では''{{en|mutation''}}と呼び、この語は「変化」を意味する[[ラテン語]]に由来する。個体レベルでは発ガンや機能不全などの原因となり、長い目で見ると[[進化]]の原動力ともなっている。[[多細胞生物]]の場合は、変異が進化の原動力となるのは[[生殖細胞]]に起こり子孫に伝えられた場合に限られる。なお、単に'''変異'''という場合、狭義では何らかの方法で検出可能な[[対立遺伝子]]間の違いを指す。
 
== 突然変異の発見 ==
突然変異を発見し、命名したのはオランダの生物学者[[ユーゴー・ド・フリース]]である([[1901年]])のことだった。ここから[[進化]]が突然変異によって起こるという[[突然変異説]]を提唱した。
 
突然変異を人為的に誘発できることを実験的に証明したのは[[ハーマン・J・マラー]]である(→( →「[[人為突然変異]]」項を参照)。マラーは[[ショウジョウバエ]]に[[X線]]を照射し、次世代の致死率を測ることにより、理論値から推測した。以[[生物学]]([[遺伝学]])では人為的に突然変異を誘導する[[変異導入]]により突然変異体を得て、その[[表現型]]を観察することで、[[遺伝子]]の機能を解析してきた。
 
== 遺伝子突然変異 ==
遺伝子突然変異は、[[DNA複製]]の際のミスや[[化学物質]]によるDNAの損傷および複製ミス・[[放射線]]照射によるDNAあるいは染色体の損傷、[[トランスポゾン]]の転移による遺伝子の破壊などによって引き起こされる。突然変異には、1つの[[ヌクレオチド]]が別の[[塩基]]に変わる[[点変異]]や、一つから複数のヌクレオチドが挿入または欠失するものもある。
 
点変異は[[コドン]]の1番目の[[遺伝子暗号|コード]]に変異が起きる場合と2・3番目のコードに起きる場合がある。前者と後者の変異がコードの場所に関係なく一律に起きるならば、2・3番目のコードに変異が起きて[[翻訳 (生物学)|翻訳]]しても対応する[[アミノ酸]]が変化しない[[サイレント変異]]が1番目のコードの変異より多く子孫に引き継がれていく第1コードに変異があり、[[アミノ酸]]が変化したタンパク質は変異前の機能を保持できないことが多く、このような変異体は生存に不利になることが多いと考えられる一方で、このような変異が生存に有利となる場合もあり、そのような変異は[[進化]]の要因となりうる

遺伝子をコードする領域以外([[イントロン]])の変異や、遺伝子内でも[[アミノ酸]]配列や[[転写 (生物学)|転写]]量を変化させない場合は[[サイレント変異]]となる( →「[[中立進化説]]」「[[分子時計]]」項を参照)。機能に影響がある点変異は、別のアミノ酸に[[コドン]]が変化する非同義変異、アミノ酸のコドンが[[終止コドン]]に変わるナンセンス変異、終止コドンがアミノ酸のコドンに変わる読み過ごし変異がある。3つの[[ヌクレオチド]]で1つのアミノ酸をコードするため、挿入・欠失した[[ヌクレオチド]]が3の倍数だとアミノ酸の挿入・欠失が起こり、そうでないときはコドンの読み枠がずれアミノ酸配列が大きく変わる[[フレームシフト]]などが起こる。
 
== 遺伝子変異の種類 ==
 
;*[[点突然変異]](''Point mutation'')({{en|point mutation}})
*:1個の[[ヌクレオチド]]の置換または欠損または挿入の変異。
 
;*[[ミスセンス突然変異]](''Missense ({{en|missense mutation'') }})
*:[[コドン]]内の塩基の変化または置換により、本来入るべきものとは別の[[アミノ酸]]が合成された[[ポリペプチド]]中に入り、異常タンパク質が作られる突然変異。
 
;*[[ナンセンス突然変異]](''Nonsense mutation'')({{en|nonsense mutation}})
*:アミノ酸のコドンを終止コドンにする変異。
 
;*[[フレームシフト突然変異]](''Frameshift mutation'')({{en|frameshift mutation}})
*:塩基の挿入、欠失によって[[オープンリーディングフレーム]]がずれてしまう突然変異。
 
== 突然変異の分類 ==
 
;*[[中立的突然変異]](''Neutral ({{en|neutral mutation'') }})
*:[[自然淘汰]]に有利でも不利でもなく、中立的な突然変異 →「[[中立進化説]]」「[[分子時計]]」各項を参照)
 
;*[[非表現突然変異]](''Silent mutation'')({{en|silent mutation}})
*:遺伝的レベルでは変異が起きているが、[[表現型]]ではわからない変異。
 
;*[[復帰突然変異]](''Back mutation'')({{en|back mutation}})
*:突然変異遺伝子が再び変異を起こして、元の遺伝子に戻る変異。
 
;*[[サプレッサ突然変異]] ({{en|suppressor mutation}})
*:抑圧遺伝子変異, ''Suppressor mutation'') :とも。[[tRNA]]のアンチコドンを変化させナンセンスコドンを認識できるようになり、アミノ酸鎖合成終了されなくなってしまう変異。
 
;*[[適応的突然変異]](''Adaptive mutation'')({{en|adaptive mutation}})
*:ランダムに突然変異が起きるのではなく、周りの環境に適応して起こすと考えられた突然変異。現在では否定されている。
 
== 染色体突然変異 ==
 
染色体突然変異のうち、染色体構造の変化には以下のようなものがある。
*[[欠失]]  - 染色体の一部が失われる。
**例・・・白い[[カラス]]、オレンジ色の[[モグラ]]、黒→白になった犬([[ラブラドールレトリバー]]種)
*[[逆位]]  - 染色体の一部が通常の逆の向きになる。
*[[重複]]  - 染色体の一部が重複する。
*[[転座]]  - 染色体の一部が切れて、別の染色体につながる。
 
染色体突然変異のうち、染色体数の変化には以下のようなものがある。
*[[倍数性]]  - 染色体数が2倍、3倍、4倍のように整数倍になる。
*[[異数性]]  - 染色体数が1本または数本増減する。
 
[[ダウン症]]は[[21番染色体]]を1本余分に持つ異数性の例である。種無し[[スイカ]]は、通常のスイカが[[ゲノム]]の2倍の染色体を持つのに対し、3倍の染色体を持つ倍数性の例である。
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== 突然変異の影響 ==
 
[[体細胞]]の突然変異は[[腫瘍]]の発症につながることがある。詳しくは( →「[ [悪性腫瘍#がん発生の機序(メカニズム)]]」「[[発癌性]]など」各項を参照のこと
 
[[生殖細胞]]が突然変異を起こし、それが無事に発生・成長すれば、その個体の全細胞のDNAが変異した状態となり、部位によっては親と異なる遺伝形質が発現する事がある。さらにそれが子に遺伝し、幾世代に渡って変異が累積していけば、ついには別の種へと変化する事になり、これが進化のプロセスの一つと考えられている。