「敵国条項」の版間の差分

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'''敵国条項'''(てきこくじょうこう、[[英語]]:''Enemy Clauses''、または'''旧敵国条項''')は、[[国際連合憲章]]の条文においてのうち、「[[第二次世界大戦]]中に[[連合国 (第二次世界大戦)|連合国]]の敵国であった国」([[枢軸国]])に対する措置を規定した第53条および第107条と、敵国について特に言及している第53条、第77条、第107条の3ヶ条のこと一部文言を指す
 
== 概説 ==
国際連合憲章第2章では主権平等の原則をうたっており、第53条第1項前段では地域安全保障機構の強制行動・武力制裁に対し安保理の許可が必要であるとしている<ref>[http://www.shugiin.go.jp/itdb_kenpou.nsf/html/kenpou/shukenshi058.pdf/$File/shukenshi058.pdf 「国際機関と憲法~特に国連憲章を中心として~」に関する基礎的資料 平成16年10月衆議院憲法調査会事務局]</ref>。しかし、第53条第1項後段(安保理の許可の例外規定)と第107条(連合国の敵国に対する加盟国の行動の例外規定)では、第二次世界大戦中に「連合国の敵国」だった国が、戦争により確定した事項に反したり、侵略政策を再現する行動等を起こしたりした場合、国際連合加盟国や地域安全保障機構は安保理の許可がなくとも、当該国に対して[[軍事]]的制裁を課すことが容認され、この行為は制止できないとしている。第77条は[[信託統治]]に関する条文であるが、その対象として「第二次世界戦争の結果として敵国から分離される地域」が挙げられている。「旧敵国」に対する扱いの条文ではないが、「敵国」の語が言及されているために「敵国条項」の一部として扱われている。
 
また、第53条第2項では「''本項で用いる敵国という語は、第二次世界大戦中にこの憲章のいずれかの[[署名|署名国]]の敵国であった国に適用される''」としているが、具体的にどの国がこれに該当するかは明記されていない。[[日本の政治|日本国政府]]の見解<ref>[http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/syugiin/118/0770/11806110770003a.html 1990年(平成2年)6月11日の衆議院安全保障特別委員会における赤尾信敏外務省国際連合局長の答弁]</ref>では[[日本]]<ref>[[第二次世界大戦]]中([[大日本帝国憲法|明治憲法]]下)では、「[[大日本帝国]]」という[[国号]]もよく使用された。</ref>、[[ドイツ国]](現[[ドイツ|ドイツ連邦共和国]])、[[イタリア王国]](現[[イタリア|イタリア共和国]])、[[ブルガリア王国 (近代)|ブルガリア王国]](現[[ブルガリア|ブルガリア共和国]])、[[ハンガリー王国 (1920-1946)|ハンガリー王国]](現[[ハンガリー]])、[[ルーマニア王国]](現[[ルーマニア]])、[[フィンランド|フィンランド共和国]]がこれに該当すると解釈している。つまり[[アメリカ合衆国]]・[[イギリス|グレートブリテン及び北部アイルランド連合王国]]・[[フランス|フランス共和国]]・[[ソビエト連邦|ソビエト社会主義共和国連邦]](現[[ロシア|ロシア連邦]])・[[中華民国]](現[[中華人民共和国]])を含む51の原署名国の敵国である。
 
== 敵国条項の対象 ==
第53条第2項では「''本項で用いる敵国という語は、第二次世界大戦中にこの憲章のいずれかの[[署名|署名国]]の敵国であった国に適用される''」としているが、具体的にどの国がこれに該当するかは明記されていない。「この憲章のいずれかの[[署名|署名国]]」は[[アメリカ合衆国]]・[[イギリス|グレートブリテン及び北部アイルランド連合王国]]・[[フランス|フランス共和国]]・[[ソビエト連邦|ソビエト社会主義共和国連邦]]([[継承国]]は[[ロシア|ロシア連邦]])・[[中華民国]](継承国は[[中華人民共和国]])を含む51の原加盟国、すなわち第二次世界大戦における連合国を指す。
日本政府によれば、大戦中に連合国と交戦した国のうち、日本とドイツ、そして[[イタリア王国]]([[1946年]]以降は[[イタリア共和国]])など大戦中に枢軸側から離脱したヨーロッパの国などには、敵国条項が適用されているとする。一方で[[タイ王国]]については敵国扱いは受けていないとしている。
 
また、第53条第2項では「''本項で用いる敵国という語は、第二次世界大戦中にこの憲章のいずれかの[[署名|署名国]]の敵国であった国に適用される''」としているが、具体的にどの国がこれに該当するかは明記されていない。[[日本の政治|日本国政府]]の見解<ref>[http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/syugiin/118/0770/11806110770003a.html 1990年(平成2年)6月11日の衆議院安全保障特別委員会における赤尾信敏外務省国際連合局長の答弁]</ref>では[[日本]]<ref>[[第二次世界大戦]]中([[大日本帝国憲法|明治憲法]]下)では、「[[大日本帝国]]」という[[国号]]もよく使用された。</ref>、[[ドイツ国]](現[[ドイツ|ドイツ連邦共和国]])、[[イタリア王国]](現[[イタリア|イタリア共和国]])、[[ブルガリア王国 (近代)|ブルガリア王国]](現[[ブルガリア|ブルガリア共和国]])、[[ハンガリー王国 (1920-1946)|ハンガリー王国]](現[[ハンガリー]])、[[ルーマニア王国]](現[[ルーマニア]])、[[フィンランド|フィンランド共和国]]がこれに該当すると解釈している。つまり[[アメリカ合衆国]]・一方で[[ギリス|グレートブリテン及び北部アイルランド連合王国]]・[[フランス|フランス共和国]]・[[ソビエト邦|ソビエト社会主義共和連邦]](現[[ロシア|ロシア連邦]])・[[中華民国]](現[[中華人民共和国]])を含む51の原署名国の敵と交戦した国であるが、この対象に含まれていない
 
=== ヨーロッパの旧枢軸国 ===
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== 日本での議論 ==
日本では[[1950年]]に締結された[[中ソ友好同盟相互援助条約|中ソ友好同盟条約]]([[1980年]]失効)において日本を名指しで仮想敵国とされたことから批判がおき、国連憲章における敵国条項の撤廃が議論されるようになった。中ソ友好同盟条約は国連憲章の敵国条項を法的根拠としたものであり<ref>国会議事録・第41回衆議院本会議4号昭和37年8月11日(佐々木良作)</ref>、一方で冷戦期のこの時期に国連における中国共産党([[中華人民共和国]])の議席が存在していなかったことがあり、ソビエトが中国共産党に中国代表権が認められないことには絶対反対の立場を堅持したため受け入れられる素地がなかった<ref>国会議事録・第46回参議院予算委員会8号昭和39年3月6日(大平正芳)発言番号30</ref>。[[1965年]]頃から敵国条項については、不平等なものであり改正が望ましいが「平和愛好国として国連に加盟いたしました国にとっては、この条項は適用されないものと解釈」<ref>国会議事録・第48回衆議院本会議8号昭和40年2月16日(椎名悦三郎)発言番号15</ref>し、[[1970年]]には国連の出資金が第三位になるにあたって「国連自身も新しい時代に入って二十五年たった今日でございますから、さきの戦争云云、そのときの敵国条項、これなどはもう消えてしかるべき」<ref>国会議事録・第63回参議院予算委員会4号昭和45年3月4日(佐藤榮作)発言番号19</ref>の認識にあった。1970年の参議院予算委員会で[[愛知揆一]]外務大臣は「敵国条項は常識的に日本の立場において現在実害がある規定とはおもわないが、こういう条項はもう排除されてしかるべき」との認識を述べている<ref>国会議事録・第63回参議院予算委員会6号昭和45年3月24日(愛知揆一)発言番号181</ref>。これに対し[[木村禧八郎]]は「敵国条項がなくならなければ日本の戦後は終わったとはいえない」と対論している<ref>国会議事録・第63回参議院予算委員会6号昭和45年3月24日(木村禧八郎)発言番号192</ref>。愛知外相は9月に行われた第25回国連総会において「旧敵国条項は、今日全くその存続の意味を失なつた」敵国条項の削除を訴えている<ref>「[http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/bluebook/1971/s46-shiryou-2-2.htm わが国の外交に関する重要演説およびメッセージ」- 第25回国連総会における愛知外務大臣一般討論演説、昭和45年度外交青書</ref>。以降も国連改革において、日本政府および外務省は敵国条項の削除を優先事項として求めている<ref>「[http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/un_kaikaku/j_yusen.html 国連改革:日本の優先事項]」- 外務省</ref>
 
== 敵国条項の現状 ==
敵国条項は依然、国連憲章上から削除に至っていないが、第53条、第107条は、敵国の全てが国際連合に加盟し、国連憲章制定時と状況が大きく変化したため、事実上死文化した条項と考えられている<ref>[http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko///un_kaikaku/pdfs/ykaigo_final.pdf 「21世紀における国連の役割と強化策」]国連改革に関する有識者懇談会(h16.6.28) P3『旧敵国条項が死文化していることは、すでに世界の常識』</ref><ref>[http://www8.cao.go.jp/hoppo/shiryou/pdf/gaikou35.pdf 1991年4月18日の日ソ共同声明 ] においても、「双方は、国際連合憲章における『旧敵国』条項がもはやその意味を失っていることを確認」するとされている。</ref>。日本国やドイツ連邦共和国などは[[国際連合総会|国連総会]]において、第53条、第77条、第107条を憲章から削除する決議案を提出し、[[1995年]][[12月11日]の総会において賛成多数によって採択されてもいる(賛成155、棄権3(北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)、キューバ、リビア)。そこでは、条項が時代遅れ(obsolete)であることが認識され、削除(deletion)に向けて作業を開始することが決議された<ref>国連総会決議 A/RES/50/52</ref>。また2005年の国連首脳会合においても削除を決意することが確認されている<ref>[http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/unsokai/050916_point.html 2005年サミット(国連首脳会合)成果文書(主要ポイント)]-外務省</ref>。
<!--懇談会構成員は以下のとおり:
: [[横田洋三]](中央大学教授、国連大学学長特別顧問)
: [[今井義典]](NHK解説委員長)
: [[上村武志]](読売新聞社論説委員会副委員長)
: [[小倉和夫]](国際交流基金理事長)
: [[長有紀枝]](難民を助ける会前事務局長)
: [[加藤裕治]](連合副会長・自動車総連会長)
: [[坂元一哉]](大阪大学教授)
: [[千玄室]](裏千家前家元、日本国際連合協会会長)
: [[槙原稔]](三菱商事株式会社取締役相談役)
: [[弓削昭子]](国連開発計画駐日代表)--><!--なんかこう書き出すと民間のごく一部が勝手なこと考えて主張してるかの印象だけを強調しているようにみえてしまいますのでコメントアウトしますね。文献情報で挙げたPDFはあくまで事例ですので、この有識者懇談会だけが奇妙なこと言っているわけではないですよ。--></ref><ref>[http://www8.cao.go.jp/hoppo/shiryou/pdf/gaikou35.pdf 日ソ共同声明 1991年4月18日] 『双方は、国際連合憲章における「旧敵国」条項がもはやその意味を失っていることを確認』</ref>。[[国際連合総会|国連総会]]において、日本国やドイツ連邦共和国などが第53条と第107条を憲章から削除する決議案を提出し、[[1995年]][[12月11日]]に、賛成多数によって採択されてもいる(賛成155、棄権3(北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)、キューバ、リビア)。そこでは、条項が時代遅れ(obsolete)であることが認識され、削除(deletion)に向けて作業を開始することが決議された<ref>http://www.un.org/documents/ga/res/50/a50r052.htm 国連総会決議 A/RES/50/52 1995年12月11日</ref>。
 
国連憲章は一つの[[条約|国際条約]]に該当し、この採択が効力を有し正式に改正されるためには、憲章108条の規定により、総会の構成国の3分の2の多数で採択され、且つ、安全保障理事会のすべての常任理事国を含む国際連合加盟国の3分の2によって[[批准]]されることが必要であり、これによりすべての国連加盟国に対して効力が発生する。批准手続きの詳細は各国で異なるが、通常、批准には[[政府]]による最終確認と同意過程を経た上で、これを[[議会]]が[[承認]]することが必要とされるといった複雑かつ迂遠な手続きを踏まなければならない。
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== 外部リンク ==
* [http://www.un.org/documents/ga/res/50/a50r052.htm 1995年の国連総会決議](英語)
 
{{ウィキポータルリンク|国際連合}}