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計算機科学における概念との対応
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言い回し、記法の整理
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{{簡易区別|[[トポス]]論における冪対象}}
[[数学]]特に[[圏論]]における'''指数対象'''(しすうたいしょう、{{lang-en-short|''exponential object''}})は、[[集合論]]における[[写像]]空間([[配置集合]])に相当する、圏論における対象である。任意の有限的な[[圏_(圏論数学)|積]]と指数対象を持つ圏は[[デカルト閉圏]]というである。指数対象は'''冪対象'''(べきたいしょう、{{lang-en-short|''power object''}})や配置対象(''map object''; 写像対象)とも呼ばれる(が。ただし、「冪対象」という呼称は、[[トポス (数学)|トポス]]理論において[[冪集合」のアナロジーと]]を一般化した概念を表本項で言うのとは異なる意味で用いるので注意すべきである
 
任意の有限[[積 (圏論)|積]]と指数対象を持つ圏は[[デカルト閉圏]]と呼ばれ、[[理論計算機科学]]への応用などの観点から重要視されている。
 
== 定義 ==
<math>\mathbb{'''C}</math>''' は[[積 (圏論)|二項積]]を持つ圏とし、<math>''Y</math>'', <math>''Z</math>''<math>\mathbb{'''C}</math>''' の対象とする。'''指数対象''' ''Z''<mathsup>Z^''Y''</mathsup> は[[関手]] <math>-\ &times; ''Y</math>'' から <math>''Z</math>'' への[[普遍射]]として定義することができるこで、 <math>\mathbb{- &times; ''Y'' は '''C}</math>''' から <math>\mathbb{'''C}</math>''' への <math>-\times Y</math> はであって対象 <math>''X</math>''<math>''X\'' &times; ''Y</math>'' へ写し、射 <math>\&phi</math>;<math>\&phi\; &times\mathrm{; id}_Y<sub>''Y''</mathsub> へ写すような函手ものである
 
以上の定義を陽は次のようして述べるならば以下のようになこともできる。評価射
: <math>\mathrm{eval}\colon (Z^Y \times Y) \to Z</math>
を伴う対象 ''Z''<mathsup>Z^''Y''</mathsup> が指数対象であるとは、任意の対象 <math>''X</math>'' と射 <math>''g'': ''X\'' &times; ''Y\to'' &rarr; ''Z</math>'' に対し、射
:<math>\lambda g\colon X\to Z^Y</math>
で次の図式
[[File:ExponentialObject-01.png|center|指数対象の普遍性]]
を[[可換図式|可換]]とするものが一意的に存在するときに言う。ここに現れる射 <math>\&lambda ;''g</math>''<math>g</math>''p'' の[[カリー化]]あるいは転置などという。<math>\mathbb{'''C}</math>''' の各対象 <math>''Z</math>'' に対して指数対象 ''Z''<mathsup>Z^''Y''</mathsup> が存在するならば、<math>''Z</math>''''Z''<mathsup>Z^''Y''</mathsup> へ写す手は、<math>-\ &times; ''Y</math>'' の[[右随伴]]となる。この場合、[[射集合]] (hom-set) の間の自然な全単射
:<math>\mathrm{Hom}_{\mathbbmathbf{C}}\left(X\times Y,Z\right) \cong \mathrm{Hom}_{\mathbbmathbf{C}}\left(X,Z^Y\right)</math>
が取れる。射 <math>''g</math>'' および <math>\&lambda ;''g</math>'' が、互いに他の「指数随伴」(''exponential adjoints'') と呼ばれることもある<ref name="Goldblatt">{{cite book | title = Topoi : the categorial analysis of logic | last1 = Goldblatt | first1 = Robert | authorlink = Robert Goldblatt | publisher = [[North-Holland Publishing Company|North-Holland]] | edition = Revised | year = 1984 | page = 72 | chapter = Chapter 3: Arrows instead of epsilon | isbn = 978-0-444-86711-7 | series = Studies in Logic and the Foundations of Mathematics #98}}</ref>。
 
=== 理論計算機科学における概念との対応 ===
 
以上の諸概念は、[[理論計算機科学]]における計算手続きの抽象化に重要な役割を果たす。データ型 ''Y'' と ''Z'' に対し、''Z''<sup>''Y''</sup> は ''Y'' の型のデータを入力とし、''Z'' の型のデータを出力とするような計算手続きの型を表していると考えることができる。このとき、eval: ''Z''<sup>''Y''</sup> &times; ''Y'' &rarr; ''Z'' とは個々の計算手続きと入力データに対して出力データを計算する手続きであると解釈することができる。また、射 ''g'': ''X'' &times; ''Y'' &rarr; ''Z'' に対して &lambda;''g'': ''X'' &rarr; ''Z''<sup>''Y''</sup> を考えるということは、''g'' が表していた複数の入力を取る計算手続きに対して[[カリー化]]を行うということに対応している。したがって、''g'' = eval (&lambda;''g'' &times; id<sub>''Y''</sub>) という等式はカリー化された手続きと元の手続きとの関係を表していることになる。
 
計算機科学やそれに関係した文脈では、これらの概念を以下のように異なった記号や用語で表すことに注意する必要がある。指数対象は [Y &rarr; Z] で表し、&lambda;''g'' は curry(''g'') などによって、また、eval は apply (適用)という用語を用いる。これらの記号が用いられた理由はコンピュータスクリーン上の組版の制約のためであったり、[[ラムダ計算]]との記号の重複を避けるためであったりということである。
 
== 例 ==
[[集合の圏]]における指数対象 ''Z''<mathsup>Z^''Y''</mathsup> は <math>''Y</math>'' から <math>''Z</math>'' への写像全体の成す集合として与えられる。射 <math>\mathrm{eval}: ''Z^''<sup>''Y\''</sup> &times; ''Y\to'' &rarr; ''Z</math>'' は、順序対 <math>\left(f, y\right)</math> <math>f\left(y\right)</math> へ写す評価写像に他ならない。任意の射 <math>''g'':''X\'' &times; ''Y\to'' &rarr; ''Z</math>'' に対して、射 <math>\&lambda ;''g'': ''X'' \to&rarr; ''Z^''<sup>''Y''</mathsup> は <math>''g</math>'' の[[カリー化]]
:<math>\lambda g(x)(y) = g(x,y)</math>
によって与えられる。
 
順序圏としての[[ハイティング代数]]における指数対象 ''Z''<mathsup>Z^''Y''</mathsup> は相対擬補元 <math>Y\to Z</math> に他ならない。前述の随伴は
:<math> X\wedge Y\leq Z \iff X\leq Y\to Z </math>
と対応する。[[束論]]も参照のこと。
 
[[位相空間の圏]]における指数対象''Z''<mathsup>Z^''Y''</mathsup> は <math>''Y</math>'' が[[局所コンパクト空間|局所コンパクト]][[ハウスドルフ空間]]であれば存在する。この場合、空間 ''Z''<mathsup>Z^''Y''</mathsup> は <math>''Y</math>'' から <math>''Z</math>'' への[[連続写像]]全体の成す集合に[[コンパクト開位相]]を入れたものとして与えられる。評価射に関しては集合の圏のときと同様である。<math>''Y</math>'' が局所コンパクトハウスドルフでないならば、指数対象は存在しない(空間 ''Z''<mathsup>Z^''Y''</mathsup> 自体は存在するのだが、評価射が連続とは限らないために指数対象になれないのである)。このことから、位相空間の圏はデカルト閉でないことが従う。そこで、局所コンパクト位相空間の圏を考えたとしても、<math>''Z</math>''<math>''Y</math>'' が局所コンパクトでも空間 ''Z''<mathsup>Z^''Y''</mathsup> は必ずしも局所コンパクトではないから、やはりデカルト閉圏にはならない。
 
== 参考文献 ==