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| Boiling_notes = 68 % 溶液は 121 {{℃}}で沸騰
| pKa = -1.4
| RefractIndex = 1.397 (16.5 °C)
| Dipole = 2.17 ± 0.02 D}}
| Section7 = {{Chembox Hazards
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}}
 
'''硝酸'''(しょうさん、nitric acid)は[[窒素]]の[[オキソ酸]]で、化学式 HNO<sub>3</sub> で表される。代表的な強酸の1つで、様々な金属と反応して塩を形成する。有機化合物の[[ニトロ化]]に用いられる。硝酸は[[消防法]]第2条第7項及び別表第一第6類3号により[[危険物第6類]]に指定され、硝酸を 10 % 以上含有する溶液は[[医薬用外劇物]]にも指定されている。
 
濃硝酸に[[二酸化窒素]]、[[四酸化二窒素]]を溶かしたものは[[発煙硝酸]]、[[赤煙硝酸]]と呼ばれ、さらに強力な酸化力を持つ。その強力な酸化力を利用してロケットの[[酸化剤]]や[[推進剤]]として用いられる。
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[[五酸化二窒素]](無水硝酸、N<sub>2</sub>O<sub>5</sub>)を水に溶かすと得られる、一価の強酸性の液体で、[[金属]]と反応して硝酸塩(水に可溶)を作る。任意の割合で水に溶け、通常「硝酸」という場合には水溶液を指す。
 
:<math>
\rm mathrm{N_2O_5 + H_2O \longrightarrow 2 HNO_3 {HNO}_3}
</math>
 
濃度の低い硝酸を希硝酸という{{#tag:ref|濃度は特に定義されているわけではないが、実験室で用いる希硝酸は通常 6 mol/dm<sup>3</sup>(32 (32 %, ''d'' = 1.19 g &middot; cm<sup>−3</sup>)、あるいはそれ以下のものであることが多い。|group=注}}。市販の濃硝酸は 60 %(d(''d'' = 1.360 g &middot; cm<sup>−3</sup>, 13.0 [[濃度#物質量/体積(モル濃度)|mol &middot; dm<sup>−3</sup>]])あるいは 70 %(d (''d'' = 1.406 g &middot; cm<sup>−3</sup>, 15.6 mol &middot; [[デシメートル|dm]]<sup>−3</sup>) の水溶液が普通である。69.8 % の水溶液は共沸混合物となり 123 ℃で[[沸騰]]する。
 
濃硝酸と濃硫酸の混合物である[[混酸]]を用いた[[ニトロ化合物]]の合成などから爆薬が作られ、他にも染料、[[肥料]]などの製造に用いる。
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[[酸化剤|強酸化剤]]で、[[木炭]]の粉末とともに熱すれば木炭は[[酸化]]されて[[二酸化炭素]]となる。
 
:<math>
\rm mathrm{C + 4 HNO_3{HNO}_3 \longrightarrow CO_2 + 4 NO_2{NO}_2 + 2 H_2O}
</math>
 
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光に弱く、長時間光を浴び続けると分解し黄色を帯びる。
 
:<math>4 \mboxmathrm{HNO}_3
\quad \overset{h\nu}{\longrightarrow} \quad
4 \mboxmathrm{NO}_2 + 2 \mboxmathrm{H}_2\mboxmathrm{O} + \mboxmathrm{O}_2</math>
 
そのため褐色瓶中で保管する。
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極めて薄い硝酸水溶液の場合、[[マグネシウム]]は初期において[[水素]]ガスを発生する<ref name=Cotton> FA コットン, G. ウィルキンソン著, 中原 勝儼訳 『コットン・ウィルキンソン無機化学』 培風館、1987年,原書:F. ALBERT COTTON and GEOFFREY WILKINSON, Cotton and Wilkinson ADVANCED INORGANIC CHEMISTRY A COMPREHENSIVE TEXT Fourth Edition, INTERSCIENCE, 1980.</ref>。
 
:<math>
\rm mathrm{Mg + 2 HNO_3 \longrightarrow Mg(NO_3)_2 + H_2}
</math>
 
しかし、希硝酸中であっても[[亜鉛]]などの比較的イオン化傾向の大きな金属は硝酸イオンを[[アンモニウムイオン]]まで還元する<ref>D.F.SHRIVER, P.W.ATKINS, INORGANIC CHEMISTRY Third Edition, 1999.</ref>。
 
:<math>
\rm mathrm{4 Zn + 10 HNO_3 \longrightarrow 4 Zn(NO_3)_2 + NH_4NO_3 + 3 H_2O}
</math>
 
また希硝酸はよりイオン化傾向の小さな金属の場合は主に[[一酸化窒素]]を発生する。
 
:<math>
\rm mathrm{3 Cu + 8 HNO_3 \longrightarrow 3 Cu(NO_3)_2 + 2 NO + 4 H_2O}
</math>
 
濃硝酸では[[二酸化窒素]]の発生が主反応となり、発熱により反応は次第に激しくなる。
 
:<math>
\rm mathrm{Cu + 4 HNO_3 \longrightarrow Cu(NO_3)_2 + 2 NO_2 + 2 H_2O}
</math>
 
=== ニトロ化反応 ===
硝酸は[[硫酸]]中では[[塩基]]として挙動しプロトン化を受け、脱水により[[ニトロイルイオン]](nitroyl (nitroyl / NO<sub>2</sub><sup>+</sup>) を生成する。濃硝酸と濃硫酸を混合した[[混酸]]中では以下のような[[化学平衡]]が成立している。
 
:<math>\rm mathrm{HNO_3 + H_2SO_4 \~ \overrightarrow\longleftarrow \~ H_2NO_3^+ + HSO_4^-}</math>
 
:<math>\rm mathrm{H_2NO_3^+ \~ \overrightarrow\longleftarrow \~ NO_2^+ + H_2O}</math>
 
このニトロイルイオンが[[芳香族化合物]]などに対し[[求電子置換反応]]を起こし[[ニトロ化]]が進行する。
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=== 純硝酸の性質 ===
純粋な遊離酸も 0 ℃で[[硝酸カリウム]]と純硫酸を反応させ、[[真空]][[蒸留]]により単離することが可能である。
 
:<math>
\rm mathrm{KNO_3 + H_2SO_4 \longrightarrow HNO_3 + KHSO_4}
</math>
 
しかし不安定であり[[光反応]]などにより分解し、二酸化窒素などを発生させる<ref name=Cotton />。
 
純硝酸は遊離酸として知られているものの中ではもっとも強く自己解離し、さらに生成する[[リオニウムイオン]]は脱水されニトロイルイオンとなり、その[[平衡定数]]は25℃ 25 ℃ で以下のようである
 
:<math>2 \mboxmathrm{H}\mbox{NO}_32 \HNO_3 ~ \overrightarrow\longleftarrow \~ \mbox{H}_2\mbox{NO}_3H_2 NO_3^+ + \mbox{NO}_3NO_3^-}</math>
 
:<math>\rm mathrm{H_2NO_3^+ \ \overrightarrow\longleftarrow \ NO_2^+ + H_2O}</math>
 
:<math> K = [\mboxmathrm{NO}_2^+][\mboxmathrm{NO}_3^{-}][\mboxmathrm{H}_2 \mboxmathrm{O}]
= 7 \times 10^{-2}\mboxmathrm{mol}^{3}\mboxcdot\mathrm{dm}^{-3}</math>
 
高い[[電気伝導度]]を示し、25℃25 ℃ における比電気伝導度は 3.72×1072 &times; 10<sup>−2</sup> ohm&Omega;<sup>−1</sup> &middot; cm<sup>−1</sup> であり、純硫酸よりさらに高い<ref name=Cotton />。
 
また、純硝酸のハメットの[[酸度関数]]は ''H'' <sub>0</sub> =−6 − 6.3 であり純硫酸などに比べるとかなり酸性度は低い<ref name=Charlot>シャロー 『溶液内の化学反応と平衡』 藤永太一郎、佐藤昌憲訳、丸善、1975年</ref>。
 
=== 硝酸の水和 ===
硝酸の第一[[水和]][[エンタルピー]]変化および溶解エンタルピー変化は以下の通りであり、[[過塩素酸]]および硫酸などより発熱量は少ない<ref name=Parker>D.D. Wagman, W.H. Evans, V.B. Parker, R.H. Schumm, I. Halow, S.M. Bailey, K.L. Churney, R.I. Nuttal, K.L. Churney and R.I. Nuttal, The NBS tables of chemical thermodynamics properties, J. Phys. Chem. Ref. Data 11 Suppl. 2 (1982)</ref>。
:<math>\mathrm{HNO_3 (l)
<math>\mbox{H}\mbox{NO}_3 \mbox{(l)} + \mbox{H}_2\mbox{O} \mbox{(l)}\quad \overrightarrow\longleftarrow \quad \mbox{H}\mbox{NO}_3 \cdot \mbox{H}_2\mbox{O} \mbox{(l)}</math>,   <math> \mathit{\Delta} H^\circ = -13.53 \mbox{kJ mol}^{-1}</math>
+ H_2 O (l)
\quad \overrightarrow\longleftarrow \quad
HNO_3 \cdot H_2 O(l)},
\qquad \mathit{\Delta} H^\circ = -13.53 ~ \mathrm{kJ \cdot mol^{-1}}.</math>
 
:<math>\mathrm{HNO_3(l)
<math>\mbox{H}\mbox{NO}_3 \mbox{(l)}\quad \overrightarrow\longleftarrow \quad \mbox{H}^+ \mbox{(aq)} + \mbox{NO}_3^- \mbox{(aq)}</math>,   <math> \mathit{\Delta} H^\circ = -33.26 \mbox{kJ mol}^{-1}</math>
\quad \overrightarrow\longleftarrow \quad
H^+ (aq) + NO_3^- (aq)},
\qquad \mathit{\Delta} H^\circ = -33.26 ~ \mathrm{kJ\cdot mol^{-1}}</math>
 
=== 水溶液中の電離平衡 ===
硝酸は水溶液中では強酸として挙動し、0.1 mol/dm<sup>3</sup> 程度の水溶液ではほぼ完全に解離し塩酸および過塩素酸などと[[電離度]]に大きな差は認められないが、濃厚溶液ではこれらの酸との電離度に差が認められ、2 - 4 mol/dm<sup>3</sup> 溶液については[[糖]]転化の[[触媒]]作用についてこれらより弱いことが示され、非解離の硝酸分子が存在することが示されている<ref name=youekikagaku>山崎一雄他 『無機溶液化学』 南江堂、1968年</ref><ref name=kagakudaijiten>化学大辞典編集委員会 『化学大辞典』 共立出版、1993年</ref>。
 
濃厚溶液中における非解離の硝酸分子の濃度と[[デバイ-ヒュッケルの式|デバイ-ヒュッケル]]の拡張理論などから硝酸の[[酸解離定数]]は ''K'' = 21(21 ({{pKa}} = −1.32)32) と求められ、またメタノール中 ({{pKa}} = 3.2)2) の値より水中では {{pKa}} = −1.8 とする推定値もある<ref name=binran>『改訂4版化学便覧基礎編Ⅱ』 日本化学会編、丸善、1993年</ref>。
 
また、水溶液中の解離に関する[[熱力学]]的な数値も報告されており、そのギブスの[[自由エネルギー]]変化によれば{{pKa}} = −1.44である<ref name=tanaka>田中元治 『基礎化学選書8 酸と塩基』 裳華房、1971年</ref>。
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== 歴史 ==
[[8世紀]]の[[アラビア]]の科学者[[ジャービル・イブン=ハイヤーン]]によって[[緑礬]] FeSO<sub>4</sub>・7H<sub>2</sub>O または[[ミョウバン|明礬]] KAl(SO<sub>4</sub>)<sub>2</sub>・12H<sub>2</sub>O と[[硝石]] KNO<sub>3</sub> とを混ぜて[[蒸留]]によって合成されることが発見された。[[17世紀]]にはいって[[ヨハン・ルドルフ・グラウバー]]がこれを改良し、[[硫酸]]と硝石との混合物を蒸留し、純粋な硝酸を作っている。銅・銀などをも溶かし金属に対する作用は硫酸よりも強いということから、強い水という意味の[[ラテン語]]をとり ''aqua fortis'' と呼ばれた。イギリスでは硝石の精という意味の spirit of nitre ともいわれていた。硝酸という言葉は1789年に[[アントワーヌ・ヴォアジエ]]によって[[フランス語]]で acide nitrique と命名されて以来用いられるようになった。
 
== 工業的製法 ==
2004年度日本国内生産量は 630,290 [[トン|t]]、消費量は 331,347 t である。[[ヴィルヘルム・オストヴァルト]]考案の'''オストワルト法'''(アンモニア酸化法とも<ref name=chem/>)による生産が一般的である。
 
=== オストワルト法 ===
アンモニアを[[白金]]触媒の存在下で 900 ℃ 程度に加熱すると[[一酸化窒素]]が得られる。この反応においては触媒とアンモニアの接触時間が重要であり、接触時間が長いとアンモニアと一酸化窒素とが反応して窒素が生成されてしまう<ref name=chem/>。触媒にはこのほかに CuO-MnO<sub>2</sub> 系や、Fe<sub>2</sub>O<sub>3</sub>-Bi<sub>2</sub>O<sub>3</sub> 系などの金属酸化物触媒も、かつては用いられたことがあったが、触媒活性で劣っていたり、反応中に触媒が微粉化してしまうため、現在では、白金に 10 % ほどの[[ロジウム]]を加えた金網状の触媒が用いられている。白金-ロジウム触媒を用いた際には反応温度 800 {{℃}}、接触時間 0.001 秒の反応条件で一酸化窒素への転化が起こり、その収率は 95から &ndash; 98 % である<ref name=chem>{{Cite book|和書|author=米田幸夫|editor=化学大辞典編集委員会(編)|title=化学大辞典|volume=1|pages=531-532頁|edition=縮刷版第26版|publisher=共立|year=1981|month=10}}</ref>。そのほかに粘土によっても酸化に成功した事例もあるが、収率は半分以下である。
 
:<math>
\rm mathrm{4 NH_3 + 5 O_2 \longrightarrow 4 NO + 6 H_2O }
</math>
 
[[一酸化窒素]]は自発的に空気中の[[酸素]]と反応し[[二酸化窒素]]となる。空気酸化によるこの工程での収率はおよそ 50 % であり、純粋な酸素を用いて酸化させることでその収率は 62 % まで向上する<ref name=chem/>。
 
:<math>
\rm mathrm{2 NO + O_2 \longrightarrow 2 NO_2}
</math>
 
[[二酸化窒素]]を[[水]](温水)と反応させると硝酸と[[一酸化窒素]]が発生する([[一酸化窒素]]は最初のサイクルに戻る)(冷水との反応は「[[二酸化窒素]]」を参照)。常圧で反応させた場合は硝酸の濃度が低いため、ポーリング式硝酸濃縮法と呼ばれる方法を用いて硝酸濃度を 98 %になるまで濃縮が行われる。また、10 [[標準気圧|気圧]] (10<sup>6</sup> [[パスカル|Pa]]) ほどの圧力を加えて反応させる高圧法を用いれば、濃縮の必要なく直接 98 %の硝酸が得られる<ref name=chem/>。
 
:<math>
\rm mathrm{3 NO_2 + H_2O \longrightarrow 2 HNO_3 + NO}
</math>
 
全体として、
 
:<math>
\rm mathrm{NH_3 + 2O_2 \longrightarrow HNO_3 + H_2O}
</math>
 
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== 硝酸イオン ==
<div style="float:right">[[ファイル:Nitrat-Ion2.svg|130px]]</div><div style="float:right">[[ファイル:Nitrate-3D-vdW.png|100px]]</div>
'''硝酸イオン'''(しょうさんイオン、NO<sub>3</sub><sup>−</sup>, nitrate)は硝酸およびその化合物の電離、分解によって主に生じる1価の[[陰イオン]]、窒素化合物であり、硝酸塩中にも存在し、平面[[正三角形]]型構造で N−O 結合距離は硝酸三水和物中において 124.7~1267 &ndash; 126.5 [[ピコメートル|pm]] である<ref name=binran />。
 
硝酸は強い[[酸化剤]]であり、多くの金属と反応するため多種の[[塩 (化学)|塩]]を生成する。また一般に、金属の硝酸塩は水に溶解しやすい。
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希薄水溶液中における[[標準酸化還元電位]]は以下の通りである。
 
:<math>\mathrm{NO_3^-(aq) + 2 H^+(aq) + 2 e^-
<math>\mbox{NO}_3^-\mbox{(aq)} + 2 \mbox{H}^+\mbox{(aq)} + 2 \mbox{e}^- = \mbox{NO}_2^-\mbox{(aq)} + \mbox{H}_2\mbox{O} \mbox{(l)}</math>,   <math>E^\circ = 0.832 \mbox{V}</math>
= NO_2^- (aq) + H_2 O (l)},
\qquad E^\circ = 0.832 ~ \mathrm{V}</math>
 
:<math>\mathrm{NO_3^- (aq) + 10 H^+ (aq) + 8 e^-
<math>\mbox{NO}_3^-\mbox{(aq)} + 10 \mbox{H}^+\mbox{(aq)} + 8 \mbox{e}^- = \mbox{NH}_4^+\mbox{(aq)} + 3 \mbox{H}_2\mbox{O} \mbox{(l)}</math>,   <math>E^\circ = 0.883 \mbox{V}</math>
= NH_4^+ (aq) + 3 H_2 O (l)},
\qquad E^\circ = 0.883 ~ \mathrm{V}</math>
 
硝酸イオンは白金電極を用いた水溶液の[[電解]]により[[陰極]]で[[アンモニア]]まで還元される。