「有向点族」の版間の差分

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== 概要 ==
 
点列概念の一般化である有向点族の概念が導入された背景を説明するため、まず以下の基本的な問いを考える:位相空間Xの位相構造を点列の極限によって特長づける事はできるか?」。つまり例えば閉集合や開集合の概念を点列の収束性を使って定義可能か、という問いである。もし答えが「できる」であれば、位相空間上の性質を点列という直観的に分かりやすい概念で表現できる事になるので、非常に有益である。実際[[距離空間]]の場合は閉集合や開集合を点列の極限で定義できる事が有益に働いていた。
 
結論から言えばXが[[第一可算公理]]を満たせばこれは可能であり、この場合例えばX上の閉集合は以下のように特長づける事ができる。Xの部分集合Aが閉集合となる必要十分条件は、A内の点列が極限を持つ場合にはその極限が必ずAに属する事である。X上の開集合や閉包の概念も同様に点列の収束で特長づけられる。
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点列の極限で位相構造を特徴づけられない例としては、整列順序集合[0,ω<sub>1</sub>]に順序から定まる位相を入れた空間がある。ここで ω<sub>1</sub>は非可算順序数である。実際この集合においてω<sub>1</sub>は明らかに[0,ω<sub>1</sub>)の閉包に属しているにも関わらず、[0,ω<sub>1</sub>)内のいかなる点列もω<sub>1</sub>に収束しない。なぜなら ω<sub>1</sub>の非可算性により、 [0,ω<sub>1</sub>)内の任意の点列に対し、点列に属する可算個の点のいずれよりも大きい順序数ω<ω<sub>1</sub>が存在するので、 ω<sub>1</sub>の開近傍(ω,ω<sub>1</sub>]には点列の点が存在せず、したがって点列はω<sub>1</sub>に収束していない事になるからである。
 
'''有向点族'''はこうした可算性に関する制約を取り除く為に導入された概念である。点列<math>(x_n)_{n\in \mathbb{N}}</math>が可算な全順序集合<math>\mathbb{N}</math>を添え字集合としてもつものとして定義されるのに対し、有向点族(x<sub>λ</sub>)<sub>λ∈Λ</sub> は添え字集合Λとして(可算もしくは非可算の)[[有向集合]]を持つものとして定義される。点列概念から可算性の制約を取り除いた事により、先ほどの問題は解消され、任意の位相空間に対してその位相構造は有向点族の極限で特徴づける事ができるようになる。また後述するように、添え字集合を有向集合にした事は、位相空間上の各点の近傍系が自然に有向集合であるみなせる事と相性がよく、これも点列概念の不十分さを解消する上で一役を買っている。
 
このように有向点族の概念は点列概念に関わる定理や証明から可算性に関わる制約を取り除くのに役立ち、点列概念であれば何らかの可算性を仮定したり証明したりしなければならない箇所が有向点族であればその必要がなくなる事がある。また有向点族の概念は複数の収束概念を統一的に扱うためにも役立ち、点列の収束のみならず例えば実数値関数の収束も有向点族の収束概念の特殊ケースとみなせる。
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== 定義 ==
 
本節では有向点族の定義とその収束の定義を述べる。これらの定義は点列とその収束性の定義を自然に有向∈の場合に拡張する事で得られる。まず有向点族の定義は以下のとおりである。
''X'' を位相空間とする。''X'' における'''有向点族'''とは、ある[[有向集合]] &Lambda; から ''X'' への[[写像]]のことである。これをしばしば (''x''<sub>&lambda;</sub>)<sub>&lambda;&isin;&Lambda;</sub> あるいは簡単に (''x''<sub>&lambda;</sub>) のように記して、有向集合 &Lambda; で添字付けられる有向点族などと呼ぶ。有向集合&Lambda; 上の順序関係以下「&ge; 」と表す。
 
{| class="toccolours collapsible collapsed" width="100%" style="text-align:left"
=== 例 ===
!'''定義(有向点族)'''
自然数の全体に通常の大小関係で順序を入れたものは有向集合であり、点列とは自然数全体の成す集合上の写像であるので、任意の列は有向点族である。
|-
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''X'' を位相空間とする。''X'' における上の'''有向点族'''とは、ある[[有向集合]] &Lambda; から ''X'' への[[写像]]のことである。これをしばしば (''x''<sub>&lambda;</sub>)<sub>&lambda;&isin;&Lambda;</sub> あるいは簡単に (''x''<sub>&lambda;</sub>) のように記して、有向集合 &Lambda; で添字付けられる有向点族などと呼ぶ。有向集合&Lambda; 上の順序関係以下「&ge; 」と表す
|}
 
以下、有向集合&Lambda; 上の順序関係を「&ge; 」と表す。次に有向点族の収束の定義を述べる。
もう一つの重要な例として位相空間上の点 ''a'' を固定し、''a'' の各近傍''U'' から''x''<sub>''U''</sub>を取ると、<math>(x_U)_{U\in \mathcal{N}_a}</math>は有向点族となる。ここで<math>\mathcal{N}_a</math> は''a'' の近傍系である。実際<math>\mathcal{N}_a</math>上の順序を''U'' &ge; ''V'' ⇔ ''U'' ⊂ ''V'' により定めると、<math>\mathcal{N}_a</math>が有向集合になる事を簡単に確かめる事ができる。なおこの例において、順序関係「&ge;」に関して大きな''U'' を取ればとるほど''x''<sub>''U''</sub>は''a'' の小さな近傍に属している事になり、直観的には''x''<sub>''U''</sub> は''a'' に向かって「収束」している事が分かる。この直観は次の章で述べる極限の定義により正当化される。
 
{| class="toccolours collapsible collapsed" width="100%" style="text-align:left"
== 有向点族の極限 ==
!'''定義(有向点族の収束)'''
(''x''<sub>&alpha;</sub>) が有向集合 ''A'' で添字つけられる ''X'' 内の有向点族で、''Y'' を ''X'' の部分集合とする。このとき、&beta; &ge; &alpha; なる全ての ''A'' の元 &beta; に対して ''x''<sub>&beta;</sub> が ''Y'' に含まれるような ''A'' の元 &alpha; が存在するならば、(''x''<sub>&alpha;</sub>) は ''Y'' に'''ほとんど含まれる''' (''eventually in'') という。
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位相空間''X'' 上の有向点族(''x''<sub>&lambda;</sub>)<sub>&lambda;&isin;&Lambda;</sub>が''X'' 上の点''x'' に'''収束'''するとは、'x'' の任意の近傍''U'' に対し、(''x''<sub>&lambda;</sub>)<sub>&lambda;&isin;&Lambda;</sub>が''U'' にほとんど含まれる事をいう。
 
ここで(''x''<sub>&lambda;</sub>)<sub>&lambda;&isin;&Lambda;</sub>が''X'' の部分集合''Y'' に'''ほとんど含まれる''' (''eventually in'') とは、ある&lambda;&isin;&Lambda;が存在し、&gamma > &lambda;を満たす全ての&gamma;&isin;&Lambda;に対し''x''<sub>&gamma;</sub> が ''Y'' に含まれる事を言う。
|}
 
(''x''<sub>&lambda;</sub>)<sub>&lambda;&isin;&Lambda;</sub>が''x'' に収束している事を
 
(''x''<sub>&alpha;</sub>) を位相空間 ''X'' における有向点族とし、''x'' を ''X'' の元とする。 ここで
:''x'' のどんな近傍 ''U'' に対しても、(''x''<sub>&alpha;</sub>) がほとんど ''U'' に含まれる
という条件が成り立つとき、この有向点族は ''x'' に'''収束する'''とか、'''極限''' ''x'' をもつといい、
:lim ''x''<sub>&alpha;</sub> = ''x''
と記す。直観的にはこれは、十分大きな &alpha; に対しては、''x'' のどれほど近くにでも ''x''<sub>&alpha;</sub> を近づけ、留まらせることができるということを意味する。
 
と表す。
=== 極限の例 ===
 
* 点列の極限
=== 例 ===
自然数の全体に通常の大小関係で順序を入れたものは有向集合であるので、任意の点列は有向点族である。定義より明らかなように点列(''x''<sub>n</sub>)の点列としての収束性と有向点族としての収束性は一致する。同様に実変数関数の極限lim<sub>''x''&rarr;∞</sub> ''f''(''x'')も、有向点族<math>(f(x))_{x\in\mathbb{R}}</math>の極限ととらえる事ができる。
 
 
もう一つの重要な例として位相空間上の点 ''a'' を固定し、''a'' の各近傍''U'' から''x''<sub>''U''</sub>を取ると、<math>(x_U)_{U\in \mathcal{N}_a}</math>は有向点族となる。ここで<math>\mathcal{N}_a</math> は''a'' の近傍系である。実際<math>\mathcal{N}_a</math>上の順序を''U'' &ge; ''V'' ⇔ ''U'' ⊂ ''V'' により定めると、<math>\mathcal{N}_a</math>が有向集合になる事を簡単に確かめる事ができる。なおこの例において、順序関係「&ge;」に関して大きな''U'' を取ればとるほど''x''<sub>''U''</sub>は''a'' の小さな近傍に属している事になり、直観的る事からもわかるよう''x''<sub>''U''</sub> は''a'' に向かって「収束」している事が分かる。この直観は次の章で述べる極限の定義により正当化される。
* 実変数関数の極限: lim<sub>''x''&rarr;''c''</sub> ''f''(''x'')。ここでは実数の全体 '''R''' から一点 {''c''} を除いた集合上での向きを、''c'' までの距離にしたがって定義してある。
 
* また[[積分|リーマン積分]]の定義におけるリーマン和の成す有向点列の極限とみなせる。この例において考える有向集合は、積分区間の全ての分割が成す集合に包含関係が定める半順序で向きを入れたものである。リーマン-スティルチェス積分においても同様のことを考えることができる。
 
=== 諸定義 ===
''D'' と ''E'' を有向集合、''h'' を ''D'' から ''E'' への写像とする。''E'' の各元 ''e'' に対して、''D'' の元 ''d'' で ''q'' &ge; ''d'' なる ''D'' の元 ''q'' に対しては ''h''(''q'') &ge; ''e'' が満たされるようなものがとれるとき、''h'' は'''共終''' (''cofinal'') であるという。