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Wikipedia:削除の方針  ケース B-2:プライバシー問題に関して 事故・事件などの被害者の実名。
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| 攻撃人数 =
| 標的 = 中央公論社[[嶋中鵬二]]社長(不在)
| 死亡 = 1名:家政婦・丸山かね
| 負傷 = 1名重傷:社長夫人・嶋中雅子
| 行方不明 =
| 被害者 =
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1961年[[2月1日]]、少年K(当時17歳)は、[[新宿区]][[市谷砂土原町]]にあった[[中央公論新社|中央公論社]]社長の[[嶋中鵬二]]宅に忍び込み、応接間に勝手に上がりこんでいた。
 
21時15分頃、同家の22歳の家政婦の上野のぶ子(当時22歳)丸山かね(当時被害者となった50歳の家政婦の両名が、本を置きに応接間に入って、「ボサボサ頭の」少年を発見した。少年はナイフを手に「主人はおるか」と脅かした。家政婦2人は驚きのあまり後ずさりし、応接間から奥四畳半、居間の入口付近まで退き下がった。居間では、帰宅したばかりの社長夫人の嶋中雅子(評論家[[蝋山政道]]の長女、当時36歳)が小学6年生の長女と話をしていたが、何事かと夫人が居間を出て、そこで少年と鉢合わせした。
 
少年は「俺は右翼のものだ」と自ら名乗り、「主人はいないのか」と再び聞いたが、夫人は「いない」と否定。実際、嶋中社長は当夜不在であったが、少年は「隠しておるのではないか、お前が妻なら殺す」と言って逆上し、刃物で夫人の腿を突き刺した。50歳の家政婦丸山は咄嗟に夫人を守ろうとして少年ともみ合いになり、必死で制止しようとしたが、逆にも左脇腹を刺された。2人を殺傷して動揺したのか、少年はそのまま逃走したと見られる。
 
もう1人の家政婦上野は隣家に飛び込み、同家の電話で警察に急報した。この間、長女は泣きながら、二階で試験勉強中だった中学三年生の長男のところに駆け込んだ。長男が驚いて一階に降りた時には、犯人の少年はいなかった。わずか3分程度の間の出来事だったという。夫人は畳間にそのまま倒れており、全治二ヶ月の負傷。被害者となった家政婦丸山は台所の土間で虫の息で倒れているところを発見され、近くの病院に搬送する途中で死亡した。
 
逃走した少年は翌朝に[[浅草]]の[[派出所]]前で[[職務質問]]を受けて逮捕された。頭を丸坊主にしており、自主するつもりだったと言った。犯行の動機については「作者も悪いが、それを売って金を儲ける社長はなお悪い」と言ったという。所持していたハンカチには「天皇陛下万歳」と書かれていた<ref name="中村p22">中村智子『「風流夢譚事件」以後 編集者の自分史』田畑書店、1976年、p.22</ref>
 
== 事件後の顛末 ==
1961年[[2月3日]]、この事件に関して[[第38回国会]][[参議院]]で[[西郷吉之助]]議員が緊急質問し、当局の警備の手落ちを指摘。[[国家公安委員会委員長]]の[[安井謙]]は、右翼団体の抗議が中央公論社の本社に集中していたためにそちらに警備の重点を置き、社長宅の警戒が十分ではなかったことを暗に認めた。前年12月に前国会で浅沼事件に対する「暴力排除に関する決議案」を可決させたばかりであったが、同様の事件の発生にさらに6月に[[政治的暴力行為防止法案]]の成立を目指すことになるが、これは衆議院で通ったものの、参議院では野党との協議不調により閉会までに成立せず廃案となった。
 
[[2月4日]]、中央公論社は犠牲となった家政婦(息子が社員でもあった<ref>京谷秀夫『一九六一年冬 「風流夢譚」事件』平凡社ライブラリー、1996年、p.147</ref>)の葬儀を[[社葬]]で行った。
 
[[2月5日]]、中央公論社は社告で「言論の自由」を呼びかける一方で、『風流夢譚』を'''掲載に不適当な作品'''であったと反省して皇室と一般読者にお詫びして事件の端緒となったことを遺憾とする「ご挨拶」を、同社の名義で新聞に出すという混乱を見せた。言論の自由を守れというジャーナリズムの掛け声に賛同するように見せながら、実際的には皇室話題の[[自主規制]]に大きく舵を切っていた<ref>{{cite web| url=http://www.initiative.soken.ac.jp/journal_bunka/080220_nezu/nezu.pdf| format=pdf|title=編集者粕谷一希と『中央公論』―「現実主義」論調の潮流をめぐって―| publisher= [[総合研究大学院大学]]文化科学研究科| date=2008-03-22 |accessdate=2014-04-14|author=根津朝彦}}</ref>。
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[[2月6日]]には、事件前に提出されていた辞表が受理され、竹森前編集長が退社した。一方で、会社には事件前よりもさらに右翼が押しかけるようになり、[[佐郷屋留雄]]が社内で椅子を振り回して暴れるなどした<ref name="粕谷" />。
 
同日深夜には作者の深沢七郎が記者会見を開いて涙を流しながら謝罪した。深沢は「下品なコトバ」を小説に使い「悪かったと思います」と述べて、護衛の刑事と供に姿を消した<ref>{{Harvnb|佐藤|2006|loc=}}</ref>。深沢は右翼の襲撃を避けるためにホテルに潜伏した後、[[北海道]]や[[広島県]]など各地を転々として、[[1965年]]まで5年間、放浪生活を余儀なくされ、そのイメージからいつしか放浪の作家と呼ばれるようになった<ref name="白川" /><ref name="上條" />。また大江健三郎にも同様にしばらくは警護がつけられるようになった。
 
[[2月7日]]、社告を否定し、嶋中社長名義で新聞に改めて「お詫び」だけを掲載した。中央公論3月号にも同様のものが掲載された。被害者であるはずの同社が謝り続けるという一連の姿勢に対して疑問の声も上がったが<ref name="川端" /><ref name="hori" /><ref>{{Harvnb|粕谷|1999|loc=}}</ref>、『戦後の右翼勢力』を執筆した[[堀幸雄]]によれば、[[福田恆存]](保守派論客)、[[田中清玄]]([[フィクサー]])、[[畑時夫]]([[民論社]])、[[進藤次郎]]([[大阪朝日新聞]]編集局長)と、嶋中社長の話合いで、中央公論社は編集方針を「中正に戻す」条件を呑んだからだという<ref name="hori">{{Harvnb|堀|1993|loc=}}</ref>。堀は「右翼の介入、右翼の調停によって『中央公論』の言論は抑圧され、それだけでなく「[[菊タブー|菊のタブー]]」が再現された」と批判している。これらの経緯が一因で、その後中央公論社で発生した労働争議は長期にわたって続くことになり、1999年の[[読売新聞社]]への身売りをもたらす同社の業績低下はここに始まったとされる<ref name="白川" />。
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他方で、事件により[[言論の自由|言論]]・[[表現の自由]]が暴力に脅かされたとして、抗議のビラを配布し、右翼の暴力を取り締まるよう国会へ要請していた日本出版労働組合協議会などのマスコミ系の労働組合が中心となって、[[2月8日]]に日比谷公会堂で「テロに抗議し、民主主義を守る会」が開催され、「言論・出版の自由を守る文化団体連絡会」が結成された。
 
ところで、右翼の中では事件の評価について意見が分かれていた。浅沼事件とは違って少年が「[[一殺多生|一人一殺]]」に'''失敗'''したことと、無関係の女性を殺傷させたこと、そして何よりも、「おそるべき右翼の凶刃のもとで、けなげにも最後まで御主人をかばいながら、ついに母としての生涯を無惨に終わられた丸山かねさん」<ref>参議院質問に立った[[高田なほ子]]議員([[日本社会党]])の言葉。</ref>家政婦に同情が集まったためである。[[全日本愛国者団体会議]](全愛会議)は婦女子を死傷させたとして少年の行為を否定し、[[大日本愛国団体連合・時局対策協議会]](時対協)は「行為は非とするも精神は是とする」との立場をとった<ref>{{Citation |和書| last =猪野| first =健治|author-link=猪野健治| year=1973| title =日本の右翼 : その系譜と展望 |publisher =日新報道|pages=275}}</ref>。
 
===犯人と裁判===
犯人は、事件直後の第一報では「25歳くらいの男」「右翼名乗る男」と報じられたが、実際に翌日出頭して来たのは17歳の少年であった。
 
この少年Kは、[[佐賀県]]の出身で、前年の夏に高等学校を2年で中途退学。[[家出]]して、名古屋や横浜を転々とし、年末までは横浜で[[沖仲仕]]の仕事などをしていた。1月3日に大日本愛国党の[[赤尾敏]](総裁)のところに来て入党を申し込んだばかりで、だった。赤尾は仮入党を認めて1月18日から28日にかけて赤尾に同行し、ミサイル基地化反対闘争が行われていた[[新島]]で仕事活動に参加。他の党員とは喋らず無口であったが、浅沼稲次郎させ刺殺した山口二矢については褒めていたという<ref>京谷秀夫『一九六一年冬 「風流夢譚」事件』平凡社ライブラリー、1996年p.141</ref>。2月1日に脱会離党届申して、その当日の夜に事件を起こしていた<ref name="中村p22" />
 
大日本愛国党によれば、事件前日に少年は「右翼生活は性格に合わない。田舎に帰る」と出奔したと言い、これは赤尾に累を及ぼさないための気遣いであったらしい<ref name="上條" />。