削除された内容 追加された内容
弥三郎 (会話 | 投稿記録)
正しい漢字使用
9行目:
== 科学的分野毎の意味 ==
=== 地質学 ===
[[地球科学]]において、[[ぜい性-塑性転移帯]] (brittle-ductile transition zone) とは[[大陸地殻]]では地下約15kmの深さにある部分を指し、それより深い部分では[[岩石]]が[[ぜい性]](もろさ)よりも[[塑性]](展延性)を示すようになる。[[氷河]]の[[氷]]では、この転移帯が約30mほどの深さにある。この転移帯より上の岩石や氷が延性を示すこともあるし、この転移帯より下の物質がぜい性を示すこともあり、完全に特性が切り換わるというわけではない。この転移帯が存在するのは、深さと共に物質にかかる圧力が増していくため、圧縮されることでぜい性破壊をもたらすのに要する力が増大していき、温度が高くなることで変形するのに要する力が小さくなっていくためである。この2つの力が逆転するのが「ぜい性-塑性転移帯(転移点とも)」である。
 
=== 物質科学 ===
17行目:
[[金属]]の展延性の高さは[[金属結合]]に由来する。金属結合では個々の金属原子の[[電子殻]]に属する[[電子]]が[[自由電子]]となり、[[陽イオン]]となった原子の間を自由に動く。非局在化した電子により、通常(金属結合以外の化学結合をしている物質)ならヒビや割れを生じるような強い力がかかっても金属原子の相互の位置がずれて変形しつつ一体性を保つことができる。
 
延性を表す数値として、単軸[[引張試験]]で試料が破断した時点のひずみの大きさ「破断ひずみ」(<math>\varepsilon_f</math>)がある。他にも引張試験での試料の断面積の最大変化量「絞り」(<math>q</math>) もよく使われる(パーセントで表す)<ref name=dieter>G. Dieter, ''Mechanical Metallurgy'', McGraw-Hill, 1986, ISBN 978-0070168930</ref>。
 
主な金属を延性の大きい方から順に挙げると、[[金]]、[[銀]]、[[白金]]、[[鉄]]、[[ニッケル]]、[[銅]]、[[アルミニウム]]、[[亜鉛]]、[[スズ]]、[[鉛]]となる<ref name="mms">{{Citation | last = Rich | first = Jack C. | title = The Materials and Methods of Sculpture | publisher = Courier Dover Publications | page = 129 | year = 1988 | url = http://books.google.com/?id=hW13qhOFa7gC | isbn = 0486257428}}.</ref>。同様に展性の大きい方から順に挙げると、金、銀、鉛、銅、アルミニウム、スズ、白金、亜鉛、鉄、ニッケルとなる<ref name="mms"/>。[[鋼]]の延性は組成によって異なる。[[炭素]]の含有量が多いほど延性は小さくなる。合成樹脂や[[アモルファス]]、工作用[[粘土]]なども展性があるものが多い。
 
==== 延性-ぜい性遷移温度 ====
[[ファイル:Ductility.svg|thumb|right|157px|丸い金属棒の引張試験結果の分類<br/>(a) ぜい性破壊<br/>(b) 延性破壊<br/>(c) 完全な延性破壊]]
体心立方格子金属やシリコンなどにおいては、室温で延性破壊していたものが温度の低下に伴ってぜい(性破壊に遷移する、延性ぜい(性遷移現象が起こる。この現象は降伏応力(YS)と劈開破壊の破壊応力の釣り合いにより説明される<ref>例えば、泉山, 茅野, 長井: 鉄と鋼, 100(2014), 704-712.</ref>。
 
延性ぜい(性遷移が起きる温度は延性ぜい(性遷移温度(Ductile-(to)-brittle transition temperature, DBTT)と呼ばれ、材料がDBTTより低い温度にまで冷やされると、力がかかった際に変形せずに破断する可能性が高くなる。例えば[[亜鉛]]合金の[[ザマック]]3は常温ではよい展延性を示すが、零下になるとわずかな衝撃荷重で脆性破壊される可能性が高くなる。材料が[[応力]]にさらされる可能性がある場合、DBTTは材料選択時の重要な観点となる。同様に[[ガラス転移点]]はガラスや重合体での同様の現象に対応しているが、ぜい性が生じる仕組みは金属とは異なる。
 
DBTTの定義は大きく、延性破面率50%になる温度である破面遷移温度(Fracture appearance transition, FATT)、吸収エネルギーが上部棚エネルギー(Upper shelf energy, USE)と下部棚エネルギー(Lower shelf energy, LSE)の中間値となる温度であるエネルギー遷移温度(Energy transition temperature, ETT)に分かれる。USEが熱活性過程である塑性変形の仕事を反映したものであり、厳密には温度依存性をもつものの、遷移温度域においては近似的に延性破面率とUSEとLSEで混合則が成り立つため、FATTとETTはほぼ同じ温度となる。
33行目:
DBTTは[[中性子線]]などの外部要因によっても影響を受ける。中性子線は[[格子欠陥]]を増大させるため、展延性が低下し、同時にDBTTが高くなる。
 
延性-ぜい性遷移現象およびその温度を正確に測定するには、破壊試験が必要である。典型的な破壊試験としては、シャルピーやアイゾットなどの衝撃試験が広く用いられる。
 
== 原子炉圧力容器のぜい化 ==
展延性に関して、[[原子力発電所]]の[[原子炉圧力容器]]の「ぜい化」は重要な問題の1つとなっている。中性子線が一部素材のぜい化を引き起こし、同時に[[ウィグナー効果]]によるエネルギー蓄積を引き起こす。このため圧力容器の金属の無延性遷移温度が変化する。このため原子炉圧力容器内に金属試料を置いて定期的に試験するなどして、厳しい監視が行われている。無延性遷移温度の悪化は、特に[[加圧水型原子炉]]の寿命を制限する大きな要因となっている<ref>[http://www10.antenna.nl/wise/index.html?http://www10.antenna.nl/wise/369/3628.html Oldest operating US nuclear power plant shut down]</ref>{{信頼性要検証|date=2009年11月}}。
 
原子力発電所を含めた熱を使った発電施設は、定期的な点検のための運転停止を必要とする。加圧水型原子炉では約18カ月おきに点検を行い、[[沸騰水型原子炉]]では24カ月おきに点検を行う。この際に原子炉圧力容器は300℃前後から常温まで冷やされる。[[火力発電所]]や[[太陽熱発電]]所では運用時の温度はさらに高いため、点検時の温度変化がさらに急激になる。この冷却と運転再開時の加熱による温度変化によって、炉の様々な部品の膨張や収縮で各所に一時的な応力がかかることになる。これに中性子線によるぜい化が加わることを考慮すると、応力がある一定の値以下になるよう設計することが望ましい。
 
圧力容器が中性子線によるぜい化によって仕様を下回る性能になっていないことを保証するため、圧力容器の材料と同じ素材の試料を圧力容器内に置き、点検の際にそれらの展延性を試験する。展延性が[[仕様]]で定めた範囲にない場合、[[機械工学]]や[[原子力工学]]の専門家が状況について助言する必要が生じる。そして必要に応じて、冷却・加熱にかける時間を延ばす、圧力容器そのものを交換するといった対策を施す。後者は時間とコストがかなりかかる。
 
== 脚注・出典 ==