「AGM-65 マーベリック」の版間の差分

削除された内容 追加された内容
Kurirai1 (会話 | 投稿記録)
編集の要約なし
11行目:
|ミサイル重量=304kg
|射程=27km
|誘導方式=[[光波ホーミング誘導#赤外線ホーミング|赤外線誘導]]
|飛翔速度=[[超音速]]
}}
'''AGM-65 マーベリック'''(AGM-65 Maverick)は、[[アメリカ合衆国]]製の[[空対地ミサイル]]の一群である。「マベリック」や「マーヴェリック」とも表記される。
 
== 開発経緯 ==
マーベリックAGM-65が登場する以前の主力[[空対地ミサイル]]には、[[AGM-12 (ミサイル)|AGM-12 ブルパップ]]や[[AGM-62 (ミサイル)|AGM-62 ウォールアイ]]があったが、前者はASM-N-7(AGM-12A)が[[1959年]]から[[アメリカ海軍]]に配備され、[[平均誤差半径|CEP]]が平均約30m前後の高い命中率と約27kmの長射程という高いスタンドオフ性能であり、当時としては非常に高性能な空対地ミサイルとして[[ベトナム戦争]]で多くの戦果を挙げたが、その誘導方式に問題があった。
 
ブルパップAGM-12の誘導方式は[[無線]][[指令誘導]]方式で、発射と同時に弾体後部で発火するトレーサと呼ばれる火炎を兵器管制員が目視で確認し、[[ジョイスティック]]を操作して[[無線]]により操舵して目標まで誘導し続けなくてはならなかった。
 
そのため、射程と命中率は操縦者の[[視力]]と技量に依存し、発射から弾着までは誘導し続けなければならず、誘導が困難になるような激しい機動も制限された。また、[[発電所]]や[[橋]]など大型の目標に対しては有効であったが、小型目標を狙うには不向きであり、誘導の難しさから不評だった。
 
=== ウォールアイ ===
[[ベトナム戦争]]が始まって2年後の[[1962年]]には、問題を抱えていた[[AGM-12 (ミサイル)|AGM-12 ブルパップ]]の後継として[[AGM-62 (ミサイル)|AGM-62 ウォールアイ]]が[[アメリカ海軍]]によって開発開始された。続いてその3年後である[[1965年]]には[[アメリカ空軍]]も[[ハワード・ヒューズ#ヒューズ・エアクラフト|ヒューズ]]と共にブルパップの後継[[ミサイル]]、'''AGM-65 マーベリック'''の開発に乗り出した。先に実用段階まで至ったウォールアイAGM-62は、[[1966年]]にブルパップAGM-12と同じくマーチンエリエッタ社と[[契約]]が結ばれAGM-62A ウォールアイ Iの[[生産]]が開始される。
 
ウォールアイAGM-62ブルパップAGM-12とは比較にならない程大きな進化を遂げている。その大きな特徴としては、[[誘導装置]]に[[ビデオカメラ]]を利用した点である。これはミサイルの先端部にビデオカメラを収め、その[[映像]]は母機の[[ビデオモニター|モニター]]に表示され、[[操縦士|パイロット]]は映り込んだ目標を[[ロックオン]]して発射すれば、後はミサイルがロックした目標へ自動で向かってくれる。それにより命中率と射程は大幅に上昇し、母機は発射直後に回避行動をとることが出来できるので、[[地対空ミサイル|SAM]]や[[対空砲]]、敵[[戦闘機]]の脅威に長時間晒されることなく離脱することが可能となった。しかし、ウォールアイAGM-62は分類上ミサイルであるが[[推進装置]]を持っておらず、射程は母機の高度に依存するので遠距離の目標を狙おうとすると機体の高度を上げなくてはならない。そのため、[[天候]]の悪い日は[[雲]]が邪魔して[[シーカー]]に目標が映らずロックできないと言うトラブルもあり、基本的にウォールアイAGM-62が使用されるのは天気が良好で[[陽]]が出ている間だけである。
 
ウォールアイAGM-62それら以外の問題も多々抱えており、登場以来数々の細かいアップデートが行われ、その種類は数十種にもおよぶ。その中でも長射程データリンク型のウォールアイ I ER/DLや、搭載[[弾頭]]を2,000lbに増量したウォールアイ IIはベトナム戦争で活躍した。それでもブルパップAGM-12を全てウォールアイAGM-62に置き換えることは出来できなかった。ウォールアイAGM-62は高い命中率や[[ファイア・アンド・フォーゲット|撃ち放し能力]]を持っていたが、推進装置を搭載していないことから、母機から遠距離の目標を攻撃するのに向かないなどの欠点があった。
 
==== AGM-12E ====
その後、[[AGM-12 (ミサイル)|ブルパップAGM-12]]の派生型で[[クラスター爆弾]]を[[弾頭]]としたAGM-12Eが開発された。これは、上空で弾体が炸裂し、内部の子[[爆弾]]を広範囲に撒き散らすことから、誘導に精確性が求められず、単純な無線誘導方式なので1基あたりの価格も低廉で、搭載母機に改修などが不要という汎用性もあった。ブルパップAGM-12は[[AGM-62 (ミサイル)|ウォールアイAGM-62]]の登場により使用機会は減ったが、その後も使われ続けた。
 
=== マーベリック登場 ===
[[1972年]]になるとマーベリック、AGM-65の初期型であるAGM-65Aが[[アメリカ空軍|空軍]]に納入される。マーベリックAGM-65の特徴は、弾体中央上部から後部にかけて伸びる[[デルタ翼]]や、後部に僅かにある操縦翼など[[AIM-47 (ミサイル)|AIM-47 ファルコン]]、[[フェニックス (ミサイル)|AIM-54 フェニックス]]などと同様の外形を採用していて小型なために、1つのキャリッジに最大3発のマーベリックAGM-65を装着することができる。[[A-10 (航空機)|A-10]]では14発のマーベリックAGM-65が搭載可能である。
 
誘導方式は[[AGM-62 (ミサイル)|ウォールアイAGM-62]]と同じくTV誘導方式で、短射程ながら運動性も良く、[[ベトナム]]で数発が試験使用されて予想以上の命中率を示した。好成績を収めたAGM-65Aは、[[1973年]]に勃発した[[第四次中東戦争]]で[[イスラエル国防軍]]に供与され、80%の命中率を記録した。良好な命中率と信頼性を示したマーベリックAGM-65は、ウォールアイAGM-62では果たせなかった[[AGM-12 (ミサイル)|ブルパップAGM-12]]の完全置き換えを達成し、その優れた性能から後に[[アメリカ海兵隊]]にも採用された。その後[[シーカー]]の倍率を上げたタイプや、[[レーザー誘導]]やIR[[ シーカー]]搭載の全天候型、威力向上型、[[対艦ミサイル|対艦]]型、CCD シーカー搭載型などの派生型が作られ、[[湾岸戦争]]や[[イラク戦争]]などで使用された。また、[[ユーゴスラビア]]に供与されたマーベリックAGM-65は[[クロアチア内戦|クロアチア独立戦争]]や[[ボスニア・ヘルツェゴビナ内戦]]において[[ユーゴスラビア連邦空軍]](および後身の[[セルビア空軍]])が使用していた。
 
== 基本型と派生型 ==
基本となったAGM-65Aから、6つ以上の派生型が作られた。
 
{| class="wikitable"
! 型式名
! 誘導方式
! 発射重量
! 弾頭
! 信管
! 最大射程
! 主な用途
|-
| AGM-65A
| rowspan="2"|[[光波ホーミング誘導#画像誘導|TV画像]]
| rowspan="3"|210kg
| rowspan="3"|57kg[[成形炸薬弾|成形炸薬]]
| rowspan="3"|着発
| rowspan="2"|3km
| rowspan="3"|[[アメリカ空軍|米空軍]]向け
|-
| AGM-65B
|-
| AGM-65D
| 画像赤外線画像
| rowspan="2"|20km
|-
| AGM-65E
| [[光波ホーミング誘導#セミアクティブ・レーザー・ホーミング|セミアクティブ・レーザー]]
| 293kg
| 136kg[[榴弾]]
| 遅延
| [[アメリカ海兵隊|米海兵隊]]向け
|-
| AGM-65F
| rowspan="2"|画像赤外線画像
| rowspan="2"|307kg
| rowspan="2"|136kg成形炸薬
| rowspan="3"|着発
| rowspan="2"|25km
| rowspan="2"|[[アメリカ海軍|米海軍]]向け
|-
| AGM-65G
|-
| AGM-65H
| TV画像
| 210kg
| 57kg成形炸薬
| 20km
| 米空軍向け
|-
|}
 
* A型は続くシリーズの基本となったものである
* B型はA型のTV[[シーカー]]に目標画像拡大機能が加えられたものである
* D型は[[赤外線]]式TV画像を使ったシーカーを備えた形式であり、[[1983年]]に実用化された
* E型はロケットモーターが排煙の目立たない改良型によって射程も延伸された形式であり、[[1985年]]に実用化された
* F型はD型を[[船|艦船]]目標向けに調整したもので、[[1989年]]に実用化された
* G型はD型の赤外線式TV画像シーカーのソフトウェアを改良したもの。誘導システムの精度を高めて小型車両も目標にできるG2型も作られた。[[1990年]]に実用化された
* H型は[[1991年]]より開発が始まり、当初はミリメートル波のアクティブ・シーカー型として開発されていたが、[[1993年]]に一度開発が中止となり、その後再開された時には新たにCCD型TVシーカーが採用された。CCD型TVシーカーは2段階で視野が切り替えられる
* J型はF型のCCD向上型である
* K型はG型のCCD向上型である
 
AGM-65の[[弾頭]]は、57kg(125ポンド)と136kg(300ポンド)の2種類である。軽量の方は[[ミサイル]]の先端に着発[[信管]]を備えた成形炸薬弾頭であり、重量のある方は[[信管|遅延信管]]を備えてやや弾殻が厚く、[[運動エネルギー]]で目標表面を貫通してから内部で爆発する爆風破片効果を持つ弾頭である。後者の方が大型の硬目標に対する破壊力は大きい。いずれの弾頭も後部の[[固体燃料ロケット]]で推進される<ref group="出典" name = "アメリカの対艦/対地攻撃兵器">[[青木謙知]] 『アメリカの対艦/対地攻撃兵器』 「空自F-2/F-1戦闘機と世界の戦闘攻撃機」[[軍事研究]]2009年8月号別冊、ジャパン・ミリタリー・レビュー、2009年8月1日発行、ISSN 0533-6716</ref>。
 
== 運用 ==
[[湾岸戦争]]中[[1991年]]の[[湾岸戦争#砂漠の嵐|「砂漠の嵐」作戦]]で、[[F-16 (戦闘機)|F-16]]と[[A-10 (航空機)|A-10]]が運用し、[[イラク治安部隊#イラク軍|イラク軍]]に対して大きな戦果を挙げた。
 
AGM-65用のLAU-117発射機(単・連[[ランチャー]])は、[[アメリカ海軍|海軍]]および[[アメリカ空軍|空軍]]の[[航空機]]に多数搭載されている。また、初期に運用されていたLAU-88発射機(三連装ランチャー)は、信頼性の問題から湾岸戦争のころにはほとんど使用されないようになった<ref>『[[航空ファン (雑誌)|航空ファン]]』NO632 文林堂 2005年 63-64頁</ref>。
114行目:
* [[ハリアー II (航空機)|AV-8B ハリアーII]]
* [[BAe ハリアー II]]
* [[J-22 (航空機)|SOKO J-22 オラオ]]
|
; [[戦闘機]]・[[戦闘爆撃機]]
123行目:
* [[F-16 (戦闘機)|F-16 ファイティング・ファルコン]]
* [[F/A-18 (航空機)|F/A-18 ホーネット]]
* [[F/A-18E/F (航空機)|F/A-1818E/F スーパーホーネット]]
* [[F-111 (航空機)|F-111 アードバーク]]
* [[F-CK-1 (航空機)|F-CK-1 経国]]
* [[サーブ 37 ビゲン|AJJAS 37 ビゲン]]
* [[サーブ 39 グリペン|JAS 39 グリペン]]
|
; [[対潜哨戒機|哨戒機]]
* [[P-3 (航空機)|P-3 オライオン]]
* [[P-1 (哨戒機)|P-1]]
185行目:
 
== 関連項目 ==
* [[AGM-12 (ミサイル)|AGM-12]]
* [[チオコール]] - 固体燃料ロケット・モーターのメーカー
* [[AGM-62 (ミサイル)|AGM-62]]
* [[チオコール]] - [[固体燃料ロケット]][[モーター]]のメーカー
* [[アメリカ合衆国のミサイル一覧]]