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'''租税回避'''(そぜいかいひ)とは不当かつ合法な租税負担の軽減・排除のこと。
'''租税回避'''(そぜいかいひ)とは、通常用いられる法形式を回避した経済的に合理的理由のない異常な法形式による取引を行うことで、租税負担の軽減または排除を行うことをいう。[[租税法律主義]]によって形式的には[[合法]]だが、[[租税公平主義]]等の観点から容認できないとして、このような抜け道をふさぐために、実質主義の観点から[[税法]]上の個別又は一般の否認規定をもうけて課税の対象とされることがある。
 
== 脱税との相違概要 ==
'''租税回避'''(そぜは私人が経済的負担を被らなかいひ)ように試みる誘因なる。このとき、通常用いられる法形式を回避した経済的に合理的理由のない異常な法形式による取引(私法上の選択可能性の[[濫用]])を行うことで、租税負担の軽減または排除行う回避することを租税回避という。租税回避は[[租税法律主義]]によって形式的には'''[[合法]]'''だが、[[租税公平主義]]等の観点から容認できない'''不当'''な租税負担の軽減として扱われる。このような抜け道をふさぐために、実質主義の観点から[[税法]]上の個別又は一般の否認規定をもうけて課税の対象とされることがある。
[[脱税]]は、課税要件の充足という事実を隠匿する行為であり、[[不法]]に税の負担を逃れることである。一方租税回避は、課税要件の充足それ自体を回避するものであり、形式的にはあくまで[[合法]]な行為である。よって両者は、[[税法]]の規定に違反しているか否かによって峻別される。もっとも、法形式の回避を装っていても、実際は事実の隠匿であることもしばしばあり<ref name="yomiuri120212">{{Cite web|date=2012年2月12日|url=http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20120211-OYT1T00831.htm|title=パチンコ40グループ、総額1千億円申告漏れ|publisher=[[読売新聞]]|language=日本語|accessdate=2012年2月12日}}</ref><ref name="asahi120401">{{Cite web|date=2012年4月1日|url=http://www.asahi.com/business/update/0401/TKY201203310705.html|title=ヤフー傘下に税回避指摘 東京国税 ヤフー側は提訴|publisher=[[朝日新聞]]|language=日本語|accessdate=2012年4月8日}}</ref>(隠匿された課税要件該当事実が認定されることを、しばしば、事実認定レベルにおける否認という。)、注意を要する。また、私法上の性質決定の基準がはっきりしないことの影響で、事実の隠匿か法形式の回避かの区別はしばしば困難を伴い、国税当局との紛争に発展することもある<ref name="asahi120401"/>。
 
私法上、私人は私的自治の原則によって異常な法形式による取引を行うことも自由である。しかし、租税法上は、租税法の公然欠缺(課税要件既定の欠缺)・隠れた欠缺(適用除外既定の欠缺)を利用して租税利益を得ることは望ましくなく、租税回避の否認によって租税回避を防いでいる。
== 節税との相違 ==
[[節税]]とは、[[税法]]の規定の想定する範囲内において取引を行うことで、課税額の低減を図る行為である。一方租税回避とは、想定の範囲を超えた異常な法形式を採る点において、節税と異なる<ref name="yomiuri120212"/>。ただし、両者には明確な差異はなく、社会通念により区別されるにとどまる。
 
== リベラルな租税裁定行為との関係回避観 ==
上記な考え方に対して、租税回避の適法性を重視するリベラルな租税回避観も存在する。この場合、私人の租税回避は租税法の欠缺を知らしめるもので、租税回避による国家の利益を[[租税法律主義#合法性の原則|合法性の原則]]や納税者の利益を犠牲にしてまで追求するべきではないとする。経済的自由主義や、租税を債務関係の一種として捉える租税債務関係説と親和性が高い<ref>谷口勢津夫『税法基本講義』第2版58 - 59ページ</ref>。。
ある取引を行うにあたって、同一又は類似の経済的意義を有する方法がいくつか考えられる場合に、当事者からすればあえて税負担の重い取引を行う理由はないから、通常は、税負担の軽い方法が模索され、選択されることになる。これを、租税裁定行為という。租税裁定行為は、税法の想定する範囲内のものとそうでないものがあり、したがって、状況次第で節税に当たる場合と租税回避に当たる場合とがありうる。
 
== 実質課回避問題点否認 ==
租税回避行為の否認とは、課税上、租税回避のために実際に行なわれた法形式を無視し、通常の法形式が行われたものとして取り扱うこと。租税回避のための規定を'''租税回避の否認規定'''と言い、通常の課税要件既定に対応して補充的課税要件既定・代替的課税要件既定とも言う。
租税回避は、あくまで形式的には合法な行為に属する。しかしながら、想定の範囲を超えた異常な法形式を用いていることから、租税法上その法形式を容認するか無視するかという問題が生ずる。
 
租税回避の否認規定対し、実際に行は'''特定の'''異常われた法形式・事実行為による租税法上は無視し回避を否認する個別的否認規定と'''一般的に'''異われるべき法形式に対応・事実行為を否認する課税要件一般的否認規定(包括的否認規定)満たされたものと存在することを「租税回避行為の否認」という後者はドイツ租税通則法第42条は「租税回避行為の否認」を認めた代表的な規定であとして挙げられる。日本にはドイツ法のような総則的規定は後者が存在しないが、所得税法第157条などように個別の否認規定前者設け存在する。課税要件明確主義や予見可能性・法的安定性の観点かは前者の方が好ましいとされている。
 
租税回避の否認は新たな課税要件('''代替的課税要件'''・'''補充的課税要件''')の創設とそれによる課税を意味するため、[[租税法律主義]]の元では代替的課税要件を定める明文の規定を必要とする<ref>谷口64ページ</ref>。
租税法上、個別に租税回避を否認する規定があれば、同規定に基づいて租税回避を否認することに問題はないが、租税回避を否認する規定がない場合の取り扱いについては議論が分かれている。否認を認めないとすると、租税回避行為者と通常の法形式によった者との間に不公平が生ずる。反面、租税回避を否認し課税を行なうとすると、[[租税法律主義]]に反する結果の招来という問題が生ずる。通説では、法律の根拠(総則ないし個別の否認規定)がない限り、租税回避行為の否認は認められないと考えられている。この通説の立場からは、租税回避に対応するためには、新たな租税回避の類型が現れるたび、個別の否認行為を迅速に立法する必要があるとの主張がなされている。
 
=== 実質課税の問題点 ===
租税回避は、あくまで形式的には合法な行為に属する。しかしな、想定の範囲を超えた異常な法形式を用いていることから、租税法上その法形式を容認するか無視するかという問題が生ずる。
 
租税法上、個別に租税回避を否認する規定があれば、同規定に基づいて租税回避を否認することに問題はないが、租税回避を否認する規定がない場合の取り扱いについては議論が分かれている。否認を認めないとすると、租税回避行為者と通常の法形式によった者との間に不公平が生ずる。反面、租税回避を否認し課税を行なうとすると、 [[租税法律主義]]に反する結果の招来という問題が生ずる。通説では、法律の根拠(総則ないし個別の否認規定)がない限り、租税回避行為の否認は認められないと考えられている。この通説の立場からは、租税回避に対応するためには、新たな租税回避の類型が現れるたび、個別の否認行為を迅速に立法する必要があるとの主張がなされている。
 
== 類似の概念 ==
{| class="wikitable" style="font-size:small; float:right"
|+
! !! 正当 !! [[不当]]
|-
!rowspan="2"| [[合法]]
|[[節税]] || [[租税回避]]
|-
* |colspan="2"|[[租税裁定]]
|-
![[違法]]
*| - || [[脱税]]
|}
*; [[税]]
: 課税要件の充足という事実を隠匿する行為によって'''[[違法]]'''・'''不当'''に税の負担を逃れること。犯罪(脱税犯)とされている(所得税法238条1項・239条1項、法人税法159条1項など)。
[[脱税]]は、課税要件の充足という事実を隠匿する行為であり、[[不法]]に税の負担を逃れることである。一方: 租税回避は、課税要件の充足それ自体を回避するものであり、形式的にはあくまで[[合法]]な行為である。よって両者は、[[税法]]の規定に違反しているか否かによって峻別される。もっとも、法形式の回避を装っていても、実際は事実の隠匿であることもしばしばあり<ref name="yomiuri120212">{{Cite web|date=2012年2月12日|url=http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20120211-OYT1T00831.htm|title=パチンコ40グループ、総額1千億円申告漏れ|publisher=[[読売新聞]]|language=日本語|accessdate=2012年2月12日}}</ref><ref name="asahi120401">{{Cite web|date=2012年4月1日|url=http://www.asahi.com/business/update/0401/TKY201203310705.html|title=ヤフー傘下に税回避指摘 東京国税 ヤフー側は提訴|publisher=[[朝日新聞]]|language=日本語|accessdate=2012年4月8日}}</ref>(隠匿された課税要件該当事実が認定されることを、しばしば、事実認定レベルにおける否認という。)、注意を要する。また、私法上の性質決定の基準がはっきりしないことの影響で、事実の隠匿か法形式の回避かの区別はしばしば困難を伴い、国税当局との紛争に発展することもある<ref name="asahi120401"/>。
; [[節税]]
: [[税法]]の想定する範囲内の取引で'''合法'''・'''正当'''に課税額の低減を図る行為。
[[節税]]とは、[[税法]]の規定の想定する範囲内において取引を行うことで、課税額の低減を図る行為である。一方租税回避とは、: 想定の範囲を超えた異常な法形式を採る点において、節回避と異なる<ref name="yomiuri120212"/>。ただし、両者には明確な差異はなく、社会通念により区別されるにとどまる。
; [[租税裁定]]
: 納税者が税負担の軽い取引方法を選ぶこと。ある取引で同一・類似の経済的意義を有する法形式の選択肢が複数存在する場合、当事者があえて税負担の重い取引を行う理由はないから、通常は税負担の軽い方法が模索・選択される
: 税法の想定する範囲内のもの(節税)とそうでないもの(租税回避)がある。
 
== 関連項目 ==
* [[租税法]]
* [[脱税]]
* [[節税]]
* [[租税裁定]]
* [[タックス・シェルター]](租税回避商品)
* [[タックス・ヘイヴン]]
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== 参考文献 ==
* [[金子宏]]『租税法 第十一版』、2006年、弘文堂、ISBN 4335302339
* [[谷口勢津夫]]『税法基本講義』
 
== 脚注 ==