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同一脚注の整理など
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=== 扶養制度の沿革 ===
; 私的扶養
家父長制の下で、家長は家の経済的基礎となる家産を排他的に管理するとともに親族は家業の労働に就き、それと同時に親族の生活保障は家長の責任とされていたが、時代が下って親族的集団の分化が進み、人々が家の外で収入を獲得するようになると個々の生活保障は夫婦関係・親子関係を中核とする自立保障を建前とするようになっていった<ref name="wagatsuma401">我妻栄著 『親族法』 有斐閣〈法律学全集23〉、1961年1月、401頁</ref><ref>泉久雄著 『親族法』 有斐閣〈有斐閣法学叢書〉、1997年5月、296頁</ref>。そして、その他の親族の扶養関係については主として習俗的・道徳的な規範に基づいて規律されるようになった<ref>我妻栄著 『親族法』 有斐閣〈法律学全集23〉、1961年1月、401頁< name="wagatsuma401"/ref>。しかしながら、扶養義務は親族関係が密な社会においては法的義務としなくとも自然債務的に履行されるものであるが、それが希薄となって扶養義務の履行が期待できなくなる場合には一定の範囲の親族に対して法的な扶養を義務付けねばならなくなるとされる<ref name="oho724">於保不二雄・中川淳編著 『新版 注釈民法〈25〉親族 5』 有斐閣〈有斐閣コンメンタール〉、1994年4月、724頁</ref>。なお、扶養法における扶養は理想としての基準を定めたものではなく扶養義務の最小限度を定めたものにすぎないとされる<ref>於保不二雄・中川淳編著 『新版 注釈民法〈25〉親族 5』 有斐閣〈有斐閣コンメンタール〉、1994年4月、724-725頁</ref>。
 
; 公的扶養
近代資本主義社会においては、労働力再生産の観点から企業が使用人と家族の生活の維持について一定の役割を果たすようになり、家族扶養手当制度、健康保険制度、労働災害保険制度、社会保険制度などの扶養制度(社会的扶養)が設けられるようになった<ref name="oho472">於保不二雄・中川淳編著 『新版 注釈民法〈25〉親族 5』 有斐閣〈有斐閣コンメンタール〉、1994年4月、472頁</ref>。
 
また、生活困窮者の増大は社会不安をもたらすことから、生活保護制度などの国家扶養制度も設けられるようになった<ref>於保不二雄・中川淳編著 『新版 注釈民法〈25〉親族 5』 有斐閣〈有斐閣コンメンタール〉、1994年4月、472頁<name="oho472"/ref>。本来、公的扶養は貧民の救済を目的としたものであり<ref>泉久雄著 『親族法』 有斐閣〈有斐閣法学叢書〉、1997年5月、298頁</ref>、日本では[[1874年]](明治7年)12月に[[恤救規則]]、[[1932年]](昭和7年)に[[救護法]]、[[1937年]](昭和12年)に[[母子保護法]]、[[1945年]](昭和20年)に[[軍事扶助法]]が制定された。そして、戦後、[[日本国憲法第25条]]の「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」(第1項)と「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」(第2項)の理念のもとに[[生活保護法]]が制定された。この日本国憲法第25条は[[生存権]]について明規したもので画期的なものであった。国家扶養に対する考え方によっては究極的にはすべての資源を国家が統合して国民に分配すべきということになりそうだが、日本国憲法は私有財産制を保障していること([[日本国憲法第29条]])、[[日本国憲法第27条]]1項が勤労権について定めていること、個々の労働・財産の取得には幸福追求としての側面があること([[日本国憲法第13条]])などから、あくまでも個人の自由な資産形成と自立自助が基本原則とされる<ref>於保不二雄・中川淳編著 『新版 注釈民法〈25〉親族 5』 有斐閣〈有斐閣コンメンタール〉、1994年4月、724頁<name="oho724"/ref>。
 
=== 親族扶養優先の原則 ===
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しかし、現実に協同関係が存在しない者の間の私的扶養では、扶養本来の目的を実効的に期すことが難しい場合もある<ref>泉久雄著 『親族法』 有斐閣〈有斐閣法学叢書〉、1997年5月、299頁</ref>。そのため、近年の行政実務ではこの原則を見直す動きがあり、公的扶養の比重が高まりつつある<ref>[http://wp.cao.go.jp/zenbun/seikatsu/wp-pl96/wp-pl96-01503.html 経済企画庁編『平成8年度国民生活白書』第5章第3節]</ref>。
 
なお、現代では[[労働基準法]]や[[船員法]]などに基づく企業負担による社会的扶養制度があり、また、[[健康保険法]]や[[国民年金法]]による各種社会保険制度が整備されるに至っており、その限度において親族扶養や国の扶養は実質的に免責されている<ref>於保不二雄・中川淳編著 『新版 注釈民法〈25〉親族 5』 有斐閣〈有斐閣コンメンタール〉、1994年4月、472頁<name="oho472"/ref>。
 
== 国内私法(民法)による扶養 ==
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[[日本]]の民法は[[b:民法第730条|730条]]において「[[直系血族]]及び同居の[[親族]]は、互いに扶け合わなければならない。」と規定する。
 
本条の法的性質については、法的義務を認める法的義務説([[牧野英一]]など)、法的義務を定めたものではなく倫理的規定にとどまるとする倫理的規定説([[我妻榮]]など)、指導理念について定めたものであるとする指導理念説などが対立するが、多数説は本条による法的義務を認めず倫理的規定あるいは指導理念を定めた規定にとどまるとみる<ref>川井健著 『民法概論5親族・相続』 有斐閣、2007年4月、7頁</ref><ref name="wagatsuma399-400">我妻栄著 『親族法』 有斐閣〈法律学全集23〉、1961年1月、399-400頁</ref>。
 
本条については、このような内容を法律上の規定とすることについて制定時より論争がある<ref>我妻栄著 『親族法』 有斐閣〈法律学全集23〉、1961年1月、399 name="wagatsuma399-400頁<"/ref>。戦後、本条の新設を主張した牧野英一には、親子間・親族間の倫理を民法上の規定として明瞭に表現しておくべきであり、この倫理的規定を家事調停や家事審判を通じて実効化し、慎重に旧来の「家」的な構成を排除すべきとの意図があったとされる<ref>谷口知平編著 『新版 注釈民法〈21〉親族』 有斐閣〈有斐閣コンメンタール〉、1989年12月、137頁</ref>。これに対して我妻榮らは、本条を旧来の家制度の存置につながるもので親族集団の民主化を阻害し、拡大された親子と近親者で構成される緊密な家族の範囲を法的に捉えたものとみても無用の規定であるとみていた<ref>我妻栄著 『親族法』 有斐閣〈法律学全集23〉、1961年1月、399-401頁</ref>。ただし、牧野が旧来の家制度の存置を図ったのではないかとする点については懐疑的な見方もあり、あくまでも家父長的・権力的な家制度に批判的な法的理念を説くもので、その主張は家制度廃止後における同居親族間の倫理的関係を法的側面から確保しようとしたものであるとみる説もある<ref>谷口知平編著 『新版 注釈民法〈21〉親族』 有斐閣〈有斐閣コンメンタール〉、1989年12月、138頁</ref>。
 
本条に関する立法論としては、この規定で達すべきと考えられる目的・内容は、本来、親族関係を支配する倫理・習俗に基づいてそれぞれの場合に即した判断を通じて達成すべきものであり、法律上の規定とする意味はなく、かえって法律が一般的にもつ形式的画一的な性質のため親族関係を支配する倫理・習俗による柔軟な解決を阻害しており、夫婦関係や親子関係の自主性を傷つけるおそれがあるとして削除すべきとの論がある<ref>我妻栄著 『親族法』 有斐閣〈法律学全集23〉、1961年1月、399頁</ref><ref>於保不二雄・中川淳編著 『新版 注釈民法〈25〉親族 5』 有斐閣〈有斐閣コンメンタール〉、1994年4月、476-477頁</ref>。このほか扶養については民法877条以下に具体的規定が置かれていることから、本条については、[[b:民法第877条|877条]]があるにも関わらず屋上屋を架するようなものであるとの見解があり<ref name="arichi197">有地亨著 『家族法概論』 法律文化社、2005年4月、197頁</ref>、そもそも裁判所が本条を根拠に「扶け合え」と命じた場合にどのような執行をなしうるのか不明であると疑問視する見解がある<ref name="endo56">遠藤浩・原島重義・広中俊雄・川井健・山本進一・水本浩著 『民法〈8〉親族 第4版増補補訂版』 有斐閣〈有斐閣双書〉、2004年5月、56頁</ref>。昭和34年7月の「[[法制審議会]]民法部会身分法小委員会仮決定及び留保事項」の第一でも民法730条について削除すべきとされている<ref>遠藤浩・原島重義・広中俊雄・川井健・山本進一・水本浩著 『民法〈8〉親族 第4版増補補訂版』 有斐閣〈有斐閣双書〉、2004年5月、56頁<name="endo56"/ref>。
 
一方、1970年頃から学界の一部において民法730条について再評価する動きもある<ref>谷口知平編著 『新版 注釈民法〈21〉親族』 有斐閣〈有斐閣コンメンタール〉、1989年12月、140頁</ref>。本条について積極的な意味付けを行う見解としては、この規定は財産法の分野における個人本位の理念について親族法の分野において修正する意味をもつとする見解<ref>林良平・大森政輔編著 『親族法・相続法』 青林書院〈注解 判例民法〉、1992年7月、13頁</ref>、あるいは老親扶養の重要性の高まりの中で民法の扶養規定は基本的に経済的扶養を前提としているが民法730条は同居親族の扶養について定めている点から一定の意義を有するとみる見解などがある<ref>有地亨著 『家族法概論』 法律文化社、2005年4月、197頁< name="arichi197"/ref>。
 
民法730条をめぐる議論については、本条について従来の学説がもっぱら「家」的な規定としてのみ捉えていたのではないかとの指摘もあり<ref name="taniguchi142">谷口知平編著 『新版 注釈民法〈21〉親族』 有斐閣〈有斐閣コンメンタール〉、1989年12月、142頁</ref>、立法や法解釈のあり方などについては、本条が現実にどのような機能を果たしてきたか、また、今後どのような機能を果たすと考えられるか十分な解明と検討が必要であるとされる<ref>谷口知平編著 『新版 注釈民法〈21〉親族』 有斐閣〈有斐閣コンメンタール〉、1989年12月、142頁<name="taniguchi142"/ref>。
 
==== 生活保持義務と生活扶助義務 ====
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; 離婚の場合の扶養義務
: 未成熟子扶養義務は877条の規定により夫婦が離婚した場合にも親権とは別に各々の配偶者にそのまま維持される<ref name="oho733">於保不二雄・中川淳編著 『新版 注釈民法〈25〉親族 5』 有斐閣〈有斐閣コンメンタール〉、1994年4月、733頁</ref>。このため、遺産分割協議や離婚協議などにおいて、未成熟子扶養義務まで承継させられることを不服とする相続人や、親権を奪われても扶養義務だけは果たせと要求されて納得できない様子の配偶者がしばしば見られる。
 
; 継子の扶養義務
: 継子の扶養義務については、877条の「直系血族」にはあたらないが、[[b:民法第760条|760条]]の「夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する。」などの規定により認められている<ref>於保不二雄・中川淳編著 『新版 注釈民法〈25〉親族 5』 有斐閣〈有斐閣コンメンタール〉、1994年4月、733頁<name="oho733"/ref>。
 
==== 成熟子の親に対する扶養義務 ====
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==== 扶養当事者 ====
; 要扶養者
親族間の扶養を受けるには自らの財力・労力では生活することが困難である者(要扶養者)でなければならない(この点で扶養能力がある限り常に扶養義務を負うとされる夫婦間の扶養義務などとは異なる)<ref name="wagatsuma225">我妻栄・有泉亨・遠藤浩・川井健著 『民法3 親族法・相続法 第2版』 勁草書房、1999年7月、225頁</ref>。
 
; 扶養義務者
要扶養状態となった者がある場合、その者の直系血族(両親、祖父母、子、孫など)及び兄弟姉妹は扶養義務者(絶対的扶養義務者)として扶養義務を負う([[b:民法第877条|877条]]第1項)。また、[[家庭裁判所]]は特別の事情があるときは、三親等内の親族も扶養義務者(相対的扶養義務者)として扶養義務を負う([[b:民法第877条|877条]]第2項)。これらの者の扶養義務は相互的なものである<ref>利谷信義著 『現代家族法学』 法律文化社〈NJ叢書〉、1999年7月、107頁</ref>。
 
ただし、これらの扶養義務者が実際に扶養義務を果たすためには、その扶養義務者が自身の生活を維持し不可能にしてしまわない範囲において、なお、扶養権利者を扶養することが可能なだけの資力(扶養能力)がなければならないとされている<ref name="suzuki236">鈴木禄弥著 『親族法講義』 創文社、1988年4月、236頁</ref><ref>我妻栄・有泉亨・遠藤浩・川井健著 『民法3 親族法・相続法 第2版』 勁草書房、1999年7月、225頁< name="wagatsuma225"/ref>。親族間の中に親族間扶養義務を果たしてもなお要扶養状態であれば、生活保護など社会保障を受ける対象者になる。
 
なお、現行の日本民法のように三親等内の''親族''にまで扶養義務を認めうることとし、扶養義務において兄弟姉妹を直系血族と同順位としている例は稀有である<ref>泉久雄著 『親族法』 有斐閣〈有斐閣法学叢書〉、1997年5月、295頁、308-309頁</ref>。明治民法においても親族間扶養の範囲は三親等内の''血族''までとされていた(民法旧954条)。
103行目:
扶養の発生時期について民法上に明文はない。(1)扶養権利者の扶養必要状態と扶養義務者の扶養可能状態が同時に発生し、かつ、扶養権利者が請求したときであるとする説、(2)扶養権利者の扶養必要状態と扶養義務者の扶養可能状態が同時に発生したときに当然に生じるとする説、(3)扶養の協議・審判が成立したときであるとする説などがある<ref>泉久雄著 『親族法』 有斐閣〈有斐閣法学叢書〉、1997年5月、311頁</ref>。
 
それぞれ(1)説に対しては扶養義務者の存否や所在が不明なために第三者が扶養を行った場合にも扶養義務を肯定しえないことになり、[[事務管理]]の要件である「他人の事務」を認めることができず、本来の扶養義務者に対して費用償還請求権を行使しえないことになり不都合である、(2)説に対しては扶養義務者が扶養義務の発生を知らないままに扶養料が蓄積して扶養権利者からまとまって多額の請求が行われるおそれがある、(3)説に対しては扶養の協議・審判まで扶養義務が存在しないことになってしまうといった難点があり見解に対立がある<ref>我妻栄・有泉亨・遠藤浩・川井健著 『民法3  親族法・相続法 第2版』 勁草書房、1999年7月、225頁< name="wagatsuma225"/ref>。
 
; 扶養義務の変更
扶養義務の内容については、扶養権利者の扶養必要状態の増減に伴って絶対的に増減(全扶養義務者との関係で扶養義務が全体的に増減)し、扶養義務者の扶養可能状態の増減に伴って相対的に増減する(一扶養義務者との関係で扶養義務が増減すると、それに伴って反射的に他の扶養義務者の扶養義務あるいは公的扶養が増減する)<ref name="izumi317">泉久雄著 『親族法』 有斐閣〈有斐閣法学叢書〉、1997年5月、317頁</ref>。
 
; 扶養義務の消滅
扶養義務は、扶養権利者の扶養必要状態の消滅に伴って絶対的に消滅(全扶養義務者との関係で消滅)し、扶養義務者の扶養可能状態の消滅に伴って相対的に消滅する(一扶養義務者との関係で扶養関係は消滅し、それに伴って反射的に他の扶養義務者の扶養義務あるいは公的扶養が増加あるいは新たに発生する)<ref>泉久雄著 『親族法』 有斐閣〈有斐閣法学叢書〉、1997年5月、317頁< name="izumi317"/ref>。
 
==== 扶養の順位・程度・方法 ====
120行目:
扶養の程度については[[日本国憲法第25条]]の「健康で文化的な最低限度の生活」が理論上の基準となり、扶養義務者と同程度の生活まで保障するものではない<ref>泉久雄著 『親族法』 有斐閣〈有斐閣法学叢書〉、1997年5月、318頁</ref>。
 
扶養の方法には引取扶養と給付扶養があり、給付扶養には金銭給付と現物給付がある。このうち引取扶養は経済面以外でも独立した生活が困難な場合にとられるもので、一般的に金銭的負担が少なくてすむという長所がある反面、扶養義務者がこれを欲しない場合には扶養の実効性を担保できず扶養権利者にとっても苛酷な状況になってしまうといった短所もある<ref>鈴木禄弥著 『親族法講義』 創文社、1988年4月、236頁< name="suzuki236"/ref>。
 
==== 未成熟子扶養義務の位置づけ ====
143行目:
[[精神保健福祉法]]では、[[医療保護入院]]で、[[保護者]]が[[家庭裁判所]]から選任の[[家事審判|審判]]がなされていない場合に、扶養義務者の同意により入院することがある。この場合の入院は4週間以内とされており、この期間内に保護者の選任審判ならびに保護者による入院同意手続きがとられなければ、入院が違法となる場合がある。
 
== 比較法的検討 ==
=== ドイツ ===
ドイツ民法は直系血族間においてのみ親族間の扶養義務を認める(ドイツ民法第160条第1項)。
162行目:
* [[事実婚]]
 
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[[Category:日本の親族法]]