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'''糖尿病性神経障害'''(diabetic neuropathy)は[[糖尿病]]患者にみられる種々の[[末梢神経障害]]の総称で[[インスリン]]作用の不足ないし慢性高血糖状態に起因する末梢神経障害である。[[高血糖]]によって生じる末梢神経の代謝障害と血管障害を二大因子として発症すると考えられ、ポリオール代謝亢進による神経内ソルビトールの蓄積、蛋白糖化、フリーラジカル、神経栄養因子の異常、細血管障害による神経虚血説などの仮説が提唱される。糖尿病性神経障害では多数の臨床病型が知られている。
#redirect[[糖尿病慢性期合併症]]
 
== 疫学 ==
1型糖尿病ではEURODIAB IDDM Complication Studyでは糖尿病性末梢神経障害の合併率は28%であった。
 
== 臨床病型 ==
Thomasの分類がよく用いられる。この分類では糖尿病性神経障害では高血糖神経障害、対称性多発神経障害、非対称性の神経障害(局所性および多巣性神経障害)、混合型の4つの大別している。高血糖神経障害は未治療で高血糖状態が続く患者にみられる足の針刺し感を主徴とする状態を指す。このしびれ感ないし疼痛感は血糖コントロールとともに軽快する。これは高血糖によるチャネル機能の変化を背景にした生理的ないし機能的な状態と考えられている。対称性障害は糖尿病性多発神経障害(diabetic polyneuropathy)と総称される。糖尿病性多発神経障害は種々の単神経障害(diabetic mononeuropathy)および躯幹神経障害、筋萎縮症からなる。これらの病型の臨床像は糖尿病以外の病因による疾患に酷似するものが多い。混合型はほとんどの場合は糖尿病性多発神経障害に非対称病型を併発する場合を指す。また未治療の糖尿病患者に[[慢性炎症性脱髄性多発神経炎]](CIDP)の併発がしばしば報告されており病因的関連性が疑われている。
 
== 糖尿病性単神経障害 ==
糖尿病性単神経障害は急性型と慢性型に分けられる。急性型には外眼筋麻痺(眼瞼下垂、[[複視]]、眼球運動制限など、特に動眼神経麻痺)、顔面神経麻痺、聴・前庭神経障害(難聴、めまい)、躯幹神経障害(胸腹部のしびれや痛み)、外側大腿皮神経障害(大腿外側部のしびれや痛み)、腓骨神経障害(下腿外側部のしびれや足背屈力低下)などが知られている。急性型糖尿病性単神経障害の特徴は発症の前後してみられる障害神経周辺の鈍痛、比較的良好な経過があげられる。糖尿病性単神経障害の多くは血管栄養神経閉塞が関係した病態と推察され、特に動眼神経麻痺は海綿静脈洞部での栄養神経閉塞が剖検例でも確認されている。糖尿病性動眼神経麻痺では瞳孔回避と言われる所見が特徴である。瞳孔回避では内眼筋麻痺に瞳孔開大が軽度になる。躯幹神経障害は胸腹部のデルマトームに一致した異常感覚、疼痛、感覚鈍麻を生じるもので肋間神経痛様の激しい症状がみられる。片側性のものが多い。胸髄神経根障害であり腰髄神経根障害では糖尿病性筋萎縮症となる。これらは炎症反応を基盤とした多発神経根炎であり[[脊髄炎]]など[[ミエロパチー]]が鑑別となる。慢性型は圧迫性障害が多い。手根管症候群が代表疾患である。
 
== 糖尿病性多発神経障害 ==
糖尿病性多発神経障害は糖尿病患者の大半が罹患し、緩徐だが確実に進行し、激しいしびれや疼痛のためADLが著しく阻害される場合があり、自律神経障害のため生命予後が短縮するため最も問題となる病型である。糖尿病性多発神経障害の頻度は血糖コントロールが悪いほど、糖尿病の罹患年数が長引くほど高くなる。病理学的には遠位性軸索障害(dying-back degeneration)である。糖尿病性多発神経症状は足首より近位に運動感覚症状が広がることはかなり進行した症例に限られ、手に足病変類似の変化がでることは少ない。
 
=== 神経症候学 ===
糖尿病性多発神経障害の症状は感覚障害であることが多い。進行すると自律神経機能障害が現れはじめ、筋力低下を訴える患者はごく少数の進行期の患者に限られる。しかし末梢神経伝導速度検査では初期からF波の潜時延長が認められるため神経障害自体は早期から出現していると考えられる。自律神経徴候や筋力低下が出現しにくい理由については何らかの症状抑制機構が働いているという考えもある。
 
;感覚障害
初期症状としては足先や足裏の異常感覚が多い。多少の左右差はあっても両足の対称性に認められる。皮膚に触れるとザラザラ、ビリビリする錯感覚もみられる。これらは残存神経や再生神経の異常な神経インパルスの結果である。足底が薄皮で覆われたような感覚鈍麻は陰性症状であり神経線維現象を反映した症状である。初期の感覚障害は足に限局するが、進行すると靴下型になりさらに進行すると手袋靴下型になる。
 
;運動障害
運動神経神経線維は感覚神経線維と同様に初期から障害されるが糖尿病性多発神経障害で筋力低下が初期から目立つことはない。運動神経の緩徐変性では生存運動神経線維による脱神経筋線維再支配が有効に作用するためである。つまり、筋力低下は筋力維持機構破綻の結果であり、進行した患者に限られる。遠位部優位性障害の糖尿病性多発神経障害で運動神経系の破綻が最初にみられるのは足部の筋である。特に[[短趾伸筋]]の萎縮はアキレス腱反射低下や振動覚低下と同様の重要な無症候性徴候である。足趾を背屈させて短趾伸筋が確認できなければ萎縮していると考えられる。
 
;自律神経障害
糖尿病性多発神経障害では全身の自律神経徴候が認められる。生命予後の短縮に深く関連するのは起立性低血圧などの心血管系異常、激しい下痢や頑固な便秘、胃麻痺などの消化器系徴候、排尿困難や残尿などの泌尿器系異常である。糖尿病性多発神経障害で独自の超娘として無自覚性低血糖があげられる。
 
;有痛性神経障害
糖尿病性多発神経障害の経過中に四肢や体幹の激しい疼痛をきたす状態である。著明な体重減少を伴う場合やインスリン治療で血糖やヘモグロビンA1cを急速に低下させた場合に多い。多くは触覚で疼痛が生じる激しい錯疼痛をを呈する。足を床に置くだけで激しく痛み、苦痛のために歩行不能となる。疼痛は数ヶ月から1年続き、自然消退するが高度の感覚鈍麻が残る。
 
=== 検査 ===
;一般身体診察
;神経学的診察
;神経伝導速度検査
神経伝導速度検査では初期変化では脛骨神経F波最短潜時の延長が認められる。進行すると腓腹神経のSNAP振幅の低下、さらに進行すると脛骨神経と腓骨神経のCMAP振幅の低下が起こる。その後腓腹神経のSNAPが誘発されなくなり、最終的には脛骨神経のCMAPも誘発されないようになる。
 
=== 診断 ===
サンアントニオ合意基準とその後開発されたNIS(LL)+7testsがゴールドスタンダードである。簡便のため日本では糖尿病性神経障害を考える会の簡易診断基準が用いられることもある。
 
=== 鑑別診断 ===
筋力低下が目立つ場合、上肢に感覚障害が目立つ場合、下肢非対称の感覚障害の場合は糖尿病性多発神経障害以外の可能性を疑い精査するべきである。
;筋力低下が目立つ場合
感覚障害や自律神経障害が軽微で脱力が目立つ場合はCIDPなど他のニューロパチーや[[多発筋炎]]などの可能性を検討する。
;上肢に感覚障害が目立つ場合
上肢の障害が下肢に比べて顕著な場合は頚椎症性神経根症や頚椎後縦靭帯骨化症あるいは手根管症候群や肘部管症候群などの絞扼性神経障害の可能性が高い。
;下肢非対称の感覚障害
[[腰部脊柱管狭窄症]]ではしばしば左右差が目立つ。
 
=== 治療 ===
;血糖コントロール
;痛み止め
有痛性糖尿病性神経障害の治療は国際疼痛学会の神経障害性疼痛の管理ガイドラインや日本糖尿病学会の科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドラインに基づいておこわなれる。
;代謝異常改善薬
[[エパルレスタット]]が用いられる。
 
== 参考文献 ==
*糖尿病性神経障害 ISBN 9784521733838
*Peripheral Neuropathy ISBN 9780721694917
 
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[[Category:脳神経疾患]]