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現在、実際の蝸牛管の機構をうまく表すにはこれ以外にいくつかの[[非線形性|非線形]] ([[:en:Nonlinearity|nonlinear]]) の効果を無視し得ないことが明らかになっている。 例えば、[[音圧レベル]]およそ 30〜90 dB SPL の 1000 倍の圧力の違いに相当する広い範囲にわたり、基底膜の振動の速度は数倍しか異ならない。 このことは基底膜が線形の[[フーリエ変換|フーリエ変換器]]のようなものではなく、非線形[[アクティブフィルタ|能動フィルター]]であるとみなさなければならないことを示している。
 
こうした非線形の機構としては'''蝸牛増幅器''' (cochlear amplifier) とも呼ばれる巧妙なエネルギー散逸を伴う機械的[[フィードバック]]回路が考慮されている。 蝸牛は[[電子工学]]における[[再生回路#聴覚と再生回路|再生回路]]のように働き、この仕組みによってはっきりしていなかった外有毛細胞とコルチ器の機能的役割が明確になった。 外有毛細胞も内有毛細胞と同じく不動毛のずれによって膜電位を変化させるがこれは信号として伝えられるのではなく運動細胞として外有毛細胞自体の長さを変化させている。 これは細胞膜にある電位依存性の[[分子モーター|タンパク質モーター]] ([[:en:Motor protein|motor protein]]) によるものと考えられ、外有毛細胞のみに密集して存在する[[プレスチン]] ([[:en:Prestin|prestin]]) と名付けられたタンパクがそれであろうと考えられている。 外有毛細胞はこれにより最大で 20 kHz 以上もの周波数で振動でき、これは生体内の他の運動細胞よりはるかに高速な動作である。 有毛細胞が実際、基底膜を伝わる進行波の動きを変化させていることは1991年に始めて実験的に示され、またこの振動によって上の非線型性を説明するモデルが提出されている。
 
また、液体の相互作用と蝸牛増幅器の効果を考慮した場合、基底膜の振動は隣接する周波数領域を抑制するようにはたらくと推測され、これは周波数の選択性を上げる効果をもつことが示唆されてきた。 一方で動物実験では、音声のような音に対して聴神経が固有振動数が大きく異なっているものでも同じような反応をすることが報告され聴神経がむしろ広い周波数に反応することが示唆されている。 これらの一見矛盾する報告は、蝸牛の役割を純音に対する反応の重ね合わせとして記述できる線形な特性を持つものとしてではなく、音の生物学的に意味のある特徴を適切に選択するような非線形の効果をもつものとして記述せねばならないことを示唆している。