「酸化チタン(IV)」の版間の差分

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[化学物質や微生物などの分解]
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=== 化学物質や微生物などの分解===
387 nmより短波長の光を受けると、[[水]]などに反応したときに種々の[[活性酸素種]]を生成する性質がある。活性酸素種は一般に非常に強い[[酸化力]]をもち、化学薬品や[[細菌]]などに対して分解作用を示す。酸化チタンの分解剤としての特徴として以下があげられる<ref name='Taya2010' />。1)
# 照射する光強度を制御することで、分解活性を調節することができる。3)
# 光強度が一定のとき、反応速度、すなわち基質に対する作用の強さも一定となる。3)
# 光のON/OFF操作で、その効果を瞬時に変更できる。活性酸素種の寿命は非常に短く、OFF後には直ちに消失して反応系内に残留しない。
 
[[高分子]][[電解質]]の[[ポリアクリル酸]](PAA)で化学修飾すると酸化チタンナノ粒子を中性[[pH]]で溶液中(例えば、[[浄水施設]]の浄水槽)に懸濁させることができる<ref name=Chiaki2007 />。また、酸化チタンと異なり、PAAは[[酵素]]や[[抗体]]といった[[タンパク質]]と容易に結合させることができ、この結合を介して、酸化チタンの有害物質分解にタンパク質の機能を連携させることができる。このため、汚染水の処理をはじめ、医療や公衆衛生でのこの技術の利用が期待されている。但し、有機物含有量が多い環境には向かない<ref>[https://www.jstage.jst.go.jp/article/jbrewsocjapan/105/8/105_507/_article/-char/ja/ 田谷正仁、二酸化チタン複合材料の調製と殺菌システムへの適用] 日本醸造協会誌 Vol.105 (2010) No.8 p.507-511, {{DOI|10.6013/jbrewsocjapan.105.507}}</ref>
 
==== [[抗菌]]素材====
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==== 水処理技術====
[[17β-エストラジオール]](E2)は河川や浄水処理水中での汚染が問題視されている[[環境ホルモン]]の一つであるが<ref group="注釈" name=estradiol />、酸化チタンはE2を分解することができる。[[ポリアクリル酸]](PAA)(PAA)で修飾して中性pHで溶液中に懸濁するようにした酸化チタンも分解活性を持ち、E2で汚染された水に懸濁することでE2を分解除去することができる。
 
2007年に、抗E2[[抗体]]を、PAAの[[カルボン酸]]とこの抗体の[[アミノ基]]の間の[[共有結合]]を介して、PAAで修飾した酸化チタン(PAA(PAA-TiO<{{sub>|2</sub>)}})ナノ粒子上に固定する技術が開発された<ref name=Chiaki2007 />。'''抗E2抗体固定化酸化チタン'''({{lang-en-short|anti-E2-antibody-immobilized TiO<{{sub>|2</sub>}}: E2Ab-PAA-TiO<{{sub>|2</sub>}}}})ナノ粒子は、100nm未満の粒径で、中性pHで溶液中に懸濁することができる。このナノ粒子上の抗E2抗体は環境中からE2を認識して結合し、酸化チタンに引き寄せるため、E2Ab-PAA-TiO<{{sub>|2</sub>}}ナノ粒子のE2分解効率はただのPAA-TiO<{{sub>|2</sub>}}ナノ粒子よりも高い。
 
==== がん治療====
PAA修飾酸化チタン({{lang-en-short|PAA-modified TiO<{{sub>|2</sub>}}:PAA-TiO<{{sub>|2</sub>}}}})ナノ粒子に[[がん細胞]]特異的な抗体を固定してがん細胞に集積するようにし、そこに外部からエネルギーを与えることで局所的に活性酸素種を生じさせ、がん細胞のみを死滅させる研究がおこなわれている。がん細胞を特異的に認識する抗[[EGFR]]抗体(la)(la)を修飾したPAA-TiO<{{sub>|2</sub>(PAA}}(PAA-TiO<{{sub>|2<}}/sub>/la)la)をがん細胞([[Hela細胞]])に添加し、わずか1J/cm<{{sup>|2</sup>}}のUV照射を行うとHela細胞が特異的に死滅することが確認されている<ref name=Kazusa2010 />。PAA-TiO<{{sub>|2</sub>}}/laが最もラジカルを多量に生じさせるUV照射量は3J/cm<{{sup>|2</sup>}}である<ref name=K&S53 />。
 
酸化チタンの活性化に超音波を使用する方法も研究されている。[[肝細胞]]を認識する[[B型肝炎]][[ウイルス]]由来のpre-S1/ S2タンパク質を[[アミノカップリング法]]で表面に固定した酸化チタンナノ粒子は肝細胞に特異的に取り込まれる。この性質を利用し、TiO<{{sub>|2</sub>}}/ pre-S1/S2タンパク質(肝細胞を認識するタンパク質のモデル)をHepG2がん細胞(ヒト肝癌由来細胞株)に取り込ませ、超音波を照射するとHepG2がん細胞を特異的に損傷させることができることが2010年に報告された<ref name=Ogino2010 />。0.4 W/cm<{{sup>|2</sup>}}の超音波照射強度で顕著な細胞損傷が観察された。この方法は'''二酸化チタン/超音波照射法''' ({{lang-en-short|ultrasound irradiation(US/TiO<{{sub>|2</sub>}}) method}})と名付けられており、従来の[[光線力学的治療]](PDT)(PDT)<ref group="注釈" name=PDT />を用いた手法に代わるがん治療法('''超音波力学的治療'''、{{lang-en-short|sonodynamic therapy}})として期待されている。
 
2012年に報告された更なる研究で、HepG2がん細胞へのTiO<{{sub>|2</sub>}}/pre-S1/S2タンパク質の取り込みには6時間かかり、取り込んだ細胞に1 MHzの超音波を照射(0.1 W/cm<{{sup>|2</sup>}}、30秒)すると細胞損傷および死滅が起こることが実証された<ref name=Kazuaki2012 />。すなわち、[[アポトーシス]]がUS/TiO<{{sub>|2</sub>}}法処理の6時間後に観察され、生存能力のある細胞濃度は96時間でコントロールの46%にまで低下した。また、HepG2細胞を移植したマウスの腫瘍にTiO<{{sub>|2</sub>}}/pre-S1/S2(0.1 mg)を直接注入し、1 MHzの超音波照射を1.0 W/cm<{{sup>|2</sup>}}で60秒間施す実験も行われた。超音波照射も酸化チタンの注入もされていないコントロール群のマウスと超音波照射だけ施されたマウスでは腫瘍体積の増加が多く見られたが、US/TiO<{{sub>|2</sub>}}法を試みたマウスでは体積の増加が抑えられており、腫瘍の増殖に対する阻害効果が観察された<ref name=Kazuaki2012 />。
 
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