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==日本の労働基準==
 現代の[[日本]]における労働基準は、[[日本国憲法]]の規定(第18条、第27条第2項ほか)及び[[国際労働機関|ILO]]条約等にもとづいて、法令によって、主に労働者、使用者又は事業者の権利義務として定められ(ただし、[[労働者派遣]]においては、[[労働者派遣法]]の定めるところにより、使用者及び事業者たる派遣元事業者に課せられた義務の一部が派遣先事業者に委譲される)、その履行確保は、労使当事者の努力はもとより、民事的強行法規性、違反者に対する刑事罰、国の[[行政警察活動]](立入検査、報告徴収、許認可、不利益処分等)等により図られている。
 
現代の日本における労働基準関係法令としては、[[労働基準監督官]]等が監督を行う[[労働基準法]]、[[最低賃金法]]、[[じん肺法]]、[[炭鉱災害による一酸化炭素中毒症に関する特別措置法]]、[[労働安全衛生法]]、[[作業環境測定法]]、[[賃金の支払の確保等に関する法律]]及び[[家内労働法]]の8法(この8法については[[労働基準監督官]]が犯罪捜査を行う。)並びに[[自動車運転者の労働時間等の改善のための基準]]等の[[法規命令]]、雇用均等行政において行政指導及び行政処分を行う[[雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律]]、[[育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律]]、[[短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律]]等の法律、民事の場における個別労働関係の安定及び紛争解決ための[[民法]]、[[労働契約法]]、[[個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律]]等が挙げられる。
 
 労働基準法は、上記法令の中でも、労働基準に関する[[基本法]]と言うことができる。即ち、労働者、使用者、[[賃金]]等[[個別的労働関係]]における諸概念について定義し、他の多くの労働基準関係法令がこの定義に準拠している。
 
 労働基準法は、すべての労働者について適用があり、労働者を使用する事業についても、法人個人、営利非営利の別を問わない。さらに、労働基準法上の労働者性の判断は、契約その他一切の形式に関わりなく、実態により客観的に判断される。即ち、例えば明示的には雇用契約を締結せず、そのかわりに形式上・表面上は[[請負]]、[[業務委託]]等の契約を締結していても、実態として時間的に拘束され、仕事内容の具体的指示を受けていること等の労働者たる諸要件(=使用従属性)が認められる者は、労働基準法上の労働者としての保護を受ける。労働者性は、第一に従事する作業が指揮監督下にあるかということ(使用者が業務遂行につき具体的な指揮命令を行うこと、時間的・場所的拘束を行うこと等)、第二に報酬の労務対償性により判断すべきものとされており、その判断基準は労働基準法研究会報告に詳しい(ただし、[[労働組合法]]等における「労働者」の意義は労働基準法のそれとは異なり、当然、判断基準も異なるので注意されたい。)。
 
 また、作業の指揮監督性が弱いために労働者とまでは言えないものの、報酬の労務対償性が強いとされる[[家内労働者]](いわゆる「内職」)については、[[家内労働法]]により、若干ながら労働者に準じた保護が図られている。
 
 労働基準法の適用単位は、[[事業場]]である。事業場とは、一定の場所において相関連する組織のもとに業として継続的に行われる作業の一体を意味し、例えば、工場、店舗、支店、営業所などの事業単位を意味する。ただし、新聞社の通信部等規模が著しく小さいものについては直近上位の事業場に一括して取扱い、また、同一場所におけるものでも例えば工場内の診療所、食堂等のように、その管理が全体から明確に区別された部門については、これを独立した一事業場として扱うことにより法がより適切に運用できる場合においては、独立した一事業場として取扱うこととされている。
 
 労働基準法の主たる名宛人は使用者であるが、これには事業主のほか、事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について事業主のために行為をするすべての者が含まれ(労働基準法第10条)、一方、労働安全衛生法の主たる名宛人は、事業の営業利益の帰属主体である事業者(個人事業である場合はその代表者、法人事業である場合はその法人そのもの)となっている。日本においては、このように、労働基準の履行確保義務は第一に労働者を直接使用する事業そのもの(使用者ないし事業者)に課されており、労働法制一般は労働と請負とを峻別して構築されているが、一方で、建設業及び造船業に関しては、元方事業者(殆どの場合、元請負人がこれに該当する)にも下請会社の労働者に関する安全衛生上の措置義務(特別規制等)を負わせ(労働安全衛生法第31条等)、建設業に関しては元請負人が災害補償を行うこと(労働基準法第87条)とされているなど、一部で例外もみられる。
 
 労働基準関係法令(家内労働法も含む。)に関する監督機関(法の履行確保のための行政監督を行う行政機関)は、原則として国の機関たる狭義の[[労働基準監督機関]]([[厚生労働省]][[労働基準局|労働基準局長]]、[[都道府県労働局|都道府県労働局長]]、[[労働基準監督署|労働基準監督署長]]及び[[労働基準監督官]]並びに厚生労働省[[雇用均等・児童家庭局|雇用均等・児童家庭局長]]及びその指定官吏)であるが、後述するように[[国家公務員]]、[[地方公務員]]、[[船員]]、[[鉱山の保安]]等については、例外として、他の機関が行政監督を担っている(これらをすべてまとめて広義の労働基準監督機関と呼ぶことができる)。
 
 労働基準関係法令の適用の除外は、非常に複雑である。第一に、労働基準法等は同居の親族については適用されない(ただし、家内労働者の補助者については家内労働法の適用がある。)。第二に、[[管理監督者]]、機密の事務を取り扱う者等の地位にある者については、[[労働時間]]、休憩及び休日に関する規制の適用が除外される。第三に、事業の種類により、労働時間および労働安全衛生に関する規制の範囲が異なり、例えば、鉱山の保安については、労働安全衛生法の規定が一部を残して適用除外となっており、行政監督も[[経済産業省]]の[[産業保安監督部]]が行っている。第四に、船員、国家公務員、地方公務員等特別の雇用にある者については全部又は大半の法令・規定について適用除外となっており、それらの者については法令も別途整備され、監督機関も別途設けられている。また、このほか、細かい適用除外が存在する。
 
 以下、特に断らない限り、労働基準法上の労働基準について述べる。
 
==日本の労働基準各論==
===賃金===
 [[賃金]]は、原則として、毎月一回以上、定期に、その全額を、[[通貨]]で、直接労働者に支払わなければならない(労働基準法第24条)。したがって、賃金を支払わない月があることや、不定期に支払うこと、賃金から控除・相殺を行うこと、現物支給をすること、代理人に支払うことなどは原則禁止されている。また、その額は、地域別・産業別に定められた[[最低賃金]]額以上でなければならない(最低賃金法第4条)。
 
 ただし、所得税、住民税、健康保険料その他のいわゆる[[公租公課]]については、賃金から控除することができる。また、賃金控除に関する[[労使協定]]を締結すれば、弁当代、親睦会費等の公租公課以外のものも賃金から控除することができるが、事理明白でないものの控除は認められない(労働基準法第24条第1条但書)。
また、[[就業規則]]の制裁規程にもとづいて減給を行うことは許されているが、その減給額は1つの罪につき[[平均賃金]]の半額以下でなければならない等とされ、言うまでもなく当該減給は労働者の行為に対して合理的かつ相当なものでなければならない(労働基準法第91条)。
 
 最低賃金については、都道府県労働局長から許可を受ければ、労働能力の低い障害者、試用期間中の者、監視・断続的労働に従事する者等について、最低賃金額よりも低い賃金を支払うことができる(最低賃金法第7条)。
 
 企業倒産による賃金不払については、一定の要件の下で、政府([[独立行政法人]][[労働者健康福祉機構]]等が事務を所掌)がその立替払を行う(賃金の支払の確保等に関する法律第7条)。また、建設業においては、一定の条件の下、下請負人の賃金不払について元請負人が立替払を行うよう、[[都道府県知事]]又は[[国土交通大臣]]が勧告を行うことがある([[建設業法]]第41条第2項)。
 
===労働時間===
 日本における労働時間規制は、時間外労働、休憩、休日、年次有給休暇、深夜業、割増賃金(時間外、休日、深夜)等の諸概念を用いて法定され、複数の職場で労働者として業務に従事する者についても各職場での労働時間を通算して法が適用される。
 
 労働時間には、実作業時間に従事した時間は言うまでもなく、機械、人間、現場等を監視するだけの時間や、手待ち時間も含まれるが、休憩時間は含まれない。労働時間は、契約、規約にかかわらず、実際に労働した時間を少なくとも分単位の精確さで計算しなければならない。しかし、坑内労働、事業場外労働、専門業務型裁量労働制、企画業務型裁量労働制に限っては、労働時間を一定の規定の下でみなすこととされている。
 
 労働時間規制の中核は[[時間外労働]]の原則禁止であり、即ち労働時間が原則として1日8時間かつ1週間40時間を超えてはならないという規定である(労働基準法第32条)。1週間の法定労働時間は、昭和22年の労働基準法制定において48時間に始まり、その後段階的に短縮されてきた。ただし、平成27年末現在、常時10人未満の労働者を使用する商業、接客娯楽業、保健衛生業等については、特例として1週間の法定労働時間が44時間となっている(労働基準法第40条、労働基準法施行規則第25条の2)。なお、一定期間を平均して1週間あたり40時間であることを定めれば特定の日及び週についてそれぞれ8時間、40時間を超えてよいとする変形労働時間制は認められており、とりわけ1ヶ月単位の変形労働時間制(労働基準法第32条の2、特例対象事業場については平均一週間44時間以下)及び1年単位の変形労働時間制(労働基準法第32条の4)は広く採用されている。法定労働時間及び変形労働時間を超える労働(時間外労働)及び休日労働は、災害等のため又は公務上の臨時の必要のある場合(労働基準法第33条)でない限り、労使が時間外労働協定を締結し、かつ使用者がそれを所轄労働基準監督署長に届出ることで初めて適法に行うことが出来き(労働基準法第36条第1項)、時間外労働に対しては25%以上(大企業において1ヶ月60時間を超える時間外労働に対しては50%以上)、休日労働に対しては35%以上の割増賃金を支払わなければならない(労働基準法第37条第1項)。時間外労働協定では、一定期間に係る時間外労働時間数の上限を定めなければならないが、この上限値は、限度基準(正式名称:[[労働基準法第三十六条第一項の協定で定める労働時間の延長の限度等に関する基準]])によって規制されている。限度基準は厚生労働省告示であり、その尊重については努力義務(労働基準法第36条第3項)に留まり少なくとも刑事的には強制性をもたないものの、労使が限度基準違反の時間外労働協定を締結することは非常に稀であり、また、これが締結届出された場合には、監督機関は労使に対し、当該協定を限度基準に適合するものとするよう指導することが出来る(労働基準法第36条第4項)。なお、限度基準は工作物の建設等の事業、自動車の運転の業務、新技術新商品の研究開発の業務等には適用されない(限度基準第5条)が、このうち自動車の運転の業務については、改善基準(正式名称:[[自動車運転者の労働時間等の改善のための基準]])によって特別の規制がなされている。なお、一定の危険有害業務の時間外労働は1日につき2時間以下でなければならない(労働基準法第36条第1項但書)。
 
 また、休憩は、労働時間が6時間を超える場合に45分以上、8時間を超える場合に1時間以上、事業場の労働者全員に対し一斉に与えなければならず、その休憩時間は労働者の自由に利用させなければならない(労働基準法第34条)。
 
 運輸交通業、商業、金融・広告業、映画・演劇業、通信業、保健衞生業、接客娯楽業及び官公署の事業については、年少者を除き、一斉休憩に関する規定が適用除外されており(労働基準法施行規則第31条)、運輸交通業及び通信業(郵便、電信及び電話の業務に限る)に従事する労働者のうち一定の者について、休憩に関する規定が適用除外されており(労働基準法施行規則第32条)、警察官、消防吏員、常勤の消防団員及び児童自立支援施設で児童と起居をともにする者については休憩の自由利用に関する規定が適用除外されている(労働基準法施行規則第33条)。
 
 また、農業、園芸業、畜産業及び養殖業に使用される労働者、並びに管理監督者及び秘密の事務を取り扱う者については、労働時間規制のうち[[年次有給休暇]]、深夜業、深夜割増賃金についてのみ適用があり、時間外労働、休憩、休日、時間外割増賃金、休日割増賃金については適用が除外されている(労働基準法第41条)。それ以外の労働者については、全面適用されている。なお、農業に係る[[外国人技能実習生]]については、労使協定、労働契約等によって労働基準法上の労働時間規制に準じた取扱を行うよう、[[農林水産省]]において農業事業主に指導を行っている。
 
 なお、労使協定の締結により、事業の種類等にかかわらず一斉休憩の規定の適用を除外することができる。
 
 また、労働基準監督署長の個別的な許可にもとづく乳児院、児童養護施設、知的障害児施設、盲聾唖児施設及び肢体不自由児施設に勤務する職員で児童と起居をともにする者について休憩の自由利用の規定の適用除外、監視・断続的労働に従事する者の時間外労働、休憩、休日、時間外割増賃金、休日割増賃金の適用除外の制度が存在する。
 
 改善基準は、労働基準法等法律の委任を受けない労働省告示であるが、路面運送における労働時間及び休息時間に関する条約(国際労働機関第153号,1979年6月27日採択,未批准)、路面運送における労働時間及び休息期間に関する勧告(国際労働機関第161号,1979年6月27日採択)に準拠し、中央労働基準審議会の審議を経て成立したもので、労働基準法に無い「拘束時間」、「休息期間」、「運転時間」等の概念を用いて自動車運転者につき多角的な労働時間規制を敷いている。拘束時間は、労働時間や休憩時間を合わせたもので、即ち使用者による一定の拘束下にある時間を言う。例えばトラック運転手については、拘束時間は1日につき最大16時間、1箇月につき293時間、連続運転時間は1回4時間までとされ、勤務と勤務の間には最低8時間の休息期間が確保されなければならない。改善基準の内容は、[[貨物自動車運送事業法]]及び[[道路運送法]]の委任を受けた[[国土交通省]]告示において準用されており、行政監督は労働基準監督機関と運輸機関(国土交通省[[自動車局]]、[[地方運輸局]]、[[運輸支局]])とが独立に、又は合同で行い、違反事実を相互通報している。労働基準監督機関は、所管する改善基準に罰則等の制裁規定がないため改善基準違反に対して是正指導をするに留まるが、貨物自動車運送事業の許可官庁である運輸機関は違反事業者に対して車両使用停止、事業停止等の[[行政処分]]を行うことができる。しかし、実際には、改善基準違反は時間外労働協定違反を伴うことが多いことから、労働基準監督機関も併せて労働基準法違反について是正指導することが多い。
 
===非民主的労働慣行の撤廃===
 暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によって、労働者の意思に反して労働を強制すること([[強制労働]])は、我が国の労働基準法令で最も重い罰則を以て禁止されている(労働基準法第5条、日本国憲法第18条関係)。また、3年(一定の高度専門知識等を必要とする業務に従事する者及び満60歳以上の者については5年)を超える有期労働契約、労働者の労働契約違反や不法行為に対する損害賠償額を予定する契約、前借金の相殺、貯蓄の強制、労働者の精神の自由を不当に拘束する手段となることから、禁止されている。
 
 また、職業技能の習得を目的としている労働者を、そのために酷使したり、家事等の職業技能の習得に関係のない作業に従事させたりすることは禁止されている。
法の下において許される場合の外、業として他人の就業に介入して利益を得ること(労働者供給業)は禁止されている(労働基準法第6条)。この典型的な例として、業としての人身売買、有料職業紹介、賃金のピンハネ、二重派遣等が挙げられる。法の下において許されるものとは、[[職業安定法]]又は[[船員職業安定法]]にもとづき許可を得た職業紹介行為がこれに該当する。
 
 ただし、[[労働者派遣]]については、派遣元(雇用主)、派遣先(使用主)、派遣労働者の3者が一つの労働関係を形成していることから、派遣元が「他人」の就業に介入しているとは解されない。
 
 労働者の国籍、信条、社会的身分(人種、門地、民族等)を理由として、いかなる労働条件についても差別的取扱を行うことは禁止されている(労働基準法第3条、日本国憲法第14条関係)。また一酸化炭素中毒症にかかったことを理由として、いかなる労働条件についても差別的取扱を行うことは禁止されている([[炭鉱災害による一酸化炭素中毒症に関する特別措置法]]第4条)。また、労働者が女性であることを理由として賃金について男性との差別的取扱を行うこと(労働基準法第4条)、性別を理由として労働者の配置、昇進、降格、教育訓練、福利厚生、退職勧奨、解雇等について差別的取扱を行うこと([[男女雇用機会均等法]]第6条)は禁止されている。
 
 労働者の国籍、信条、社会的身分(人種、門地、民族等)を理由として、いかなる労働条件についても差別的取扱を行うことは禁止されている(労働基準法第3条、日本国憲法第14条関係)。また一酸化炭素中毒症にかかったことを理由として、いかなる労働条件についても差別的取扱を行うことは禁止されている([[炭鉱災害による一酸化炭素中毒症に関する特別措置法]]第4条)。また、労働者が女性であることを理由として賃金について男性との差別的取扱を行うこと(労働基準法第4条)、性別を理由として労働者の配置、昇進、降格、教育訓練、福利厚生、退職勧奨、解雇等について差別的取扱を行うこと([[男女雇用機会均等法]]第6条)は禁止されている。
===労働契約の開始及び終了===
 労働契約の締結に際し、使用者は労働者に対して労働条件通知書を交付しなければならない(労働基準法第15条第1項)。また、労働者の就業を妨害することを目的として、予め第三者と謀り、国籍、信条、社会的身分及び労働組合運動歴に関するブラックリストを作成してはならない(労働基準法第22条第4項)。
 
 [[解雇]]は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効とされ([[労働契約法]]第16条)、とりわけ労働災害による休業又は産前産後休業及びそれからの復職後30日間のうちに解雇すること(労働基準法第19条)や労働基準監督機関に対する申告を行った労働者を解雇することは禁止されており(労働基準法第104条第2項、労働安全衛生法第97条第2項等)、また、一定の公益通報者に対する解雇も無効とされる([[公益通報者保護法]]第3条)。
 
 解雇は、原則として、労働者に対して30日以上前に予告しなければならず、30日以上前に予告しない場合は不足日数分の解雇予告手当を支払わなければならない(労働基準法第20条)。
 
 無期労働契約において、労働者は2週間前(ただし月給制の場合は賃金締日の半月前、年俸制等の場合は3ヶ月前等)に申し出ればいつでも退職することができる(民法第627条)。有期労働契約であっても、労働者はやむをえない事由があれば途中で退職することができ(民法第628条)、やむをえない事由が無くても、1年を経過すれば労働者(一定の高度専門知識等を必要とする業務に従事する者及び満60歳以上の者を除く。)はいつでも退職することができる(労働基準法附則第137条、暫定措置)。
 
 労働契約の締結に際して明示された法定事項(賃金額、法定労働時間等)が事実と相違する場合は、労働者は上述の民法の規定等に拘わらず即時に退職することができ(労働基準法第15条第2項)、このとき就職のため引越を行った者で当該即時退職後14日以内に帰郷するものに対しては、使用者はその帰郷のための旅費を負担しなければならない(労働基準法第15条第3項)。
 
 なお、いかなる事情があろうとも、退職の意を示した労働者に対して労働を強制することは許されないことは言うまでもない。
 
 なお、いかなる事情があろうとも、退職の意を示した労働者に対して労働を強制することは許されないことは言うまでもない。
===安全及び衛生===
 安全及び衛生に関する労働基準については、主として[[労働安全衛生法]]で定められているが、事業附属寄宿舎の安全及び衛生については労働基準法、じん肺管理等については[[じん肺法]]、作業環境測定機関等については[[作業環境測定法]]で定められている。
 
 労働安全衛生法は、事業者の危険機械・危険作業箇所に関する安全措置、有害化学物質・有害作業・有害環境による健康障害防止措置、労働者に対する安全衛生教育及び健康診断の実施等の義務を定めるほか、危険機械の運転や有害作業の指揮に関する資格及び安全衛生の専門知識をもつ者の資格に関する制度、国による労働災害防止計画の策定等、事業者による安全衛生管理体制の確立の義務等について規定している。
 
 労働安全衛生法は、事業者の危険機械・危険作業箇所に関する安全措置、有害化学物質・有害作業・有害環境による健康障害防止措置、労働者に対する安全衛生教育及び健康診断の実施等の義務を定めるほか、危険機械の運転や有害作業の指揮に関する資格及び安全衛生の専門知識をもつ者の資格に関する制度、国による労働災害防止計画の策定等、事業者による安全衛生管理体制の確立の義務等について規定している。
===災害補償===
 業務上の死傷病については使用者に金銭的補償義務があるが、一定規模の農林水産業を除き、事業主は、政府が管掌する労働者災害補償保険に加入しなければならず、災害補償金は労働者災害補償保険から給付されるが、事業主に重大な過失がある労働災害の災害補償に関しては、事業主に対して補償額の全部又は一部に相当する費用徴収がなされる。
 
===集団的労働関係の利用===
 賃金の控除協定、変形労働時間制協定、時間外労働協定、休日労働協定等、労働基準法上の諸規制を緩和する例外・除外措置を行う場合の殆どにおいて、労使協定の締結が必要とされている。また、この場合、事業場の労働者の過半数で組織する労働組合がある場合は、使用者はその労働組合と労使協定を締結しなければならいとされ、労働組合の優遇策がとられている。
 
 
 そのような労働組合がない場合における過半数代表者については、これが管理監督者であってはならないという制約がある。
 
 そのような労働組合がない場合における過半数代表者については、これが管理監督者であってはならないという制約がある。
===監督機関等による履行確保===
 行政監督は、一般に、国(中央政府)の機関たる厚生労働省労働基準局長、都道府県労働局長、所轄労働基準監督署長及びそれらの指揮の下にある労働基準監督官(狭義の労働基準監督機関)が行う。労働基準監督官は国家公務員であり、一般に、法文区分又は理工区分の労働基準監督官採用試験に合格した者のうちから任用され([[労働基準監督機関令]]第1条)、[[労働基準監督署]]、 [[独立行政法人労働政策研究・研修機構]][[労働大学校]]等での研修・訓練を受ける。労働基準監督官の罷免には、公・労・使からなる[[労働基準監督官分限審議会]]の同意を必要とする(労働基準法第97条)。また、女性労働者については、厚生労働省雇用均等・児童家庭局長及びその指揮の下にある職員も監督を行うことが出来る。
 
 労働基準監督官は、数年から1ヶ月単位の監督計画に基づいて、原則予告せず、多くの場合1人で、事業場へ立入検査(臨検)を行っている。違反その他の問題点が認められた場合は、是正勧告書、指導票等の文書を交付し、それに対する是正・改善を確認して行政指導を完了するが、重大又は悪質な違反行為については刑事訴追のための捜査・送検を行う。また、監督の形式には、立入検査だけでなく、所轄労働基準監督署等に事業主を出頭させて行う「呼出監督」、講演形式で行う「集団指導」などがあり、また、工事計画届その他法定の届出書類に対する指導や命令も行っている。
 
 この外、労働基準監督機関以外の国又は[[地方公共団体]]が、許認可権を握る[[社会福祉施設]]、自動車運送業等の事業者に対する監査において労働基準関係法令の遵守状況も併せて調査指導を行うことがあり、諸分野における助成金の支給要件に労働基準関係法令の遵守が盛り込まれていたり、国及び地方公共団体が、安全管理を怠り重大な労働災害を発生させた建設事業者に対して公共工事における指名停止処分を行ったりしており、これらも労働基準関係法令の履行確保に役立っている。
 
 この外、労働基準監督機関以外の国又は[[地方公共団体]]が、許認可権を握る[[社会福祉施設]]、自動車運送業等の事業者に対する監査において労働基準関係法令の遵守状況も併せて調査指導を行うことがあり、諸分野における助成金の支給要件に労働基準関係法令の遵守が盛り込まれていたり、国及び地方公共団体が、安全管理を怠り重大な労働災害を発生させた建設事業者に対して公共工事における指名停止処分を行ったりしており、これらも労働基準関係法令の履行確保に役立っている。
===通報制度===
 労働者は労働基準法等の違反の事実があるときに、家内労働者及び補助者は家内労働法違反の事実があるときに、これを労働基準監督官に申告することができ(労働基準法第104条第1項、労働安全衛生法第97条第1項、家内労働法第32条第1項等)、労働基準監督官はこれに対する行政上の調査指導を行う。申告した労働者へ解雇その他不利益取扱をした使用者は処罰される(労働基準法第104条第2項、労働安全衛生法第97条第1項等)。また、申告した家内労働者への不利益取扱をした委託者には是正命令がなされ(家内労働法第32条第3項)、当該命令に違反した委託者は処罰される。
 
 また、在職中の労働者(※家内労働者は該当しない)が、労働基準関係法令違反(ただし、罰則のあるもの、及び違反に対する処分に対する違反に罰則のあるもののみ)の事実あるいはその事実がいままさに生じようとしている旨を、労務提供先等、処分・勧告等を行う権限を有する行政機関、被害を受ける虞のある者等に通報した場合は、当該労働者は公益通報者保護法による保護を受ける。多くの場合、在職中の労働者の申告は同時に公益通報となる。
 
 また、平成27年4月1日より、行政手続法が改正され、誰であっても、法定の申出書を提出することにより、労働基準関係法令違反に係る労働基準監督機関の行政指導、行政処分等を求めることができるようになった。
 また、在職中の労働者(※家内労働者は該当しない)が、労働基準関係法令違反(ただし、罰則のあるもの、及び違反に対する処分に対する違反に罰則のあるもののみ)の事実あるいはその事実がいままさに生じようとしている旨を、労務提供先等、処分・勧告等を行う権限を有する行政機関、被害を受ける虞のある者等に通報した場合は、当該労働者は公益通報者保護法による保護を受ける。多くの場合、在職中の労働者の申告は同時に公益通報となる。
 
 また、平成27年4月1日より、行政手続法が改正され、誰であっても、法定の申出書を提出することにより、労働基準関係法令違反に係る労働基準監督機関の行政指導、行政処分等を求めることができるようになった。
===違反行為に対する措置===
 労働基準監督官が特別司法警察権を行使することができるのは、労働基準法、最低賃金法、じん肺法、炭鉱災害による一酸化炭素中毒症に関する特別措置法、労働安全衛生法、作業環境測定法、賃金の支払の確保等に関する法律、家内労働法の8法であり、この8法の違反行為については、暴力団、児童労働等特殊な背景をもった事件でない限り、警察ではなく、専門機関である労働基準監督機関が捜査を行っている。これらの罰則の殆どは行政刑法として運用されており、強制労働等の刑事犯、製造禁止物質の製造、労災かくし等重大な違反を除いては、第一に行政指導による是正が期待されることが多い。ただし、重大な労働災害を発生させた違反行為や、繰返し違反行為は刑事犯性質が強いことから、原則として刑事訴追される。また、労働災害については、通常、警察が[[業務上過失致死傷罪]](刑法第211条前段)の捜査も行う。
 
 上述の8法の違反行為に対する[[公訴時効]]は、強制労働罪(労働基準法第5条違反)については7年、製造時等検査等の検査機関等の収賄罪等については5年、それ以外の罪については3年である。
 
 刑事訴追の対象となるのは、各法令各条項の定めにあるとおり、使用者、事業者、製造者その他の法定の措置義務者に限られるが、元方事業者、発注者、荷主その他の他人が労働基準関係法令の違反を共謀、教唆、幇助等した場合は、[[刑法総則]]に従って当然それらも処罰されることは言うまでもない。
 
 男女雇用機会均等法は、報告徴収義務に関する違反以外に罰則はなく、その履行確保は主として行政指導によるが、行政指導に従わない場合は公表等の行政処分に付される。
 
 男女雇用機会均等法は、報告徴収義務に関する違反以外に罰則はなく、その履行確保は主として行政指導によるが、行政指導に従わない場合は公表等の行政処分に付される。
===労働基準法等の適用除外及び特別な労働者に関する労働基準===
 同居の親族等については労働基準法制全体からの適用が除外されている。公務員、船員等特別の身分にある労働者については、労働基準法等の全部又は一部の適用が除外され、特別法により別途労働基準が定められている。公務員に関する労働基準法の適用関係は非常に複雑であることから、ここでは飽くまでその概要を述べるにとどめる。
 
====国家公務員====
 一般職の国家公務員については、労働基準関係法は全面的に適用が除外されており、その代わりに国家公務員法、国家公務員の給与に関する法律、一般職の職員の勤務時間、休暇等に関する法律等により別途労働基準が定められている。
 
 特別職の国家公務員のうち裁判所職員、国会議員、防衛省職員についても、労働基準法等は全面的に適用が除外され、別途労働基準が定められている。
 
 特別職の国家公務員のうち裁判所職員、国会議員、防衛省職員についても、労働基準法等は全面的に適用が除外され、別途労働基準が定められている。
====地方公務員====
 地方公務員については、労働基準関係法の大部分について適用が有るが、一般職で情報通信業、教育研究業及び官公署の事業に従事する職員ついては、人事委員会等(人事委員会を置かない地方公共団体においては、当該地方公共団体の長)が労働基準監督機関の役割を担っている。なお、義務教育諸学校の教育職員である地方公務員については割増賃金に関する規定の適用が除外されている。
 
====船員====
 [[船員]]については、労働基準法の大部分及び労働安全衛生法の適用が除外されており、適用除外となった部分については[[船員法]]により別途労働基準が定められている。
 
 船員法は、[[船舶所有者]]、[[船長]]、[[海員]]等の身分を定義しており、労働基準法等と比較すると、船舶所有者は事業主、船長は指揮命令を行う者、海員が労働者に概ね相当すると言える。船員法は、船上における労使の秩序に関して、船長による海員の懲戒権を定める等、労働基準法等に比して厳しく具体的な規定を設けている。
 
 船員法は、[[船舶所有者]]、[[船長]]、[[海員]]等の身分を定義しており、労働基準法等と比較すると、船舶所有者は事業主、船長は指揮命令を行う者、海員が労働者に概ね相当すると言える。船員法は、船上における労使の秩序に関して、船長による海員の懲戒権を定める等、労働基準法等に比して厳しく具体的な規定を設けている。
====鉱山における保安====
 労働安全衛生法は、[[労働災害防止計画]]に関する規定以外すべてについて、鉱山における保安については適用除外とされている。鉱山における保安は、代わりに[[鉱山保安法]]の適用を受け、[[経済産業省]]の[[産業保安監督部]]が監督を行っている。ただし、鉱山事業においても、鉱山における保安以外の安全及び衛生については、(その他の適用除外がないかぎり)労働安全衛生法は全面適用となる。
 
 
{{就業}}
 
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[[Category:労働]]