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腎臓には糸球体濾過、[[尿細管]]の再吸収といった[[尿]]の生成、老廃物の排出、[[免疫]]、[[内分泌]]、[[代謝]]といった機能がある。免疫は[[細胞性免疫]]への関与が示唆されており、腎不全の患者では[[細胞性免疫]]の低下が認められる。また内分泌は[[傍糸球体装置]]による[[レニン]]の分泌や[[エリスロポエチン]]の分泌、[[ビタミンD]]の活性化、[[キニン]]、[[カリクレイン]]、[[プロスタグランディン]]の分泌などがある。
 
腎機能障害、[[慢性腎臓病]](CKD:Chronic Kidney Disease)ではこれらの機能が障害されていく。腎機能を簡単に示す指標として、尿検査による蛋白尿、血尿といった所見や、[[クレアチニンクリアランス]]を用いられる。採血検査では、血中尿素窒素(BUN)、クレアチニン(Cr)値がある。[[クレアチニン]]は骨格筋由来の代謝産物であり、体格や運動量の影響を受ける。[[尿素窒素]]は蛋白質の代謝産物であり、[[感染症]]、[[ステロイド]]、消化管出血や食事内容などに影響を受けるため、両者を見ながら腎機能を考えていく必要がある。一般にクレアチニンは2mg/dL以上になると[[ネフロン]]の数は正常の半分以下になっていると考えられる。クレアチニンが5~7mg5〜7mg/dLあたりになると[[透析療法]]の導入を検討するという流れになる。慢性に進行した場合は[[クレアチニンクリアランス]]が10mL/minを切るまで通常の生活を送る上で[[自覚症状]]が乏しい場合も多い。
 
人工透析はクレアチニンクリアランスが10mL/min台(非透析時も含めた時間平均値)の血液浄化能力しかないため、かなりの時間的制約があるにも関わらず活動、食事などに関しては[[慢性腎不全]]と同様に制限を加えなければならない治療法である。そのため、透析導入をできるだけ遅らせる治療がなされている。それが[[降圧薬]]による血圧コントロールや[[食事療法]]である。旧厚生省研究班の透析導入基準(案)によれば、臨床症状、腎機能(検査値)、日常生活障害度、年齢によって腎機能障害のスコア化を行い、60点以上となったら透析導入を行う、と定めている。ただし、基礎疾患が[[糖尿病]]である場合は60点に達していなくても透析導入に踏み切る場合がある。透析患者の予後は動脈硬化による[[心疾患]]が多いため、[[糖尿病]]がある場合は早期導入した方が[[動脈硬化]]の進行を食い止められる可能性が示唆されているが、まだ結論は得られていない。
 
透析導入の場合は血液浄化療法の選択として次節の分類にあげられるものが知られている。特に有名なのが[[腹膜透析]]と血液透析である。近年の考え方ではPD firstという考え方が主流であり、患者の生活環境が許すのならまずは腹膜透析を行い(残腎機能が保てているなら)、4~54〜5年したら血液透析に移行するのが最も良いとされている。あくまで残存腎機能が保てている事が前提であるため、[[血液透析]]回避目的で腹膜透析を継続する事は避けるべきである。また、PD lastという考え方もあり、こちらは血液透析に耐えられない[[終末期医療]]において、腹膜透析を利用した最小限の腎機能代償を行い、生活レベルの改善を図るものである。なお、急性[[腎不全]]は病態が全く異なるため、上述とは全く異なる。
 
== 急性腎不全における透析導入 ==
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=== 血液透析 (Hemodialysis:HD) ===
患者に2本の[[カニューレ]]を挿入し、血液を体外へ導出して[[限外濾過]]と[[溶質除去]]を行う。残腎機能によるが、基本的に週に3回(月水金または火木土)の通院が必要。毎分100~250mL100〜250mLという大きな血流量を得るため、維持透析患者では[[動脈]]と[[静脈]]を体表近くで交通させた[[内シャント]]を作成し、ここにカニューレを穿刺する。シャントのない患者や緊急時には透析専用のアクセスカテーテルを右内頸静脈または鼡径静脈に挿入して血液透析を行う。
 
一般的には毎回4~54〜5時間の透析をする必要がある。また、生体腎では週168時間かけておこなわれる体内浄化を、血液浄化療法では極短時間に行うため、急激な[[電解質]]変化と蓄積した[[尿毒症]]性物質の急激な減少により[[不均衡症候群]]を生ずることもある。
 
なお、'''血液透析'''を受けながらの就業・就学は地域によっては可能である。特に都市部では午後6時ごろから透析を開始する施設が数多く存在するため、業務終了後に通院することができる。また、近年では透析患者専用の旅行ツアーを用意している旅行代理店も存在し、日本各地並びに海外への旅行が可能となっている。
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以前は自らの手による回路との接続で雑菌等で腹膜炎を起こす者が多かったが、昨今は殺菌用の紫外線を照射しつつ自動的に腹膜透析用の機械とカニューレを接続出来る機器(バクスター・クリーンフラッシュ)の開発で自宅でのCAPD、APDが以前より安全且つ容易になっている。
 
腹膜透析は、あまりに長期にわたって施行すると、腹膜の機能の低下により、腹膜肥厚や[[被嚢性腹膜硬化症]]という重大な[[合併症]]を引き起こすことがある。このため、腹膜透析を施行するのは長くても8年程度までとされている<ref>[http://kompas.hosp.keio.ac.jp/contents/000407.html 腹膜透析|慶應義塾大学病院 KOMPAS]</ref>。通常は4~54〜5年前後で血液透析への移行を検討することとなる。
 
=== 血液濾過 (Hemofiltration:HF) ===
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|血糖、脂質値||影響なし||上昇しやすい
|}
病態による使い分けも存在するのと同時に、患者自身の求める生活の質によって透析方法が選択される場合もある。血液透析は、まず内シャント造設術を行い、週に3回4~54〜5時間の透析を医療機関にて行う。腹膜透析、特に近年の主流のCAPDはまず[[テンコフカテーテル]]留置術を行い、その後実質毎日24時間透析を行うという形になる。しかし患者自身が透析を意識するのは1回につき20~3020〜30分の透析液の交換を1日4回行うときのみである。腹膜透析の方が、時間的制約は少ないが、すべての処置を自分でしなければならないため、日常生活に障害がある場合は非常に難しいといわれている。
上記表は透析療法を説明する際によく用いられる表であるが、「きつい」「ゆるい」、「大きい」「小さい」等の表現から、血液透析に不自由さを過度に印象付けてしまう。透析療法に精通した者であれば、その違いを的確に感じ取れるが、血液透析療法にマイナスイメージを持つ一般的な人達には、その思い(制約・苦痛等)を必要以上に増大させてしまうため、上記表は適切な説明ができる関係者の元に使用するべきである。
 
=== 腹膜透析(特にCAPD)の流れ ===
腹膜透析を始めるには、まず腹腔内にカテーテルを留置する手術(テンコフカテーテル留置術)を行う。留置後はカテーテルの洗浄を数日間行い、その後500mLから透析液の貯留を始める。体格に合わせて1回1.5~2L5〜2Lまで増加させる。その後、腹膜平衡試験(PET)を行い腹膜透過性の評価を行う。この結果には透過性の低い順にLow、Low Average、High Average、Highの4つがあるが、LowやHighといった腹膜の性質では腹膜による維持透析の管理が困難である可能性がある。また、残腎機能を含めたWeekly Ccr、Weekly Kt/Vも同様に評価を行い、透析スケジュール(透析液濃度、滞留時間、交換回数等)の調節を行う。透析液はブドウ糖濃度、Ca濃度が大きな変数となるが、近年は高カルシウム濃度の透析液を用いるのが主流であり、また[[中皮]]障害を防止する目的で中性透析液を用いる。
 
CAPDではHDと異なり[[浸透圧]]と[[拡散]]現象を用いて尿毒物質の除去を行う。長時間、透析液を腹腔内に入れておくと濃度勾配がなくなり拡散が弱まる。6時間ほどでクレアチニンの拡散も止まるので透析液を交換するという原理である。血液透析と異なり、[[限外濾過]]ではなく浸透圧による除水を行い、浸透圧物質としてブドウ糖を用いている。そのため糖尿病の患者では血糖コントロールが不安定になりやすい。かつては血液透析では中分子除去が苦手であったため、中分子除去という観点から腹膜透析が好まれていた。しかし中分子除去も可能なハイパフォーマンス膜という透析膜が開発されたため、その優位性がなくなった。しかし、心血管への負担が少ないこと、自尿を維持しやすいこと、血液透析と比べて食事制限が緩やかであることから、PD firstという考え方は存在している。透析導入が必要と判断された場合にCAPDが可能な状況ならまずはCAPDを行う方が予後が良いという考えである。しかし、長期間にわたる腹膜透析には被嚢性腹膜硬化症という合併症のリスクがあるため、4~54〜5年程度で血液透析に移行する必要がある。また、主要なトラブルとして腹膜やカテーテル挿入部への感染症があり、予防のために厳密な清潔操作を患者本人が行う必要がある。
 
=== 血液透析の流れ ===
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!nowrap| !!nowrap|血流量(mL/min)!!nowrap|透析液流量(mL/min)!!nowrap|置換液(mL/min)!!nowrap|透析時間!!nowrap|ダイアライザー膜面積(m<sup>2</sup>)
|-
|CHDF 日本||80~12080〜120||7~107〜10||5~85〜8||24hr以上||0.7~17〜1.2
|-
|CHDF 欧米||140~150140〜150||14~2414〜24||14~2414〜24||24hr以上||0.9~19〜1.6
|-
|IHD 日本||180~200180〜200||500||0||4hr×3day/week||1.2~12〜1.8
|-
|IHD 欧米||350~500350〜500||700||0||4hr×3day/week||1.5~25〜2.1
|}
IHDより程度は少ないが体外循環開始時の血圧低下が認められることがある。また回路内の血小板の消費、持続的に使用する抗凝固薬の使用による出血傾向、ブラッドアクセスカテテルによる感染、出血、血栓、透析液使用による電解質異常(低カリウム血症、低燐血症)、ダイアライザーや抗凝固薬でのアレルギーなどが認められることがある。日本におけるCHDFの設定は'''血液流量60~100mL60〜100mL/min、透析液流量500mL/hr、濾過液流量300mL/hr、補充液流量800mL/hr'''とし患者の状況に応じて除水量を設定する場合が多い。
 
== 血液透析の維持と評価 ==
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=== ダイアライザー ===
近年は中分子の除去も可能なハイパフォーマンスメンブレンを用いることが多い。ダイアライザーの性能は[[クリアランス]]で示される。クリアランスは血流量に依存するが大抵は200mL/minになるとダイアライザー固有の値になることが知られている。一般にダイアライザーの尿素クリアランスは、設定した血流量の95%95%程度である。ダイアライザーにはいくつかの種類が知られている。再生セルロース膜は昔から使われているダイアライザーであり、β2ミクログロブリンといった中分子除去はできないがアルブミンなどが除去されてしまうことがないため、栄養障害のある高齢者には用いられることがある。合成高分子膜にはPAN(ポリアクリルニトリル)やPS(ポリスルホン)、PMMA(ポリメチルメタアクリレート)などがある。中分子除去、除水ともに良好である。しかしアルブミンが除去されてしまったりPANはACE阻害薬との併用が禁忌であったりと、すべての膜にそれぞれの癖がある。
 
=== 血液透析の評価 ===
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==== 尿素除去率 ====
透析前後でBUNがどれくらい除去できているのかを%で表した値である。(透析前BUN - 透析後BUN) / 透析前BUNである。70~80%70〜80%ならば透析は十分できているが、70%以下では透析不十分の可能性がある。またあまりに高値の場合は再循環を起こし、十分な透析ができていなかった可能性がある。
 
==== 標準化蛋白異化率(n-PCR) ====
蛋白異化率は正味の蛋白分解量なので蛋白摂取量と正味組織蛋白分解量の和である。過度の蛋白異化・同化などがなければ正味の組織蛋白分解量は0であるので、蛋白異化率は蛋白摂取量に等しくなる。月水金透析であれば、
蛋白異化率={0.1/44×基礎体重×(水曜日透析前BUN-月曜日透析後BUN)+1.2}×9.35
が知られている。この値が0.9~19〜1.5g/kg/dayの範囲内にないと予後が悪くなる。透析患者の食事療法の評価n-PCRから計算できている。
 
==== 標準化透析量 ====
標準化透析量はKt/Vで求められる。Kはダイアライザーの尿素クリアランス(mL/min)であり(カタログスペックに安全係数として0.9を掛けることが多い)、tは透析時間(min)でありVは尿素の[[分布容積]]である。尿素の性質から総体液量、即ち体重の60%60%に一致する。Ktは透析量、即ち1回の透析過程でどれだけ血液量から尿素が完全に浄化されたかを示す値と言える。これをVで割るので透析過程で総体液量の何倍の血液量を完全に浄化したのかを示すのが標準化透析量といえる。少なくとも1以上にならなければCcr10mL/min以下の除去能となるので透析不足である。1.6以上を保つのが理想的だが、現在のところKt/Vが高ければ予後が良い事を示すエビデンスはない。臨床的にはKt/V=-ln(透析後BUN/透析前BUN)で計算することがある。しかし、病態把握をするには、まず標準化透析量に基づき透析のプログラムをたて、一通り透析を行ってから、TACBUNと蛋白異化率を計算し透析が十分かを評価した方が望ましいと考えられる。
 
Sinzato式による透析量の自動計算フォームがある<ref>[http://www.hdtool.net/ CKD・透析計算ツール]</ref>
 
==== ドライウエイト(DW) ====
ドライウエイトとは基礎体重と同義と考えられており、浮腫がなく、血圧正常、心胸郭比は極一般的には50%50%以下であり、極端に小さな数字は、脱水域の体重と考えられている。しかし、これを決定する方法論は確立していない。様々な所見(HANP、BNP、浮腫度合)から、医師、看護師、臨床工学技士、その他スタッフ、並び患者自身が総合的(摂食状況、活動量、体調、透析状況等)に評価を行う。
 
==== 尿素以外の溶質 ====
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==== [[PTH]]インタクト ====
正常値は60pg/mL以下であるが、透析患者の場合は低Ca刺激による二次性副甲状腺機能亢進症を来たし、高値となりやすい。60~180pg60〜180pg/mLとなるようにコントロールするべきである。骨型[[アルカリホスファターゼ]]を測定することもある。
 
==== HANP ====
[[心房性ナトリウム利尿ペプチド|ヒト心房性ナトリウム利尿ペプチド]]は心不全のマーカーであるがBNPと比較してより心房の負荷、即ち容量負荷の状態を反映する。正常値は8.0~320〜32.2pg/mLである。透析中の患者では透析後採血で40~60pg40〜60pg/mL程度が望ましいといわれている。BNP([[脳性ナトリウム利尿ペプチド|ヒト脳性ナトリウム利尿ペプチド]])は心室負荷、心不全をより反映すると考えられている。正常値は18.4pg/mL以下である。心不全の際は100pg/mLを超え、時には1000pg/mLに達する。こちらは透析管理のためというよりは腎不全による心疾患の進行を調べるために測定する。
 
==== 胸部単純[[X線写真]] ====
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=== 透析患者の高血圧 ===
透析中の患者はDWの設定や体重増加によって大きく異なる点が特徴である。高血圧が進行したらDWが適正か再評価する。起立性低血圧が起らないのが理想的だが、[[糖尿病性神経症]]がある場合は、適正なDWでも起立性低血圧が起りえる。体重増加の大きな原因は食塩の過量摂取ある。透析間の体重増加はDWの3%3%以内が望ましいが、5%5%までは許容範囲である。それ以上の体重増加がある場合、透析中の合併症が起きやすく十分な除水が困難となる事が多い。用いる薬物療法としてはサイアザイド系利尿薬は効果がなく、ループ利尿薬も[[難聴]]の副作用があり、尿量確保ができなければ用いるべきではない。結局Ca拮抗薬、ACEI、ARB、βブロッカーが用いられることになる。Ca拮抗薬は降圧効果が強く、透析が必要な末期腎不全では肝排泄性であるため好まれる。また常用量で使用できる点も非専門医でも扱いやすいところである。ARB、ACEIでは心臓のリモデリング作用に期待できるが、PAN透析膜使用中にアナフィラキシーが起ったという報告もあり、今後のデータが待たれる。
 
== 諸注意 ==