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| title = 高慢と偏見
| orig_title = {{lang|en|Pride and Prejudice}}
| image = PrideAndPrejudiceTitlePage.jpg
| image caption = 『高慢と偏見』初版の扉頁
| author = [[ジェーン・オースティン]]
| country = {{GBR3}}
| language = 英語
| genre = [[恋愛小説]]、風俗小説{{enlink|Novel of manners}}、風刺
| publisher = T. Egerton, Whitehall
| published = 1813年1月28日
| type = 印刷上製(ハードカバー、3巻(3冊
| id = {{OCLC|38659585}}
| preceded_by = [[分別と多感]]
| followed_by = [[マンスフィールド・パーク]]
| portal1 = 文学
|dewey = 823.7
| wikisource = Pride and Prejudice
}}
『'''高慢と偏見'''』(こうまんとへんけん、''{{lang|en|''Pride and Prejudice}}''}})は、[[ジェーン・オースティン]]の[[長編小説]]。『'''自負と偏見'''』『'''自尊と偏見'''』という日本語訳の訳もある。
 
{{Portal|文学}}
『'''高慢と偏見'''』(こうまんとへんけん、''{{lang|en|Pride and Prejudice}}'')は、[[ジェーン・オースティン]]の[[長編小説]]。『'''自負と偏見'''』『'''自尊と偏見'''』という題の訳もある。
 
17~18世紀のイギリスの片田舎を舞台として、女性の結婚事情と、誤解と偏見から起こる恋のすれ違いを描いた[[恋愛小説]]。精緻を極めた人物描写と軽妙なストーリー展開で、オースティンの著作の中でも傑作と名高い。
 
== 作品の成立 ==
ジェーンの姉・カサンドラによれば、本作は[[1796年]]10月から[[1797年]]8月の間(ジェーン20-21歳)に「第一印象」(First Impressions)の題名で書かれた。同年11月、父は出版社に手紙を送り、「第一印象」の出版を打診するが、断られた。『[[分別と多感]]』出版(1811年)の後に「第一印象」の訂正、圧縮が行われ、[[1813年]][[1月28日]]に現在の題で出版された<ref>藤田清次『評伝ジェーン・オースティン』(1981年、北星堂書店)P78、P102。1811年7月から1812年12月の期間のジェーンの書簡は残されておらず、詳細は不明。</ref>。<!---「第一印象」の原稿は残っていない--->
 
タイトルの“''Pride and Prejudice''”は、[[ファニー・バーニー]]{{enlink|Frances Burney|Fanny Burney}}の長編小説『[[セシリア (小説)|セシリア]]』(1782年){{enlink|Cecilia (Burney novel)|Cecilia}}の最終章に登場するフレーズ“The whole of this unfortunate business,... has been the result of PRIDE and PREJUDICE.”によると言われている。
 
==評価など==
作中の登場人物の女性らは、一見頼りないが、実は鋭い観察眼で男を見抜く能力に長けている。その点が、小説として多くの読者を惹きつけ支持される理由でもある。
 
作家[[サマセット・モーム|モーム]]は、『[[世界の十大小説]]』の中で、本作を2冊目に挙げ、「大した事件が起こるわけでもないのに、ページをめくる手が止まらなくなる」と評価([[西川正身]]訳、新版[[岩波文庫]])。日本でも[[夏目漱石]]が冒頭の書き出しを激賞している(また、「則天去私」の例の一つとして、本作を挙げたと言われる)。
 
[[ヘレン・フィールディング]]の『[[ブリジット・ジョーンズの日記]]』に大きな影響を与えたといわれる。
 
== 概要 ==
[[file:PrideAndPrejudiceTitlePage.jpg|thumb|200px|『高慢と偏見』初版の扉頁]]
18世紀イギリス、女性が自立できる職業はほとんどなく、良い結婚相手を見付けることが女性の幸せとされた。相続財産や[[持参金]]が少ない女性が良い結婚相手を見付けることは難しく、結婚できなければ生涯、一族の居候の独身女性として過ごさなければならないため、結婚は現代よりずっと切実な問題だった。
[[1813年]]に刊行された、ジェーン・オースティンの2冊目の長編小説である。1796年10月から1797年8月(ジェーン20-21歳)にかけて執筆された作品「第一印象」をもとに出版された。(→[[#作品の成立]])
 
物語は田舎町ロンボーン (Longbourn) に独身の資産家ビングリーがやって来た所から始まる。ベネット家の次女エリザベスとビングリーの友人ダーシーが誤解と偏見に邪魔され、葛藤しながらも惹かれあう様子を軸に、それぞれの結婚等を巡っててんやわんやの大騒動を繰り広げる人々の姿を皮肉をこめて描きだしている。(→[[#あらすじ]])
 
[[18世紀]]のイギリスでは、女性が自立できる職業はほとんどなく、良い結婚相手を見付けることが女性の幸せとされた。相続財産や[[持参金]]が少ない女性が良い結婚相手を見付けることは難しく、結婚できなければ生涯、一族の居候の独身女性として過ごさなければならない。このため、結婚は現代よりずっと切実な問題だった。(→[[#社会背景]])
== 社会背景 ==
本作品が執筆された[[1800年]]前後は、ヨーロッパでは[[ナポレオン戦争]]が起こっており、イギリスも深く影響を受けていたはずであるが、本作品では政治的な言及はほとんどなく、十年一日の如き田舎の[[ジェントリ]]社会が描かれている。
 
本作は幾度も映画化・映像化がなされており、2016年現在で6本の映画が製作されている。パロディ・二次創作や翻案作品も少なくない。(→[[#関連作品]])
当時のイギリスの[[上流階級]]は大きく[[貴族院 (イギリス)|貴族院]]に議席を持ち[[爵位]]を持つ貴族とそれ以外の大地主階級([[ジェントリ]])に分けられるが、ジェントリ階級の中でも歴史的血統、親族の質、財産などにより格の上下が意識されていた。通常の社交上の儀礼では同等とされていたが、結婚など現実問題においては、そのような格差が重要となってくる。
 
本作品の登場人物はほとんどがジェントリ階級か、その出身であるが、爵位こそないが古くからの名家で[[伯爵]]家と姻戚関係があり年収1万[[スターリング・ポンド|ポンド]]の財産が有るダーシー家、さほど名家ではないが富裕な親戚が多く年収5000ポンドの財産を持つビングリー家、普通のジェントリだが[[中流階級]]の親族を持ち年収2000ポンド程度のベネット家では総合的にかなりの格差が存在している。
 
当時は財産の大部分は長子が継ぎ、それ以外の男子、女子にはごく一部が相続財産や持参金として分け与えられた。富裕で子供の少ない家においては、その一部の財産でもかなりの額ではあるが、裕福でなく子沢山の家ではとても階級を維持できる額を与えることはできなかった。
 
ジェントリは生活のために労働をしないことを誇りとしており、職業を持つ中流階級は資産が多くても低く見られていた。このため、相続財産の少ない男子は[[軍人]]、[[牧師]]、[[役人]]などになったが、最もてっとり早いのは裕福な財産を相続した女性と結婚することであり、相続財産の少ない男子、女子はいずれも裕福な結婚相手を血眼になって探すことになる。
 
財産のうち土地、屋敷などの[[不動産]]は分散を避けるために相続条件を指定した限嗣相続になっていることが多い。ベネット家では不動産は男子限定の限嗣相続となっている上、それ以外の財産はほとんどないため、娘たちはわずかな持参金で結婚を目指さなければならなかった。
 
== あらすじ ==
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:エリザベスたちの叔父と叔母(ベネット夫人の弟夫婦)。中流階級であるため身分は低いと見なされるが、いたって善良で分別がある人たち。
 
== 映像化作品の成立 ==
ジェーンの姉・カサンドラによれば、本作は[[1796年]]10月から[[1797年]]8月の間(ジェーン20-21歳)に「第一印象」(First Impressions)の題名で書かれた。同年11月、父は出版社に手紙を送り、「第一印象」の出版を打診するが、断られた。『[[分別と多感]]』出版(1811年)の後に「第一印象」の訂正、圧縮が行われ、[[1813年]][[1月28日]]に現在の題で出版された<ref>藤田清次『評伝ジェーン・オースティン』(1981年、北星堂書店)P78、P102。1811年7月から1812年12月の期間のジェーンの書簡は残されておらず、詳細は不明。</ref>。<!---「第一印象」の原稿は残っていない--->
*[[高慢と偏見 (1940年の映画)|高慢と偏見]] - [[ローレンス・オリヴィエ]]主演の映画(1940年、アメリカ)
**長く親しまれている作品ゆえに幾度となく映像化されているが、古い時代のもので有名なのが、若き日のローレンス・オリヴィエがダーシーを演じたこの映画である。ストーリーは長い原作を所々省略してキャラクターの行動にも多く改変(ラスト近くのキャサリン夫人など)を加えており、当時[[ハリウッド]]で流行した[[スクリューボール・コメディ]]の影響を思わせる。
*{{仮リンク|高慢と偏見 (BBC)|en|Pride and Prejudice (1995 TV series)|label=高慢と偏見}} - イギリス[[英国放送協会|BBC]]制作のテレビドラマ(1995年)。<br> 監督:サイモン・ラングストン、Mr.ダーシー:[[コリン・ファース]]、エリザベス:[[ジェニファー・イーリー]]。
**上記映画版のヒット以降、長らく新しい決定版と呼べる作品が登場してこなかったが、このTVドラマは高い評価を受け[[プライムタイム・エミー賞 作品賞 (ミニシリーズ部門)]]にノミネートされた。
*[[w:Bride and Prejudice|Bride and Prejudice]] - [[アイシュワリヤー・ラーイ]]主演の[[ボリウッド]]映画(2004年)
*[[プライドと偏見]] - [[キーラ・ナイトレイ]]主演の映画(2005年)
 
タイトルの“''Pride and Prejudice''”は、[[ファニー・バーニー]]{{enlink|Frances Burney|Fanny Burney}}の長編小説『[[セシリア (小説)|セシリア]]』(1782年){{enlink|Cecilia (Burney novel)|Cecilia}}の最終章に登場するフレーズ“The whole of this unfortunate business,... has been the result of PRIDE and PREJUDICE.”によると言われている。
== 漫画化 ==
 
*高慢と偏見(著:[[望月玲子]]、宙出版)
== 社会背景 ==
本作品が執筆された[[1800年]]前後は、ヨーロッパでは[[ナポレオン戦争]]が起こっており、イギリスも深く影響を受けていたはずであるが、本作品では政治的な言及はほとんどなく、十年一日の如き田舎の[[ジェントリ]]社会が描かれている。
 
当時のイギリスの[[上流階級]]は大きく[[貴族院 (イギリス)|貴族院]]に議席を持ち[[爵位]]を持つ貴族とそれ以外の大地主階級([[ジェントリ]])に分けられるが、ジェントリ階級の中でも歴史的血統、親族の質、財産などにより格の上下が意識されていた。通常の社交上の儀礼では同等とされていたが、結婚など現実問題においては、そのような格差が重要となってくる。
 
本作品の登場人物はほとんどがジェントリ階級か、その出身であるが、爵位こそないが古くからの名家で[[伯爵]]家と姻戚関係があり年収1万[[スターリング・ポンド|ポンド]]の財産が有るダーシー家、さほど名家ではないが富裕な親戚が多く年収5000ポンドの財産を持つビングリー家、普通のジェントリだが[[中流階級]]の親族を持ち年収2000ポンド程度のベネット家では総合的にかなりの格差が存在している。
 
当時は財産の大部分は長子が継ぎ、それ以外の男子、女子にはごく一部が相続財産や持参金として分け与えられた。富裕で子供の少ない家においては、その一部の財産でもかなりの額ではあるが、裕福でなく子沢山の家ではとても階級を維持できる額を与えることはできなかった。
 
ジェントリは生活のために労働をしないことを誇りとしており、職業を持つ中流階級は資産が多くても低く見られていた。このため、相続財産の少ない男子は[[軍人]]、[[牧師]]、[[役人]]などになったが、最もてっとり早いのは裕福な財産を相続した女性と結婚することであり、相続財産の少ない男子、女子はいずれも裕福な結婚相手を血眼になって探すことになる。
 
財産のうち土地、屋敷などの[[不動産]]は分散を避けるために相続条件を指定した限嗣相続になっていることが多い。ベネット家では不動産は男子限定の限嗣相続となっている上、それ以外の財産はほとんどないため、娘たちはわずかな持参金で結婚を目指さなければならなかった。
 
== 評価など ==
作中の登場人物の女性らは、一見頼りないが、実は鋭い観察眼で男を見抜く能力に長けている。その点が、小説として多くの読者を惹きつけ支持される理由でもある。
 
作家[[サマセット・モーム|モーム]]は、『[[世界の十大小説]]』の中で、本作を2冊目に挙げ、「大した事件が起こるわけでもないのに、ページをめくる手が止まらなくなる」と評価([[西川正身]]訳、新版[[岩波文庫]])。日本でも[[夏目漱石]]が冒頭の書き出しを激賞している(また、「則天去私」の例の一つとして、本作を挙げたと言われる)。
 
== 日本語訳 ==
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== 関連作品 ==
=== 映像化作品 ===
*[[高慢と偏見 (1940年の映画)|高慢と偏見]] - [[ローレンス・オリヴィエ]]主演の映画(1940年、アメリカ)
**長く親しまれている作品ゆえに幾度となく映像化されているが、古い時代のもので有名なのが、若き日のローレンス・オリヴィエがダーシーを演じたこの映画である。ストーリーは長い原作を所々省略してキャラクターの行動にも多く改変(ラスト近くのキャサリン夫人など)を加えており、当時[[ハリウッド]]で流行した[[スクリューボール・コメディ]]の影響を思わせる。
 
*{{仮リンク|高慢と偏見 (BBC)|en|Pride and Prejudice (1995 TV series)|label=高慢と偏見}} - イギリス[[英国放送協会|BBC]]制作のテレビドラマ(1995年)。<br> 監督:サイモン・ラングストン、Mr.ダーシー:[[コリン・ファース]]、エリザベス:[[ジェニファー・イーリー]]
**監督:サイモン・ラングストン、Mr.ダーシー:[[コリン・ファース]]、エリザベス:[[ジェニファー・イーリー]]。
**上記映画版のヒット以降、長らく新しい決定版と呼べる作品が登場してこなかったが、このTVドラマは高い評価を受け[[プライムタイム・エミー賞 作品賞 (ミニシリーズ部門)]]にノミネートされた。
 
*[[w:Bride and Prejudice|Bride and Prejudice]] - [[アイシュワリヤー・ラーイ]]主演の[[ボリウッド]]映画(2004年)
 
*[[プライドと偏見]] - [[キーラ・ナイトレイ]]主演の映画(2005年)
 
=== 漫画化作品 ===
*高慢と偏見(著:[[望月玲子]]、宙出版)
 
=== 舞台 ===
*天使のはしご - [[宝塚歌劇団]][[星組]]によりミュージカル化(2012年)<br>脚本・演出:[[鈴木圭]]、フィッツウィリアム・ダーシー:[[涼紫央]]、エリザベス・ベネット(リジー):[[音波みのり]]。
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*Jane Austen & Seth Grahame-Smith "''[[w:Pride and Prejudice and Zombies|Pride and Prejudice and Zombies]]''", 2009 <br > (ジェイン・オースティン、[[セス・グレアム=スミス]]『高慢と偏見とゾンビ』 [[安原和見]]訳 [[二見書房|二見文庫]] 2010年) - 全体の9割は原典をそのまま用いながら爆笑ホラー小説に仕立て上げた怪作。2016年に映画化作品が全米で公開予定<ref>{{Cite web|url=http://eiga.com/news/20150406/16/|title=映画版「高慢と偏見とゾンビ」の全米公開日が決定|publisher=映画.com|date=2015-04-08|accessdate=2015-04-08}}</ref>
*P. D. James "''[[v:Death Comes to Pemberley|Death Comes to Pemberley]]''", 2011 <br>([[P・D・ジェイムズ]]『高慢と偏見、そして殺人』 [[羽田詩津子]]訳 [[早川書房]]、2012年)
 
=== 翻案作品の成立 ===
[[ヘレン・フィールディング]]の『[[ブリジット・ジョーンズの日記]]』は、本作をベースにした作品である<ref>{{cite web|url=http://www.bbc.com/news/entertainment-arts-21204956|title=Bridget Jones vs Pride and Prejudice|publisher=BBC|date=2013-1-28|accessdate=2016-04-13}}</ref><ref>{{cite web|url=http://www.theguardian.com/books/2013/nov/27/bridget-jones-s-diary-helen-fielding-book-club|title=John Mullan on Bridget Jones – Guardian book club |author=John Mullan|publisher=Guardian|date=2013-11-27|accessdate=2016-04-13}}</ref>。
 
==脚注==