「軍令部」の版間の差分

設置当初、政府上層部は[[大日本帝国陸軍|陸軍]]を尊重していたため、戦時大本営条例に基づき、[[大本営]]では本来陸軍の軍令機関であるはずの[[参謀本部 (日本)|参謀本部]]の長官である[[参謀総長]]が天皇に対して帝国全軍の作戦用兵の責任を負うこととされた。これに対して海軍では一貫して陸軍と対等の地位を要求し続けた。そして[[日露戦争]]の直前に、[[山本権兵衛]]海軍大臣から海軍軍令部条例を改め、名称を「参謀本部」にしたい（すなわち陸海軍の参謀本部を同格にしたい）と上奏を受けた[[明治天皇]]は、[[1903年]]（明治36年）[[9月12日]]にこの件を[[元帥府]]に諮ることを命じた。しかし元帥府はこの上奏を受け入れず、10月21日明治天皇は[[徳大寺実則]]侍従長を通じて[[山縣有朋]]元帥陸軍大将に再考を促した。結局、陸軍が折れ、戦時大本営条例が改定された。（しかし'''軍令部'''の改名は受け入れられなかった）これにより、海軍軍令部長は参謀総長と対等の立場で作戦用兵に責任を負うこととなった。さらに[[伏見宮博恭王]]軍令部長の時には軍令部の位置づけが強化され、海軍の独立性がより高められた。

しかし、組織的には陸軍の方が圧倒的に大きく、海軍は常に陸軍への吸収と隣り合わせだった。実際、[[近衛文麿|近衛首相]]の時には日米開戦を避けるために「[[アメリカ海軍]]に勝てない」と海軍に告白させようと圧力がかけられ、海軍の存在意義が問われる事態に陥ったことがあった。これに苦慮した[[海軍省]]は「海軍は無敵である」と盛んに宣伝し、海軍の存在意義を保とうとするが、軍令部はこれに困惑した<ref group="注釈">「攻めるのには不十分だが守るのには十分」とある様に、当時の日本海軍は、2度に渡る海軍軍縮会議の影響もあり、抑止力を保つために存在するという位置づけだった。</ref>。また、[[太平洋戦争]]（当時の呼称：[[大東亜戦争]]）中、権力の集中を図るため[[東條英機|東條首相]]の命で、[[嶋田繁太郎]]海軍大臣が軍令部総長を兼任した際には、海軍内部で大きな反発が起きたほか、戦力強化のため陸軍からたびたびも統合案が持ち出されたが、[[統帥権]]を盾に統合を阻んだ。海軍の独立が確保できなければ[[終戦工作]]はより困難なものになっていたのではないかと反省会では指摘されている。

[[真珠湾攻撃]]・[[マレー沖海戦]]による太平洋戦争（大東亜戦争）の開戦から敗戦に至るまでについての内幕や反省点については、開戦時に一部一課で作戦を担当した[[佐薙毅]]をはじめとした部員達の証言が[[海軍反省会]]に残されている。

* [[1884年]]2（明治17年）2月 海軍省達丙第21号により海軍省の外局組織として'''軍事部'''が設置

* [[1886年]]3（明治19年）3月 参謀本部条例改正により'''参謀本部海軍部'''が設置され、軍政と軍令が分離された。

* [[1888年]]5（明治21年）5月 '''海軍参謀本部'''となる。

* [[1889年]]3（明治22年）3月 '''海軍参謀部'''となり、再び海軍省の管轄下となる。

* [[1893年]]5（明治26年）5月 勅令第36号海軍省官制改訂により軍令の管轄が海軍省から分離独立し海軍参謀部に移される。

* [[1893年]]5（明治26年）5月 勅令第37号海軍軍令部条例により'''海軍軍令部'''が設置される。軍令機関として陸軍の参謀本部と平時に限り対等となる。

* [[1903年]]12（明治36年）12月 勅令第293号戦時大本営条例改訂により戦時においても軍令機関として陸軍の参謀本部と対等となる。

* [[1933年]]10（昭和8年）10月 軍令海第5号軍令部令により冠の"海軍"が外れ'''軍令部'''となり、海軍軍令部長から軍令部総長となる。

* [[1945年]]10（昭和20年）10月15日 軍令海第8号によって廃止される。

1893年5（明治26年）5月の海軍軍令部発足時の組織は次の通りであった<ref>明治26年勅令第37号。</ref>。

| align="right" | 1 || [[仁礼景範]] || 海軍少将 || [[鹿児島県|鹿児島]] || &nbsp; || [[1886年]]（明治19年）[[3月16日]] || 海軍軍令部長から参謀本部次官、</br>更に参謀本部海軍部長に改称。 ||

| align="right" | 2 || [[伊藤雋吉]] || 海軍少将 || [[京都府|京都]] || &nbsp; || [[1889年]]（明治22年）[[3月8日]] || 海軍参謀部長に改称。 || &nbsp;

| align="right" | 3 || [[有地品之允]] || 海軍少将 || [[山口県|山口]] || &nbsp; || [[1889年]]（明治22年）[[5月17日]] || &nbsp; || &nbsp;

| align="right" | 4 || [[井上良馨]] || 海軍少将 || 鹿児島 || &nbsp; || [[1891年]]（明治24年）[[6月17日]] || &nbsp; ||

| align="right" | 5 || [[中牟田倉之助]] || 海軍中将 || [[佐賀県|佐賀]] || &nbsp; || [[1892年]]（明治25年）[[12月12日]] || 海軍軍令部長に改称。 ||&nbsp;

| align="right" | 6 || [[樺山資紀]] || 海軍中将 || 鹿児島 || &nbsp; || [[1894年]]（明治27年）[[7月17日]] || &nbsp; ||&nbsp;

| align="right" | 7 || [[伊東祐亨]] || 海軍中将 || 鹿児島 || &nbsp; || [[1895年]]（明治28年）[[5月11日]] || &nbsp; ||[[諸岡頼之]]</br>[[伊集院五郎]]</br>[[上村彦之丞]]</br>[[出羽重遠]]</br>伊集院五郎

| align="right" | 8 || [[東郷平八郎]] || 海軍大将 || 鹿児島 || &nbsp; || [[1905年]]（明治38年）[[12月20日]] || &nbsp; ||伊集院五郎</br>[[三須宗太郎]]

| align="right" | 9 || [[伊集院五郎]] || 海軍中将 || 鹿児島 || 海兵5期 || [[1909年]]（明治42年）[[12月1日]] || &nbsp; ||[[藤井較一]]

| align="right" | 10 || [[島村速雄]] || 海軍中将 || [[高知県|高知]] || 海兵7期 || [[1914年]]（大正3年）[[4月22日]] || &nbsp; ||[[山下源太郎]]</br>[[佐藤鉄太郎]]</br>[[山屋他人]]</br>[[竹下勇]]

| align="right" | 11 || [[山下源太郎]] || 海軍大将 || [[山形県|山形]] || 海兵10期 || [[1920年]]（大正9年）[[10月1日]] || &nbsp; ||[[安保清種]]</br>[[加藤寛治]]</br>[[堀内三郎]]</br>[[斎藤七五郎]]

| align="right" | 12 || [[鈴木貫太郎]] || 海軍大将 || [[千葉県|千葉]] || 海兵10期</br>海大1期 || [[1925年]]（大正14年）[[4月15日]] || &nbsp; ||斎藤七五郎</br>[[野村吉三郎]]</br>[[末次信正]]

| align="right" | 13 || [[加藤寛治]] || 海軍大将 || [[福井県|福井]] || 海兵18期 || [[1929年]]（昭和4年）[[1月22日]] || &nbsp; ||末次信正

| align="right" | 14 || [[谷口尚真]] || 海軍大将 || [[広島県|広島]] || 海兵19期</br>海大3期 || [[1930年]]（昭和5年）[[6月11日]] || &nbsp; ||[[永野修身]]</br>[[百武源吾]]

| align="right" | 15 || [[伏見宮博恭王]] || 海軍大将 || [[皇族]] || 海兵16期 || [[1932年]]（昭和7年）[[2月2日]] || 軍令部総長に改称。 ||[[高橋三吉]]</br>[[加藤隆義]]</br>[[嶋田繁太郎]]</br>[[古賀峯一]]</br>[[近藤信竹]]

| align="right" | 16 || [[永野修身]] || 海軍大将 || 高知 || 海兵28期</br>海大8期 || [[1941年]]（昭和16年）[[4月9日]] || &nbsp; ||近藤信竹</br>[[伊藤整一]]

| align="right" | 17 || [[嶋田繁太郎]] || 海軍大将 || [[東京都|東京]] || 海兵32期</br>海大13期 || [[1944年]]（昭和19年）[[2月21日]] || &nbsp; ||[[塚原二四三]]

| align="right" | 18 || [[及川古志郎]] || 海軍大将 || [[岩手県|岩手]] || 海兵31期</br>海大13期 || [[1944年]]（昭和19年）[[8月2日]] || &nbsp; ||塚原二四三</br>[[小沢治三郎]]

| align="right" | 19 || [[豊田副武]] || 海軍大将 || [[大分県|大分]] || 海兵33期</br>海大15期 || [[1945年]]（昭和20年）[[5月29日]] || &nbsp; ||[[大西瀧治郎]]

[[1945年]]8（昭和20年）8月、軍令部戦史部勤務の[[島田俊彦]]は、[[疎開]]先の[[山中湖]]畔（現在の[[山梨県]][[南都留郡]][[山中湖村]]）のニューグランドホテルで[[機密書類]]の焼却を命じられ、いくらかの日中関係資料を残して全てを焼却したと書いている。命令は[[海軍大臣]]から出され、当時の戦史部の部長は[[長井純隆]]大佐であった<ref>島田俊彦、小林 龍夫 編『現代史資料７満州事変』あとがき島田俊彦「軍令部戦史部始末記」p2-p7</ref>。