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→‎地名の歌枕: 歴史的呼び名
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もともと地名の歌枕は実際の風景をもとに親しまれてきたというよりは、その言葉の持つイメージが利用されて和歌に詠まれていた面がある。例えば上で触れた「あふさかやま」は古くより逢坂の関と呼ばれる関所でもあったが、この地名はたいていが男女が逢えぬ嘆きをあらわす恋の歌に詠まれた。「坂」・「山」・「関」は人を阻むものであり、思う相手に心のままに「あふ」ことができないものの象徴として、「あふさかやま」(あふさかのせき)が詠まれているのである。
 
:あふさかの せきにながるる いはしみ いはでこころに おもひこそすれ<small>(『古今和歌集』巻第十一・恋一)</small>
 
「いはしみず」とは、当時この逢坂の関にあったという岩の上を流れる清水のことである。自分が好いた相手に逢えない苦しさを人に訴えるようなことはすまい、だが言わぬと心に誓っても、その苦しさに涙のほうはこらえきれずこぼれてしまう…という趣意の歌であるが、ここでは「あふさかのせき」を恋の障害物、関で流れる清水「いはしみず」を自分がこぼす涙にたとえている。このように当時の歌を詠む人々にとっては、逢坂と呼ばれる場所が実際どういう所であったかはさして重要なことではなく、自分の感情を譬える材料として使われたのであった。