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== 解説 ==
1920年代及び30年代に、[[ジョン・コッククロフト]]に代表される粒子加速器の研究に従事していた物理学者たちは、[[陽子]]([[水素]]原子核)や他の軽い核に高いエネルギー(数keV)を与え入射粒子として加速し、標的となっている軽い核に当てると、核の電気的反発力や核力によって入射粒子は破壊を伴いながら、標的と融合し大きなエネルギーが解放されること、すなわち'''核融合反応'''(nuclear fusion)を発見していた。この大きなエネルギーは、アインシュタインによって主張された関係式 '''''E'' = ''mc''{{sup|2}}''' を満たす形で、融合した核の質量の一部がエネルギーに変換されているため発生すると言われる。しかしながら、[[加速器]]による核融合反応では、少数の核融合物を作るために大量のエネルギーが使用されなくてはならず、もし実用に供するような連続的な核融合反応を起こすのであれば摂氏数億度もの高温が必要となることから、以後に発見された[[核分裂反応]]ほどには当初は着目されなかった
 
しかしながら、[[加速器]]による核融合反応では、少数の核融合物を作るために大量のエネルギーが使用されなくてはならず、もし実用に供するような連続的な核融合反応を起こすのであれば摂氏数億度もの高温が必要となることから、以後に発見された[[核分裂反応]]ほどには当初は着目されなかった。
 
上記の摂氏数億度の高温を用いる核融合は特に'''熱核反応'''(thermonuclear reaction)と呼ばれるが、熱核反応の燃料としては、原子核の荷電が小さく原子核同士が接近しやすい軽い核種で反応自体も速いといった理由から[[三重水素]]や[[二重水素]]といった[[水素]]の重い同位体が理想的と言われる<ref>[[#原水爆|原水爆実験(1957)]] p.194</ref>。
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=== D-T反応 ===
[[Image:Deuterium-tritium_fusion.svg|thumb|200px|D-T反応]]
:<math>D + T \rightarrow <sup>{}^{4</sup>}\hbox{He} + n</math> (14MeV)
核融合反応の中でもっとも反応させやすいのが、[[二重水素]](デューテリウム、D)と[[三重水素]](トリチウム、T)を用いた反応である。これは過去には[[水素爆弾]]([[純粋水爆|きれいな水爆]])に利用され、現在でも、もっとも実現可能性の高い核融合炉の反応に用いられている。
:''詳しくは[[核融合炉#D-T反応|D-T反応]]を参照''
 
''詳しくは[[核融合炉#D-T反応|D-T反応]]を参照''
 
=== 恒星での反応 ===
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==== D-D反応 ====
:<math>D + D \rightarrow T + p</math>
:<math>D + D \rightarrow <sup>{}^{3</sup>}\hbox{He} + n</math>
 
収縮しつつある[[原始星]]の中心温度が約250万 [[ケルビン|K]]を超えると、初めて核融合が起こる。最初に起こるのは、比較的起こりやすい、2つの[[重水素]](D) が反応する[[重水素核融合]](工学ではD-D反応と呼ぶことも多い)である。重水素核融合を起こした天体を[[褐色矮星]]と呼ぶ。
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次の、軽水素(陽子、p)どうしが直接反応する水素核融合を、[[陽子-陽子連鎖反応]]、p-pチェインなどと呼ぶ。一般に核融合といえばこの反応を指すことが多く、太陽で主に起こっている核融合反応である。普通、4つの水素原子から1つのヘリウム4が生成されると説明されるが、一度の反応でヘリウムが出来るわけではなく何段階かの反応をへる
 
(1)# <math> p + p &rarr;\rightarrow <sup>2</sup>{}^2_1\hbox{H} + e<sup>^+</sup> + &nu;<sub>e\nu_e</submath>
#: 2つの陽子が融合して、[[重水素]]となり[[陽電子]]と[[ニュートリノ]]が放出される。
 
# <math>{}^2_1\hbox{H} + p \rightarrow {}^3_1\hbox{He} + \gamma</math>
2つの陽子が融合して、[[重水素]]となり[[陽電子]]と[[ニュートリノ]]が放出される。
#: 重水素と陽子が融合してヘリウム3が生成され、[[ガンマ線]]としてエネルギーが放出される
 
# <math>{}^3_1\hbox{He} + {}^3_1\hbox{He} \rightarrow {}^4_1\hbox{He} + p + p</math>
(2) <sup>2</sup>H + p &rarr; <sup>3</sup>He + &gamma;
#: ヘリウム3とヘリウム3が融合して[[ヘリウム4]]が生成され、[[陽子]]が放出される。
 
重水素と陽子が融合してヘリウム3が生成され、[[ガンマ線]]としてエネルギーが放出される
 
(3) <sup>3</sup>He + <sup>3</sup>He &rarr; <sup>4</sup>He + p + p
 
ヘリウム3とヘリウム3が融合して[[ヘリウム4]]が生成され、[[陽子]]が放出される。
 
==== CNOサイクル ====
次の、[[炭素]](C)・[[窒素]](N)・[[酸素]](O) を[[触媒]]とした水素核融合を、[[CNOサイクル]]と呼ぶ。星の中心温度が約2,000万Kを超えると、p-pチェインよりCNOサイクルのほうが優勢になる。
:(a-1) <math>^{12}\hbox{C} + 4p \rightarrow ^{12}\hbox{C} + \alpha</math>
 
:(ab-1) <supmath>^{12</sup>}\hbox{C} + 4 p &rarr;\rightarrow <sup>12^{13}\hbox{N}</supmath>C + &alpha; <br>
:(b-2) <math>^{13}\hbox{N} + 3p \rightarrow ^{12}\hbox{C} + \alpha</math>
 
:(bc-1) <supmath>^{12</sup>}\hbox{C} + p &rarr;\rightarrow <sup>^{13}\hbox{N}</supmath>N <br>
:(bc-2) <supmath>^{13</sup>}\hbox{N }+ 3 p &rarr;\rightarrow <sup>12^{14}\hbox{O}</supmath>C + &alpha; <br>
:(c-3) <math>^{14}\hbox{O}+ 2p \rightarrow ^{12}\hbox{C} + \alpha</math>
 
系の温度が高いと <math>a &rarr;\rightarrow b &rarr;\rightarrow c</math> の順に反応経路が変化し、反応速度が速まるが、基本的には炭素1つと陽子4つが炭素1つとアルファ粒子になる反応である。
(c-1) <sup>12</sup>C + p &rarr; <sup>13</sup>N <br>
(c-2) <sup>13</sup>N + p &rarr; <sup>14</sup>O <br>
(c-3) <sup>14</sup>O + 2 p &rarr; <sup>12</sup>C + &alpha; <br>
 
系の温度が高いと a &rarr; b &rarr; c の順に反応経路が変化し、反応速度が速まるが、基本的には炭素1つと陽子4つが炭素1つとアルファ粒子になる反応である。
 
また b および c では<sup>13</sup>Nや<sup>14</sup>Oがそれぞれ[[ベータ崩壊]]、[[ガンマ崩壊]]する前に次のステップに進む。
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==== ヘリウム燃焼 ====
恒星の中心核に充分な量のヘリウムが蓄積された場合に起こる反応。水素原子核の核融合の後に残った[[ヘリウム]]は恒星の中心に沈殿し、[[重力]]により収縮して中心核の温度が上がる。約1億K程度になると3つのヘリウム原子核が[[トリプルアルファ反応]]を起こし、[[炭素]]が生成され始める。
: <math>{3}^4_1\hbox{He} \rightarrow C</math>
: 3 <sup>4</sup>He → C
 
ヘリウム中心核からの熱により核の周辺部では水素の核融合が継続する。