「アルコール依存症」の版間の差分

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;自分の意志で飲酒のコントロールが出来なくなる。
:アルコール依存症の人も、何とかして適量のアルコールで済ませておこうとか、あるいは今日は飲まずにいようかと考えていることが多い。しかし、一度飲み始めたら適量で終えるのは99パーセント不可能になると分かっていても、もしかしたら今日は運よく1パーセント適量で済ませられるかもしれないと思ったり、あるいはアルコールを飲まなかったときに得られるメリットは事前に体感できないためにメリットを想像する力が不足していると、アルコールによる快感の方を選択してしまう。また、例えメリットが確実に得られるという根拠が無く、得られる可能性が1パーセント程度にしか思えなかったとしても、長期的にはアルコールを飲まないことでメリットが得られるようになることは確実であるため、長期間生存する意思があれば本来は長期的なメリットの方を選択するべきであるが、アルコールによる誤った思考判断によってそのように考えること自体が出来なくなっていたり、そうでなくともアルコールによる誤った判断によってアルコールで確実に得られる目先の快感の方を選択してしまう。これを継続し続けることで現状が確実に悪化していき症状もさらに進行することになるとは思っていないため、誘惑に勝つ必要性を見出しきれずに、明確な禁酒の意志までは持つことが出来ず、確実に快感を得られるアルコールの方を選択して飲み始めてしまう。そして、一度飲み始めたら自分の意志では止まらなくなって酩酊するまで飲んでしまう。このような飲酒状態を「'''強迫的飲酒'''」という。少量のアルコールの摂取によっても脳が麻痺してしまい、一滴でも飲み始めたらその後の飲酒の制御がほぼ不可能なるようなアルコール耐性が弱い体質となった状態である。
;目が覚めている間、常にアルコールに対する強い渇望感が生じる。
:強迫的飲酒が進んでくると常にアルコールに酔った状態・体内にアルコールがある状態にならないと気がすまなくなったり、調子が出ないと思うようになったりして、目が覚めている間は飲んではいけない時(勤務中や医者から止められている時など)であろうとずっと飲酒を続けるという「連続飲酒発作」がしばしば起こることがある。会社員など、昼間に人目のつく場所で飲酒ができない場合、トイレなどで隠れて飲酒をする例がある。さらに症状が進むと身体的限界が来るまで常に「連続飲酒」を続けるようになり、体がアルコールを受け付けなくなるとしばらく断酒し、回復するとまた連続飲酒を続けるというパターンを繰り返す「山型飲酒サイクル」に移行することがある。ここまで症状が進むとかなりの重度である。
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==== 精神神経の疾患 ====
;[[うつ病]]
:アルコール依存症によってうつ病が引き起こされる場合もある{{Sfn|世界保健機関|2010|loc=ALC}}{{Sfn|英国国立医療技術評価機構|2011|loc=Introduction}}。逆にうつ病によってアルコール依存症に陥ることもある(誤った[[セルフメディケーション]])。
;[[不安障害]]
:[[パニック障害]]、[[社交不安障害]]など。
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:文字通り[[小脳]]がアルコールの影響で変性することで発症する。歩行障害など下肢の[[失調]]が起こる。
;アルコール性痴呆
:アルコール自体が[[痴呆]]の原因となりうるのかは今のところ不明。ただしであるが、臨床的にはアルコール摂取が背景になっていると見られる痴呆が確かに存在する。画像検査では、脳室系の拡大と[[大脳皮質]]の萎縮が見られる。
;アルコール性多発神経炎(末梢神経炎)
:アルコールが原因の栄養障害(ビタミンB群とニコチン酸の欠乏)により発症する。四肢の異常感覚や痛み、感覚鈍麻や疼痛、手足の筋肉の脱力、転びやすい、走りにくいなどの症状。コルサコフ症候群に合併すれば「アルコール性多発神経炎性精神病」と呼ばれる。
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通常は飲酒行動を、主にアルコールによって得られる肉体的・精神的変容に求めることが多いが、初めのころは毎日飲むわけではなく、何かの機会に時々飲むだけという機会飲酒から始まる。しかし、何らかの原因で毎日飲む習慣性飲酒に移行することも多く、習慣性飲酒となると同じ量の飲酒では同じように酔うことができなくなり、次第に飲酒量が増えていくことになる(耐性の形成)。つまり、アルコール依存症になることはこの「習慣性飲酒」と深い関係があるということになる。もちろん、習慣性飲酒をする者すべてがアルコール依存症患者であるとは言えないが、何らかのきっかけがあればさらに飲酒量が増え、いつの間にか依存症に陥ってしまうという危険性は充分はらんでいると言える。
 
一見すると本人が自分の判断で好んで飲酒しているようにみえ、患者自身も好きで飲酒していると[[錯誤]]している場合が多い。そのため、患者にアルコール依存症のことを告げると「自分は違う」などと激しく拒絶をされることも多々あり、'''[[否認]]の病気'''とも言われている<ref name=nobuta />。しかし、依存が重度になると断酒によって肉体的・精神的に離脱症状(禁断症状)が出るため、楽しむためではなく離脱症状を避ける目的で飲酒を繰り返すことになる<ref name=nobuta />。このような状態に陥ってしまうと、もはや自分の意志だけで酒を断つことが極めて困難となる。
 
また、アルコール依存症の形成を助長するものとして、アルコール依存症になる人の周囲には、酒代になりうる小遣いを提供したり、過度の飲酒で生じる社会的な数々の不始末(他人に迷惑をかける、物品を壊す、等)に対して本人になり代わり謝罪したり、飲酒している本人の尻ぬぐいをする家族など、'''[[イネーブリング|イネーブラー]]'''(enabler)が存在することが多い<ref name="kasuga">{{Cite |和書|title=援助者必携 はじめての精神科 |author=春日武彦 |publisher=医学書院 |date=2011-12 |edition=2 |isbn=9784260014908 |page=126-131}}</ref>。イネーブラーは飲酒している当人の反省を必要とさせず、延々と過度に飲酒することを可能にしてしまうとされる。逆に、一切のイネーブラーがいなくなったり、医師から死を宣告されたりしたことをきっかけに、本人が「底つき体験」(「どん底体験」ともターニング・ポイントとも呼んだりする<ref name="kasuga" />。“このままでは大変なことになる”という意識の発生)をし、それをきっかけにアルコール依存症から立ち直ることがある<ref name="kasuga" />。
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:アルコール依存症になった者が元の機会飲酒者に戻ることはほとんど不可能であるとされている。たとえ身体的に回復し、数年にわたる断酒を続けていた者であっても、一口でも飲酒をすることによって再び元の強迫的飲酒状態に戻ってしまう可能性が非常に高い。そして、進行性の病気であるためにさらに症状は悪化していく。つまり、悪くなることはあっても、決して良くなることはない病気であり、寛解(かんかい)の状態で再発つまり再飲酒をどう防ぐかが治療の重要な点となる。
;死に至る疾患
:適切な対処をしなければ、内臓疾患あるいは極度の精神ストレスなどによる自殺または事故死など、何らかの形で死に至る場合が多い。アルコール依存症者の予後10年の死亡率は30 - 40パーセントと非常に高く、節酒を試みた患者と通常に飲酒した患者とでは死亡率に差が見られず、断酒することによってのみ生存率が高まる<ref>アルコール依存症の治療と回復―慈友クリニックの実践 世良 守行, 米沢 宏, 新貝 憲利</ref>。
;機能不全家族の形成要因
:飲酒による問題行動により、その家族は常にストレスに苛まれることになる。家族は常に飲酒をやめさせることばかり考えるようになり、家族まで[[精神疾患]]を罹患してしまうケースも少なくない。家族との信頼関係の亀裂に始まり、別居や離婚へと発展して家族が崩壊する原因となったりする。
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アルコール依存症の人の過剰な飲酒は、意志が弱いから・道徳感が低いからと言われたり、不幸な心理的・社会的問題が原因であると考えられがちだが実際はそうではなく、多くの場合この病気の結果であることが多い。つまり、アルコールによって病的な変化が身体や精神に生じ、そのために過剰な飲酒行動が起こるということである。このことをまず本人や周囲の者が理解し、認めることが、この病気から回復する上での欠かせない第一歩となる。しかし援助者は、治療という名目で処罰を与えてはならない{{Sfn|世界保健機関|2010|loc=ALC1}}。
 
ただ、一度アルコール依存症になってしまうと治療は難しく、根本的な治療法といえるものは現在のところ断酒しかない。しかし本人の意志だけでは解決することが難しいため、周囲の理解や協力が求められる。重度の場合は入院治療が必要な場合もある。それでもかし完治することはない'''不治の疾患'''とも呼ばれる事があり、断酒をして何年、十何年と長期間経過した後でも、たった一口酒を飲んだだけで、遅かれ早かれまた以前の状態に逆戻りしてしまうケースが多い<ref name="kasuga" />。そのため、治療によって回復した場合であっても、アルコール依存症者が一生涯断酒を続けることは大変な困難努力を要する。
 
=== 急性期の管理 ===
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==== 抗酒剤 ====
[[アセトアルデヒドデヒドロゲナーゼ]]([[アセトアルデヒド脱水素酵素]])の働きを阻害する薬品で、服用すると飲酒時に血中の[[アセトアルデヒド]]濃度が高まるため、不快感で多量の飲酒ができなくなる。つまり少量の飲酒で悪酔いさせる薬であり、飲酒欲求そのものを抑える薬ではない<ref name="kasuga" />。抗酒剤を飲んで大量飲酒をすると命にかかわる危険があるため、[[医師]]の指導の下、本人への充分な説明と断酒の決意を行った上での服用が必須である<ref name="kasuga" />。アルコール依存者に知られぬよう密かに投与するようなことは厳禁である<ref name="kasuga" />。
 
[[シアナミド]]と[[ジスルフィラム]](商品名は「シアナマイド」と「ノックビン」)の2種が日本では認可されている。