「植物図鑑 (小説)」の版間の差分

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翌朝、香りのついた夢で目が覚めるが、それは彼がありあわせの材料で作った朝食の香りだった。一緒に朝食を食べたさやかは、これからも彼の朝食を食べたくなり、ずっといていいと提案し2人の同居生活が始まる。彼は苗字が嫌いなので樹と呼んで欲しい、6か月だけ居させて欲しいといい、毎日の朝夕食、さやかのお昼のお弁当づくりを買って出る。さやかは食費と生活費でまず5万円を渡そうとするが、4万あれば1か月すべての食費と生活費は賄えるという。小遣いも必要なのではと聞くが、樹は深夜のバイトを始めたのでいらないという。さやかの入浴を覗こうとするわけでもなく、仕事で失敗すると癒してくれ、明かりのついた部屋に帰れる同居生活に幸せを感じるのだった。
 
ある日樹から、バイト代でお揃いの自転車を買ったので河原へ行こうと誘われ、そこで野草を摘んだり、写真を撮る樹の趣味を知る。また、持ち帰った野草からつくられた料理に感激し、さやかも植物に興味を持ち始め野草の本を買う。2人で食材の野草摘みや野草の花の鑑賞、花冠を作るうち樹に惹かれるようになるが、さやかには樹の歳も誕生日も苗字さえもわからない。
 
5月のある日、いつものように2人で河原に野草を摘みにきたところ、さやかが片足を川に落としてしまう。樹は、冷えないようにと靴の中に入れるハンカチを渡すがブランド物だったためどうしたのかと尋ねたところ、樹はバイト仲間から送られた物という。女性の影を感じたさやかは樹のバイト先に出かけ、そこでハンカチの送り主を知ってしまい、彼女が樹を日下部君と苗字で呼んでいるのを見て樹に抗議するがあしらわれる。
 
樹の夕飯を食べるため、同僚のアフターファイブも断ってまっすぐ部屋に帰って樹の夕飯を食べていたさやかだったが、そんなこともあり職場の飲み会への参加をOKする。飲み会の後、さやかの職場の先輩が送りオオカミを狙うが、駅まで迎えに来ていた樹に助けられる。樹に、愛想がよすぎるから狙われるんだとたしなめられるが、そんなことを言われる筋合いはない、樹にはハンカチをくれる女性がいるじゃないかと突っぱねる。言われた樹もむきになってしまい、口論の末、さやかは樹が好きだからそんな女性がいるのは許せなかったと告白してしまう。樹も実はさやかが好きだったと告白し、その日から2人の同居生活は恋人同士の生活に変わる。
 
甘い恋人同士の生活が続き、さやかの誕生日8月15日を迎える。その日は樹との同居の約束期限、6か月が過ぎる日でもあった。気になるさやかは急いで部屋に帰るが、部屋は真っ暗で約束通り樹がいなくなったと思ってしまう。ところがそれはサプライズ誕生日にする樹の作戦だった。樹の手作りのケーキとプレゼントの植物図鑑で祝ってもらい幸せいっぱいのさやかだった。
 
さやかはいつもどおり職場で樹のお弁当を食べ部屋に帰ると、テーブルの上にさやかの写真と山菜料理のレシピノートが置いてあり樹がいなくなっていた。あわてて樹のバイト先に行ったが2日前に辞めていた。樹の情報を得ようと藁をもすがる思いで、すでに辞めているハンカチの送り主の女性の連絡先を聞き出そうとするが断られてしまい、さやかは樹との接点を失ってしまう。
 
お昼はコンビニのおにぎりという元の生活に戻ったさやかだったが、ある日ハンカチの送り主の女性が通勤で降りる駅が、自分と同じ駅であることに気付く。彼女から情報を聞き出そうと後をつけるがストーカー行為でつかまってしまい、何も聞けないまま終わってしまう。
 
樹がいないまま、野草を摘むのも山菜料理を作るのも1人であることに慣れてきた頃、ふたたび廻ってきたさやかの誕生日に1冊の植物図鑑が送られてきた。それは樹自身が写真を担当した植物図鑑だった。その出版記念パーティーがあることを知り会場に駆けつけるが、そこで樹はすでに別世界の人だと知る。落胆し会場から帰ると、出会った時と同じ駐輪場に樹がいて、一緒に河原に行こうと誘われる。