「ビタミンB12全合成」の版間の差分

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ウッドワードはコリゲノリドを3N[[メタノール]]性[[塩化水素]]中に16時間放置し、インコリゲン酸メチルエステルを合成した<ref name="27(8)-47">[[#27(8)|「天然物化学最近の進歩(2)」『化学の領域』第27巻8号、p.47]]</ref>。しかしコバルトを導入するとそれが触媒となってエステルが分解されるので、この化合物に直接コバルトを導入して合成を進めるのは不可能だった。しかし、{{仮リンク|トリエチルオキソニウム四フッ化ホウ素塩|en|Triethyloxonium tetrafluoroborate}}を作用させて得られるO-メチルコリゲノリドは[[ラクトン]]環が開環したエキソ環状体と[[化学平衡|平衡]]をなしていることがわかった(ただし平衡は大きくラクトンよりに偏っている)ので<ref name="27(8)-48">[[#27(8)|「天然物化学最近の進歩(2)」『化学の領域』第27巻8号、p.48]]</ref>、大過剰の[[塩基]]を加えカルボン酸イオンが安定に存在できるようにした上で、大過剰の[[ジアゾメタン]]を加えてO-メチルコリゲン酸メチルエステルに変換した。これは[[テトラヒドロフラン]]中で[[塩化コバルト]]ないしはヨウ化コバルトを用いて容易にコバルト[[錯体]]に変換できる<ref name="27(8)-49">[[#27(8)|「天然物化学最近の進歩(2)」『化学の領域』第27巻8号、p.49]]</ref>。つまり、O-メチルコリゲノリドをテトラヒドロフラン中でコバルト[[塩 (化学)|塩]]で処理し、ついで空気および[[シアン]]イオンで処理し、さらにジアゾメタンで処理すると、O-メチルコリゲン酸メチルエステルが合成できる<ref name="27(8)-49"/>。しかしここからコバル酸を合成することはできなかった<ref name="27(8)-50">[[#27(8)|「天然物化学最近の進歩(2)」『化学の領域』第27巻8号、p.50]]</ref>。
 
一方エッシェンモーザーは化合物'''57'''に[[五硫化二リン]]および{{仮リンク|[[4-メチルピリジン|en|4-Methylpyridine}}]](γ-[[ピコリン]])を反応させ、[[ラクタム]]および[[ラクトン]]の[[酸素]]原子を[[硫黄]]に置換して''ジチオシアノコリゲノリド'''''58'''が生成することを発見した(同様のものが別に[[ケンブリッジ大学]]でも合成されていた)<ref name="27(8)-50">[[#27(8)|「天然物化学最近の進歩(2)」『化学の領域』第27巻8号、p.50]]</ref><ref name="27(9)-13">[[#27(9)|「ビタミンB<sub>12</sub>の全合成」『化学の領域』第27巻9号、p.13]]</ref>。これにメチルイソプロポキシ[[水銀]]およびトリメチルオキソニウム・フッ化ホウ素との反応でS-メチルジチオコリゲノリド'''59'''ができる。これに[[ジメチルアミン]]が付加して<ref name="27(8)-52">[[#27(8)|「天然物化学最近の進歩(2)」『化学の領域』第27巻8号、p.52]]</ref>[[メチル基]]から硫黄[[陰イオン]]が取り除かれ、{{仮リンク|チオラクトン|en|thiolactone}}環を含み、環外に[[二重結合]]を持つ[[アルケン]]'''60'''となる。このとき塩化コバルトまたはヨウ化コバルトによってコバルトが容易に導入される<ref name="27(9)-14">[[#27(9)|「ビタミンB<sub>12</sub>の全合成」『化学の領域』第27巻9号、p.14]]</ref>。この化合物は[[超分子化学|テンプレート合成]]([[:en:Supramolecular chemistry#Template-directed synthesis|英語版]])時に[[コバルト]]への{{仮リンク|付加物|en|Adduct}}から単離された。
 
また、エッシェンモーザーの手法では、化合物'''58'''をメタノール溶液中、[[カリウム tert-ブトキシド]]の存在下で脱離的開裂させ、生成した[[アニオン]]を[[ジアゾメタン]]でエステル化する。このエステル(チオコリゲン酸メチルエステル)から[[亜鉛]]誘導体を合成する。ここで[[過酸化ベンゾイル]]を反応させると環Aの硫黄原子と環Bの炭素原子の間に結合が生じ、[[スルフィド]]を含む大員環が完成する。その後硫黄が脱離し、[[炭素-炭素結合|炭素同士が結合]]する。実際、亜鉛のない化合物からでも[[N,N-ジメチルホルムアミド|ジメチルホルミアミド]]中で、[[トリフルオロ酢酸]]と[[トリフェニルホスフィン]]で処理すると同様の反応が起き、亜鉛を導入してから塩化亜鉛錯体として単離することができる<ref name="27(8)-51">[[#27(8)|「天然物化学最近の進歩(2)」『化学の領域』第27巻8号、p.51]]</ref>。また、ジチオコリゲノリド'''58'''にジメチルアミンのメタノール溶液を作用させると、チオコリゲン酸アミドオクタメチルエステルになる。これに亜鉛を導入して錯体とした後にヨウ素のメタノール溶液で酸化し、トリフルオロ酢酸と[[トリフェニルホスフィン]]で処理した後再び亜鉛を導入すると、亜鉛錯体が生成する。この手法のここまでの収率は50%を超えている。この亜鉛錯体から酸処理によって亜鉛を除き<ref name="27(9)-16">[[#27(9)|「ビタミンB<sub>12</sub>の全合成」『化学の領域』第27巻9号、p.16]]</ref>、[[塩化コバルト]]のテトロヒドロフラン溶液によってコバルトを導入すると'''60'''ができる<ref name="27(8)-51">[[#27(8)|「天然物化学最近の進歩(2)」『化学の領域』第27巻8号、p.51]]</ref><ref name="27(9)-17">[[#27(9)|「ビタミンB<sub>12</sub>の全合成」『化学の領域』第27巻9号、p.17]]</ref>。その後、'''60'''に塩基触媒環化法を適用し、ビスノルコバリン酸アミドオクタメチルエステル(化合物'''61''')が70%以上の収率で生成することが確認された<ref name="27(8)-51"/><ref name="27(9)-17"/>。1970年の時点で、(S)-ビスノルコバリン酸ヘプタメチルエステル('''61''')まで合成が進んでいた<ref name="27(9)-6">[[#27(9)|「ビタミンB<sub>12</sub>の全合成」『化学の領域』第27巻9号、p.6]]</ref>。