「エアバスA300」の版間の差分

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Wikipedia:秀逸な記事の選考/エアバスA300を受けた修正(細かい推敲含む)
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A300の胴体断面は外径5.64メートルの真円形となった{{sfn|藤田|2001a|pp=44–45}}。この胴体径は、必要な座席数を満たしつつ床下貨物室にLD-3[[航空貨物]]コンテナを左右並列に搭載できる寸法として決定された{{sfn|浜田|2010a|pp=96–97}}{{sfn|藤田|2001a|pp=44–45}}。構想初期には747の胴体幅に迫る6.4メートルという外径から始まったが、客席数の変更などに合わせて修正が重ねられて最終的に外径5.64メートルに落ち着いた{{sfn|藤田|2001a|pp=44–45}}{{sfn|浜田|2010a|pp=94–97}}。
 
A300の空力学的特性は、欧州域内を結ぶ短中距離路線で最適となる飛行速度と経済性を目指して設計された{{sfn||Obert|2009|p=251}}。A300の主翼の[[翼型]]にはホーカー・シドレーが[[ホーカー・シドレー_トライデント|トライデント]]や[[ホーカー・シドレー HS.125|HS.125]]、[[アームストロング・ホイットワース AW.681|HS.681]]などの研究開発を通して10年以上練り上げてきた「リア・ローディング翼型」が採用された{{sfn|松田|1981b|p=103}}。この翼型は翼後方の下面がえぐられたような形状を持ち、翼の後半で多くの揚力を得ることができ、遷音速{{refnest|group="注釈"|name=transonic|飛行速度が音速より速い場合を超音速、遅い場合を亜音速と呼ぶ。飛行機の周りを流れる空気の流れは一様ではない。速度が亜音速から音速に近づくと、流れが加速された領域が超音速となり、それ以外が亜音速となる。この亜音速と超音速が混在する領域が遷音速と呼ばれる<ref name=encyclopedia-165/>。}}での巡航時に翼表面の流速が部分的に音速を超えても抵抗が急増しないという特徴を持つ{{sfn|浜田|2010a|p=97}}{{sfn|渡邊|1981a|p=6}}{{sfn|Obert|2009|pp=252&ndash;253}}{{sfn|松田|1981b|pp=103&ndash;104}}。当時最先端の技術であり、注目を浴びた{{sfn|松田|1981b|p=103}}。このリア・ローディング翼型の特性は、1968年に[[アメリカ航空宇宙局]] (NASA) が開発したスーパークリティカル翼型と基本的に同じであるが、翼を設計したホーカー・シドレーは、NASAとは独立にリア・ローディング翼型の開発に至ったとして、決してスーパークリティカル翼型の一種とは認めなかった{{sfn|浜田|2010a|p=97}}。
 
リア・ローディング翼型は衝撃波の発生を遅らせ揚力係数を増加できることから、後退角と翼厚比を同じくした場合に従来の翼型よりも高速で飛行できる{{sfn|浜田|2010a|p=97}}{{sfn|渡邊|1981a|p=6}}。しかし、A300は短中距離路線に適した旅客機を目指していたことから高い巡航速度は不要とされ、リア・ローディング翼型の特色を翼厚を増やして後退角を減らすよう振り向けられた{{sfn|浜田|2010a|p=97}}{{sfn|松田|1981b|p=104}}。後退角は25パーセント翼弦で28度と浅くなり低速時の操縦性に有利になったほか、翼厚比の増加は強度面に有利に働き、構造重量は従来の翼厚比の主翼と比べて同一翼面積で1トン以上の軽量化に成功した{{sfn|松田|1981b|p=105}}{{sfn|渡邊|1981a|p=6}}{{sfn|李家|2011|p=132}}。
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[[File:Iberia Airbus A300B4-120 EC-DLG.jpg|thumb|[[イベリア航空]]のA300B4。同社はA300B4の最初の発注者となったが一度キャンセルし、後に再発注した。]]
イースタン航空によるA300の運航は好調で、同社は「今までの機材中最高」と評価した{{sfn|松田|1981a|p=58}}。ちょうどこの頃から世界の航空業界も不況を切り抜け経営を立て直しつつあった{{sfn|松田|1981a|p=58}}。航空機需要が上向きになり、1977年後半からA300の販売は急に売れ出した{{sfn|松田|1981a|p=58}}。石油危機による燃料費の高騰が長期に渡ったことで、双発で大人数を乗せられるA300の経済性が認められることとなった{{sfn|谷川|2016|loc=位置No.995/2772}}。[[スカンジナビア航空]]や[[アリタリア-イタリア航空|アリタリア航空]]に加え、[[タイ国際航空]]や[[ガルーダ・インドネシア航空]]、そして日本の[[東亜国内航空]]といった欧州以外の航空会社からも新規受注を獲得した{{sfn|松田|1981a|p=58}}。エールフランスやルフトハンザ航空の追加発注やイベリア航空からの再発注も加わり、確定受注数は1977年が20機、1978年が70機、1979年も前半だけで50機に達し、エアバス関係者も予想していなかった売れ行きとなった{{sfn|松田|1981a|p=58}}。一転してA300の増産が決まり、1979年には月産2.5機、[[1980年]]の通算118号機完成後からは月産3機となった{{sfn|松田|1981a|p=58}}。
 
この販売好調には、エアバス機を導入する航空会社に対する好条件の融資も一役買っていた{{sfn|松田|1981a|p=59}}。エアバス加盟国の政府保証のもと欧州の銀行団が、必要資金の90%近くまで年率8%台固定で貸し出し、10年またはそれ以上の延べ払いも可能とするなど、[[合衆国輸出入銀行|米国輸出入銀行]]が自国製旅客機に設定する条件を上回っていた{{sfn|松田|1981a|p=59}}。
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=== 形状・構造 ===
[[File:Onur Air Airbus A300 Karakas.jpg|thumb|左後方やや上から見下ろしたA300B4。]]
A300の最大の特徴として、250席から300席級というサイズの旅客機を双発機として実現したこととさがあげられる{{sfn|松田|1981b|p=102}}。A300は、客室内に2本の通路をもつワイドボディ機である{{sfn|渡邊|1981a|p=5}}{{sfn|久世|2006|p=139}}。片持ち式の主翼を低翼に配置した[[単葉機]]であり、左右の主翼下に1発ずつ[[ターボファンエンジン]]を備える{{sfn|渡邊|1981a|pp=5&ndash;7}}。[[尾翼]]も低翼配置で垂直・水平尾翼ともに胴体尾部に直接取り付けられている{{sfn|渡邊|1981a|pp=5&ndash;6}}。[[降着装置]]は前輪式配置で機首部に前脚、左右の主翼の付け根に主脚がある{{sfn|青木|2010|p=68}}。A300第1世代の機体全長は53.62メートル、全幅は44.84メートル、全高は16.53メートルである{{sfn|藤田|2001b|p=57}}<ref group="注釈" name=length/>。
 
[[File:Translift Airways Airbus A300 Aragao.jpg|thumb|A300B4の右側面。尾部に向けて絞り込まれている胴体後部では客室床も後ろ上がりに傾斜しており、それに合わせて客室窓も少しずつ上がっている。]]
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主翼[[翼平面形|平面形]]の主なパラメータを見ると、全幅が44.84メートル、主翼面積が260平方メートルでアスペクト比{{refnest|group="注釈"|name=aspect_ratio|アスペクト比とは翼幅の2乗を面積で割った値で翼の細長比を示す値である<ref name=encyclopedia-314/>。}}は7.7である{{sfn|渡邊|1981a|p=5}}{{sfn|松田|1981b|p=104}}。25パーセント翼弦における後退角が28度と比較的浅い一方、翼厚比{{refnest|group="注釈"|name=wing_thickness|最大翼厚を翼弦長で割った値<ref name=JAL-dict-p030>{{Cite web |title=航空実用事典 翼型と翼 |publisher=日本航空 |url=http://www.jal.com/ja/jiten/dict/p030.html |accessdate=2014-11-29 |archiveurl=http://web.archive.org/web/20150508210942/http://www.jal.com/ja/jiten/dict/p030.html |archivedate=2015-08-05}}</ref>}}は10.5パーセントとやや厚めである{{sfn|渡邊|1981a|p=5}}{{sfn|浜田|2010a|p=97}}。浅い後退角は低速時の操縦性を向上しやすいほか、翼根部の[[曲げモーメント]]の低減にも繋がり、厚い翼厚比と合わせて構造強度上有利であり構造重量の低減が図られている{{sfn|李家|2011|p=132}}{{sfn|渡邊|1981a|p=6}}{{sfn|浜田|2010a|p=97}}。
 
主翼の[[翼型]]には開発当時の最新技術である「リア・ローディング翼型」が採用されている{{sfn|渡邊|1981a|p=6}}{{sfn|浜田|2010a|p=97}}。この翼型の翼断面は前縁が大きな丸みを帯び、上面は比較的平らで下面は後縁がえぐられたような形状である{{sfn|浜田|2010a|p=97}}{{sfn|松田|1981b|p=103}}。高亜音速や遷音速<ref group="注釈" name=transonic/>で飛行すると、機体の飛行速度が[[マッハ数|マッハ]]1以下でも翼面上を流れる空気は局所的に音速を超えることがある{{sfn|李家|2011|p=119}}。音速を超えた気流は大きな負の圧力を示し、翼を引きつけるよう作用する{{sfn|李家|2011|p=120}}。しかし、この気流は翼面上の後方に向かって最終的に飛行速度まで減速するため、音速以下に戻るところで[[衝撃波]]が発生して抵抗の急増や飛行性の急変を起こす{{sfn|久世|2006|p=115}}{{sfn|李家|2011|p=120}}。巡航状態におけるリア・ローディング翼型の圧力分布は、翼上面の前縁付近に負圧が最大になる地点(すなわち流速が最大になる地点)があるがそのピークは従来のピーキー翼型と比べて低く、翼表面の流速が音速を超えても抵抗が急増しない{{sfn|渡邊|1981a|p=6}}{{sfn|Obert|2009|pp=252&ndash;253}}{{sfn|松田|1981b|pp=103&ndash;104}}。続く上面の圧力分布は翼弦長の中程までほぼ一定で、そこから後縁に向けて穏やかに低下する{{sfn|渡邊|1981a|p=6}}{{sfn|Obert|2009|pp=252&ndash;253}}{{sfn|松田|1981b|pp=103&ndash;104}}。一方翼下面では、一旦負圧が上昇するが後半部のえぐりにより流れが減速されて上面との圧力差が確保されるため、翼弦上の後方で多くの揚力を得ることができる{{sfn|渡邊|1981a|p=6}}{{sfn|浜田|2010a|p=97}}。このリア・ローディング翼型の特性は、1968年に[[アメリカ航空宇宙局]] (NASA) が開発したスーパークリティカル翼型と基本的に同じであるが、翼の設計を行った[[ホーカー・シドレー]]社は、NASAとは独立にリア・ローディング翼型の開発に至ったとしてスーパークリティカル翼型の一種とは認めていない{{sfn|浜田|2010a|p=97}}。リア・ローディング翼型は衝撃波の発生を遅らせ揚力係数を増加できることから、後退角と翼厚比を同じくした場合に従来の翼型よりも高速で飛行できる{{sfn|浜田|2010a|p=97}}{{sfn|渡邊|1981a|p=6}}。しかし、欧州域内を結ぶ短中距離機として開発されたA300では高い巡航速度は不要とされ、前述の通り後退角を減らし翼厚比を大きくする設計がなされた{{sfn|浜田|2010a|p=97}}{{sfn|松田|1981b|p=104}}。主翼の空力設計が優れていたことが、A300が成功した要素の一つとも言われる{{sfn|谷川|2016|loc=位置No.1027/1772}}。
 
{{Multiple image|align=right|direction=vertical
808行目:
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|isbn=4-381-10432-3
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*{{Citation|和書
|last=谷川 |first=一巳
|title=ボーイングvsエアバス熾烈な開発競争 : 100年で旅客機はなぜこんなに進化したのか
|publisher=交通新聞社
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|edition=Kindle
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*{{Citation|和書