「インスリン」の版間の差分

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== 構造 ==
インスリンはアミノ酸からなるペプチドで、A鎖とB鎖の[[二量体]]という構造を有している。
[[プロセッシング]]される前のプリプロプロテインは、ロイシン(18%)(18%)、グリシン(11%)(11%)、アラニン(9%)(9%)38%38%とその4割近くを占める。
これはプロセッシング後に4つに切断され、そのうちの2つがA鎖とB鎖として切りだされ二量体を構成する。
 
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B鎖: FVNQHLCGSHLVEALYLVCGERGFFYTPKT <br/>
 
二量体のアミノ酸比率は、システイン(12%)(12%)とロイシン(12%)(12%)がもっとも多く合計で{{frac|1|4}}を占める。
 
== 生化学 ==
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[[1869年]]に[[ドイツ]]・[[ベルリン]]の医学生[[パウル・ランゲルハンス]] (Paul Langerhans) は、顕微鏡で見た[[膵臓]]の構造を研究していた。後に[[ランゲルハンス島]]として知られる「小さな枠の集合体」は当時まだ知られていなかったが、[[エドワール・ラゲス]] ([[:en:Edouard Laguesse|Edouard Laguesse]]) は、それらが消化に関わる大きな役割を果たすものであり得ると主張した。
 
[[1889年]]、[[リトアニア]]出身の[[ドイツ]]の内科医[[オスカル・ミンコフスキ]] ([[:en:Oskar Minkowski|Oskar Minkowski]]) と[[ヨーゼフ・フォン・メーリング]] ([[:en:Joseph von Mehring|Joseph von Mehring]]) は健康な犬の[[膵臓]]を取り除く研究を行った。実験が始まって数日後、ミンコフスキーは[[ハエ]]がいつもこの犬の[[尿]]に群がっていることに気いた。尿を調べてみると、糖分が含まれており、ここで初めて[[膵臓]]と[[糖尿病]]との関係が実証された。
 
[[1901年]]、[[アメリカ]]の病理学者[[ユージン・オピー]]([[:en:Eugene Lindsay Opie|Eugene Opie]])によりランゲルハンス島と糖尿病との関連が明らかにされたとき、この研究は新たな段階を迎えた。つまり、[[糖尿病]]はランゲルハンス島の部分的あるいは全体的な破壊によって引き起こされるということがわかったのである。しかしながら、ランゲルハンス島が果たす特定の役割については、ここではまだよくわかっていなかった。[[ファイル:insulin_synthesis.png|framed|right|1. Preproinsulin ('''L'''eader, '''B''' chain, '''C''' chain, '''A''' chain); proinsulin consists of BCA, without L<BR>2. Spontaneous folding<BR>3. A and B chains linked by sulphide bonds<BR>4. Leader and C chain are cut off<BR>5. Insulin molecule remains]]
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|}
 
:速効型と中間型を10%10%から50%50%の割合で混ぜた混合型インスリンがよく使われている。
 
;中間型インスリン製剤
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=== 販売名命名の取扱い ===
2014年(平成26年)7月10日、厚生労働省は、注射剤について配合剤であることに気づかず重複して投与するおそれを防ぐための対策として通知を発行した<ref>{{Cite web |url=http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11120000-Iyakushokuhinkyoku/0000074213.pdf |title=医療用配合剤の販売名命名の取扱い」および「インスリン製剤販売名命名の取扱い」の一部改正について」 |format=PDF |publisher=厚生労働省医薬食品局審査管理課長・同安全対策課長 |date=2013-08-01 |accessdate=2015-12-25}}</ref>。
* インスリンのバイアル製剤は、「ブランド名」+「製剤組成の情報」+「剤型」+「規格(濃度)」 とする(例:ノボラピッド注100単位/mL)
:* 製剤の性状R(速効型)あるいはN(中間型)を表示し、混合物ではRの割合を表示する(ただし異なる性状の製剤がい場合は省略可)
:* 剤型は注とし、2種類以上の有効成分を含有する場合は、配合注とする
:* インスリンのバイアル製剤で有効成分が1種類の場合は、規格(濃度)の数字のみでなく「単位/mL」を入れる
* インスリンのカートリッジ製剤・キット製剤は、「ブランド名」+「製剤組成の情報」+「剤型」+「容器の情報」 とする
:* 製剤の性状R(速効型)あるいはN(中間型)を表示し、混合物ではRの割合を表示する(ただし異なる性状の製剤がい場合は省略可)(例:ヒューマログミックス50注カート/ ヒューマログミックス50注ミリオペン)
:* 剤型は注とし、2種類以上の有効成分を含有する場合は、配合注とする
:* 規格(濃度)は、直接の容器等への記載事項とする
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ペン型注射器を用いて、1日数回の[[皮下注射]]によってインスリン注入を行う。
* インスリンポンプ
コンピューター制御で自動的にインスリンを注入する機械で、[[膵臓]]に似せたインスリンの注入スケジュール・プログラムを入力できるものである。これによる治療を'''インスリン持続皮下注療法'''という。インスリンポンプを使うと、針は刺しっぱなしでよく、針の刺し換えは 3日に1回程度で済む。短所としては、生体の膵臓は体調に合わせてインスリンを分泌するが、インスリンポンプはプログラムに合わせて人間の生活を管理しなければならないということ、また機械が故障すると[[糖尿病性ケトアシドーシス]]などの事故も起こりうるので、患者はペン型注射器を予備として常備しておく必要があることである(参考:2007年現在、アメリカの某会社のインスリンポンプは血糖値を測定しつつリアルタイムにコンピューター処理し、現在の適正なインスリン注入量を投与する技術レベルにまで達している。日本では厚生労働省の認可に時間がかかるため、最新機種よりも常に2~3世代古いインスリンポンプの輸入販売が行われ続けているのが現状である。2015年現在、日本では、2007年には既にアメリカにあった血糖値をリアルタイムで測ることが出来できるインスリンポンプを導入している。)
*吸入型インスリン(2006年1月26日に[[ファイザー]]社がFDAの承認を受けたのが初。しかし、ファイザーは市場規模が少ない事から2007年10月に吸入インスリンのエクスベラの発売停止を発表した。ノボ社は2008年1月14日、[[イーライリリー]]社も2008年3月7日、開発取りやめを発表、同じく安全性よりも市場の動向を配慮した。)
 
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たとえば、ある日の昼前の血糖値が通常より高かったなら、翌日の朝食前の超速効型インスリン量を増やす、といった方法を採る。食事の内容や運動量によって血糖値は変化するため、注意は必要である。
 
即効型または中間型インスリンを用いるときの考え方であり、同インスリン製剤を用いる上での難しさを物語る考え方である。持効型インスリンに超速効型インスリンを組み合わせて用いる際にはこのようなことを考える必要がない。
 
朝食前のRは昼食前の血糖を下げる。昼食前のRは夕食前の血糖を下げる。夕食前のRは就寝前の血糖を下げ、就寝前のNは朝食前の血糖を下げると考えると分かりやすい。
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|70kg||35単位||36単位||9||9||9||9
|}
食前血糖値、空腹時血糖値が140mg/dL以上や食後2時間血糖値が200mg/dL以上の場合は責任インスリンの増量を検討する。食前血糖値が70mg/dL以下であれば責任インスリンの減量を検討する。ただし、調節するインスリンの総量は4単位を超えない範囲で行うのが安全である。
 
==== インスリン相対的適応(必ずではないがインスリンが必要) ====
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|70kg||14単位||16単位||4||4||4||4
|}
食前血糖値、空腹時血糖値が140mg/dL以上や食後2時間血糖値が200mg/dL以上の場合は責任インスリンの増量を検討する。食前血糖値が70mg/dL以下であれば責任インスリンの減量を検討する。ただし、調節するインスリンの総量は4単位を超えない範囲で行うのが安全である。
 
=== シックディルール ===
糖尿病患者が治療中に発熱、下痢、嘔吐をきたし、または食思不振のため食事ができない状態を[[シックディ]]という。この場合の対応としては主治医や医療機関に連絡を行い指示を受ける、インスリンを決して自己中断をしない、水分を摂取して十分に脱水を防ぐ、口当たりがよく消化によいものを摂取し絶食にならないようにする、血糖を3~4時間ごとに測定する、可能ならば尿中ケトン体を測定するといったことが原則となる。2型糖尿病で食事が十分に摂取できていれば普段通りにインスリンの投与を行い、食事量が半分ならばインスリンを普段の半分量使用する、ほとんど摂取が不可能ならば血糖値に応じてインスリンスライディングスケールで対応するのが一般的である。1型糖尿病の場合は基礎分泌に相当するインスリン量は変更しないのが原則である。入院の適応を考えるべき状況とは高熱が2日以上続く時や、嘔吐や下痢が続く時、脱水や尿量減少が認められるとき、高血糖(350mg/dL以下にならない)や尿中ケトン体陽性が続く時、高血糖に伴う症状(口渇、多飲、多尿、急激な体重減少、意識障害)があるときなどがあげられる。この状態になった場合は糖尿病性昏睡などの治療にのっとって治療を行う。
 
==== その他の療法 ====
基礎インスリン分泌が保たれているような患者では、速効型(または超速効型)インスリンの毎食前3回注射など強化インスリン療法に準じた注射方法がある。また頻回のインスリン注射が困難な患者や強化インスリン療法が適応とならない患者(ほとんどが相対的適応)では混合型または中間型の一日1回~2回投与という方法もある。具体的にはNを朝食前に一回打ちにしたり、混合型製剤を朝食前、夕食前の2回打ちにし、食後血糖を抑えるためαグルコシターゼ阻害薬を併用した入りするなどがオーソドックスといわれている。このような投与法でもインスリン量は0.2単位/kgにて開始し、0.5単位/kgまで増量可能である。中間型を2回打ちする場合は朝:夕を2:1または3:2の比率とすることが多い。中間型インスリンが一日10単位以上の場合は一日二回と分けることが多い。
;二相性/混合インスリンアナログ一日二回法
初期投与量としては0.2単位/kg/dayにて開始する。経口薬を併用することが多い。昼食前後の責任インスリンは存在しない。
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空腹時血糖80mg/dL以下ならば2単位の減量を検討、空腹時血糖130mg/dL以上ならば2単位の増量を検討する。
;ステロイド糖尿病におけるインスリン療法
ステロイドの血糖上昇作用は投与後2~3時間で発現し5~8時間で最大に達する。すなわち空腹時血糖は正常であっても午後から夜にかけて高血糖になりやすい。食後血糖が250~300mg/dLに達した場合はインスリン療法を行う場合が多い。なお経口薬でも血糖コントロールは可能である。もともとインスリンを用いている場合はPSL5mgにつきインスリン2~4単位の増量が必要となる場合が多い。インスリンを用いていない糖尿病患者の場合はPSL20mg/dayで12~18単位/day、PSL40mg/dayで26~32単位/dayが最終投与量となる場合が多い。また非糖尿病患者の場合は0.2単位/kg/dayでインスリン療法を開始する。[[ステロイドパルス療法]]では血糖が400mg/dL程度まで急激に上昇するため一時的にスライディングスケールを用いることが多い。下記がよく用いられるスライディングスケールの例である。
{| class="wikitable"
!style="white-space: nowrap;"|血糖値(mg/dL)!!style="white-space: nowrap;"|処置
|-
|<70||50%50%ブドウ糖20mL静注、またはブドウ糖10g内服
|-
|70~150||stay
317行目:
!style="white-space: nowrap;"|血糖値(mg/dL)!!style="white-space: nowrap;"|処置
|-
|<70||50%50%ブドウ糖20mL静注、またはブドウ糖10g内服
|-
|70~150||stay
348行目:
|午前3時||90以上
|}
CSIIでは強化インスリン療法(4回打ち)の時のインスリンの60~80%60~80%のインスリン量でコントロールできる場合が多い。基礎注入量と食前ボーラス量を決定する。基礎注入量が全体の40~50%40~50%を占め、残りが食前ボーラスとなることが多い。
 
==== 糖尿病緊急症のときのインスリンの使用 ====
372行目:
|}
 
== 脚注 出典==
{{Reflist}}
 
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* [[インスリン抵抗性]]
* [[インスリン・ショック療法]]
* [[グリセミック指数#低インスリンダイエット]] - グリセミック値の低い食品またはその摂取をいう。[[血糖値]]の一過的な上昇を避けることでインスリンの分泌を回避し、[[脂肪]]の蓄積を防ぐとされ、[[ダイエット]](美容痩身)目的で行われることがある。ただしこのダイエット法に関する論文はほとんど存在せず有効性は疑わしいとされる。
 
== 外部リンク ==