「セファロスポリン」の版間の差分

削除された内容 追加された内容
EW-NK32 (会話 | 投稿記録)
→‎注射薬: 二重否定?になっていた文(~だが~だが~)を修正
4行目:
 
== 歴史 ==
'''セファロスポリン'''が最初に単離されたのは、[[サルデーニャ島]]の排水溝で採取された''[[アクレモニウム|Cephalosporium acremonium]]''の培地から[[1948年]]にイタリア人科学者{{仮リンク|ジュゼッペ・ブロツ([[w:|en:Giuseppe Brotzu|en:Giuseppe Brotzu]])}}により発見された。彼は、[[腸チフス]]の原因となる[[チフス菌]]に対して効果がある物質を産生する培地に注目していた。[[1960年代]]に[[イーライリリー・アンド・カンパニー|イーライ・リリー]]社によりセファロスポリンは上市された。他の多くのセファロスポリンの開発は[[抗菌剤の年表]]に詳しい。
また、上記のように'''セファロスポリン'''を始めとする第一世代セフェムなどの薬剤に対して、そのβラクタム環を加水分解、失活させてしまう[[グラム陰性菌]]の表層酵素の[[セファロスポリナーゼ]]が問題視されている。
 
== 作用機序 ==
セファロスポリンは[[ペニシリン]]と同様な機序で[[細菌]]の細胞壁の[[ペプチドグリカン]]合成に干渉して、架橋のために必要な最終段階のペプチド間結合反応を阻害する。

すなわち、[[ペニシリン]]の場合はペプチドグリカン合成阻害により、細胞膜が浸透圧に抗しきれず溶菌現象を経て'''殺菌作用'''として働く場合が多いのに対して、セファロスポリンの場合は、細胞壁の変性により細胞分裂を阻害することで細菌の増殖を抑える場合が多いのでこの作用は'''静菌作用'''と呼ばれる。両者の違いは阻害する酵素の違いと、ペニシリンが主にグラム陽性菌に対して利用され、グラム陽性菌の細胞壁の場合は溶菌しやすいことにもよる。
 
== 特徴 ==
原型であるセファロスポリンCとペニシリンGとを比べた場合、ペニシリンがほとんどグラム陰性菌に対して作用しないのに対して、セファロスポリンは一部グラム陰性菌にも作用を持つ。また、安定性の面ではセファロスポリンはもともと酸に対する安定性が高く、またペニシリン分解酵素にもある程度の耐性を持つ。
 
1950年代当時は、ペニシリンが細菌感染症治療の主力であったが、ペニシリンは酸に不安定で注射剤以外の利用は困難であり、院内での治療にのみ使用されるのみであった。また1960年代頃からペニシリンは耐性菌の問題が発生し始め、その当時の耐性発現は主にペニシリナーゼによるものであったため、ペニシリナーゼによる不活化を生じないセファロスポリンは徐々にペニシリンと置き換えられるようになった。また、セファロスポリンの場合はペニシリンショックのような重篤なアレルギー症状の発現頻度が低いと言われていた点も挙げられる。
 
第二世代セファロスポリンの頃から、酸に安定な性質から経口剤が開発されるようになり、グラム陰性菌への抗菌スペクトル拡大と共に、通院治療にも利用できる万能感染治療薬としての地位を固め、1980年代以降はセファロスポリンが抗菌剤の主力となった。
 
1980年代に入ると、グラム陽性菌にやや作用の弱い第三世代セフェムに抵抗する多剤耐性のMRSA等が台頭し、特に大手術等で免疫機能の低下した患者に日和見感染を引き起こす院内感染が問題とされるようになった。すなわち、セフェムが静菌的であり第三世代がグラム陽性菌にやや作用が弱いことで、風邪などの軽症患者をも含めたセファロスポリンの多用が人体とその周囲に常在するグラム陽性菌の中から耐性菌を選抜する状況を引き起こしたとも考えられている。
 
=== 副作用 ===
25 ⟶ 27行目:
 
== 生合成 ==
産生菌におけるセファロスポリンの生合成は、途中までは[[ペニシリン#生合成|ペニシリン生合成過程]]と同一であり、ペニシリンNより生合成される。すなわち、ACVトリペプチド (δ-(L-α-amino-adipate)-L-cysteine-D-valine)を出発原料として酵素isopenicillin-N-synthetase (EC 1.21.3.1)によりセファロスポリン類も生合成されている。また3位アミノ側鎖のカルボン酸成分は基質特異性の低い酵素N-acyltransferaseの作用により交換され、Cephalosprin C、P等のセファロスポリン類が生成する。
 
== 世代 ==
セファロスポリン骨格は修飾により異なった特性を得ることができる。日本では第一世代セフェム、第二世代セフェム、第三世代セフェムと称するが、欧米で言うところのセファロスポリンの世代と一部合致しない。非常によく用いられている分類だが、これは発売時期によって分類されたもので一概に個々の抗菌薬の性質を表してはいないとの意見もある。しかし概ね世代が上になるほどグラム陰性菌へのスペクトルが増し、グラム陽性菌に関しては効果が薄くなる傾向がある。しかし第4世代は第3世代よりグラム陽性菌への効果が高い。
 
また、以下の例示には日本国内で未承認の医薬品も含む。括弧内は、一つ目は成分名、その後列挙されるのは商品名
===第一世代セフェム===
第一世代のセファロスポリンは名前に'ph'の綴りを含むものが多い(第二世代以降は"Cef-"と綴るものが大半)。第一世代セフェムは[[連鎖球菌]]とペニシリナーゼ産生菌、メチシリン感受性を含む[[ブドウ球菌]]に[[抗菌スペクトラム]] を持つが、これらが起因菌の感染症の薬剤としては選択されない。[[大腸菌]]、[[肺炎桿菌]]や[[プロテウス菌]]にいくらか作用するが、Bacteroides fragilis、腸球菌、メチシリン耐性連鎖球菌、[[緑膿菌]]、アシネトバクター属、エンテロバクター属の菌、インドール陽性プロテウス菌、[[セラチア菌]]には作用を持たない。
* セファゾリン([[w:en:cephazolin]]/cefazolin; Ancef®, Cefacidal®, Cefamezin®, Cefrina®, Elzogram®, Gramaxin®, Kefazol®, Kefol®, Kefzol®, Kefzolan®, Kezolin®, Novaporin®, Zolicef®)Zolicef)
* セファロチン(cephalothin; Ceporacin®, Keflin®, Seffin®)Seffin)
* セファピリン(cephapirin; Cefadyl®, Lopitrex®)Lopitrex)
* [[セファレキシン]]([[w:en:cephalexin]](cephalexin; Cefanox®, Ceporex®, Keflet®, Keflex®, Keforal®, Keftab®, Keftal®, Lopilexin®)Lopilexin)
* セファラジン([[w:en:cephradine]]; Anspor®, Askacef®, Velosef®)Velosef)
* セファドロキシル(cephadroxil; Baxan®, Bidocef®, Cefadril®, Cefadrox®, Cefroxil®, Ceoxil®, Cephos®, Crenodyn®, Duracef®, Duricef®, Kefroxil®, Longacef®, Moxacef®, Oradroxil®, Ultracef®)Ultracef)
<gallery>
画像:構造式 Cefazolin.png|セファゾリン
54 ⟶ 56行目:
===第二世代セフェム===
第二世代セフェムは[[グラム陰性菌]]の[[抗菌スペクトラム]]増強され、球菌の一部は作用が残るが後の[[グラム陽性菌]]は作用は減弱した。また、[[ベータラクタマーゼ]]に対して比較的安定になった。
* セフマンドール(cefamandole; Kefdole®, Mandol®, Mandokef®)Mandokef)
* セフロキシム([[w:en:cefuroxime]]; Ceftin®, Elobact®, Kefurox®, Oracef®, Oraxim®, Zinacef®, Zinadol®, Zinat®)Zinat)
* セフォニシド(cefonicid; Monocid®)Monocid)
* セフォラニド(ceforanid; Precef®)Precef)
* セファクロル(cefaclor; Ceclor®, Distaclor®, Keflor®, Kefral®, Panacef®, Panoral®)Panoral)
* セフプロジル(cefprozil; Cefzil®)Cefzil)
* セフポドキシム(cefpodoxime; Banan®, Vantin®)Vantin)
* ロラカルベフ(loracarbef; Lorabid®)…Lorabid)…カルバセフェム系
 
<gallery>
79 ⟶ 81行目:
==== 第三世代セファロスポリン ====
第三世代セファロスポリンは、腸内グラム陰性桿菌に作用する広域抗菌スペクトラムを持ち、特にグラム陰性桿菌による外科の術後感染の治療に有用である。また、一部を除き[[血液脳関門]]を通過しやすいという特性を持ち、化膿性髄膜炎の治療にも用いられる(特にセフトリアキソン、セフォタキシム)
* [[セフトリアキソン]]([[w:en:ceftriaxone]](ceftriaxone; Rocephin®)Rocephin)
* セフォタキシム([[w:en:cefotaxime]]; Cefotax®, Claforan®)Claforan)
* セフチゾキシム(ceftizoxime; Ceftix®, Cefizox®, Epocelin®)Epocelin)
* セフタジジム([[w:en:ceftazidime]]; Cefortime®, Ceptaz®, Fortaz®, Fortum®, Glazidim®, Kefadim®, Modacin®, Tazicef®, Tazidime®, Tanicef®)Tanicef)
* セフォペラゾン(cefoperazone; Cefobid®, Cefoperazin®, Sulperazon®)Sulperazon)
* セフスロジン(cefsulodin; Pseudocef®, Pseudomonil®, Takesulin®, Tilmapor®)Tilmapor)
* セフチブテン([[w:en:ceftibuten]]; Cedax®, Procef®, Seftem®)Seftem)
* セフィキシム(cefixime; Cefspan®, Suprax®)Suprax)
* セフェタメット(cefetamet; Globocef®)Globocef)
* セフジトレン ピボキシル(cefditoren; Meiact®)Meiact)
 
<gallery>
102 ⟶ 104行目:
画像:Cefditoren pivoxil.svg|セフジトレン ピボキシル
</gallery>
セフォペラゾン([[w:en:Cefoperazone]])はスルバクタム([[w:en:Sulbactam]])との合剤でSulperazon&reg;という商品名で販売されている。.
 
==== 第四世代セファロスポリン====
第四世代セファロスポリンは第三世代セファロスポリンに比べて、グラム陽性菌の抗菌スペクトラムを増強した広域抗菌スペクトラムを持つ。また第三世代セファロスポリンに比べて[[ベータラクタマーゼ]]に対して安定である。
* [[セフェピム]]([[w:en:cefepime]]; Maxipime®)Maxipime)
* [[セフピロム]](cefpirome; Broact®, Cefrom®, Keiten®)Keiten)
<gallery>
画像:構造式 Cefepime.png|セフェピム
124 ⟶ 126行目:
</div>
'''セファマイシン'''(Cephamycins)とは、[[β-ラクタム系抗生物質]]の1つで、'''セファロスポリン'''に類似の構造を持つ。セファロスポリンと共に[[セフェム系]]と呼ばれる抗生物質の分類を形成する。'''セファマイシン'''は元はストレプトミセス属の菌より産生されたものを起源とするが、合成的に生産されたものも同様に分類する。もともとセファマイシンはセファロスポリンに比べて、グラム陰性菌に対する作用が強く、ベータラクタマーゼに対する安定性も高い。
* セフォキシチン(Cefoxitin; Mefoxin®, Mefoxitin®)Mefoxitin)
* セフォテタン(Cefotetan; Apacef®, Cefotan®, Yamatetan®)Yamatetan)
* セフメタゾール(Cefmetazole; Cefmeazon®, Cefmetazon®, Zefazone®)Zefazone)
* セフブペラゾン(Cefbuperazone; Keiperazon®, Tomiporan®)Tomiporan)
* セフミノクス(Cefminox; Meicelin®)Meicelin)
 
<gallery>
197 ⟶ 199行目:
{| class="wikitable" style="text-align: center;"
|-
!一般名!!英名!!略号!![[日本薬局方]]14改正収載名!!商品名!!備考
|-
|セファクロル||cefaclor||CCL||セファクロル||ケフラール、セファクロル||第一世代セフェム経口剤
238 ⟶ 240行目:
{| class="wikitable" style="text-align: center;"
|-
!一般名!!英名!!略号!![[日本薬局方]]14改正収載名!!商品名!!備考
|-
|セフォキシチン||cefoxitin||CFX||セフォキシチンナトリウム||マーキシン||第二世代セフェム
253 ⟶ 255行目:
{| class="wikitable" style="text-align: center;"
|-
!一般名!!英名!!略号!![[日本薬局方]]14改正収載名!!商品名!!備考
|-
|フロモキセフ||flomoxef||FMOX||フロモキセフナトリウム||フルマリン||&nbsp;
269 ⟶ 271行目:
== セファロスポリンの臨床的分類 ==
=== 注射薬 ===
前述のように世代による分類は十分に薬物の特性を反映していない。例えばセフタジジム(CAZ、商品名モダシン)はグラム陰性桿菌である[[緑膿菌]]に対して非常に効果的でありグラム陽性菌にはほとんど効かないという第三世代に特徴的な特性を持つが、同じく第三世代に分類されるセフトリアキソン(CTRX、商品名ロセフィン)は緑膿菌には効果がなくグラム陽性菌に非常によく効き、市中肺炎の第一選択となる。このように世代分類のみに頼ると抗菌薬選択のミスを犯す可能性がある。しかしセファロスポリンは種類が多すぎるためある程度の分類が必要である、そのため臨床現場ではセファロスポリン全体の適応疾患を考え、次のような使い分けをすることが多い。
 
;黄色ブドウ球菌、レンサ球菌に用いるセファロスポリン
278 ⟶ 280行目:
 
;腸内細菌、嫌気性菌に用いるセファロスポリン
:[[腸内細菌]]、[[嫌気性菌]]に用いるセファロスポリンとしては[[セファマイシン]]といわれる物質があげられる。セフメタゾール(CMZ、商品名セフメタゾン)やセフブペラゾン(CBPZ、商品名トミポラン)である。これらの抗菌薬は[[βラクタマーゼ]]に極めて安定だが[[グラム陽性菌]]にはほとんど効かないと言われている(適応はある)。なお全てのセファロスポリンに言えることだが、[[腸球菌]]や髄膜炎で有名な[[リステリア]]には全く効果がない。
 
;緑膿菌に用いるセファロスポリン
291 ⟶ 293行目:
 
== 映画による紹介(科学技術映画) ==
日本国内にいていずれも「第一世代セフェム」に分類される2つの[[抗生物質]]、セファゾリンとセファレキシンについて各々紹介する短編映画2作品が、いずれもヨネ・プロダクションの手により1970年代初頭に製作され公開されている。
* '''Micro-Hunter''' … 1970年。カラー・18分。企画「[[鳥居薬品]]」
: 抗生物質セファレキシンについて紹介する短編映画。<br />本作品は、セファレキシンが標的としている[[真正細菌|細菌]]類([[病原体|病原菌]])の中から[[黄色ブドウ球菌]]、[[クレブシエラ・ニューモニエ|肺炎桿菌]]、[[大腸菌]]を例として取り上げ、細菌の構造の説明〔特に細菌の外周に形成される「細胞壁(Cell Wall)」については当該抗生物質による薬効も併せて解説〕や、当該抗生物質を一定量含有した培地上にける各細菌の状態観察の紹介を行っている《各細菌の観察経過については、比較のため、これに先立って当該抗生物質を含まない培地上にける状態観察を行い提示している》。なお本作品の最後のところで、セファレキシンを“'''ミクロの狩人(Micro-Hunter)'''”と称えると共に、「CEPOL」という商品名にて送り出したことも紹介している。
* '''セファメジン''' … 1971年。カラー・20分。企画「[[藤沢薬品工業]](現・[[アステラス製薬]])」
: 抗生物質セファゾリンについて紹介する短編映画。作品タイトル名「セファメジン」は、開発・製造元であり本作品を企画した藤沢薬品(当時)による商品名。冒頭の作品タイトルと企画者表示、および終末部のスタッフ陣のクレジット表示が全て右から左への[[スクロール]]にて為されているのが特徴的。<br />前記『Micro-Hunter』が標的とする細菌([[病原体|病原菌]])に対する薬効をメインに取り上げているのに対し、本作品では当該抗生物質の開発および製造過程を見せることを主眼に制作されている《尤も、作品の終盤あたりで当該抗生物質による薬効の提示([[シャーレ]]上ほか)が為されているが》。本作品によると、藤沢薬品は1960年より[[カビ]]「[[アクレモニウム|セファロスポリウム]]」を使った新たな抗生物質の開発に日本で初めて着手、物質生成から病原菌に対する薬効、さらに人体への影響の確認に至るプロセスを約2千回繰り返した末、1970年に一つの物質に行き着き、この物質に「セファメジン」という名前を与えている。その後、本作品が完成・公開された翌1971年に日本国内にいて発売開始された<ref>{{Cite press release |title=医療用医薬品「セファメジンα」新型キット新発売のお知らせ |publisher=[[アステラス製薬]](旧・[[藤沢薬品工業|藤沢薬品]]) |date=2000-10-26 |url=https://www.astellas.com/jp/corporate/news/fujisawa/001026.html |accessdate=2014-08-15}}《[https://web.archive.org/web/20091203211030/http://www.astellas.com/jp/corporate/news/fujisawa/001026.html →アーカイブ]》</ref>。
 
上記2作品とも、現在『[[科学映像館]]』Webサイト上にて無料公開されている。
 
== 脚注 出典==
<references/>