削除された内容 追加された内容
152行目:
ベレンが投獄された頃、ルーシエンは激しい胸騒ぎを覚え母であるメリアンに相談に行った。メリアンはマイアとしての力でベレンがトル=イン=ガウアホスの地下牢におり、助かる望みはないことを知った。ルーシエンはこうなったら自らベレンを助けに行こうと決心した。しかし助力を求めたエルフが王に密告したため、ブナの大樹の遥か上方に木の家が造られ、彼女はそこに押し込められた。しかしルーシエンは持てる魔法の力を使って、髪の毛を非常に長く伸ばし、その髪の毛で魔法の外套を織った。この影のような外套は身を包むと身隠しの効果があり、また相手に被せれば眠らせる魔力を秘めていた。そして残った髪房でロープを拵えるとそれを伝って降り、樹下にいた番人たちは眠りの魔法で無力化させ、ドリアス脱走に成功した。しかしドリアスの森の西の外れでケレゴルムとクルフィンの兄弟と、彼らが連れていたヴァリノールの猟犬[[フアン]]に発見されてしまう。ルーシエンは彼らがノルドールの公子であったため、自分の身分を正直に明かしてしまう。陽光の下での彼女の美しさが余りにも際立っていたため、ケレゴルムは彼女に恋慕の情を覚え、ベレン一行のことを既に知ってるのはおくびにも出さず、彼女をナルゴスロンドへと誘った。そこで彼女は謀られたことを知った。兄弟は彼女の身の自由を奪い、外套を取り上げ、誰とも口を利かせないようにしたのである。この兄弟は、ベレンとフィンロドをこのまま死なせ、ルーシエンとケレゴルムを無理矢理婚約させることで、ナルゴスロンドとドリアスの両王国を勢力下に置き、ノルドールの諸侯の中でも最も力ある者になろうと考えたのである。この二人に王位を継いだオロドレスは抵抗できなかった。民心は兄弟に支配されていたからである。しかし猟犬フアンは誠実であったため彼女に好意を寄せ、彼女の話を聞くうちに同情し、主人たちの腹黒い考えに反抗することにした。そして彼女の外套を咥えてくると彼女を背に乗せナルゴスロンドを脱走した。この先の彼女とフアンの顛末は[[サウロン#第一紀|サウロンの第一紀での活動]]にある通りである<ref>実はこの顛末に関しては、トールキンの中では別のアイディアもあった。フアンがルーシエンを助けるのは同じだが、彼女の眠りの外套を忘れてきてしまうのである。そこで彼女らは一計を案じる。ルーシエンの歌に気付いたサウロン(ここではスーの名になっている)の島へ何と彼女は助けを求めるのである。サウロンは彼女を招き入れるが、眠りの外套を忘れたためにサウロンに魔法をかけることは出来ないため、彼女はそこで作り話をするのである。ケレゴルムとクルフィンとフアンに捕らえられたが、何とか脱出して逃げてきた。しかしフアンに追われているとフアンへの嫌悪を装った。話を聞いたサウロンは、彼自身もフアンを嫌っていたため、あの兄弟ならさもあらんと信じこんだ。そこでさらにルーシエンは彼女を追うフアンが道中体調を崩したらしく、森の中で横たわっているようだと話す。これを聞き好機到来と見たサウロンは巨狼に変身すると、彼女の道案内でフアンが不意打ちを仕掛けようとしている所へ誘われる。そこで不意打ちを受け、サウロンの供回りはあっという間に殺され、碌な戦闘も起こらずサウロンは喉をフアンの牙で咥えこまれてしまう。あとの展開は『シルマリルの物語』と同じである。J.R.R. Tolkien, Christopher Tolkien 『The History of Middle Earth, vol.3 The Lays of Beleriand』1991年 Harper Collins 256-257頁</ref>。
 
二人はフィンロドの亡骸を埋葬すると、再び自由の身となってしばしの間二人きりの時間を過ごした。フアンはケレゴルムの許へ戻ったが、主従関係は破綻してしまった。ナルゴスロンドはサウロンの捕虜となっていた多くのエルフ達が戻ってきたことにより状況が変わり、その顛末を聞かされたことで彼らの王であったフィンロドの死を嘆き、民心は再びフィナルフィン王家に向かいオロドレスに従った。そして腹に一物持っていたケレゴルム兄弟を殺害しようとする者もいたが、これはオロドレスが許さなかった。その代わりに二人はナルゴスロンドから追放された。この時クルフィンの息子[[ケレブリンボール]]は父親と袂を分かった。追放された兄弟が北へ馬を進めていた所、折り悪くベレンとルーシエンと行き会った。ケレゴルムは馬に鞭を入れ全速でベレンを轢こうとし、一方クルフィンはルーシエンを抱え上げ自分の鞍に乗せた。しかしベレンは轢かれる寸前に跳躍し、傍を掠めて去ったクルフィンの馬に飛び乗った。そして背後からクルフィンの首を掴んで強く引いた。二人は落馬し、ルーシエンは投げ出され草の上に横たわった。ベレンはクルフィンを絞め落とそうとしたが、そこへケレゴルムが槍を構えて突進してきた。この時フアンはケレゴルムと絶縁し、彼に跳びかかり遁走させた。ベレンはクルフィンから[[アングリスト]]と言う短剣を奪うとクルフィンを投げ飛ばした。クルフィンはベレンを罵りながらケレゴルムの馬に乗り、去ってゆこうとした。しかし隙を見て、クルフィンは弓矢をルーシエンに向けて射た。1本目はフアンが空中で咥えて防いだが、2本目はベレンがルーシエンの前に盾となり彼の胸に刺さった。怒ったフアンが兄弟を追いかけたため彼らは恐れて逃げた。そしてフアンは薬草を咥えて戻ってきた。この薬草とルーシエンの癒やしの術、それと彼女の愛のおかげでベレンは全快した。そしてドリアスに戻ってきた後、日も出てない早朝にベレンはルーシエンをフアンに託すと、馬を駆ってアンファウグリスにまでやって来た。彼は一人でアングバンドに向かうつもりだったのである。しかしルーシエンがフアンの背に乗ってベレンの後を追いかけてきていた。彼らはその道中、サウロンの島で[[巨狼#知られる個体|ドラウグルイン]]の皮衣と[[{{仮リンク|スリングウェシル]]|en|Thuringwethil}}という吸血蝙蝠の外被を取ってきた。そこでフアンの助言で、ベレンはドラウグルインの皮衣に身を包みルーシエンはスリングウェシルの皮翼を身に纏った。そしてルーシエンの魔術によって彼らは巨狼と吸血蝙蝠に変身したのである。
 
二人はアンファウグリスを抜けアングバンドの大門の前まで来た。だがそこには恐ろしい門番[[巨狼#知られる個体|カルハロス]]がいた。しかし母方のマイアの力が突然ルーシエンから発揮され、カルハロスは眠りに落ちた。そしてベレンとルーシエンは城門をくぐり抜け、迷路のように入り組んだアングバンドの中を駆け抜け、ついにモルゴスの玉座の前に到着した。ベレンは狼に偽装したままモルゴスの玉座の下に逃げこむように入った。しかしルーシエンは、モルゴスの視線により偽装を解かれ、彼の凝視を受けることとなった。彼女は暗黒の王の視線にも怯まず自分の名を名乗り、吟遊詩人のように御前で歌を歌いましょうと申し出て、歌い出した。そんな彼女の美しさをとくと目の当たりにしたモルゴスは、アマンから逃亡して以来、彼が考えたどんな企みよりも腹黒い下心を懐いた。彼はその下心故にヘマをやらかす。というのも彼女をしばらく自由に歌わせたまま、その美しさを眺めながら、自分の邪な思いに密かな喜びを覚えていたためである。その時彼女は暗がりに身を移しそこから歌を歌った。ルーシエンの歌は限りなく美しく、分別を失わせる力があったため、モルゴスは彼女の姿を求めて視線を彷徨わせているうち、判断力が鈍ってきた。モルゴス麾下の将たちも微睡み始め、モルゴスも眠気に襲われ頭を垂れた。そこへルーシエンが眠りの外套を投げかけ夢を注いだ。ついにモルゴスは完全に眠りに落ち、玉座から転げ落ちそのまま床に突っ伏した。モルゴスの鉄の王冠は転げて、彼の頭から外れた。ベレンは狼の外衣を脱ぎ捨てるとアングリストを用いてシルマリルを一つ切り取った。そのときベレンの心に欲が出て、誓言以上のことを、即ちシルマリルを3つとも切り取ってやろうという考えが頭をもたげた。しかし、これは残りのシルマリルの運命ではなく、アングリストの刃は折れ、その破片は眠りこけているモルゴスの頬に突き刺さった。彼は呻き声を発し身じろぎした。その途端ベレンとルーシエンは恐怖に襲われ、城門まで一目散に逃げ出した。しかし城門では既にカルハロスが眠りより目覚め、憤怒の形相で待ち構えていた。ルーシエンは疲れきって最早この巨狼を鎮める力は残っていなかったため、ベレンが彼女の前に進み出てシルマリルを突きつけた。シルマリルの光は不浄を許さぬ聖なる光だからである。しかし意外なことに、カルハロスは突き出された聖なる宝玉をしげしげと眺めると、ベレンの右手ごとシルマリルを食ってしまった。シルマリルに内側から焼かれたカルハロスは苦痛の余り二人の前から逃げ出した。そしてカルハロスの猛毒がその身に入ったベレンは死にかけていた。ルーシエンは毒を吸い出し手当をしたが、背後ではモルゴスの軍勢のざわめきが聞こえてきていた。そんな時にソロンドールとその配下がやって来て二人を空へと運んでいった。大鷲たちは二人をドリアスの国境まで運ぶとそこで下ろした。フアンもそこへ来た。長い間ベレンは生死の狭間を彷徨っていたが、ルーシエンの愛により奇跡的に一命を取り留めた。二人は再び森の中を逍遥した。ルーシエンはこのまま二人でずっと凄すのもいいと思っていたが、ベレンは誓言のこともありそうはいかなかった。そのため二人はドリアスのメネグロスに戻った。そしてシンゴルの玉座の前でベレンはもう今はない右手を見せ、シルマリルを手に入れたことを告げた。そして二人の探索の話を残らず聞かされたシンゴルは驚嘆し、二人の愛と結びつきは運命であると認めざるを得ず、ついに二人の婚約を認めた。しかしシルマリルの力が加わったカルハロスが、魔法帯を突破し、メネグロスに近づいていることを知らされたベレンは、まだ探索は終わってないと、狼狩りに参加することにした。この狼狩りでカルハロスは不意打ちをしシンゴル王に襲いかかった。その時ベレンが槍を構えて王の盾となったが、カルハロスは槍を押しのけベレンに喰らいついた。その時フアンがカルハロスに跳びかかり、両者は激しい戦いの後、相討ちとなった。マブルングが狼の腹から宝玉を取り出すとベレンの左手にそれを握らせた。そしてベレンはそれをシンゴル王に渡し、探索が成就したことを告げると、ついに黙して語らなかった。狼狩りの一行を迎えたルーシエンは、命の灯がまさに消えようとしているベレンを両の腕で抱くと口付けし、西方の彼方で待つように告げた。それを聞いてベレンは逝った。しかし「レイシアンの謡」はここでは終わっていない。