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== 生活環 ==
[[ファイル:Anisakiasis 01.png|200px|thumb|left|アニサキスの生活環 ①海中に排泄された卵(0)(0) ②a孵化した幼虫(1)(1)は、b遊泳生活に移る(2)(2) ③甲殻類に寄生して成長する(3)(3) ④中間宿主を渡り歩く(3)(3) ⑤感染期:海生哺乳類またはヒトへの感染能力を持つ(3)(3) ⑥海生哺乳類の体内で成虫(4)(4)となり産卵する ⑦症例期:ヒトの体内でアニサキス症を引き起こす(3)(3)]]
最終宿主はおもに[[イルカ]]・[[クジラ]]など[[海獣|海生哺乳類]](種により異なる)で、成虫はその[[腸管]]に棲息する。卵は排泄物とともに海中へ放出されて孵化し、[[オキアミ]]などの[[甲殻類]]に寄生して第3期幼虫まで発育する。[[食物連鎖]]上位の魚類や[[イカ]](種により異なる)を中間宿主とし、その内蔵などで更に成長する。中間宿主が最終宿主に捕食されると、その消化管から体内に侵入し成虫となる。
ヒトでは成虫にはなれず<ref>{{cite web|url=http://www.jomf.or.jp/report/kaigai/19/worm/c/c4/c4-1.htm|title=寄生虫ミニ辞典 - アニサキス|accessdate=2015-03-12}}</ref>、中間宿主でもないため、数日で死ぬか排泄される。
 
=== 終宿主 ===
[[File:Anisakis simplex in common minke whale.jpg|thumb|200px|right|[[ミンククジラ]]の[[腺胃]]に寄生するアニサキス (''Anisakis simplex'')。[[国立科学博物館]]の展示。]]
* アニサキス属
** ''Anisakis simplex'':[[ミンククジラ]]などの鯨類
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1999年にアニサキスが[[食品衛生法]]で[[食中毒]]の原因物質とされ、さらに2012年からは[[保健所]]への届出が義務づけられている<ref>[https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/314-anisakis-intro.html アニサキス症とは] 国立感染症研究所寄生動物部</ref>。
2007年度までは年間数例に留まっていたが、2012年以降急増した(2016年は124件)。
これは、[[厚生労働省]]が統計項目に加え実態把握が進んだこと、流通の発達と複雑化によりアニサキスが生きたまま食卓に到達する機会が増したことなどが指摘されている<ref>[https://mainichi.jp/articles/20170509/k00/00m/040/080000c 食中毒アニサキス生の魚介類で猛威] 毎日新聞(2017年5月8日)2017年5月9日閲覧</ref>
 
ただしこれは、届出を集計したものであり、実際には氷山の一角と見なせる。1997年の厚労省による検討<ref>[http://www1.mhlw.go.jp/houdou/0909/h0917-1.html 食品媒介の寄生虫疾患対策について 蠕虫類 - 生鮮魚介類により感染するもの]</ref>でも、年間7,147件との試算<ref>[https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/314-anisakis-intro.html アニサキス症とは]</ref>や、2-3千名以上との推定<ref>「日本におけるAnisakidosisの発生状況の解析(石倉肇、臨床と研究、72巻5号、1995年)」</ref>があげられていた。
 
なお、[[日本海]]と[[太平洋]]で[[マサバ]]の寄生種が大きく異なることがDNA解析により判明しており、太平洋側で大半を占めるsimplex種(アニサキス症の原因3種のひとつ)が、日本海側(とくに南部)ではほとんど見られなかった。日本海側で多いpegreffii種は発症リスクが低い(simplex種の100分の1未満)ため、九州北部でサバを刺身など生食する習慣が根付いているのはこのことが原因と考えられる<ref>[http://www.tokyo-eiken.go.jp/assets/issue/health/webversion/web28.html アニサキス症とサバのアニサキス寄生状況] 東京都健康安全研究センター</ref>
 
=== 症状 ===
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胃アニサキス症は、開腹あるいは[[内視鏡]]手術で幼虫を摘出するのが一般的で、すみやかに症状が消失することが多い。
ひだの間に穿入し対処が困難な場合、[[造影剤]]の[[アミドトリゾ酸]]([[ガストログラフィン]]{{sup|&reg;}})<ref>串上 元彦ほか. 胃アニサキス内視鏡下摘出におけるガストログラフィン散布の有用性. 日本消化器内視鏡学会雑誌 1994;36(1):144-149. {{doi|10.11280/gee1973b.36.144}}</ref>や、[[メントール]]<ref>椎名正明、國分茂博、[https://www.jstage.jst.go.jp/article/pde/87/1/87_49/_article/-char/ja/ 当院におけるアニサキス症の現況とl-メントール補助下の虫体摘出] Progress of Digestive Endoscopy, Vol.87 (2015) No.1 p.49-52, {{doi|10.11641/pde.87.1_49}}</ref>の散布により幼虫が腸管内へ戻り、摘出しやすくなることが報告されている。
 
腸アニサキス症は、[[腸閉塞]]など重篤な症状では開腹手術<ref>大島稔ほか. 小腸アニサキス症により腸閉塞をきたした1切除例. 日本腹部救急医学会雑誌 2011;31(3):589-92.</ref><ref>松村勝ほか. 食餌性イレウスで発症した小腸アニサキス症の1例. 日本腹部救急医学会雑誌 2012;32(7):1231-4.</ref><ref>川元真ほか. 腸アニサキス症で小腸穿孔をきたした1例. 日本腹部救急医学会雑誌 2013;33(6):1047-50.</ref>が行われる。
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一方、[[ステロイド系抗炎症薬]]<ref>鈴木淳、村田理恵、{{PDFlink|[http://www.tokyo-eiken.go.jp/assets/issue/journal/2011/pdf/01-01.pdf わが国におけるアニサキス症とアニサキス属幼線虫] 東京都健康安全研究センター 究年報 第62号(2011)}}</ref>と抗アレルギー薬を投与すると駆虫はできずとも、症状が軽快する症例があることが報告されている<ref>山本馨、栗原毅、福生吉裕、「[https://www.jstage.jst.go.jp/article/manms/8/2/8_179/_article/-char/ja/ アニサキス症のユニークで簡便な治療法]」日本医科大学医学会雑誌 Vol.8 (2012) No.2 p.179-180, {{doi|10.1272/manms.8.179}}</ref>。
 
[[正露丸]]に含まれる木[[クレオソート]]にはアニサキスの運動抑制作用があり、症状の改善が期待できる。また内視鏡での摘出の際の前処置薬としても有効性が期待できる<ref>https://www.seirogan.co.jp/dl_news/file0095.pdf</ref>。(特許取得済み)
 
=== 予防 ===
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== 利用 ==
アニサキス症に罹った患者の胃に未発見の初期[[悪性腫瘍|ガン]]があり、そこにアニサキスが集まっていたことが[[伊万里有田共立病院]]から2014年に報告された。<ref>{{Cite journal|author=Sonoda H, Yamamoto K, Ozeki K, Inoye H, Toda S, Maehara Y |year= 2014|date=2014-08-17 |title= An anisakis larva attached to early gastric cancer: report of a case | journal=Surg Today| publisher =Springer Japan | volume= | issue= | url = http://link.springer.com/article/10.1007%2Fs00595-014-1012-3 |format= |accessdate= 2015-03-12|doi=10.1007/s00595-014-0850-3 |pmid= 24477526|ref="Sonoda_etal3014"}}</ref>
この報告に着目した[[九州大学]]らの研究グループは、[[カエノラブディティス・エレガンス]](''Caenorhabditis elegans'')を使って、尿による癌検診の判別実験に成功した<ref> {{Cite web|author=|date= 2015-03-12| title=がん診断、尿1滴で=線虫の習性利用−10年後の実用化目指す・九大など|url=http://www.jiji.com/jc/zc?k=201503/2015031200036&g=soc |work=|publisher= 時事ドットコム |accessdate= 2015-03-12|ref="時事ドットコム20150312"}}</ref><ref>{{Cite press release |title= 尿1滴で短時間・安価高精度に早期がんを診断!|publisher=九州大学 |date= 2015-03-12|url= http://www.kyushu-u.ac.jp/pressrelease/2015/2015_03_12.pdf |format=PDF|accessdate= 2015-03-12|ref="九大プレスリリース20150312"}}</ref>。
 
== 脚注 ==