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初期近代ヨーロッパにおける、互いに結びついている目的を持った世界という見解は、[[キリスト教神学]]と、古代ギリシャの哲学者[[プラトン]]と[[アリストテレス]]の思想を大きく源泉とする{{sfn|プリンチペ, 菅谷・山田訳|2014|pp=32-35}}。プラトン的思想、特に[[新プラトン主義]]者たちはから、完全で超越的な一者から不活性で生命のない下等な物体まで、世界の存在は皆連続する階梯の中の特定な位置をもつという「自然の階梯(scala naturae)」という発想が生まれた{{sfn|プリンチペ, 菅谷・山田訳|2014|pp=32-35}}。一者から遠い下等な存在ほど、一者とは似ていないと考えられた{{sfn|プリンチペ, 菅谷・山田訳|2014|pp=32-35}}。プラトン思想の著作は、ヨーロッパでは[[ルネサンス]]期に再発見された{{sfn|プリンチペ, 菅谷・山田訳|2014|pp=32-35}}。
 
13世紀の神学者オーヴェルニュのギヨームと[[アルベルトゥス・マグヌス]]の著作は'''自然魔術'''というジャンルの確立を促した<ref>Sophie Page (2004). ''Magic in Medieval Manuscripts''. University of Tronto Press. p. 18.</ref>。教父[[アウグスティヌス]]はあらゆる魔術は悪霊との交渉であるとしたが、13世紀のパリの司教ギレルムス(オーヴェルニュのギヨーム)は別の考えを示した。かれは論文『法について』のなかで他の多くの著述家と同様に魔術を断罪したが<ref>[[野口洋二]] 『中世ヨーロッパの異教・迷信・魔術』 早稲田大学出版部、2016年、150-151頁。</ref>、それだけでなく非法な魔術と合法な魔術とを区別した。その合法な魔術すなわち自然魔術 ({{la|magia naturalis}}) とは、悪魔に関係するものと教養人たちから誤解されているが、実際には自然の理に則った驚異なのであり、自然の事物の自然本性的力能 ({{la|virtutes naturales}}) の活用であるとギレルムスは論じた<ref>Benedek Láng (2008). ''Unlocked Books: Manuscripts of Learned Magic in the Medieval Libraries of Central Europe''. The Pensylvania State University Press. pp. 25-26.</ref>。中世に広く流布した作者不明の自然魔術書『アルベルトゥスの実験』別名『薬草、石、動物の効能について』は、少なくともその一部はアルベルトゥス・マグヌスの著作に基づいているが、そのなかには鉱物や薬草に秘められた力を利用して犬を黙らせたり、術者を不可視にするといった驚異を行う方法が記されている<ref>David J. Collins, S. J. 'Learned Magic'. in ''The Cambridge History of Magic and Witchcraft in the West'' (2015). kindle edition. Cambridge University Press.</ref>。
 
アリストテレスの思想で寄与したのは、物事を知るためには「原因についての知識」が必要という考え方である{{sfn|プリンチペ, 菅谷・山田訳|2014|pp=35-37}}。彼の目的因と作用因という考えは、事物を他の対象との関係性で定義しようとするもので、神によってデザインされた[[摂理]]ある世界というキリスト教の考えと相性が良かった{{sfn|プリンチペ, 菅谷・山田訳|2014|pp=35-36}}。神による目的因は、被造物の内部に埋め込まれ、記号化されていると考えられていた{{sfn|プリンチペ, 菅谷・山田訳|2014|pp=-35-36}}。思想史家の[[エルンスト・カッシーラー]]は、ルネサンス期に魔術と占星術は深い同一性で結ばれており、象徴(シンボル)と因果律(自然法則や秩序)の融合がその概念の主調であったと述べている{{sfn|澤井|2000|pp=157-158}}。ある事物について知るには、その事物に関するネットワークを知り、特にそれを存在せしめ利用している他の事物について知ることが重要であると考えられていた{{sfn|プリンチペ, 菅谷・山田訳|2014|pp=35-36}}。当時の自然研究の全体を[[自然哲学]]と呼ぶが、学問の分野も宇宙の様々な局面も、互いに事物が結びついているという感覚が特徴と言える{{sfn|プリンチペ, 菅谷・山田訳|2014|pp=38-41}}。[[イエズス会]]の碩学[[アタナシウス・キルヒャー]]は、百科事典的な著作の口絵で、神学を頂点に、自然学、詩学、天文学、医学、音楽、光学、地理学などの学問を並べ、相互のつながりを示しているが、自然魔術(magia naturalis)も自然哲学の一分野としておかれている{{sfn|プリンチペ, 菅谷・山田訳|2014|pp=38-41}}。自然魔術は、近代科学とそれ以前の科学の中間的な学問だった{{sfn|澤井|2000|p=140}}。