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'''小さな政府'''(ちいさなせいふ、{{lang-en-short|Limited government}})とは、民間で過不足なく供給可能な財・サービスにおいて[[政府]]の関与を無くすことで、政府・[[行政]]の規模・権限を可能な限り小さくしようとする思想または政策である。小さな政府を徹底した体制は[[自由主義国家論|夜警国家]]あるいは[[最小国家主義|最小国家]]ともいう。基本的に、より少ない歳出と低い課税、低福祉-低負担-自己責任を志向する。{{要出典|範囲=主に、[[新保守主義]]者または[[リバタリアン]]によって主張される。|date=2015年11月}}
 
== 概要 ==
「小さな政府」では、[[市場の失敗]]などが起きず民間でも問題なく運営・供給可能な事業においては、極力民間に行わせることを目指す。そのため、国営事業の[[民営化]]・[[企業|私企業]]化(privatization)や、[[規制緩和|規制の撤廃]]、国有資産の売却などを行う。{{要出典|範囲=「小さな政府」は、[[新自由主義]](ネオリベラリズム)あるいは[[新保守主義]]と親和性が高い。|date=2015年11月}}
 
{{要出典|範囲=背景には、第二次大戦後の傾斜生産・[[護送船団方式]]や賃金物価管理政策、欧州での企業国有化政策が行き詰まりを見せた1970年代に政府の硬直性が批判の対象とされたことがある。また1991年にはソビエトの失敗が明らかとなり社会主義的な政策の不合理性を印象づける要因となった。|date=2015年11月}}
 
{{要出典|範囲=「小さな政府」とは、中央政府でさえ需給などに関わる情報を収集する能力には限界があり、政府が介入するよりも市場に任せて価格メカニズムを活用する方が、より効率の高い資源の配分が達成できるという考え方に基づく。そのため、市場の価格メカニズムを乱すこととなる政府の介入は、公共財の供給などの[[市場の失敗]]への対処や[[マクロ経済]]安定化政策などの、政府にのみ適切に行い得るものに限定し、民間でできることはできるだけ民間に委ねるべきだとする<ref>たとえば、[http://www.kantei.go.jp/jp/kakugikettei/2001/honebuto/0626keizaizaisei-ho.html 今後の経済財政運営及び経済社会の構造改革に関する基本方針]、平成13年6月26日<!-- リンク先のテキストには「小さな政府」という言葉が一度も出ていないことに注意 -->
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国家を財政面でとらえた場合の呼称は[[国庫]]であるが、市民社会における経済運営と国庫の問題はルネサンス期のイタリアに体系化されたものと見られ、都市の経済運営のため税を担保とした公債が発行された。この慣習が[[神聖ローマ帝国]]の諸領域国家に広まり、租税収入を担保に国王が有力商人に公債を発行する慣習がなりたち、オランダでは市議会が皇帝の歳費を肩代わりする形で公債を引き受け課税権や徴税権を獲得してゆき、国富のうちで現実に近代的国民の全体的所有にはいる唯一の部分としての国債が成立した<ref>酒井昌美「物象化生成過程的資本原蓄とアムステルダム」帝京経済学研究第35巻第 1号</ref>。
 
{{要出典|範囲=市民社会を対象に、国家と経済のあり方が論じられたのは[[重商主義]]以降、[[オリバー・クロムウェル]]の元での[[航海条例]]や[[ルイ14世 (フランス王)|ルイ14世]]の元での[[コルベール主義]]に関わる議論であり、[[啓蒙思想]]の諸学派は国家による経済介入は国の富をそこなうとする理論的な集約をみる(⇒[[レッセフェール]])。一方フランス革命後とりわけ[[ナポレオン・ボナパルト]]の総領政権の頃には[[アダム・スミス]]以来の伝統的な自由放任主義([[レッセフェール]])を主張する[[ジャン=バティスト・セイ]]はナポレオンの目にとまり戦争経済の構築のため保護政策と規制について書き直すように要求される。|date=2015年11月}}
 
{{要出典|範囲=[[アダム・スミス]]によれば政府による経済活動はすべて不生産的労働であり、政府が公衆から資金を借入れて消費することはその国の資本の破壊であり、さもなければ生産的労働の維持に向けられたであろう生産物を不生産的労働に向けるものである。古典的な経済理論においては、行政府の支出はその源泉が租税であろうが[[国債]]によろうが民間の経済活動は圧迫([[クラウディングアウト]])される。これに対する理論的な反論は19世紀前半におこった[[過少消費説]](一般過剰供給論争)であり、所得の不平等や貯蓄過多(投資不足)による経済的不均衡が生産縮小のサイクルを産むと理論化された(⇒[[過少消費説]])。|date=2015年11月}}
 
{{要出典|範囲=英国では均衡財政にもとづく経済運営のもと、[[救貧法]]などに見られる糊塗的・懲罰的な貧困対策は格差問題の解消になんら寄与せず、[[貧困]]と[[不平等]]を問題視する人々の中から[[ラッダイト]]などの社会運動、やがて[[社会主義]]の思想が生まれ欧州全体に拡散した。1880年代に[[オットー・フォン・ビスマルク]]の「[[飴と鞭]]」政策により導入された公的福祉制度([[社会保障]]制度)は各国に広まり、また[[1930年代]]の[[世界恐慌]]において、[[ジョン・メイナード・ケインズ]]により提唱された[[有効需要理論]]に基づいた数々の政策が実行に移され、政府の経済への関与と財政の占める規模は増大した。米国で[[雇用保険|失業保険]]や[[年金|公的年金]]、[[生活保護]]などの[[社会保障]]が設けられたのはこの時期である。|date=2015年11月}}
 
{{要出典|範囲=[[1960年代]]には、[[財政政策]]と[[金融政策]]をミックスし[[完全雇用]]を志向する「[[大きな政府]]」が主流となり、その政策は[[1970年代]]、[[1980年代]]、[[1990年代]]、[[2000年代]]と継続され、|date=2015年11月}}{{要出典|範囲=[[財政政策]]依存による財政赤字拡大、クラウディングアウト効果による民間投資の過少化、政府支出へ依存した産業構造、それらの結果としての供給力不足が[[インフレーション]]体質の問題点であると考えられた|date=2015年11月}}。{{誰|date=2015年11月}}
 
{{要出典|範囲=1980年代以来、米国ではそれまで政府が担ってきた業務を民間の独立した公共部門である非政府セクター(nongovernment sector)、非営利セクター(nonprofit sector)に移管する試みが行われた。英国では保守党のサッチャー政権により「サッチャー革命」と呼称されるかたちで政策が進められた。日本においては[[日本国有鉄道]]・[[日本電信電話公社]]・[[日本専売公社]]([[三公社五現業|3公社]])の民営化が中曽根内閣によって実現された。|date=2015年11月}}
 
== 議論 ==
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=== 肯定論 ===
* {{要出典|範囲=規制がなければ、個人や企業が思う存分力を発揮できるため、よいサービスが提供され、全体としても経済が活性化する。|date=2015年11月}}{{誰|date=2015年11月}}
* {{要出典|範囲=[[リバタリアニズム]]の観点に立てば主権は至上であり、課税は自由を奪い人を奴隷化することに他ならない。人は自分のみが自分の所有者でなければならない。|date=2015年11月}}
* 大きな政府になると、官の非効率性や課税などによる資本蓄積、労働供給へのマイナス効果により、経済活動に抑制的な影響が及ぶ可能性がある<ref>[http://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je05/05-00200.html 平成17年度年次経済財政報告(平成17年7月内閣府)]</ref>。
* {{要出典|範囲=裁量的な政策は賢人によって行われるという[[ハーヴェイロードの前提|ハーヴェイロードの仮定]]は現実には程遠く、実際には国民の厚生の改善とは相容れないような政策が裁量的に行われる。|date=2015年11月}}{{誰|date=2015年11月}}
* 政府財政はつねに「経費膨張の法則」に曝されており、財政においては「財政需要膨張の法則」が働く。ケインズ政策の先駆ともいえる[[ウィリアム・ペティ]]「租税貢納論」{{efn|ペティは貧民救助や病院経営など社会政策経費と福祉費の増額を提唱し、貧民対策として公共土木事業に労働者を投入すべきことを提言している。また「かりにソールズベリ高原に無用なピラミッドを建設しようが、ストーンヘンジの石をタワーヒルにもってこようが、その他これに類することをしても」公共事業に労働力を投入することは有用であるとして公共事業の経済的・社会的効果を提唱した。}}(1662年)の時代のイギリスですでに国家経費の膨張あるいは冗費節減が指摘されていた<ref>「「経費膨張の法則」に関する研究について」吉田義宏(広島経済大学創立二十周年記念論文集、広島県大学共同リポジトリ){{cite web |url=http://harp.lib.hiroshima-u.ac.jp/bitstream/harp/2543/1/20th07.pdf |title=アーカイブされたコピー |accessdate=2010年1月30日 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20130424152622/http://harp.lib.hiroshima-u.ac.jp/bitstream/harp/2543/1/20th07.pdf |archivedate=2013年4月24日 |deadlinkdate=2017年10月 }} PDF-P.2</ref>。
* {{要出典|範囲=(かつての国鉄や郵政など)民間で同等の営業サービスが展開されている事業分野では、[[公的資金]]による経営は市場の公平性を損なう。公営事業の場合、忠誠の宣誓を行い政治活動が禁止・制限され、人事院が給与水準を管理する「公務員」でなければできない仕事かどうか検討すべきである。|date=2015年11月}}
* {{要出典|範囲=(塩の専売、通信業や労働者派遣業など)民間が提供できるサービスを中央政府が独占していることは経済的自由権の不当な制限であり、適切に見直すべきである。|date=2015年11月}}
* {{要出典|範囲=公営による独占的経営では、コスト削減や生産性向上のモチベーションが機能せず、競争に晒されていないため技術革新への投資が行われない。安定的な雇用条件の下では従業員労働者に[[フリーライダー]]の問題が発生する。|date=2015年11月}}
 
=== 批判 ===
* 国内に[[失業]]者があるなど資源が遊休している場合、その遊休資源を活用して政府が適切に事業を行うことが出来れば国富が拡大する可能性がある(→[[ケインズ政策]]参照)。とくに金融政策を中心とした積極的なマクロ経済安定化政策と、財政支出・人員削減などを含めた小さな政府という方針は、必ずしも齟齬しない。
* 安定的に充分に提供すべきサービスの場合、自由な企業経営による競争に放任すれば、市場参加者は将来予測の[[不確実性]]を持ち、期待収益への不確実性から経済全体として充分な投資が行われない。このような場合は公的経営が長期的な「呼び水」になる可能性がある。
* 成員の圧倒的大部分が貧困で惨めであるような社会は、繁栄した幸福な社会ではありえない<ref>『国富論』アダム・スミス P.142</ref>。{{要出典|範囲=不平等はもっとも不遇な立場にある人の利益がその時点で最大であるべきであり、全ての人には公正な機会の均等が与えられるべきである([[ジョン・ロールズ|ロールズの第二原理]])|date=2015年11月}}。
* {{要出典|範囲=発展途上の資源国では採掘事業や権益管理の国有化は珍しいことではない。国富や国益に資することが目的であり「民営化・私営化」すれば効率的な経済運営が為されるとは限らない([[2010年メキシコ湾原油流出事故]]、[[コピアポ鉱山落盤事故]]も参照のこと)。大戦直後の日本では傾斜生産が、英仏では主要産業の国有化が国土復興に大いに貢献した。|date=2015年11月}}
* {{要出典|範囲=一般に行政の管轄する人口規模や域内市場規模の多寡と政府の規模は逆相関(インフラ投資や行政実務の効率化の観点から小国や都市国家のほうが行政負荷が高い)ことが想定されるが、現実にはかならずしもそうではない。また政府支出の域内市場(GDP)に占める割合規模と域内の経済効率に明確な因果関係を見いだす研究は提出されていない。|date=2015年11月}}
* {{要出典|範囲=国債の累積発行問題や行政部門での浪費問題、行政支出やプロジェクトの失敗問題を棚上げにして、義務的支出である教育・福祉・医療等関連予算を削減する名目として「小さな政府」を標榜するのは[[論点のすり替え]]であり、小さな政府を実現すれば財政上の諸問題が解決するかどうかは(論証的には)分からない。|date=2015年11月}}{{誰|date=2015年11月}}
* 人口千人あたりの公的分野における公務員数(地方公務員含む)<ref>[http://www.esri.go.jp/jp/archive/hou/hou030/hou21-1.pdf 公務員数の国際比較に関する調査P.4]</ref> は日本が約42.2人、フランス約95.8人、アメリカ約73.9人、イギリス約78.3(フルタイム換算)人、ドイツ69.6人であり比較的少ない人数で日本を支えていることになる。こうした中での単純な国家公務員の頭数の削減は、行政処理能力の具体的な低下をもたらす可能性があり、また治安など国民の安全や地域経済に悪影響を与える恐れがある<ref>「「行革」法案審議入り 吉井議員 “日本の公務員少ない”」『しんぶん赤旗』2006年3月24日付配信</ref>。たとえば米国の[[証券取引委員会]]は3798名(2007年)であるが、日本の[[証券取引等監視委員会]]は374名(2009年)である。日本の場合、[[消防団]]や[[民生委員]]など民間部門が無給で公的な役割を担う仕組みが整備されているが、近年はわずかな手当てで負担・責任を負うことになるこれら奉仕活動や地域の世話役活動が敬遠されるようになり、人手不足で行き詰まりに瀕している。