「気管挿管」の版間の差分

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== 適用 ==
気管挿管は「確実な[[気道確保]]」と「誤嚥の防止」のため施行される。一般に以下の場合に行う。
*;[[意識]]レベル低下
:[[昏睡]]状態、特に[[心肺停止]]患者における[[気道確保]]に行われる。
*;[[全身麻酔]]
:[[全身麻酔]]にて、特に[[人工呼吸]]管理を施行する場合に行われる。
*;[[気管支鏡]]検査
:[[気管支鏡]]検査にても行うこともある。また、レーザー治療や気管支への[[ステント]]留置における処置の際に行われる。
 
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一般に以下が必要とされる。その他[[手術]]時は必要に応じて薬剤等も使用される。
*[[気管内チューブ]](Endotracheal tube)
:用いられるチューブは「気管チューブ」もしくは「挿管チューブ」とも呼ばれる。頭頚部手術時には金属コイル入りでチューブが変形しないタイプが用いられる。肺手術など片肺を脱気する必要がある手術時は片肺換気(分離肺換気)も可能なタイプが用いられる。気管内チューブの中にはスタイレット(Stylet)と呼ばれる金属棒が設置され、経口挿管時にチューブの形状を保つために使用される。
*スタイレット(Stylet)
:気管内チューブの中に設置する金属棒で、挿管時にチューブの形状を保つために使用される。経鼻挿管では使用できない。
*[[喉頭鏡]](Laryngoscope)
:喉頭展開時に使用される。現在では光ファイバーで喉頭部をディスプレイで確認できるタイプも存在する。マッキントッシュ型がもっとも一般的である。大きさにより,1〜4号まである。
*マギール鉗子(Magill Forceps)
:挿管困難時にチューブの先端を把持し誘導するために使われる[[鉗子]]。主に経鼻挿管の時に使用される。うっかりカフをつかむとカフが破れてしまうので注意が必要である。
== *気管支ファイバースコープ ==(Bronchofiberscope)
== 適切な頭頸位 ==
 :[[気管支鏡]]の一種である柔軟な気道確保器具。気道確保困難が予測される症例での気管挿管、予期せぬ挿管不能・マスク換気不能時の気管挿管に使用する。それ以外に頸椎が不安定な症例にも使用される。目で確認しながら挿管できるので、安全かつ確実な方法と考えられているが、気道閉塞や食道挿管などの重篤な合併症も起こることがある。
 喉頭鏡を用いて気管挿管をする場合、口の外から声門が見えるように喉頭展開をする必要がある。頭を枕の上において後屈(進展)させた状態のことである。この頭頸部の姿勢が空気を吸い込んでいるときの姿勢に似ているので、スニッフィングポジション(スニッフィング位・嗅ぐ姿勢)と呼ばれる。口から声門までが一直線に近づくので、気管挿管およびフェイスマスクを用いた換気の際には最適とされている。<ref name="周術期管理チームテキスト">周術期管理チームテキスト 第3版, 公益社団法人 日本麻酔科学会(発行), 2016年8月10日発行</ref>
:利点としては、気道の変形や病変を目で確認しながらスコープ先端の角度を調節することで、気管内に進めることができる点ある。
=== Cormack分類 ===
:欠点としては、技術が必要な点と、チューブをファイバースコープ越しに進める際、チューブが披裂軟骨などに当たり、挿入が困難となりうる点がある。対策として、太い気管支ファイバースコープを用いること、細い挿管チューブを用いること、スパイラルチューブを用いることで成功率を上げることができる。
喉頭展開後の声門の見え方の分類であり、4段階に区分される。グレードⅢ、Ⅳではチューブを気管に挿入することが困難(挿管困難)と判断される。一方、グレードⅠ、Ⅱでもチューブをスムーズに挿管できないこともある。<ref name="周術期管理チームテキスト">周術期管理チームテキスト 第3版, 公益社団法人 日本麻酔科学会(発行), 2016年8月10日発行</ref>
* グレードⅠ:声門のほぼ全体が観察できる。
* グレードⅡ:声門の一部が観察できる。
* グレードⅢ:披裂軟骨部や声門は見えないが、喉頭蓋は観察できる。
* グレードⅣ:声門も喉頭蓋も観察できない。
 
== 挿管操作 ==
挿入経路は大別して経口挿管、経鼻挿管があるが、一般的に経口が多い。口腔内手術の際等に経鼻挿管が行われる。
 
手術などで一般的に行われている、[[喉頭鏡]]を用いた経口的な気管挿管について記す。
#[[気管内チューブ]]の先端バルーンに[[シリンジ]]で空気送り、漏れがないか確認する。必要に応じてスタイレットを挿入し形状を整えておく。
 
#吸引器を準備しておく。
;器具の準備
#[[バッグバルブマスク]](Bag valve mask)に酸素を送気し十分な換気を行う。特に食後等で[[胃]]に内容物があるような[[患者]]に施行する場合はマスクによる換気は行わず、別の介助者に[[輪状軟骨]]圧迫(cricoid pressure)を行ってもらい[[食道]]閉鎖を行ってもらう。
#:[[気管内チューブ]]の先端バルーンに[[シリンジ]]で空気送り、漏れがないか確認する。必要に応じてスタイレットを挿入し形状を整えておく。また、[[喉頭鏡]]のライトが点灯することを確かめる。その他、吸引器を含む必要な器具を準備しておく。
注)ガイドライン2010では、輪状軟骨圧迫は行わないこととされている。
;マスク換気
#開口させ、口腔内に異物等がないことを確認し、あれば取り除く。
#:[[バッグバルブマスク]](Bag valve mask)に100%酸素を送気し十分な換気を行う。これより、挿管操作中の無換気状態でも数分間は低酸素状態を予防できる。ただし食後等で[[胃]]に内容物があるような状態(full stomach)の[[患者]]に施行する場合はマスクによる換気は行わず、別の介助者に[[輪状軟骨]]圧迫(cricoid(cricoid pressure)pressure)を行ってもらい[[食道]]閉鎖を行ってもらう。(ガイドライン2010では、輪状軟骨圧迫は行わないこととされている。)
#左手で[[喉頭鏡]]を用いて[[喉頭]]を展開し、[[声門]]を目視にて確認し、[[気管内チューブ]]を挿管する。
;その他の前処置
#挿管したら直ちにスタイレットを抜去し、先端バルーンに[[シリンジ]]で空気送り固定する。
#:開口させ、口腔内に異物等がないことを確認し、あれば取り除く。
#[[聴診器]]にて両肺・胃を聴診し換気音を確認する。
:患者に意識がある場合、喉頭鏡による喉頭の観察や気管挿管は苦痛を伴うため、[[鎮静薬]]や[[鎮痛薬]]を投与する。
#挿入長を調整し、テープにて口角に固定する。
;喉頭展開
:左手で[[喉頭鏡]]を持ち、喉頭鏡のブレードを開口器として用い、[[咽頭]]の後壁、および[[喉頭蓋]]を観察する。ブレード先端を喉頭蓋にかける、あるいはブレード先端で喉頭蓋の基部を圧迫することにより喉頭蓋を挙上し、[[喉頭]]を展開する。[[声門]]が見えれば理想的である。
:構造の同定が難しい場合、前頸部に圧迫を加えることで視野が良くなる場合がある。
;挿管
#:喉頭蓋を目視にて確認しながら、右手で[[気管内チューブ]]を喉頭に挿管する。挿管したら直ちにスタイレットを抜去し、先端バルーンに[[シリンジ]]で空気送り固定する。
 喉頭鏡を用いて:なお、マスク換から挿管をする場合、口にかけて外から声門が見えるように喉展開をする必要がある。頸位は頭を枕の上において後屈(進展)させた状態のことであにする。この頭頸部の姿勢が空気を吸い込んでいるときの姿勢に似ているので、スニッフィングポジション(スニッフィング位・嗅ぐ姿勢)と呼ばれる。口から声門までが一直線に近づくので、気管挿管およびフェイスマスクを用いた換気の際には最適とされている。<ref name="周術期管理チームテキスト">周術期管理チームテキスト 第3版, 公益社団法人 日本麻酔科学会(発行), 2016年8月10日発行</ref>
;換気の確認
:[[聴診器]]にて両肺・胃を聴診し換気音を確認する。片方の肺でのみ換気音が聴取された場合、片肺挿管になっていることが考えられ、胃にゴボゴボという音が聴取された場合、気管ではなく[[食道]]に挿管されていることが考えられる。[[カプノグラフィ#カプノグラム|カプノグラム]]によって換気を確認することや、気管支ファイバースコープや胸部[[X線撮影]]にてチューブの位置を確認することも可能である。チューブの位置は手術時の体位変換等により変わってしまうことがあるため再確認することが望ましい。
;チューブの固定
#:挿入長を調整し、テープにて口角に固定する。
 
 
== 合併症 ==
*歯牙損傷
:最も起こりやすい合併症の一つ。主に[[前歯]]に多い。挿管の際に[[喉頭鏡]]によって損傷する。折れた歯が[[気管]]または[[食道]]内に迷入することもある。
 
*食道挿管
:最も起こりやすい合併症の一つ。[[喉頭]]を目視出来ない場合の挿管に起こりやすい。誤挿管した場合は即座に抜去する。通常[[聴診器]]にて肺の換気音が確認出来ないことや排気の[[CO2]]をモニターすることで確認できる。気付かないままの場合は窒息に至り得る。
 
*片肺挿管
:よくある合併症の一つ。気管内チューブを奥に挿入し過ぎることで、先端が片方の[[気管支]]に挿入されることで片側の[[肺]]のみの換気になってしまうこと。通常[[聴診器]]にて両肺の換気音の聴取にて確認する。
 
== 術前の気道評価確保困難 ==
さまざまな理由により気道確保困難には、な症例が存在する。マスク換気が困難な場合、気管挿管が困難な場合、どちらも困難な場合、マスク換気が不能な場合がある。換気不能・挿管不能(CVCI: cannot ventilate, cannot intubate)が同時に発生すると、致死的になる。CVCIの発生する原因に12の危険因子があり、多いほどCVCIの発生する危険性が高くなる。<ref name="周術期管理チームテキスト">周術期管理チームテキスト 第3版, 公益社団法人 日本麻酔科学会(発行), 2016年8月10日発行</ref>
 
例えば、口腔や咽頭、喉頭の形には個人差があり、舌根によって気道が閉塞しやすい場合や、喉頭鏡を用いても喉頭が観察できない場合がある。また、上気道に腫瘤や外傷がある場合や、[[頚椎症]]等により首の可動域に制限がある場合も気道確保が困難となる。
 
気道確保困難例に対しては[[ラリンジアルマスク]]に代表される声門上器具や気管支ファイバースコープが有用である。それらの手段を用いても換気が得られない場合や、異物や外傷により上気道が閉塞している場合は[[気管切開]]を行う。
 
気道確保困難を予測・評価する指標として以下のようなものがある。
 
=== 12の術前評価項目を用いてCVCIの可能性を予測するモデル ===
Kheterpalのモデルを一部改変したもの。<ref>Kheterpal S, Healy D, Aziz MF, Shanks AM, Freundlich RE, Linton F, Martin LD, Linton J, Epps JL, Fernandez-Bustamante A, Jameson LC, Tremper T, Tremper KK; Multicenter Perioperative Outcomes Group (MPOG) Perioperative Clinical Research Committee. Incidence, predictors, and outcome of difficult mask ventilation combined with difficult laryngoscopy: a report from the multicenter perioperative outcomes group. Anesthesiology 2013; 119: 1360-9. </ref>。換気不能・挿管不能(CVCI: cannot ventilate, cannot intubate)が同時に発生すると、致死的になる。CVCIの発生する原因に12の危険因子があり、多いほどCVCIの発生する危険性が高くなる。<ref name="周術期管理チームテキスト">周術期管理チームテキスト 第3版, 公益社団法人 日本麻酔科学会(発行), 2016年8月10日発行</ref>
 
{{columns-list|2|
# Mallampati分類のクラスⅢあるいはⅣ
# 頚部放射線後、頚部腫瘤
67 ⟶ 81行目:
# [[頸椎]]の不安定性や可動制限
# 下顎の前方移動制限
}}
 
=== Mallampati分類 ===
術前に気管挿管が困難かどうかを推測するための診察所見の一つ。Mallampatiという人によって報告されたので、Mallampati分類と呼ばれる。
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* クラスⅣ: 上記の全てが見えない。
 
=== Cormack分類 ===
== 気管支ファイバースコープ ==
喉頭展開後の声門の見え方の分類であり、4段階に区分される。グレードⅢ、Ⅳではチューブを気管に挿入することが困難(挿管困難)と判断される。一方、グレードⅠ、Ⅱでもチューブをスムーズに挿管できないこともある。<ref name="周術期管理チームテキスト">周術期管理チームテキスト 第3版, 公益社団法人 日本麻酔科学会(発行), 2016年8月10日発行</ref>
 柔軟な気道確保器具。気道確保困難が予測される症例での気管挿管、予期せぬ挿管不能・マスク換気不能時の気管挿管に使用する。それ以外に頸椎が不安定な症例にも使用される。目で確認しながら挿管できるので、安全かつ確実な方法と考えられているが、気道閉塞や食道挿管などの重篤な合併症も起こることがある。
* グレードⅠ:声門のほぼ全体が観察できる。
 
* グレードⅡ:声門の一部が観察できる。
利点としては、気道の変形や病変を目で確認しながらスコープ先端の角度を調節することで、気管内に進めることができる点である。
* グレードⅢ:披裂軟骨部や声門は見えないが、喉頭蓋は観察できる。
* グレードⅣ:声門も喉頭蓋も観察できない。
 
欠点としては、技術が必要な点と、チューブをファイバースコープ越しに進める際、チューブが披裂軟骨などに当たり、挿入が困難となりうる点がある。対策として、太い気管支ファイバースコープを用いること、細い挿管チューブを用いること、スパイラルチューブを用いることで成功率を上げることができる。
 
== 法整備 ==