「化学平衡」の版間の差分
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== 例 ==
例として水中での[[酢酸]]の[[解離 (化学)|解離]]を挙げる。[[化学反応式|反応式]]は
:<
であり、各成分のモル濃度を [ ] で示すと平衡定数 ''K<sub>c</sub>'' は▼
:<ce>{\it{K_{c}}}\ =\ \frac{ [CH3COO-][H+] }{ [CH3COOH]}</ce>▼
で表される。
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酢酸分子は水分子と衝突すると[[酸と塩基#ルイスの定義|ルイス塩基]]である水に[[陽子|プロトン]]を渡し、酢酸イオンと[[オキソニウムイオン]]とを生成する(順方向反応)。
:<
一方、酢酸イオンとオキソニウムイオンとが衝突するとオキソニウムイオンはルイス塩基である酢酸イオンにプロトンを渡し、酢酸と水になる(逆方向反応)。
:<
水に酢酸を投入すると酢酸は初期濃度から、酢酸イオン濃度とオキソニウムイオン濃度は0からスタートする(正確を期すと、オキソニウムイオン濃度は 10<sup>−7</sup> mol/L ≃ 0 からスタートする)。水は[[溶媒]]でふんだんに存在するので、順方向反応は(未解離の)酢酸濃度に比例した速度で進行する。言い換えると当初は酢酸が多量で速度が早いが、酢酸濃度が減るとともにその速度を減じる。
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次に[[温度]]の寄与であるが、順反応も逆反応も[[アレニウスの式]]にしたがって温度依存的に変化する、しかしその変化は同様ではないため平衡定数 ''K'' は温度に依存して変化する。
一般に[[酸解離定数|解離定数]](平衡定数)は {{pKa}} = −log<sub>10</sub> ''K''
== 平衡定数 ==
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:正反応:<math>\,v_1=k_1[\mathrm{A}^{1}]^{a_1}[\mathrm{A}^{2}]^{a_2}...[\mathrm{A}^{n}]^{a_n}</math>
:逆反応:<math>\,v_2=k_2[\mathrm{B}^{1}]^{b_1}[\mathrm{B}^{2}]^{b_2}...[\mathrm{B}^{n}]^{b_n}</math>
と近似される。ここで [ "物質名" ] はその物質のモル濃度であり、''k''
:<math>k_1[\mathrm{A}^{1}]^{a_1}[\mathrm{A}^{2}]^{a_2}...[\mathrm{A}^{n}]^{a_n}=k_2[\mathrm{B}^{1}]^{b_1}[\mathrm{B}^{2}]^{b_2}...[\mathrm{B}^{n}]^{b_n}\,.</math>
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:<math>\frac{ [\mathrm{B}^{1}]^{b_1}[\mathrm{B}^{2}]^{b_2}...[\mathrm{B}^{n}]^{b_n} }{ [\mathrm{A}^{1}]^{a_1}[\mathrm{A}^{2}]^{a_2} \dots [\mathrm{A}^{n}]^{a_n} } = \frac{ k_1 }{ k_2 }</math>
定温、定圧下では ''k''
反応速度定数の比 <math>K_c = k_1 / k_2</math> を平衡定数と呼ぶ。特に濃度比によって定義されるので、'''濃度平衡定数''' ({{lang-en-short|concentration equilibrium constant}}) という。
単に平衡定数 ''K'' という場合、特に断りない限りは濃度平衡定数 ''K''<sub>c</sub>
=== 例 ===
例えば、
:<
と表せる化学反応の平衡定数は
:<
となる。
このとき、化学反応式の左辺から右辺への反応が正反応とみなされる。同じ反応を左右逆に
:<
と表した場合の平衡定数は
:<
と、元の逆数となる。
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=== 圧平衡定数 ===
濃度平衡定数 ''K''<sub>c</sub>
気体反応の場合、[[濃度]]よりも[[圧力]]のほうが測定しやすいため、各成分気体の分圧を用いて平衡定数を定義することが多い。
例えば、反応
:<
の場合、平衡時の N<sub>2</sub>, H<sub>2</sub>, NH<sub>3</sub> の[[分圧]] ''P
:<math>
と表される。
== 平衡定数と反応の向き ==
ある[[可逆反応]]
:<
について、そのときの A, B, C の濃度の測定値を用いて平衡定数を推定することを考える。
:<math>
平衡定数の推定値 ''K''<sub>c</sub>
このように、各物質のある時点での濃度から、反応がどちらへ進むかは、二つの時刻における平衡定数の推定値 ''K′''<sub>c</sub>
* <math>
* <math>
* <math>
[[系_(自然科学)|系]]の平衡定数は、複数回の測定で平衡定数の推定値がある値の範囲に収まったとき、その範囲に含まれる代表点の値によって決定される。
=== 平衡移動 ===
:<
で表される反応が化学平衡に達しているとき、温度を上げると NH<sub>3</sub> が分解する方向へ、圧力を上げると NH<sub>3</sub> が生成する方向へ反応が進んで新たな化学平衡へ達する。
134 ⟶ 135行目:
=====内部変数と外部変数=====
試験管の中に[[二酸化窒素]] NO<sub>2</sub> と[[四酸化二窒素]] N<sub>2</sub>O<sub>4</sub> をつめて熱湯につけたら、化学平衡はどのように移動するだろうか。
:<
NO<sub>2</sub> と N<sub>2</sub>O<sub>4</sub> の反応は上記の反応式で表される。体積一定で加熱するのだから、温度も上昇するが圧力も上昇する。結論から言えば、このとき褐色が濃くなり、左方向へ平衡が移動する。
ルシャトリエの原理によると、温度が上がると平衡は吸熱方向 "<
加熱という'''外部条件の変化'''に対してルシャトリエの原理を適用するのは良いが、加熱によって生じる圧力増加という'''内部条件の変化'''に対してルシャトリエの原理を適用すると、右方向へ平衡が移動するという誤った結論が導かれる。外部条件の変化に伴う内部条件の変化の影響を外部条件の変化の影響が必ず上回るので、'''外部条件の変化に対してのみルシャトリエの原理を適用しなければならない'''。
145 ⟶ 146行目:
===== ハーバー=ボッシュ法 =====
[[ハーバー・ボッシュ法|ハーバー=ボッシュ法]]は平衡の移動を化学工業に応用して成功した例として知られている。
:<
この反応は[[可逆反応]]であり、[[アンモニア]]を得るためには、この反応の平衡を右へ移動させなければならない。このとき、[[ルシャトリエの原理]]を利用してアンモニアを合成することを考えたい。
181 ⟶ 182行目:
=== 無機化合物への配位子の脱着 ===
[[塩化コバルト|塩化コバルト(II)]] (CoCl<sub>2</sub>) は、水を脱着してその色を変わることでよく知られる化合物である。この塩は[[アンモニア]]を配位子として可逆的に脱着することもできる(下式)。
:<
ここで温度とアンモニアの圧力を制御しながらコバルト塩の重量を測定することで、上式の変換率およびその時間変化を評価できる。Ternan らの詳細な検討によると<ref>Trudela, J.; Hosattea, S.; Ternan, M. "Solid–gas equilibrium in chemical heat pumps: the NH3–CoCl2 system" ''Applied Thermal Engineering'' '''1999''', ''19'', 495-511. DOI: [http://dx.doi.org/10.1016/S1359-4311(98)00066-0 10.1016/S1359-4311(98)00066-0]</ref>、一定(例: 104 kPa)の圧力の雰囲気下にコバルト塩を置き系の温度をゆっくり昇降させると、高温側では軽い CoCl<sub>2</sub>·2NH<sub>3</sub> が、低温側では重い CoCl<sub>2</sub>·6NH<sub>3</sub> が優位となる。このとき塩の重量と温度変化をプロットすると、昇温時と降温時でプロット曲線が重ならない[[ヒステリシス]]があらわれた。もしも平衡状態までに達する時間が十分に短ければ昇/降温時の 2 本のプロット曲線は重なった形で観測されるだろうから、今回の系でヒステリシスが観測されたということは、アンモニアの脱着に遅い反応が付随すること、すなわち、[[結晶格子]]の拡大や収縮がともなっていることを示している。ヒステリシスは昇降のサイクルに数十時間かけるような条件でも起こったことなどから、上の式が平衡に達するために必要な時間は 100 ないし 1000 時間程度ではないかと見積もられた。この実験では、固-気平衡反応が平衡状態へ到達するまでの過程において、反応式の見かけによらず多くの要因が重なりときには非常に長い時間となることが示されている。
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