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{{複数の問題
'''天文遺産'''(てんもんいさん、Astronomical Heritage)は、[[国際連合教育科学文化機関]](UNESCO)が[[国際記念物遺跡会議]](ICOMOS)や[[国際天文学連合]](IAU) と共同で[[世界遺産]]等の分野において、[[天文学]]に関係する[[文化的]]なものや[[環境]]の保全を目的に提唱したもの。
| 出典の明記 = 2018年6月
; 個別の詳細は[[天文遺産の一覧]]を参照
| 参照方法 = 2018年6月
| 独自研究 = 2018年6月
| 正確性 = 2018年6月
| 更新 = 2018年6月
}}
'''天文遺産'''(てんもんいさん、Astronomical Heritage)は、[[国際連合教育科学文化機関]](UNESCO)が[[国際記念物遺跡会議]](ICOMOS)や[[国際天文学連合]](IAU) と共同で[[世界遺産]]等の分野において、[[天文学]]に関係する[[文化的]]なもの資産や[[環境]]の保全を目的に提唱したもの。2010年と2017年に主題研究(Thematic study)が行われているが、独自の保護・登録制度は設けられていない<ref>{{cite web|url=https://www3.astronomicalheritage.net/index.php/about/what-is-astronomical-heritage|title=What is astronomical heritage?|publisher=UNESCO Astronomy and World Heritage Webportal|accessdate=2018-05-28}}</ref>>
 
; 個別の天文遺産の詳細は[[天文遺産の一覧]]を参照
==経緯==
[[21世紀]]に入り、ユネスコの活動理念の一つである[[科学]]分野を担当する科学局 環境・地球科学部 宇宙観測及び地球科学における能力開発課が、[[テクノロジー|科学技術]]とりわけ[[宇宙科学]]の足跡顕彰を始めたことをうけ<ref>きっかけは1997年に「[[宇宙開発]]の父」と呼ばれる[[コンスタンチン・ツィオルコフスキー]]による世界初の[[ロケット]][[理論]]である[[ツィオルコフスキーの公式]]の発表百周年を記念してのこと</ref>、2003年に「テーマ別イニシアチブ 天文学と世界遺産」(AWHI)を立ち上げ、2004年に[[世界遺産センター]]の主催で[[イタリア]]の[[ヴェネツィア]]において「天文の世界遺産とモニュメントに関する専門家会議」を開催し、その結果を同年に[[中華人民共和国|中国]]の[[蘇州市|蘇州]]で開催された第28回[[世界遺産委員会]]で報告して継続議題となった。
 
== 経緯 ==
その後、2007年の第31回世界遺産委員会での検討で、「[[空]]・[[天体]]・星明り([[大気光]])などの'''Empyreal landscape(天空景観)'''は不安定な[[借景]]で<ref>例えば「天空鏡」と形容され星空も映す[[ウユニ|ウユニ塩湖]]は12月~4月の[[雨季]]のみの現象で、特に夜は[[雲]]や[[風]]が起きやすく不安定</ref>、[[所有権]]が不明瞭で保護根拠も曖昧であり、世界遺産の対象外である」と一度は否決された。
[[21世紀]]に入り、ユネスコの活動理念の一つである[[科学]]分野を担当する科学局 環境・地球科学部 宇宙観測及び地球科学における能力開発課が、[[テクノロジー|科学技術]]とりわけ[[宇宙科学]]の足跡顕彰を始めたことをうけ<ref group="注">きっかけは1997年に「[[宇宙開発]]の父」と呼ばれる[[コンスタンチン・ツィオルコフスキー]]による世界初の[[ロケット]][[理論]]である[[ツィオルコフスキーの公式]]の発表百周年を記念してのこと</ref>、2003年に「テーマ別イニシアチブ 天文学と世界遺産」(AWHI)を立ち上げ、[[2004年]]に[[世界遺産センター]]の主催で[[イタリア]]の[[ヴェネツィア]]において「天文の世界遺産とモニュメントに関する専門家会議」を開催し、その結果を同年に[[中華人民共和国|中国]]の[[蘇州市|蘇州]]で開催された第28回[[世界遺産委員会]]で報告して継続議題となった。
 
その後、[[2007年]][[第31回世界遺産委員会]]での検討で、「[[空]]・[[天体]]・星明り([[大気光]])などの'''Empyreal landscape(天空景観)'''は不安定な[[借景]]で<ref group="注">例えば「天空鏡」と形容され星空も映す[[ウユニ|ウユニ塩湖]]は12月~4月の[[雨季]]のみの現象で、特に夜は[[雲]]や[[風]]が起きやすく不安定</ref>、[[所有権]]が不明瞭で保護根拠も曖昧であり、世界遺産の対象外である」と一度は否決された。
しかし、2008年に[[イギリス]]の[[ロンドン]]で開催されたユネスコへの[[助言]][[ワークショップ]]「世界遺産の勧告:科学と技術」(World Heritage: Science and technology)の中で[[宇宙技術]]が取り上げられ、2009年のユネスコとIAUによる[[世界天文年2009 |世界天文年]]を受け[[ロシア]]の[[カザン]]で開催された「天文遺産に関する国際会議」(International Conference on astronomical heritage organized)でも[[宇宙開発|宇宙開発史]]顕彰の必要性が説かれ<ref>[[冷戦]]時代に宇宙開発をリードしてきたロシアは天文遺産に積極的</ref>、IAUは「天文学と世界遺産の作業部会」を設置。
 
しかし、2008年に[[イギリス]]の[[ロンドン]]で開催された世界遺産への推薦への脈絡での科学技術の専門家による作業部会(Science and Technology Expert Working Group in the context of World Heritage Nominations)の中で[[宇宙技術]]が取り上げられた<ref name="whc">{{cite web|url=http://whc.unesco.org/en/astronomy/|title=Astronomy and World Heritage Thematic Initiative|publisher=UNESCO|accessdate=2018-05-07}}</ref>。
このことから2010年の[[第34回世界遺産委員会]]で再検討が行われ、「天文に関する[[遺跡]]・[[建造物]]・[[景観]]には[[文化的]]価値と意義がある」と表明するに至り、ユネスコとIAUによって天文遺産を制定することが取り決められ、その象徴として中国の[[「天地の中央」にある登封の史跡群]]と[[インド]]の [[ジャンタル・マンタル]]を天文分野の世界遺産に登録した。
 
2008年10月にユネスコとIAUは、天文学と世界遺産に関する覚書(Memorandum of Understanding)に調印。IAUは「天文学と世界遺産の作業部会」(Working Group on Astronomy and World Heritage)を設置した<ref>{{cite web|url=https://www.astronomy2009.org/news/pressreleases/detail/iya0803/|title=UNESCO and the IAU sign key agreement on Astronomy and World Heritage Initiative|publisher=The International Year of Astronomy 2009|accessdate=2018-05-07}}</ref><ref name="whc" />。
2011年には天文遺産の指針となる「天文学的遺産に関するパリ宣言」をICOMOSも交えて採択し<ref>{{PDFlink|[http://www.international.icomos.org/Paris2011/GA2011_Declaration_de_Paris_EN_20120109.pdf Paris Declaration on astronomical heritage]}}ICOMOS</ref>、'''Cultural astronomy(文化天文学)'''を提言した。
 
しかし、20082009年に[[イギリス]]の[[ロンドン]]で開催されたユネスコへの[[助言]][[ワークショップ]]「世界遺産の勧告:科学と技術」(World Heritage: Science and technology)の中で[[宇宙技術]]が取り上げられ2009年のユネスコとIAUによる[[世界天文年2009 |世界天文年]]を受け[[ロシア]]の[[カザン]]で開催された「天文学と世界遺産に関:時間と大陸を超えて」と題する国際会議(International Conference on astronomical"Astronomy heritageand World Heritage: across time and organized)continents")でも[[宇宙開発|宇宙開発史]]顕彰の必要性が説かれ<ref group="注">[[冷戦]]時代に宇宙開発をリードしてきたロシアは天文遺産に積極的</ref>、IAUは「天文学と世界遺産の作業部会」を設置
2015年、[[国際連合]]の国際光年<ref>[http://iyl2015-japan.org/ 国際光年] – IYL2015</ref>を受け、天文遺産を推進することが[[第39回世界遺産委員会]]で確認された。
 
ICOMOSとIAUによって、すでに世界遺産リストや暫定リストに登録された物件を含む事例を対象に主題研究(Thematic study)が行われ、その結果は2010年6月30日に41例のケーススタディーからなる「世界遺産条約の脈絡における天文学及び天文考古学遺産:主題研究」(Heritage Sites of Astronomy and Archaeoastronomy in the context of the World Heritage Convention: A Thematic Study)という報告書としてとりまとめられた。この報告書は同年7月の[[第34回世界遺産委員会]]に報告され、ユネスコ加盟国が各国で天文学的な資産を保護する際のガイドラインとして有用であるとして承認を受けた<ref>{{cite web|url=https://www3.astronomicalheritage.net/index.php/thematic-study-1|title=Thematic Study 1|publisher=UNESCO Astronomy and World Heritage Webportal|accessdate=2018-05-07}}</ref>。また、この世界遺産委員会では、天文学に関連する2件の世界遺産、中国の[[「天地の中央」にある登封の史跡群]]と[[インド]]の [[ジャンタル・マンタル]]が登録された<ref name="whc" />。
 
[[2011年]]9月には、パリで開催された「天文学的遺産の保護」(Protection of Heritage of Astronomy)と題する国際セミナーにおいて参加者により「天文遺産に関するパリ宣言」(Paris Declaration on astronomical heritage)が採択され<ref>{{PDFlink|[http://www.international.icomos.org/Paris2011/GA2011_Declaration_de_Paris_EN_20120109.pdf Paris Declaration on astronomical heritage]}}ICOMOS{{出典無効|date=2018-05-28 |title=リンク先の文書は"The Paris Declaration On heritage as a driver of development" (発展の原動力としての遺産に関するパリ宣言)であり、天文学についての宣言ではありません。}}</ref>、[[2012年]]2月にフランスのユネスコ国内委員会から世界遺産委員会議長に報告された<ref>{{cite web|url=http://whc.unesco.org/archive/2012/whc12-36com-5D-en.pdf|title=Report on the World Heritage Thematic Programmes
|publisher=WORLD HERITAGE COMMITTEE Thirty-sixth session|format=PDF|date=2012-05-11|accessdate=2018-05-28}}</ref>。
 
[[2015年]]、[[国際連合]]の国際光年<ref>[http://iyl2015-japan.org/ 国際光年] – IYL2015</ref>を受け、天文遺産を推進することが[[第39回世界遺産委員会]]で確認された。
 
2017年6月には、ICOMOSとIAUによる2回目の主題研究の報告が発行された。今後、宇宙遺産(space heritage)に焦点を合わせた3回目の主題研究が将来的に予定されている<ref>{{cite web|url=https://www3.astronomicalheritage.net/index.php/thematic-studies|title=Thematic Studies
|publisher=UNESCO Astronomy and World Heritage Webportal|accessdate=2018-05-28}}</ref>。
 
==対象==
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天体・星空・気象条件は[[自然遺産]]に属し、その評価(登録)基準は「Ⅶ.最上級の自然現象または類い稀な自然美・美的価値を有する地域を包括する」に該当し、代表的なものとして[[オーロラ]]が上げられるが天文遺産の登録には至っていない。
 
また、「Ⅷ.地球の歴史上の主要な段階を示す顕著な見本。地形の発達における重要な地学的進行過程、重要な地形的特性、自然地理的特性」として、[[隕石]]による[[クレーター]]が考えられる<ref group="注">クレーターに関しては[[ステウンス・クリント]]が世界遺産に登録されている</ref>。
 
'''Ecosystemastronomy(天文生態系)'''という造語も提唱し、今後は[[潮汐]]や[[月齢]]に影響される[[生態系]]も視野に含まれる。
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====☆光保護区====
自然遺産の学術的価値を評価する[[国際自然保護連合]](IUCN)は、2009年に 「ダークスカイ諮問グループ」(DSAG)を発足させ、'''Light reserve(光保護区)'''<ref group="注">本来は「[[照明|人工光]]からの保護」だが、「(人工)光の保護」と誤解されるおそれがあるため、日本では「光保留地」などと訳す例もある</ref>を制定している。
 
光保護区は用途や程度に応じて6種類に分類される
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====☆ダークスカイ保護区====
国際ダークスカイ協会という民間団体が、Dark-Sky ReserveとDark-Sky Parkを認定している<ref group="注">ダークスカイを中国では暗天と訳している。[[中国語]]版Wikipediaの[[:zh:國際暗天協會|國際暗天協會]]参照</ref>。
 
{{Main2|ダークスカイ保護区については[[:en:International Dark-Sky Association|International Dark-Sky Association]]と[[:en:Dark-sky preserve|Dark-sky preserve]]を}}
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ユネスコでは天文遺産をアストロツーリズムとして活用する[[遺産の商品化]]も推進しているが、[[宇宙旅行]]は容易でなく、天体観測の場所が[[観光地|観光地化]]すれば[[観光公害]](観光光害)も懸念される。
 
天文遺産は現時点では法的保護根拠を求めていないが、将来的には必須となりうる。ニュージーランドのテカポ湖が星空景観での世界遺産への推薦を試みた際、[[人造湖]](堰き止め湖)であるため国立公園化による保護が困難で、断念した経緯がある<ref group="注">現在は[[マオリ]]による天体[[神話]]や占星術を中心とした文化的景観を保護根拠としている</ref>。また、天空景観の範囲を確定し保護するには、[[領空権]]や[[環境権]]から派生する[[空間権]](都市部[[土地利用]]に伴う上空[[容積率]]を表す[[空中権]])を応用するなどの試みも必要となる。
 
===取り組み===
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個人で出来ることとしては、家屋内の光を外へ漏らさないようにする[[灯火管制]]や夜間の[[自動車]]([[前照灯]])使用の制限(自動車の利用制限は[[排気ガス]]を減らし大気汚染の軽減にも繋がる)、必要な時にだけ明かりが灯るモーションセンサーの普及や[[キャンドルナイト]]による啓蒙などが上げられる。
 
==引用・ 脚注 ==
=== 注釈 ===
{{Reflist|group="注"}}
=== 出典 ===
本項はユネスコの[http://whc.unesco.org/en/astronomy/ Astronomy and World Heritage Thematic Initiative]とIAUの[http://www2.astronomicalheritage.net/ Portal to the Heritage of Astronomy]および[[ドイツ語]]版[[Wikipedia]]の[[:de:Lichtschutzgebiet|Lichtschutzgebiet]]を基調としている
{{Reflist|2}}
 
==関連項目==