「ベンジャミン・リベット」の版間の差分

削除された内容 追加された内容
改行
16行目:
[[ファイル:B.Libet.experiment.gif|左|サムネイル|リベットの実験<br />
<br />
0: 反応休息<br />
1: (500ミリ秒前) 脳波が準備電位を示す<br />
2: (200ミリ秒前) 被験者は意思決定をしたときの点の位置を覚えて報告する<br />
35行目:
 
=== 時間の問題 ===
[[ダニエル・デネット]]は、これに関わった異なる出来事の時間に関して曖昧さがあるため、リベットの実験から意志に関する明快な結論を下すことはできない、と主張する。リベットは、電極を用いて準備電位が出現した時間を客観的に測定したが、意識的な決定がいつなされたかを決めるためには、被験者による時計の針の位置の報告に頼った。デネットが指摘するように、これは被験者にとって、いろいろなことが起こったと''思われる''時間を報告しているに過ぎず、それらが実際に起った客観的な時間ではない。<blockquote>時計の文字盤から眼球へ光が到達するのはほぼ瞬時になされるが、網膜から外側膝状体を通って、線条皮質(第一次視覚野のこと)へと到達するには5~10ミリ秒を要する。これは300ミリ秒の時間幅に対しては微々たるものであるが、それが''あなた''のところへ届くまでにはさらにどれだけかかるのだろうか(それとも''あなた''は線条皮質に存在しているのだろうか)?視覚信号は、どこであれ、あなたが意識的な同時性の決定を下すためにそれが届けらればならない場所へ届く前に、既に処理されていなければならない。リベットの方法の前提とは、すなわち、我々は次の2つの経路</blockquote><blockquote>* 動作の決定を表わす信号が、意識へ上る過程</blockquote><blockquote>* それに続き時計の文字盤の向きを表す信号が、意識へ上る過程</blockquote><blockquote>の交点の場所を決めることができ、これら2つの出来事は、あたかも互いの同時性が決められるような場所で、隣同士で発生する、というものである。<ref>"Freedom Evolves" by Daniel Dennett, p. 231</ref><ref>[http://ase.tufts.edu/cogstud/papers/SelfasaResponding.pdf Dennett, D. ''The Self as Responding and Responsible Artefact''] {{webarchive|url=https://web.archive.org/web/20160701075451/http://ase.tufts.edu/cogstud/papers/SelfasaResponding.pdf|date=July 1, 2016}}</ref></blockquote>
 
* 動作の決定を表わす信号が、意識へ上る過程
=== 主観的な後方参照、または感覚体験の「日付を古く直す」 ===
 
* それに続き時計の文字盤の向きを表す信号が、意識へ上る過程
 
の交点の場所を決めることができ、これら2つの出来事は、あたかも互いの同時性が決められるような場所で、隣同士で発生する、というものである。<ref>"Freedom Evolves" by Daniel Dennett, p. 231</ref><ref>[http://ase.tufts.edu/cogstud/papers/SelfasaResponding.pdf Dennett, D. ''The Self as Responding and Responsible Artefact''] {{webarchive|url=https://web.archive.org/web/20160701075451/http://ase.tufts.edu/cogstud/papers/SelfasaResponding.pdf|date=July 1, 2016}}</ref></blockquote>
=== 主観的な後方参照、または感覚体験の「日付を古く書き直す」 ===
リベットの、刺激と感覚に関する研究<ref name="L1979">{{cite journal|last1=Libet|first1=Benjamin|last2=Wright Jr.|first2=Elwood W.|last3=Feinstein|first3=Bertram|last4=Pearl|first4=Dennis K.|year=1979|title=Subjective Referral of the Timing for a Conscious Sensory Experience - A Functional Role for the Somatosensory Specific Projection System in Man|journal=Brain|volume=102|pages=193–224|doi=10.1093/brain/102.1.193}}</ref>に基づいた、初期の理論は、後ろ向きの因果関係の考えのように見えたため、[[パトリシア・チャーチランド]]などの一部の論者にとって奇妙に映った<ref>{{cite journal|last1=Churchland|first1=Patricia Smith|date=Jun 1981|title=On the Alleged Backwards Referral of Experiences and its Relevance to the Mind-Body Problem|journal=Philosophy of Science|volume=48|number=2|pages=165–181|doi=10.1086/288989}}</ref>。我々はある感覚の始まりを、最初のニューロン反応の瞬間にまで、後から遡って捉えるということをデータが示唆しているとリベットは唱えた<ref>{{cite journal|last1=Libet|first1=Benjamin|year=1981|title=The Experimental Evidence for Subjective Referral of a Sensory Experience Backwards in Time: Reply to P.S. Churchland|journal=Philosophy of Science|volume=48|pages=182–197|doi=10.1086/288990}}</ref>。リベットの刺激と感覚に関する仕事に対して人々はさまざまな解釈を示している。[[ジョン・C・エックルス|ジョン・エックルス]]はリベットの仕事を、非物理的な精神によってなされる、時間軸上の後ろ向きの過程を示唆していると捉えた<ref>{{cite journal|author=Eccles J.C.|year=1985|title=Mental summation: The timing of voluntary intentions by cortical activity|url=|journal=Behavioral and Brain Sciences|volume=8|issue=|pages=542–543|doi=10.1017/s0140525x00044952}}</ref>。エドアルド・ビシアチ(Edoardo Bisiach)<ref>Bisiach, E. (1988). The (haunted) brain and consciousness. In (A. Marcel and E. Bisiach, eds) ''Consciousness in Contemporary Science''. Oxford University Press, {{ISBN|0-19-852237-1}}.</ref>は、エックルスを偏向していると評したが、このように記した。<blockquote>これは実際のところ、著者たち(リベットら)自身が読者に進んで押し付けようとしている結論である。...マッケイがリベットとの討論で示唆した(1979年, p. 219)、「主観的な、時間軸上の後ろ向きの参照は、被験者がタイミングを報告する際に陥った錯覚的な判断によるものではないか」という説明にリベットらは反論している。より重要なことに、リベットら(1979年、p. 220)は、彼ら自身のデータに基づいた、(精神と物質の)同一性理論について「重大だが、克服可能な困難」を示唆した。</blockquote>リベットは後に、主観的な感覚の時間軸上の後ろ向き参照を媒介する、あるいは説明するような、''神経機構''は無さそうである、と結論した<ref name="L2004">{{cite book|last1=Libet|first1=Benjamin|title=Mind Time - The Temporal Factor in Consciousness|year=2004|publisher=Harvard University Press|isbn=0-674-01320-4}}</ref>。リベットは[[事象関連電位|誘発電位]](EP)は、時間マーカーとして機能すると想定した。誘発電位は皮膚刺激の約25ミリ秒後にふさわしい脳の感覚領域に出現する鋭い、正の電位である。リベットの実験は、時間軸上でこの時間マーカーにまで遡るような、自動的な意識的経験の主観的な参照が存在するということを示した<ref name="L19792" />。皮膚の感覚は、皮膚刺激から約500ミリ秒が経過しないと我々の意識に上らないが、我々は主観的にはこの感覚が刺激と同時に起こったように感じる。
 
リベットにとっては、これらの主観的な参照は、脳の中に対応する神経基盤の無い、純粋に精神的な機能であるように見えたようである。実際に、この示唆は以下のようにより広く一般化することができる。<blockquote>ニューロンのパターンから主観的な表象への変換は、ニューロンのパターンから生じた精神の中において発達するようである。... 精神的な主観的機能についての私の見方は、それは適切な脳機能の性質が現れたものだ、というものである。意識的な精神は、それを生じる脳過程が無ければ存在することが出来ない。しかし、脳活動から、この物理的なシステムに特有の「性質」として出現しておきながら、精神は、それを生み出した脳神経の中にははっきりと認められないような現象を示すことができる。<ref>Libet, B. (2004). op. cit. pp. 86-87.</ref></blockquote>
 
==著書==