「タイプ (分類学)」の版間の差分
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'''タイプ''' (type) という語は、生物の[[分類学]]においては以下の意味で用いられる。
# ある生物の[[新種記載]]を行う際に、その生物を定義するための記述(記載文、判別文)の拠り所となった[[標本 (分類学)|標本]]や図解のこと。'''模式標本'''、'''基準標本'''、'''タイプ標本'''などとも呼ばれる。
# 科や属といった分類群(→[[生物の分類]])を設ける際に、その群の代表として指定される[[種 (分類学)|種]]または、下位分類群のこと。指定される属や種は'''[[タイプ属]]'''([[w:Type genus|Type genus]])、'''[[タイプ種]]'''([[w:Type species|Type species]])などと呼ばれる。'''[[模式属]]'''、'''[[模式種]]'''ともいう。
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* [[動物]]・[[原生生物]]→[[国際動物命名規約]] (ICZN)
* [[植物]]・[[菌類]]・[[藻類]]→[[国際藻類・菌類・植物命名規約]] (ICN)。国際植物命名規約 (ICBN) より改称
* [[真正細菌]]・[[古細菌]]→[[国際
各タイプが定義されている命名規約を示すため、必要に応じて ICZN、ICBN、
* ICZN4 → 国際動物命名規約 第4版 (1999)
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原則として、生物の標本がタイプとして指定される (いわゆるタイプ標本) が、生物が安定な標本として保存できない場合に限り、図解であってもかまわない (ICBN13 8.1、37.4)。ただしその場合でも、図解の元となった収集データは残すべきである(ICBN13 勧告8A2)。また[[菌類]]や[[藻類]]では、代謝的に不活性な状態(乾燥保存や冷凍保存された状態)の生体をタイプとすることも可能である (ICBN13 8.4)。
== タイプの種類 ==
原記載中での扱われ方によって、タイプは複数の種類に分類される。何らかの形で原記載に寄与した一連の複数標本を、'''タイプシリーズ'''と呼ぶことがある。なおICZNでは、後述するホロタイプ、レクトタイプ、シンタイプ、ネオタイプの4タイプを、学名の定義に直接関与するものとして'''担名タイプ''' (name-bearing type) と呼んでいる。
;ホロタイプ (holotype)【動】【植】【
:【動】【植】では正基準標本、あるいは正模式標本、【
;レクトタイプ (lectotype)【動】【植】
:選定基準標本。原記載でホロタイプが指定されなかった場合、ホロタイプが行方不明の場合、もしくはホロタイプに二種類以上の生物が混じっていた場合に、新たに選び直されたり作り直されたりした標本のこと (ICBN13 9.2)。アイソタイプ、シンタイプ、アイソシンタイプ、パラタイプのいずれかが残っている場合には、これらの中からこの優先順位で選出することになる (ICBN13 9.10)。
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;アロタイプ (allotype)【動】
:パラタイプのうち、ホロタイプとは異なる性別である個体の標本。ICZNの勧告中(ICZN4 勧告72A)で使用が認められている。
;ネオタイプ (neotype)【動】【植】【
:【動】【植】では新基準標本、【
;パラレクトタイプ (paralectotype)【動】
:かつてシンタイプであった標本だが、その中の別の1つがレクトタイプとして指定されたためにシンタイプの地位を失ったもの (ICZN4 glossary)。
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;ジェノタイプ (genotype)【動】
:「geno-」は「genus」であり、かつては「タイプ種」の意味で用いられていたが、「[[遺伝子型]]」(geno- = gene) としての用法が定着すると共にICZNでは用いられなくなった (ICZN4 glossary)。
;参考株 (reference strain)【
:正基準や新基準株ではないが、[[分類学]]や[[血清]]学などの比較研究や、化学物質の定量に用いられる菌株 (ICNB1990)。
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新種を発表する場合、上記のようにタイプを指定し、それらに基づいてその種の特徴を説明し、他種との違いを述べた論文、すなわち原記載を発表する。生物を[[同定]]する場合、本来的にはこのタイプ、厳密にはホロタイプとなっている個体と同種であるとみなすことでその決定が行われるのであるから、検討対象の標本とタイプを直接比較することによってその判断が決定されることがもっとも望ましいあり方である。
しかしながら、動物や植物では基本的にホロタイプは世界に1つしか存在しない。種の同定を行おうとする世界中の人々すべてがその都度タイプと手持ちの標本を比較して同定するのは非現実的である。そこで、現実の同定作業の大半は、原記載論文の記載文や記載図との比較、もしくは原記載をもとにした総説論文([[モノグラフ]])やそれを要約した種々の同定用資料([[図鑑]]もその一つ)をもとに行われる。一方
もちろん、原記載の記載文や記載図の説明は生物の形質を余さず記録したものではなく、原記載者の取捨選択、あるいは見落としによって落ちている情報が存在する。研究の進展によってそうした欠落情報に重要な意義が見出されることがある。たとえば単一種と考えられていた生物が複数種を含むことが明らかになる、酷似した近縁種が新たに発見され形質の差を明確にしなければならないというような場合である。また、分類学者が既知の種の分類体系を再検討し、系統関係を解き明かしていくときも、単に原記載の記載文や図を用いるだけでは情報は不正確であるし、不足している。
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また、先述のように特に[[ヨーロッパ]]、次いで北米諸国がその博物学的な伝統の下に、世界の多くの国々の生物のタイプを保存してきた。このことは、翻って考えると、欧米以外の国において自国や近隣地域の生物相の研究を独自に進めるようになった場合、参考にすべき標本が遠隔地にあることを意味する。日本においても、[[江戸時代]]後期から多くの生物標本が[[オランダ]]を通じてヨーロッパに運ばれ、また[[明治時代]]になっても来日した欧米の博物学者によって日本で採集された標本に基づいて種々の日本産生物が記載された。そのために、日本産の種でもヨーロッパやアメリカに出かけなくてはタイプ標本を確認することができず、しかもそのようなものは普通種であるために分布が広くて変異が多かったり、より希少な種を区別する際の急所になったりする場合が多く、それなしでは新たな分類学的研究が進められない分類群が大半を占め、日本における分類学研究の大きな足かせとなっている<ref>[[鈴木正将]] (1979)、「タイプ標本の重要性」、Atypus N.74:p.40-41</ref>。
== 注釈・参考文献 ==
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* [[国際藻類・菌類・植物命名規約]]
* [[国際動物命名規約]]
* [[国際
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