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[[ファイル:Dent Corn 'Oaxacan Green' (Zea mays) MHNT 2.jpg|thumb|''Zea mays "Oaxacan Green"'']]
[[ファイル:Zea mays 'Ottofile giallo Tortonese' MHNT.BOT.2015.34.1.jpg|thumb|''Zea mays 'Ottofile giallo Tortonese''']]
'''トウモロコシ'''(玉蜀黍、学名 {{Snamei|Zea mays}})は、[[イネ科]]の[[一年生植物]]。[[穀物]]として[[人間]]の食料や[[家畜]]の[[飼料]]となるほか、[[デンプン]]([[コーンスターチ]])や[[油]]、[[バイオエタノール]]の原料としても重要で、年間世界生産量は2009年に8億1700万[[トン]]に達する。家畜[[世界三大一覧#世界三大穀物|世界三大穀物]]飼料一つ
 
日本語では地方により様々な呼び名があり、'''トウキビまたはトーキビ(唐黍)'''、'''ナンバ'''、'''トウミギ'''、などと呼ぶ地域もある(詳しくは後述)。
 
'''[[コーン]]''' ({{En|corn}}) ともいう。英語圏ではこの語は本来穀物全般を指したが、現在の[[北アメリカ|北米]]・[[オーストラリア]]などの多くの国では、特に断らなければトウモロコシを指す。ただし、[[イギリス]]ではトウモロコシを '''[[メイズ]]'''({{En|maize}})と呼び、穀物全般を指して '''コーン'''({{En|corn}})と呼ぶのが普通である。
 
== 植物の特徴 ==
[[ファイル:W toumorokosi4061.jpg|thumb|雄花は茎の先端にススキ状に生じる]]
[[ファイル:Maispflanze.jpg|thumb|雌花(穂)は茎の中ほどにたくさんつく]]
[[イネ科]]の[[一年草]]で、イネ科としては肥料が必要幅の広い葉をつける。一生のうちに付く葉の数や背丈は品種によってほぼ決まっており、早生品種ほど背丈は低く葉の数も少ない{{sfn|貝沼 |中久喜 |大坪 |2009|pp=13-35}}。
熱帯起源のため、薄い[[二酸化炭素]]を濃縮する為のC4回路をもつ[[C4型光合成]]植物である。多日照でやや高温の環境を好む。大型の作物であるため、育成期間中を通して10[[アール]]あたり350 - 500[[トン]]の水を必要とする{{sfn|貝沼 |中久喜 |大坪 |2009|pp=13-35}}。
 
発芽から3ヶ月程度で雄花(雄[[小穂]])と雌花(雌小穂)が別々に生じる。雄小穂は茎の先端から葉より高く伸び出し、[[ススキ]]の穂のような姿になる。雌小穂は分枝しない太い軸に一面につき、包葉に包まれて顔を出さず、絹糸と呼ばれる長い[[雌蕊|雌しべ]]だけが束になって包葉の先から顔を出す。トウモロコシのひげはこの雌しべにあたる。
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== 品種分類 ==
トウモロコシは長い栽培の歴史の中で用途に合わせた種々の[[栽培品種]]が開発されている。[[雑種強勢]](異なる品種同士を交配すると、その子供の生育が盛んとなる交配の組み合わせ)を利用したハイブリッド品種が1920年頃からアメリカで開発され、以後収量が飛躍的に増加した。また、近年では[[遺伝子組換え]]された栽培品種も普及し広がりつつある。
 
一般にトウモロコシの分類に用いられるのは、粒内のデンプンの構造によって種を決める粒質区分である{{sfn|貝沼 |中久喜 |大坪 |2009|pp=13-35}}。種によって用途や栽培方法に違いがある。
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; 甘味黄色粒種
: 実が黄色の甘味が多い品種。
:; [[味来]](みらい)
:: 1990年代から出回った生食可能な品種の先駆け、平均糖度12度。
:; [[サニーショコラ]]
:: 糖度15度以上、生食可能。
:; ゴールドラッシュ
:: 実が柔らかく、糖度の高い品種。生食可能。
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; 甘味白色粒種
: 実が白色で甘味が多い品種。
:; [[ピュアホワイト (トウモロコシ)|ピュアホワイト]]
:: 白いとうもろこし(とうきび)や幻のとうもろこし(とうきび)とも呼ばれ、平均糖度17度以上とも謳われている。生食も可能だが火を通すと甘味黄色・バイカラー種に比べると食味はやや劣る。
:; 雪の妖精
:: ピュアホワイトの進化型。平均糖度17度で生食も可能。
:; ホワイトショコラ
:: ピュアホワイトの進化型。平均糖度17度で生食も可能。
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以上に示されているのは色や食味による分類であるが、それらに関わる遺伝子については多くが特定されている。甘味に関わる遺伝子ではsu遺伝子・se遺伝子・sh2遺伝子などが特に重要で、それらの組み合わせによってはスイート種・スーパースイート種・ウルトラスーパースイート種などのタイプがある。遺伝子の組み合わせによって、糖の含有量や糖の種類(風味)の違いが生まれる。スイート種は缶詰などの加工用で、青果として流通することはほとんどない。青果としてはスーパースイート種やウルトラスーパースイート種などであるがウルトラスーパースイート種では甘すぎると感じる人もいる。
 
;爆裂種(ポップコーン)(Z.m.L.var.everta):[[菓子]]の[[ポップコーン]]を作るのに使用する。
;馬歯種(デントコーン)(Z.m.L.var.indentata):通常食用にはしない。主に家畜用[[飼料]]や[[デンプン]]([[コーンスターチ]])の原料として使用。
;硬粒種(フリントコーン)(Z.m.L.var.indurata):食用・家畜用飼料・工業用原料に主に使用される。
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== 歴史 ==
=== 起源 ===
[[ファイル:Mochica Corn.jpg|thumb|200px|紀元[[300年]]ごろの南米[[モチェ文化]]の黄金のトウモロコシ像。[[ペルー]]、[[リマ]]のLarco博物館蔵]]
[[ファイル:Centeotl.jpg|thumb|200px|[[センテオトル]]。アステカ文明におけるトウモロコシの神]]
現在最も支持されているのは[[テオシント]]起源説<ref>{{Cite journal |first=G. W. |last=Beadle |authorlink=ジョージ・ウェルズ・ビードル |url=http://jhered.oxfordjournals.org/content/30/6/245.extract |title=Teosinte and the origin of Maize |journal=J Hered |publisher=Oxford University Press |year=1939 |volume=30 |issue=6 |pages=245-247 |language=英語 |accessdate=2015-10-13 }}</ref>で、遺伝子解析などの結果から裏付けられている<ref name="AA11751099">{{Cite journal |和書 |author=福永健二 |url=http://hdl.handle.net/10502/4037 |title=植物のドメスティケーション : トウモロコシの起源 - テオシント説と栽培化に関わる遺伝子 |journal=国立民族学博物館調査報告 |publisher=国立民族学博物館(みんぱくリポジトリ) |date=2009-03-31 |issue=No.84 |pages=137-151 |naid=AA11751099 |accessdate=2015-10-13 }}</ref>。トリプサクム属を起源とする説は[[マイクロサテライト]]解析の結果、否定されている<ref name="AA11751099"/>。また、テオシントとトウモロコシの分岐年代は約9200年前とされている<ref name="AA11751099"/>。
 
かつて起源を争った説としては、
# [[メキシコ]]から[[グアテマラ]]にかけての地域に自生しているテオシント({{lang|en|[[:en:Teosinte|teosinte]]}})<ref group="注釈">日本語名は英名の誤読(最後の e は発音しないと考えた)か。{{lang-nah|teōcintli}} &gt; {{lang-es|teosinte}} &gt; {{lang-en|teosinte}} (ティオシンテイ、ティオシンティー) &gt; {{lang-ja|テオシント}}。{{要出典|date=2015-11-29}}</ref>、トウモロコシの亜種とされる {{Snamei|Zea mays mexicana}} または {{Snamei|Euchlaena mexicana}}、和名ブタモロコシ)が起源だとする説。ただし、テオシントは食用にならない小さな実が10個程度実るのみで、外見もトウモロコシとは明らかに違う。
# 2つの種を交配させて作り出されたとする説。祖先の候補としては、絶滅した祖先野生種とトリプサクム属 (Tripsacum)、トリプサクム属とテオシントなどがある。
 
[[紀元前5000年]]ごろまでには大規模に栽培されるようになり、南北アメリカ大陸の主要[[農産物]]となっていた(ただし、[[キャッサバ]]を主食とした[[アマゾン熱帯雨林|アマゾン]]を除く)。新大陸においては[[アマランサス]]や[[キノア]]などの雑穀を除くと唯一の主穀たりうる穀物であり、[[マヤ文明]]や[[アステカ文明]]においてもトウモロコシが大規模に栽培され、両文明の根幹を成していた。[[南アメリカ]]の[[アンデス山脈]]地域においては[[ジャガイモ]]を中心とした芋類が主食作物として枢要を占めてきたが、トウモロコシも重要な作物であり、特に[[祭祀]]や饗宴儀礼に用いられる酒([[チチャ]])の原料として大量消費されてきた<ref>ピーター・ベルウッド『農耕起源の人類史』長田俊樹、佐藤洋一郎 監訳 京都大学学術出版会 2008年、ISBN 9784876987221 pp.246-253.</ref>。[[インカ帝国]]では階段状の農地を建設しトウモロコシの大量栽培をおこなっていた。<ref>「ラテンアメリカを知る事典」p263 平凡社 1999年12月10日新訂増補版第1刷 </ref>
 
=== 新世界(南北アメリカ大陸)内での伝播 ===
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=== 旧世界への伝播 ===
[[1492年]]、[[クリストファー・コロンブス]]がアメリカ大陸を発見した際、現地のカリブ人が栽培していたトウモロコシを持ち帰ったことで[[ヨーロッパ]]に伝わった。ほぼ即座に栽培が始まり、[[1500年]]には[[セビリア]]において栽培植物としての記録が残っている<ref name="ケンブリッジ2p43">『[[#ケンブリッジ世界の食物史大百科事典 2|ケンブリッジ世界の食物史大百科事典 2]]』, p. 43.</ref>。経緯は不明だが最初の大規模栽培は[[トルコ帝国]]から始まり、「トルコ小麦」と呼ばれた。目新しい植物であるトウモロコシは18世紀初頭まで[[十分の一税]]の対象となっておらず、[[粟]]と転換する形で急速に伝播した{{sfn|トゥーサン=サマ |1998|p=174}}。
 
[[16世紀]]半ばには[[地中海]]沿岸一帯に広がり、16世紀末までには[[イギリス]]や[[東ヨーロッパ]]にも伝わ広がってヨーロッパ全土に栽培が伝搬拡大した。ヨーロッパにおいては当初は貧困層の食料として受け入れられ、それまでの穀物に比べて圧倒的に高い収穫率は「[[17世紀の危機]]」を迎えて増大していた人口圧力を緩和することになった{{sfn|南直人|1998|pp=63-66}}。また、[[大航海時代]]を迎えたヨーロッパ諸国の貿易船によってこの穀物は世界中にまたたくまに広がり、[[アフリカ]]大陸には16世紀に、[[アジア]]にも16世紀はじめに、そしてアジア東端の日本にも1579年に到達している。この伝播は急速なもので、[[1652年]]にアフリカ南端の[[ケープタウン]]に[[オランダ東インド会社]]が[[ケープ植民地]]を建設した際には、すでに現地の[[コイコイ人]]には陸路北から伝播したトウモロコシが普及し広まっていた{{sfn|星川清親|1985|p=310}}。
 
アフリカにおいては伝播はしたものの、[[19世紀]]にいたるまでは[[ソルガム]]など在来の作物の栽培も多かった。しかし19世紀後半以降、鉱山労働者の食料などとしてトウモロコシの需要が増大し、また労働者たちは出稼ぎを終えて自らの村に戻ってきた後も慣れ親しんだトウモロコシの味を好むようになった。さらに、トウモロコシはソルガムよりも熟すのが早いため、従来の端境期においても収穫することができた<ref>『[[#ケンブリッジ世界の食物史大百科事典 2|ケンブリッジ世界の食物史大百科事典 2]]』, p. 45.</ref>。このため、特に[[東アフリカ]]や[[南部アフリカ]]においてソルガムからトウモロコシへの転換が進んだ。しかしトウモロコシはソルガムに比べて高温や乾燥に弱かったため、[[サヘル]]地帯などの高温乾燥地帯では旧来の雑穀を駆逐するまでにはいたらなかった{{sfn|北川勝彦|高橋基樹|2004|p=152}}。
 
=== コロンブス以前のトウモロコシ ===
一般には前述のクリストファー・コロンブスによって旧世界に持ち帰られ広まったとされているが、コロンブス以前に旧世界に存在し12世紀のアフリカ、13世紀のイベリア半島(スペイン・ポルトガル)で栽培されていたとする研究がある<ref>{{Cite journal |和書 |url=http://dx.doi.org/10.1248/yakushi.126.423 |author=内林政夫 |title=コロンブス以前に旧世界にあったトウモロコシ : 回想 |journal=藥學雜誌 |publisher=公益社団法人日本薬学会 |volume=126 |issue=6 |date=2006-06-01 |pages=423-427 |naid=AN00284903 |accessdate=2015-02-27 }}</ref>。
古代[[ポリネシア人]]が太平洋を超えてアメリカの産物や技術をアフリカに移動させており、その中にトウモロコシも含まれていたという説もある{{sfn|トゥーサン=サマ|1998|pp=60-61,174}}。
 
=== 日本への伝播 ===
日本への伝搬は3つの経路があるが、もっとも古い経路は南西経路と呼ばれるヨーロッパ人から伝えられた経路である。いくつかの説があるが、[[ド・カンドル]]は1573年から1591年頃([[天正年間]])に[[ポルトガル]]人によって熱帯型のフリント種が[[長崎]]にもたらされたとしている。その後、[[阿蘇山]]麓や[[四国]]の山中、[[富士山]]麓など気候や水利の面で稲作に向かない地域に広がり、18世紀末には[[蝦夷地]]のモロラン(現在の[[室蘭市]]に至っている{{sfn|貝沼 |中久喜 |大坪 |2009|pp=1-12}}。
 
[[1868年]]頃に、近代の育種法によって作られたアメリカの早生のデント種、フリント種が北海道に導入され、[[開拓使]]によって大規模な畑作が始まった。トウモロコシは生食、飼料として定着し、やがて東北、関東に伝わ広がった。この伝播経路を北海道経路と呼び、南西経路とともに日本への主な伝播経路となった{{sfn|貝沼 |中久喜 |大坪 |2009|pp=1-12}}。
 
第二次大戦後に、育苗会社や農業試験場が世界中の苗を取り寄せて作り出した交雑品種が広く導入される事例が増え、こういった導入経路は自在経路と呼ばれている{{sfn|貝沼 |中久喜 |大坪 |2009|pp=1-12}}。1950年に開発された「ゴールデン・クロス・バンタム」が最初の例となった。
 
== 生産と流通 ==
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|colspan=5 style="font-size:.7em"|無印=公的数字, A = 総計 (公的、半公的、推計データを含む).<ref name="FAOstats">{{cite web|title=Maize, rice and wheat : area harvested, production quantity, yield|url=http://faostat.fao.org/site/567/DesktopDefault.aspx?PageID=567|author=[[:en:Food and Agriculture Organization|Food and Agriculture Organization of the United Nations]], Statistics Division|year=2009|accessdate=2011-09-20 }}</ref>
|}
トウモロコシの世界全体の生産量は、[[2009年]]に約8億1700万tで、うち[[アメリカ合衆国|米国]]が3億3000万t以上を生産し、4割程度を占め世界最大の[[生産国]]となっている。またアメリカは世界最大の輸出国でもあり、シェアは6割を超える。このため、アメリカの主要生産地帯の天候により世界の在庫量・価格が左右される。[[先物取引]]の対象ともされている。近年では、病虫害に強くなるように[[遺伝子組換え]]を行った品種が広がっている。トウモロコシは雑種強勢であり、これを利用したハイブリッド品種の開発によって収量が急増したが、一代雑種であるため栽培農家は収穫から翌年用の種を準備することができず、種は種苗会社から毎年購入しなければならない。これによって種苗会社は毎年巨大な収益を上げることができるようになり、アグリビジネスが巨大化していくきっかけとなった<ref>『[[#ケンブリッジ世界の食物史大百科事典 2|ケンブリッジ世界の食物史大百科事典 2]]』, p. 38.</ref>。
 
20世紀中頃になると、品種改良されたハイブリッド品種による収量増加は先進国から発展途上国へと広がっていった。いわゆる[[緑の革命]]である。これによりトウモロコシの生産はさらに増加したが、新品種開発は飼料用トウモロコシが中心であり、穀物として使用される主食用トウモロコシにおいてはさほど進まなかった。このため、トウモロコシを主食とする[[メキシコ]]やアフリカ諸国においては、トウモロコシの生産性はさほど向上していない{{sfn|平野克己|2002|pp=42-43}}。近年で21世紀において収量の向上とともに後進国住民に蔓延する[[ビタミンA]]不足に抵抗対応するためのハイブリッド品種が開発され、ナイジェリアなどへの投入が試みられている<ref>{{Cite web |date= 2012.09.13|url=https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20120905/163101/ |title= 国際アグリバイオ事業団(ISAAA)アグリバイオ最新情報【2012年8月31日】|publisher= 日経バイオテクオンライン|accessdate=2018-04-13}}</ref>。
 
[[日本]]はトウモロコシのほとんどを輸入に依存している。農水省や総務、財務省などの統計上の分類ではトウモロコシとは穀類のことであり、そのほとんどは飼料として、一部が澱粉や油脂原料として加工されるものである。その量は年間約1600万tで、これは日本の[[米]]の年間生産量の約2倍である。日本は世界最大のトウモロコシ輸入国であり、その輸入量の9割をアメリカに依存している。
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2007年度のトウモロコシの世界消費は、家畜の飼料用が64%で最も多く、ついでコーンスターチ製造などに用いられる工業用が32%を占め、直接の食用はわずか4%にすぎない{{sfn|榎本裕洋|安部直樹|2008|pp=24-25}}。トウモロコシの直接食用としての消費量は、上図のように国によって大きく偏りがある。アメリカや中国のように、大生産国でありながらあまり食用に用いない国も多い。最も食用としての消費が大きいのは、トウモロコシから作るトルティーヤを常食とするメキシコや、パップ、サザやウガリといったトウモロコシ粉から作る食品を主食とするアフリカ東部から南部にかけての地域である(右図参照)。
 
なお、上記のように主食用トウモロコシと飼料用・工業用トウモロコシとは品種が違うため、飼料用トウモロコシの消費を減らして主食用に転用することは一概に可能とも言えない。(主食用を飼料用や工業用に転用することはできる)。かつて[[ケニア]]で大[[旱魃]]が起きた際、アメリカ合衆国がトウモロコシ粉の食料援助を行ったが、その粉がケニアでウガリなどにする食用の白トウモロコシではなく、ケニアでは食用に用いない黄色トウモロコシであったため、ケニア政府が援助をアメリカに突き返したこともあった{{sfn|松本仁一|1998|p=54}}。
 
近年、最大の生産国であるアメリカにおいてトウモロコシを原料とする生物燃料[[バイオマスエタノール]]の需要が急速に増大し、エタノール用のトウモロコシ需要は1998年の1300万tから2007年には8100万tにまでなっ急拡大した{{sfn|榎本裕洋|安部直樹|2008|pp=146-147}}。これによりトウモロコシの需要は拡大したが、一方で生産がそれに追いつかず、これまでの食用・飼料用の需要と食い合う形となったために価格が急騰し、[[2007年-2008年の世界食料価格危機]]を引き起こした原因のひとつとなったという説もある<ref>http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/pr/wakaru/topics/vol2/ 日本国外務省「わかる!国際情勢 食料価格高騰~世界の食料安全保障~」2008年7月17日 2016年8月6日閲覧</ref>。
 
== 用途 ==
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=== 食用 ===
トウモロコシの栽培化が行われた[[メソアメリカ]]では、トウモロコシは古来重要な[[主食]]作物であった。乾燥した種子は石灰を加えた水で煮て[[塩基|アルカリ]]処理してからすり潰し、[[マサ]]という一種のパン生地に加工して、各種の調理に用いられた。代表的なものが、薄く延ばして焼いた[[メキシコ]]の[[トルティーヤ]]である。このアルカリ処理は、現在ではニシュタマリゼーションと呼ばれている。[[南アメリカ|南米]]の[[アンデス山脈|アンデス]]地域では、アルカリ処理せずに粒のまま煮て食べることが多いが、この地域での主食作物は[[ジャガイモ]]などの各種[[芋]]類がより重要で、トウモロコシは先述したような煮て食べる以外に、発芽させたものを煮て糖化させ、さらに発酵させて[[チチャ]]という[[酒]]にすることが多い<ref>『[[#ラテン・アメリカを知る事典|ラテン・アメリカを知る事典]]』, p.264.</ref>。
 
古くから[[コムギ|小麦]]、[[雑穀]]などを製粉して利用してきた[[ヨーロッパ]]や[[アジア]]、[[アフリカ]]などにトウモロコシが導入されると、やはり製粉して調理されるようになった。[[アメリカ合衆国|米国]]の[[コーンブレッド]]のように水でこねて焼くもの、[[イタリア]]の[[ポレンタ]]や[[東ヨーロッパ|東欧]]の[[ママリガ]]、[[東アフリカ]]の[[ウガリ]]や[[ンシマ]]などのように煮立った湯の中に入れて煮ながらこねあげ、[[粥]]や固形状にするもの、[[中華人民共和国|中国]]のウォートウ([[窩頭]])のように[[蒸しパン]]状にするものなどがある。
 
現代の日本ではこうした主食としての利用はあまりなじみがないが、[[高度経済成長]]以前には、[[山梨県]]の富士北麓地方など{{sfn|本山荻舟|1958|p=410}}米の収穫量の少ない寒冷地や山間地では、硬粒種のトウモロコシの完熟粒を粒のまま、あるいは粗挽きにしたものを煮て粥にしたり、石臼で製粉して利用していた地域も少なくなかった。
 
未熟な穂は、焼いたり茹でたりすることで野菜として利用される。こうした用途には甘味種が供されることが多い。野菜として少々特殊なものにベビーコーン(ヤングコーン)がある。これは生食用甘味種の2番目雌穂を若どりして茹でたもので、サラダや煮込み料理などに用いられる。さらに特殊なものとして、[[メキシコ]]では[[クロボキン類]]の一種である[[トウモロコシ黒穂病]]菌({{Snamei||Ustilago maydis}})に感染した穂を「ウイトラコチェ(Huitlacoche)」と呼んで食用とし、高級食材となっている。
 
そのほか、食材としての利用は多岐にわたり、[[コーンスープ]](西洋料理のコーン[[ポタージュ]]・中華料理の[[玉米羹]]・[[粟米羹]])、バターコーン、[[ポップコーン]]、 [[コーンフレーク]]などにする。またコーンパフとして[[スナック菓子]]の原料としても多く用いられている。南アフリカを中心とした南部アフリカではトウモロコシの粉を乾燥させた{{仮リンク|ミリミル(mielie meal)|en|Mielie-meal|label=ミリミル(mielie meal)}}を、水や湯で溶かしてから、煮た{{仮リンク|パップ(pap)|en|Pap_(food)|label=パップ(pap)}}という白いマッシュポテトのような、餅と粥の間の食感のものが主として黒人層での主食である。パップはトウモロコシの成分が濃縮しており、7割以上が糖質のため、これらの地域の肥満の原因の一つでもある。若干発酵させたものはサワーパップと呼ばれる。
 
[[ビール]]や[[ウイスキー]](主に[[グレーン・ウイスキー]]や[[バーボン]]、[[アメリカン・ウイスキー]]、[[テネシー・ウイスキー]])など、[[酒|アルコール飲料]]の原料ともなる。
 
日本での生食については、近年にいたるまで、非常に新鮮な場合に稀に食べることができるという状況であって、それも人が食べて大変おいしいとされる味をだすにいたる品種はなかった。しかし、1990年代後半に現れた[[パイオニアエコサイエンス]]の[[味来]](みらい)は糖度が当時の平均的なメロンと同じ12度と同等かそれ以上になる品種もある。
 
トウモロコシの種実には、体内で合成できない[[必須アミノ酸]]のひとつ[[トリプトファン]]が少ない。そのため、古来よりトウモロコシを主食とする地域の南アメリカ、米国南部、ヨーロッパの山間地、アフリカの一部などでは、トリプトファンから体内で合成される[[ビタミンB群]]のひとつ[[ナイアシン]]の欠乏症である[[ペラグラ]]({{lang|la|pellagra}}、俗にイタリア癩病)にかかりやすく、現在でもこれが続いている地域がある。メソアメリカでは、古来より前述のアルカリ処理を行うことで欠乏症を防いでいたとされる。
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トウモロコシの実は、人間の食用としての他、[[畜産業]]での[[飼料]]として大量に消費されている。そのほか、デンプン([[コーンスターチ]])や、[[サラダ油|サラダオイル]]などに用いられる[[コーン油]]の供給源としても利用されている。2007年度には、家畜の飼料用が世界総消費の64%、コーンスターチ製造やコーン油などに用いられる工業用が32%を占めた。また、[[鯉]]や[[黒鯛]]等を釣る釣り餌としての需要もある。
 
トウモロコシからは効率よく純度の高いデンプンが得られるため、[[工業作物]]としても重要な位置を占める。胚乳から得られるデンプンは[[製紙]]や[[糊]]などに使用される他、[[発酵]]によって[[糖]]や[[エタノール]]など、様々な化学物質へ転化されている。こうして作られる[[コーンシロップ]]は甘味料として重要である。近年では[[環境問題]]や[[持続的社会]]への関心から、[[生分解性プラスチック]]である[[ポリ乳酸]]や、生物燃料[[バイオマスエタノール]]として自動車燃料などへの用途も広がりつつある。
 
また、[[アメリカ合衆国]]では、飼料用のトウモロコシの実を[[燃料]]にする暖房用[[ペレットストーブ]]が、{{仮リンク|コーンストーブ|en|Corn stove|label=コーンストーブ}}と呼ばれて製造販売されている。
 
特にアメリカでは、バイオマスエタノールの原料として注目されて価格が急騰し、2008年にはアメリカ国内需要の3割を占めるようになり、[[ダイズ|大豆]]からの転作も進んでいるが、大豆や小麦に比べて成長に水を消費するため、一部の地域で水資源の不足が問題になりつつある{{sfn|貝沼 |中久喜 |大坪 |2009|pp=184-192}}。また、エタノール相場とトウモロコシ相場のミスマッチや輸送供給のためのインフラの不整備によって起こる採算の悪化や{{sfn|貝沼 |中久喜 |大坪 |2009|pp=184-192}}、エタノールに変わ対応する機種が少ないことなどからバイオマスエタノール用の需要が伸び悩み、供給過剰によって生産されたエタノールの価格がガソリン価格の暴騰にもかかわらず横ばいを続けているなどの問題もある<ref>{{cite news|author=週刊ダイヤモンド編集部 河野拓郎|url=http://diamond.jp/articles/-/4533|title=トウモロコシ高騰でバイオエタノール生産業者も悲鳴|newspaper=ダイヤモンド・オンライン|publisher=ダイヤモンド社|date=2008-08-18|accessdate=2015-01-31}}</ref>。
 
==== 軸 ====
実を取ったあとの軸(コブ)は、[[合成樹脂]]材料の[[フルフラール]]や[[フルフリルアルコール]]、[[甘味料]]の[[キシリトール]]などの製造原料となる。粉砕した粉は[[コブミール]]と呼び、[[キノコ]]の[[培地]]、[[建材]]原料、[[研磨材]]などにも利用されている。
 
芯が柔らかく円筒形に加工しやすいことから、喫煙具([[コーンパイプ]])として用いられる<ref name="pipeclub">日本パイプクラブ連盟 編『パイプ大全』第3版 未知谷 2009年、ISBN 9784896422696 pp.151-152.</ref>。[[第二次世界大戦]]戦後処理で[[連合国軍最高司令官総司令部]]総司令官の任についた[[ダグラス・マッカーサー]]の写真でしばしば[[コーンパイプ]]を手にした姿を見ることができる。
現在のコーンパイプは、1946年に芯を使うことを目的として開発されたコーンパイプ用の品種を材料にして作られている<ref name="pipeclub"/>。
 
==== 茎・葉 ====
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== 名称 ==
日本語で標準的に用いられている呼称の「トウモロコシ」という名称は、トウは中国の国家[[唐]]に、モロコシは、唐土(もろこし)から伝来した植物の「[[モロコシ]]」に由来する。関西などの方言でいう「なんば」は南蛮黍(なんばんきび)の略称であり、高麗(こうらい)または高麗黍と呼ぶ地域もあるが、これらはいずれも外来植物であることを言い表している。これはヨーロッパにおいても同じ状況であり、[[フランス]]では「トルココムギ」、[[トスカーナ]]では「シシリーコーン」、[[シチリア]](シシリー)では「インディアンコーン」と呼ばれるなど、おおまかに「外国の穀物」という意味で共通する各種名称で呼ばれていた<ref name="ケンブリッジ2p43" />。