「トリバネチョウ」の版間の差分

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== 分類 ==
通例では[[ジャコウアゲハ族]]下の'''アカエリトリバネアゲハ属''' {{Snamei||Trogonoptera}}、および'''トリバネアゲハ属''' {{Snamei||Ornithoptera}}に分類される熱帯性の大型で美麗な[[チョウ]]各種を指す。しかし今日では同族下の'''キシタアゲハ属''' {{Snamei||Troides}} まで含めることが多い。[[属 (分類学)|種]]以下の分類は混乱し意見が分かれており、研究者により属がさらに細分化されたり、1属に含まれる種数も専門家により10-30などと様々に変化すな意見がある。
 
== 分布 ==
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: もっとも分布域が広く、インドネシアを中心として[[東南アジア]]全域に広く分布し、北は[[台湾]]まで、西は1種のみであるが[[インド]]にも産する。
; アカエリトリバネアゲハ属
: [[マレー半島]]、インドネシアの[[ボルネオ島]]、[[スマトラ島]]に産する。各種ごとの分布は局所的であり、ニューギニアでは峰ごとに、インドネシアでは島が変わるそこに産する種も変わが異なる。
 
その一方で種間で容易に交雑し、野生下でも種間[[雑種]]を産する。また飼育家の手により、多数のトリバネアゲハ属とキシタアゲハ属の属間雑種が産まれていることから、両属が進化の系統上で極めて近い関係にあることが示されている。
 
== 形態 ==
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=== トリバネアゲハ属 ===
[[性的二形]]の性格が特に著しく、どの種もメスがオスより開翅長で 1.2 - 1.5 倍程度大きい。色はオスが原色をちりばめた派手な翅を持つのに対して、メスの翅は喪服に身をやつした西洋婦人のような黒と白の[[モノトーン]]でひどく地味であり、あまりの落差から雌雄別種とされていた時期もある。翅の形もかなり異なり、特にアレキサンドラトリバネアゲハや[[ビクトリアトリバネアゲハ]] {{Snamei||Ornithoptera victoriae|O. victoriae}} のオスの翅は、前後翅とも[[紡錘形]]に近くなる。またオスの後翅が飛翔不可能になるまで小型化した[[ヒレオトリバネアゲハ]] {{Snamei||Ornithoptera meridionalis|O. meridionalis}} のような種もいる。
 
=== キシタアゲハ属 ===
[[性的二形]]を示すが、トリバネアゲハ属ほど顕著ではない。前翅の表側は漆黒もしくは茶色で、トリバネアゲハ属のような原色はふつう載らない。[[翅脈]]に沿った部分はしばしば灰色からクリーム色がかり、後翅のほぼ中央には大きな黄色い紋を呈する部分がある。メスはここがオスに較べて小さく地味になる。本属の1種、[[フィリピンキシタアゲハ]] {{Snamei||Troides rhadamantus}} は臀脈(A2及びA3)<ref>前翅後方の縁に近い部分の翅脈。</ref>上と[[触角]]に温度感知器を有していることが判明しており、触角にはそれに加えて空中の湿気を検知する[[湿度]]受容器も備わっている。これらは錐状感覚器として知られる。温度感知器は気温の激変に敏感であり、体温調節と太陽光を浴びたときのを阻止していると考えられている。
 
=== 翅色の構成 ===
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繁殖は種によってそう変わらず、どの種もメスの役割は比較的受け身<ref>オスが飛翔不可能とされているヒレオトリバネアゲハだけは立場が逆になるとされる。</ref>である。オスは梢から梢をひらひらと飛びながら、メスの頭上 20-50cm の場所で、入念に翅を震わせながら、休むことなく求愛ダンスを踊り続ける。交尾後、メスはすぐに幼虫の食草を探し始める。食草は[[ウマノスズクサ科]] {{Snamei||Aristolochiaceae}} の[[ウマノスズクサ属]] {{Snamei||Aristolochia}} 及び同科の[[パラリストロキア属]] {{Snamei||Pararistolochia}}。つる性植物で、メスはこれらのつる草を見つけるとその葉の先端に1葉あたり1個の割合で球形の卵を産み付ける。
 
[[幼虫]]は大食漢だがあまり移動しないので、ちょっとした数が群れると食草は丸坊主にされる。幼虫の過密が原因で、共食いになが起きることもままある。幼虫の体色は暗赤色から茶色であり、背面には背骨上の突起がある。突起が地色と正反対の目立つ色や、突起間の鞍部が青白い種もある。他のアゲハチョウ科の幼虫と同様に、トリバネチョウの幼虫も[[臭角]]と呼ばれる収納可能なヘビの舌のように二叉になった器官があるを持つ。臭角はテルペン由来の化学物質を分泌し、幼虫が刺激を受けたときなどに放出される。幼虫は有毒なため、天敵にはエサとしての魅力があまりない。幼虫の食草であるウマノスズクサ科植物には[[アリストロキア酸]]が含まれており、これは[[ラット]]に対する[[発癌性]]があることで知られる。幼虫は体内で食草に含まれるアリストロキア酸を体内で濃縮して、変態中のみならず成虫になった後もずっと毒として機能させる。
 
[[蛹]]は枯葉もしくは小枝に擬態する。蛹化の直前に、幼虫は食草から離れてさまよい歩くことがある。アレキサンドラトリバネアゲハでは、産卵から羽化までおおよそ4か月かかり、捕食され場合などを除くと成虫になった後も3か月ほど生きる。
 
== 人間との関係 ==
[[和名]]のトリバネ(鳥翅、英名もBirdwingである)は、並外れた大きさと前方に向かって広がる翅、および鳥にも見紛う飛び方に由来する。発見当初、あまりの大きさから鳥と間違われ、[[散弾銃]]で撃ち落とされた逸話はつとに有名である。しかし今日ではこの逸話の前段にある「鳥と見まちがえた」云々は誤ってい虚偽であるとされる。後段の散弾銃を用いた捕獲は事実で、現に証拠も残っている。というのも当時、高い林冠部を高速で飛ぶ本種を捕獲するには他に方法がなかったためである。
 
トリバネアゲハは美しい翅と相当な大きさ、種間、亜種間、果ては個体間の変異の多様さ、入手の困難さなど、まさにコレクションの対象とされるにうってつけの条件を揃えており、[[高山]]性の{{Snamei||Parnassius}}属([[ウスバシロチョウ属]])、南米産の{{Snamei||Agrias}}属([[ミイロタテハ属]])や[[モルフォチョウ]]とあわせて、チョウの標本コレクション中の白眉とされる。発見当初から数多くのコレクターを抱えており、なかでも欧米の大[[富豪]]や[[貴族]]たちは、大金を注ぎ込んで互いの標本コレクションを競った。[[チャールズ・ダーウィン]]と同時期に[[進化論]]を唱えたイギリスの博物学者[[アルフレッド・ラッセル・ウォレス]]は、そうした富豪たちの需要にこたえ、生業としてトリバネチョウの採集人をしていたことがある。
 
また、トリバネアゲハ属には著名な種が多いこともコレクターを刺激する重要な要素となっている。具体的には、チョウ目のみならず、現存する昆虫綱中の世界最大種であるアレキサンドラトリバネアゲハ、それに次ぐ大きさのゴライアストリバネアゲハ {{Snamei||Ornithoptera goliath}}、オーストラリア最大の昆虫 ''O. (priamus) euphorion'' などである。[[19世紀]]の[[サラワク王国]]初代白人藩王([[ラージャ]])だった[[ジェームズ・ブルック]]卿に献名された学名を有するアカエリトリバネアゲハ {{Snamei||Trogonoptera brookiana}} の名も広く知られている。
 
今世紀に入って、原産国の近代化に伴う急速な開発で生息地である熱帯雨林が破壊され、個体数が激減している。現在、アレキサンドラトリバネアゲハを除く全種が [[絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約|ワシントン条約]] 附属書IIに記載されている危急種もしくは希少種に認定され、アレキサンドラトリバネアゲハはさらに厳しい附属書Iに記載されており、ワシントン条約加盟各国間での商取引は規制されている。
 
しかし本種に魅せられたコレクターは未だに多く、標本一つに大金が動くので例外として飼育環境下において養殖され IFTA <ref>[http://www.ifta.com.pg Insect Farming and Trading Agency of New Guinea] {{webarchive|url=https://web.archive.org/web/20020321091716/http://www.ifta.com.pg/ |date=2002年3月21日 }} ニューギニア養殖昆虫貿易庁と訳せる。</ref>の認可を得た個体の標本は取引が認められている。アレキサンドラトリバネアゲハのみは附属書Iに記載されているため、いかなる状況においても合法な商取引はできない。だが世界最大種という大看板を背負っており、十分な需要が見込める本種も認めるべきとの意見があるので 2006 年時の CITES 動物分科会において、この種は CITES 附属書IIへの掲載が適当だと勧告されている。