「エプスタイン・バール・ウイルス」の版間の差分

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'''エプスタイン・バール・ウイルス'''(''Epstein-Barr virus'')とは、[[ヘルペスウイルス科]]に属する[[ウイルス]]の一種。本邦ではよく'''EBウイルス'''と略して呼称される。学名は'''ヒトヘルペスウイルス4型'''(''Human herpesvirus 4''、HHV-4)と変更されたが、今なお旧称が広く用いられている。
 
EBウイルス(以下EBVと略記)は、いわゆる「'''キス病'''」と言われる'''[[伝染性単核球症]]'''の原因ウイルスとして有名である。日本では成人までに90%〜ほぼ100%の人が唾液や性分泌液等を介してEBVに感染する<ref group="注釈" name=":0">新村眞人, 山西弘一 (1996).「ヘルペスウイルス感染症」中外医学社. ISBN 4-947623-18-7.</ref>。巧妙に潜伏、また時に応じて再活性化を来たして維持拡大を図るため、ウイルスは終生にわたって持続感染し排除されない<ref group="注釈" name=":01">Amon W, Farrell PJ (2004). [https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15546128 "Reactivation of Epstein–Barr virus from latency"]. ''Reviews in Medical Virology''. '''15''' (3): 149–56., [[PubMed|PMID]] [https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15546128 15546128], [[デジタルオブジェクト識別子|doi]]: [https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/rmv.456 10.1002/rmv.456].</ref>。
 
またEBVは腫瘍形成に関わる'''[[腫瘍ウイルス]]'''('''癌ウイルス''')としても知られ、種々の[[悪性リンパ腫]]・[[胃癌]]・[[上咽頭癌|上咽喉癌]]・[[平滑筋肉腫]]・[[唾液腺腫瘍|唾液腺癌]]といった種々の癌を引き起こすことも知られている<ref>Maeda E, Akahane M, Kiryu S, Kato N, Yoshikawa T, Hayashi N, Aoki S, Minami M, Uozaki H, Fukayama M, Ohtomo K (2009). [https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19373526 "Spectrum of Epstein–Barr virus-related diseases: a pictorial review"]. ''Japanese Journal of Radiology''. '''27''' (1): 4–19., [[PMID]] [https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19373526 19373526], [[デジタルオブジェクト識別子|doi]]: [https://link.springer.com/article/10.1007%2Fs11604-008-0291-2 10.1007/s11604-008-0291-2].</ref>。最近では[[乳癌]]を引き起こすことができることも示されている<ref name=":4">Hu H, Luo ML, Desmedt C, Nabavi S, Yadegarynia S, Hong A, Konstantinopoulos PA, Gabrielson E, Hines-Boykin R, Pihan G, Yuan X, Sotirious C, Dittmer DP, Fingeroth JD, Wulf GM (2016). [https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27333046/ "Epstein-Barr Virus Infection of Mammary Epithelial Cells Promotes Malignant Transformation"]. ''EBioMedicine''. '''9''': 148-60., [[PMC (アーカイブ)|PMC]]: [https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4972522/ 4972522], [[PMID]] [https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27333046/ 27333046], [[デジタルオブジェクト識別子|doi]]: [https://www.ebiomedicine.com/article/S2352-3964(16)30209-2/fulltext 10.1016/j.ebiom.2016.05.025].</ref>。
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== 疫学と初感染時の兆候 ==
EBウイルス(EBV, Epstein-Barr virus)は一般には唾液を介して伝搬する。出生後しばらくは母親からの[[受動免疫]]([[移行抗体]])により防御されているが、半年後頃から、おそらく母親を含めた家族からと思われる感染が始まり、2〜3歳までには感染率は70%前後に達する。乳幼児期の感染の割合は国・生活レベルによって異なり、例えばアメリカの白人におけるこの時期の感染リスクは20%前後と報告されている。乳幼児期の初感染は無症候もしくは低症候性に推移し、感染に気づかないことも多い<ref name=":0" group="注釈" />。最終的に、日本では成人までに90%〜ほぼ100%の人が唾液や性分泌液等を介してEBVに感染する<ref name=":0" group="注釈" />。巧妙に潜伏、また時に応じて再活性化を来たして維持拡大を図るため、ウイルスは終生にわたって持続感染し排除されない<ref name=":01" group="注釈" />。EBVの主要な感染細胞は[[B細胞]]や上皮系細胞であるが、その他[[T細胞]]・[[ナチュラルキラー細胞|NK細胞]]にも感染しうる<ref name=":0" group="注釈" />。
 
=== 伝染性単核球症 ===
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=== 構造とゲノム ===
[[ファイル:Viral Tegument.svg|サムネイル|単純化されたEBウイルスの構造|代替文=|330x330ピクセル]]
EBウイルス(EBV, Epstein-Barr virus)は直径約122〜180nmであり、約17万2千対の塩基対と約85個の遺伝子をコードする二本鎖DNAで構成されている<ref name=":01">Amon W, Farrell PJ (2004). [https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15546128 group="Reactivation of Epstein–Barr virus from latency注釈"]. ''Reviews in Medical Virology''. '''15''' (3): 149–56., [[PubMed|PMID]] [https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15546128 15546128], [[デジタルオブジェクト識別子|doi]]: [https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/rmv.456 10.1002/rmv.456].</ref>。
 
ガンマヘルペスウイルス亜科リンフォクリプトウイルス(Lymphocryptovirus)属に分類されるウイルスで、ヒトヘルペスウイルス4型(HHV-4, Human herpesvirus 4)とも呼ばれるヒトに感染する[[ヘルペスウイルス]]の一種である。
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==== 潜伏感染 ====
前述の溶解感染とは異なり、潜伏感染(latent infection, latency)は感染力のあるウイルス粒子(ビリオン)の産生が行われない<ref name=":1" />。潜伏期においては、EBVはごく限られた遺伝子群(latent genes;潜伏感染遺伝子)のみを発現し<ref name=":01" group="注釈" />、ウイルスゲノムは[[細胞核]]内で宿主[[染色体]]に付着してエピソームとして存在する<ref name=":1" />。宿主の[[細胞分裂]]サイクルに同調してS期に一回複製し、娘染色体に付着して分配されることで宿主が複製、分裂してもウイルスが希釈、減少することなく維持される。
 
EBV潜伏感染は潜伏感染遺伝子の発現パターンによってI型・II型・III型の3つに分類されており、限られた種類の異なるウイルスタンパク質・ウイルスRNAの産生が行われる<ref>Calderwood MA, Venkatesan K, Xing L, Chase MR, Vazquez A, Holthaus AM, Ewence AE, Li N, Hirozane-Kishikawa T, Hill DE, Vidal M, Kieff E, Johannsen E (2007). [https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17446270 "Epstein–Barr virus and virus human protein interaction maps"]. ''Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America''. '''104''' (18): 7606–11., [[PMC (アーカイブ)|PMC]]: [https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1863443/ 1863443] , [[PMID]] [https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17446270 17446270], [[デジタルオブジェクト識別子|doi]]: [http://www.pnas.org/content/104/18/7606 10.1073/pnas.0702332104]. </ref><ref>Hutzinger R, Feederle R, Mrazek J, Schiefermeier N, Balwierz PJ, Zavolan M, Polacek N, Delecluse HJ, Hüttenhofer A (2009). [https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19680535 "Expression and processing of a small nucleolar RNA from the Epstein-Barr virus genome"]. ''PLoS Pathogens''. '''5''' (8): e1000547., [[PMC (アーカイブ)|PMC]]: [https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2718842/ 2718842], [[PMID]] [https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19680535 19680535], [[デジタルオブジェクト識別子|doi]]: [http://journals.plos.org/plospathogens/article?id=10.1371/journal.ppat.1000547 10.1371/journal.ppat.1000547]. </ref>。
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EBVはB細胞と上皮系細胞で潜伏的に持続感染できるが、その時の潜伏感染遺伝子の発現パターンは潜伏感染している細胞がB細胞か上皮系細胞かによって異なる。なお、メモリーB細胞でのEBV感染様式として、EBER以外ウイルス遺伝子の発現がほとんど確認できない0型という潜伏様式の存在も確認されている。
 
B細胞においてはI型・II型・III型全ての潜伏感染遺伝子発現パターンが可能である<ref name=":01" group="注釈" />。EBVの潜伏感染は通常III型・II型・I型の順に進む。それぞれの発現パターンはB細胞の振る舞いに特異な影響を与える<ref name=":01" group="注釈" />。休眠中のナイーブB細胞に感染する際には、EBVはIII型の潜伏感染から行う。III型の潜伏感染において産生されるタンパク質とRNAによってその休眠中のナイーブB細胞は形質転換により増殖性芽球(ないしはB細胞の活性化として知られる)になる<ref name=":01" /><ref name=":1" group="注釈" />。その後、EBVはその潜伏感染遺伝子の発現を制限し、II型の潜伏感染へと突入する。II型の潜伏感染で発現されたタンパク質とRNAはB細胞をメモリーB細胞へと分化させる<ref name=":01" /><ref name=":1" group="注釈" />。最終的にはEBVはさらにその潜伏感染遺伝子の発現を制限し、I型の潜伏感染へと移行する。I型の潜伏感染において産生されるEBNA-1はEBVゲノムを宿主染色体につなぎ止めるアンカーとして働き、メモリーB細胞が分裂する際に複製されることを可能としている<ref name=":01" /><ref name=":1" group="注釈" />。
 
上皮系細胞においては、II型の潜伏感染のみが可能である{{要出典|date=2018年7月}}。