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'''鞭毛'''(べんもう、英:flagellum)は毛状の[[細胞小器官]]で、遊泳に必要な推進力を生み出す事が主な役目である。構造的に[[真核生物]]鞭毛と[[真正細菌]]鞭毛、[[古細菌]]鞭毛とに分けられる。
 
== 真核生物鞭毛 ==
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:<sub>また、水中の真核生物の分類群の中で[[紅藻]]類だけは、[[生活環]]を通して一切の鞭毛を持たない。[[有性生殖]]時に生じる[[精子]]も不動精子である。陸上生物では[[接合菌]]、[[子嚢菌]]と[[担子菌]]も一切の鞭毛細胞を生じない。[[種子植物]]の大部分もそうである。これらは二次的に鞭毛細胞を生じなくなったものと考えられる。種子植物では[[ソテツ類]]と[[イチョウ類]]だけが精子に鞭毛を持ち、祖先が鞭毛細胞を持つものであったことを伺わせる。</sub>
 
[[File:Prokaryote cell.svg|Right|thumb|400px|[[原核]]の構造。[[:en: Bacterial capsule|Capsule]]:[[莢膜]]、[[:en:Cell wall]]:[[細胞壁]]、[[:en:Plasma membrane]]:[[細胞膜]]、[[:en:Cytoplasm]]:[[細胞質]]、[[:en:Ribosomes]]:[[リボソーム]]、[[:en:Plasmid]]:[[プラスミド]]、[[:en:Pilus|Pili]]:[[性繊毛]]、[[:en:Bacterial_flagellum#Bacterial|Bacterial flagellum]]:[[鞭毛#真正細菌鞭毛|真正細菌鞭毛]]、[[:en:Nucleoid]]( [[:en: Circular DNA]]):[[核様体]]]]
 
== 真正細菌鞭毛 ==
[[大腸菌]]をはじめとする[[バクテリア]]表面にみられる。直径20ナノメートル、長さ約十マイクロメートルのねじれた繊維。暗視野顕微鏡などの[[光学顕微鏡]]で観察することができる。真核生物のものと異なるのは、[[チューブリン]]からなる微小管ではなく、真正細菌では代わりに[[フラジェリン]]という[[タンパク質]]が[[重合]]して伸びた繊維でできていることである。真核生物の鞭毛とは運動機序が異なり[[ダイニン]]の利用は見られない。
 
それぞれの繊維の付け根には回転モーターがあり、細胞内外の[[イオン]]の透過に共役した電気化学的ポテンシャルを運動エネルギーに変換することで回転する。そのためこのモーターの回転にはATPは必要ない。消費されるのは水素イオン濃度差である。このモーターの機構は[[電子伝達系]]によって駆動する[[ATPase]]と共通する部分が多い。フラジェリンのらせん状の繊維がこのモーターで回転すると、こうした微小な世界では[[レイノルズ数]]が小さく水の[[粘性]]が高くなっているため、いわば粘っこい水の中に[[コルクスクリュー|コルク抜き]]をねじ込むような形になり、細胞は高速で前進する。
 
回転モーターを除く鞭毛部分はIII型分泌装置とほぼ同様である。III型分泌装置を持つ真正細菌は比較的狭いグループに限られることから、鞭毛がIII型分泌装置に進化したとする見方が一般的だが、その逆とする説もある。鞭毛繊維部分はIII型分泌装置が細胞外にたんぱく質を放出する際と同様の機構で先端から構築される。
 
鞭毛繊維部分の構築は先端から行われる。これはIII型分泌装置が細胞外にたんぱく質を放出する際と同様の機構で、中空になっている鞭毛繊維部分の中をフラジェリンが通って先端に輸送される。
真正細菌鞭毛は、真核生物鞭毛と区別するために慣用的に「べん毛」と書かれることもある。
 
真正細菌鞭毛は、真核生物鞭毛と区別するために慣用的に「べん毛」と書かれることもある。
 
== 古細菌鞭毛 ==
[[File:Pyrococcus furiosus.png|thumb|300px|[[ピュロコックス・フリオスス]]のイラスト。周りの細いひも状のものが鞭毛]]
広範囲の[[古細菌]]に存在する。繊維部分は真正細菌よりもやや細い直径10-15nm、全長10-15μmのねじれたタンパク集合体である。これも真正細菌と同様の機能を持ち、回転により移動力を得る。顕微鏡下では真正細菌鞭毛と殆ど見分けがつかず、見た目の違いは違いは若干細い事、大抵は複数の鞭毛が束にってることぐらいである。このため、1990年代中ごろまでは両者は細菌鞭毛と同一の構造とみなされていた。しかしながら、鞭毛を構成するタンパク質に共通点は一切なく、両者は異なる起源を持つと考えられる。
 
古細菌の鞭毛を構成するたんぱく質は、古細菌自身やグラム陰性細菌が持つIV型線毛と類似が見られ、同様に根元から構築される。IV型線毛は付着のための器官で回転力は一切与えないが、これに回転モーターなどが追加され鞭毛を成している。駆動トルクはATPの加水分解により得ているが、エネルギー変換効率は水素イオンやナトリウムイオン濃度差をエネルギー源に利用する真正細菌に比べて著しく低く、6~10%程度と見積もられている。
 
''Halobacterium salinarum''において正確な周期と角度で同期回転することが詳細に観察されている。<ref>Yoshiaki Kinosita, Nariya Uchida, Daisuke Nakane, Takayuki Nishizaka(2016). “Direct observation of rotation and steps of the archaellum in the swimming halophilic archaeon ''Halobacterium salinarum''.” Nature Microbiology 2016 Aug 26;1:16148</ref>
 
== 脚注 ==