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電子回折の概要、実用上の観点、参考文献を更新
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'''電子回折'''または'''電子線回折''' (electron diffraction) は、試料に[[電子]]を当てて[[干渉 (物理学)|干渉]]パターンを観察することで、物質を研究するのに使われる技法。[[粒子と波動の二重性]]によって起こる現象であり、粒子(この場合は電子)は波動としても説明できる。このため、電子は音や水面の波のような波動として見ることができる。類似の技法として、[[X線回折]]や[[中性子回折法|中性子回折]]がある。
 
電子回折は[[固体物理学]]や化学において、固体の[[結晶構造]]の研究によく使われる。電子回折 ([[制限視野電子回折|制限視野電子回折またはSAED]]) パターンが得られる、もっとも典型的な実験装置は[[透過型電子顕微鏡]] (TEM) である。物体を透過し、回折 ([[フレネル回折]]) を起こした電子線は対物レンズによって、物体から有限の距離に位置する、後焦点面に電子回折パターンを形成する (図1)。これは、対物レンズを使用せずに、検出器を無限遠に置いた場合に得られる[[フラウンホーファー回折]]と等価である (つまり、TEMにおける対物レンズは、物体のフーリエ変換器の役割を果たしている)。[[電子後方散乱回折|電子後方散乱回折 (EBSD)]] パターンが得られる検出器が備わったTEM や[[走査型電子顕微鏡]] (SEM) も存在する。TEMおよびSEMでは、電子は静電ポテンシャルによって加速されることで必要なエネルギーを得、対象の試料に照射される前に特定の波長となるよう設定する。
 
結晶体は周期的構造を持つため、[[回折格子]]として機能し、予測可能な形で電子を散乱させる。観測された[[回折]]パターンに基づき、その回折パターンを生じさせる結晶格子([[ブラベ格子]])を決定することができる。回折強度を精密に測定することで、結晶構造を推測することもできるが、X線回折と同様に[[位相問題]]が生じる。また、電子回折では結晶体が厚くなると、電子線の多重散乱の効果が無視できなくなるため、回折強度の計算は[[運動学的回折理論]]ではなく、[[動力学的回折理論]]に基づいて行う必要がある。これらの理由から、結晶構造の解析における電子回折法の有効性は限定的である。一方、電子線の多重散乱により、通常、X線回折で見られるフリーデルの法則が破れるため、結晶体の対称中心の有無を決定できるというメリットもある。
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=== 実用上の観点 ===
[[ファイル:Simple-TEM-beam-path.jpg|thumb|right|図1. TEMにおける電子ビームの経路の概略図]]右の図1は、TEMにおける並列電子ビームの経路の概略図で、試料にあたってから蛍光スクリーンに映し出されるまでを描いている。試料に照射された電子ビームは試料を透過する際に構成元素の持つ静電ポテンシャルによって散乱する。散乱された電子は試料回折 ([[フレネル回折]]) 通過後起こすが、電磁対物レンズによって、試料から有限の距離に位置する、後焦点面 (図の破線で示した面) に電子回折パターン通過形成する。これは、対物レンズを使用せずに、検出器を無限遠に置いた場合に得られる[[フラウンホーファー回折]]と等価である (すなわち、TEMにおける対物レンズは、物体のフーリエ変換器の役割を果たしている)。また、このレンズは試料の1つの点を通過して散乱した電子を蛍光スクリーン上の1点に集め、それによって試料の像形成され役割も果たすなお、図破線で示対物レンズの良し悪た面では、同じ方向に散乱させられた電子1点集まってい像質を左右す。これが顕微鏡の焦点面ため、TEMあり、回折パターは最も重要なレが形成さズとして扱わるところである。顕微鏡の他の磁気レンズを操作すると、像ではなくこの回折パターンをスクリーンに投影することもできる。このようにして得た回折パターンの例を図2に示す。
[[ファイル:Simple-TEM-beam-path.jpg|thumb|right|図1. TEMにおける電子ビームの経路の概略図]]
[[ファイル:DifraccionElectronesMET.jpg|thumb|right|図2: TEMの並列電子ビームによって得られる典型的な電子回折パターン]]
右の図1は、TEMにおける並列電子ビームの経路の概略図で、試料にあたってから蛍光スクリーンに映し出されるまでを描いている。電子は試料を透過する際に構成元素の持つ静電ポテンシャルによって散乱する。電子は試料を通過後、電磁対物レンズを通過する。このレンズは試料の1つの点を通過して散乱した電子を蛍光スクリーン上の1点に集め、それによって試料の像が形成される。なお、図の破線で示した面では、同じ方向に散乱させられた電子が1点に集まっている。これが顕微鏡の焦点面であり、回折パターンが形成されるところである。顕微鏡の磁気レンズを操作すると、像ではなくこの回折パターンをスクリーンに投影することもできる。このようにして得た回折パターンの例を図2に示す。
 
試料を電子ビームに対して傾けると、結晶のいくつかの向きの回折パターンが得られる。そうすることで、結晶の[[逆格子ベクトル|逆格子]]を3次元にマッピングすることができる。体系的な回折点の不在を調べることで、[[ブラベー格子]]を見分けたり、結晶構造内の[[螺旋軸]]や[[映進面]]の存在を特定できる。
 
試料を電子ビームに対して傾けると、結晶のいくつかの向きの回折パターンが得られる。そうすることで、結晶の[[逆格子ベクトル|逆格子]]を3次元にマッピングすることができる。体系的な回折点の不在を調べることで、[[ブラベー格子]]を見分けたり、結晶構造内の[[螺旋軸]]や[[映進面]]の存在を特定できる。[[ファイル:DifraccionElectronesMET.jpg|thumb|right|図2: TEMの並列電子ビームによって得られる典型的な電子回折パターン]]
=== 制限 ===
TEMにおける電子回折には、いくつかの重要な制限がある。第一に、試料は電子を透過させるものでなければならず、試料の厚さは100 nm台かそれ以下でなければならない。そのため、試料の準備作業には細心の注意が必要で、時間もかかる。さらに多くの場合、試料は電子ビームを浴びることで破壊される。
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* Leonid A. Bendersky and Frank W. Gayle, "[http://nvl.nist.gov/pub/nistpubs/jres/106/6/j66ben.pdf Electron Diffraction Using Transmission Electron Microscopy]", ''Journal of Research of the National Institute of Standards and Technology'', '''106''' (2001) pp. 997–1012.
* {{cite book | author=Gareth Thomas and Michael J. Goringe | title=Transmission Electron Microscopy of Materials | publisher=John Wiley | year=1979 | isbn=0-471-12244-0}}
*Ludwig Reimer and Helmut Kohl (2008), ''Transmission Electron Microscopy'' ''- Physics of Image Formation'' (5th ed.). Springer. ISBN 978-0-387-34758-5
*Marc De Graef (2003), "''[[doi:10.1017/CBO9780511615092|Introduction to Conventional Transmission Electron Microscopy]]''", Cambridge University Press.
 
== 外部リンク ==