「ハードディスクドライブ」の版間の差分

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データを記録する円板部分を「プラッタ」と呼び、プラッタの各面のことを「サーフェス」と呼ぶ。通常、ハードディスクドライブは1枚以上のプラッタで構成されていて、それぞれのプラッタの両面または片面にデータが記録される。プラッタの数は少ない方が軽量で、故障に対する信頼性が高いことから、1枚当たりの記録密度を高くすることは性能向上のひとつの手段である。ガラス製プラッタは[[HOYA]]によって発明され、ガラス製の3.5インチ[[:en:Hard disk platter|ハードディスク・プラッタ]]を使った世界初の製品は、2000年にIBMから発売されたIBM Deskstar DTLA-307020である。
 
現在{{いつ|date=2013年9月}}<!-- See [[WP:DATED]] -->広く普及しているCSS ('''C'''ontact '''S'''tart '''S'''top) 方式を採用したものは、ディスク停止時には磁気ヘッドとプラッタは接触している。磁性体の層の上にはライナーと呼ばれる潤滑被膜が形成されていて、回転速度が低いうちはライナーの上をヘッドが滑る。回転速度が上がるにつれて[[境界層|プラッタ表面近傍の粘性空気]]が磁気ヘッドに対し[[気流]]となり、磁気ヘッドが[[揚力]]を発生して極わずかに浮き上がる(浮上開始原理を「[[地面効果]]に因るもの」とする誤記が書籍や[[ウェブサイト]]に散見されるが、浮上後に大きく効果が生じるのであり、浮上開始、すなわちヘッドを持ち上げ始めることにはほとんど寄与していない)。一旦浮上した磁気ヘッドはディスクとの間に気流をはらむため地面効果が働きプラッタへの接触を抑制する。ライナーが劣化すると摩擦によりヘッドが損傷し、ヘッドクラッシュという現象を起こす。一般に、密閉式のハードディスクドライブは準消耗品的な扱いを受ける場合が多く、ライナーの寿命がハードディスクドライブそのものの寿命となる。
 
これに対し、Load/unload方式を採用したHDDでは停止時にプラッタの外側のシッピングゾーンと呼ばれる退避位置にヘッドを退避させていて、プラッタの回転速度が規定の速度に安定した段階でプラッタ上へ移動させる機構となっている<ref>3.5インチ型では[[日立グローバルストレージテクノロジーズ|HGST]]、[[ウェスタン・デジタル|WD]]が採用。2.5型ではすべてのHDDが採用している。</ref>。
 
古い時代(1980年代)のハードディスクドライブは、停止命令を送ると([[日本電気|NEC]]の[[PC-9800シリーズ]]では「STOP」キーを押すと)ヘッドをプラッタから引き上げ、退避位置に移動させるようになっていた。しかし、部品点数削減と停止命令を送らない[[オペレーティングシステム|OS]](代表的には[[MS-DOS]])の普及などといった理由から、ヘッドがプラッタ上に置かれたままで停止するCSS方式が採用されるようになった。これに伴い、「はりつき」と呼ばれる現象が発生するようになった。これは、[[きさげ加工#リンギング|鏡のようになめらかな面を持つ2つの物体が接触した状態で時間が経過した場合などに発生する現象]]で、ハードディスクドライブが起動しなくなる深刻な障害として現れる。回復させるために、電源を入れながら(水が入ったバケツから水をこぼさずに振り回すが如く)筐体に遠心力を与えたり、クッションに包んでハードディスクドライブを床に落として衝撃を与えたり、筐体を分解してディスクを手で強制的に回転させたりというような、さまざまな民間療法が考案された。後にプラッターの一部に凹凸を付けた領域(シッピング・ゾーン)を設け、停止時にヘッドをそこへ移動させる方式が採用されて「はりつき」の問題は解消された。現在{{いつ|date=2013年9月}}<!-- See [[WP:DATED]] -->今日のOSはハードディスクドライブに停止命令を送るようになり、特に耐衝撃性能が要求される携帯機器向けのハードディスクドライブではヘッドを退避領域に戻す機構(ドロップ・センサー機能)が再び採用されている。
 
プラッタに埃などの異物が付着するとヘッドを損傷する原因となるため、プラッタとヘッドの周辺は密閉されている。開封するには特殊な工具を必要としたり、「開封後は保証対象外」と書かれた封印が貼られている場合が多い。ただし、完全密閉されているわけではなく、温度変化に伴う筐体内の気圧変化を開放するため、埃フィルタを備えた圧抜き開口部が設けられている。ヘッドに働く揚力の大小は空気密度(すなわち気圧)の影響を受けることから、ヘッドとプラッタサーフェスの距離を安定に保つためには筐体内の気圧が大きく変化してはならないためである。一方、高地などの気圧が低い環境下ではヘッドに発生する揚力が小さくなり、ヘッドがぶつかりやすくなるため、それぞれの製品には使用環境の気圧(高度)に関する仕様もある。
 
プラッタは様々な表面処理技術によって進化している<ref>その多くは半導体プロセス技術の進歩の恩恵を受けている。その応用例の一つとして、[[IBM]]が発明したPixie Dust技術(反強磁性結合メディア、AFCメディア)がある。これはディスク表面の磁性体の上に[[ルテニウム]]原子を3個コーティングして、さらに磁性体でコーティングしてサンドイッチにした物である。この技術は[[2001年]]、1平方インチあたりの記録密度を100Gbitに高める可能性を示し、同技術の改良版によって[[2002年]]100Gbitに達する製品を実際に発売した。その他に、2002年に[[富士通]]がディスク表面に微細な凸凹(テクスチャ)を施し磁性体の表面積を大きくし、記録密度を高める技術を発表した。[[東北大学]]の[[岩崎俊一]]博士(現 [[東北工業大学]]学長)が[[1977年]]に発明した[[垂直磁気記録方式]]は、理論上では[[水平磁気記録方式]]よりも安定して高密度化できるが、いくつかの技術的困難があった。[[2005年]]に[[東芝]]が実用化し、今日{{いつ|date=2013年9月}}<!-- See [[WP:DATED]] -->の超高密度記録を実現している。さらに東芝では、この垂直磁気記録方式のプラッタに溝を加えることにより磁気の相互干渉を抑えてさらなる記録密度向上を狙ったディスクリート・トラック・レコーディング (DTR) 技術、パターンド・メディア・レコーディング技術が開発された。現在実用化に向けて研究されている。</ref><ref>[[関西大学]]システム理工学部では保護膜上の潤滑膜層の形成に「電圧印加ディップ法」を使い、現行の1.6 - 1.8nmから1.1nmへと薄膜化することで磁気ヘッドの浮上量を2nmから1.4nmへと小さくすることで面記録密度を現行品 (400GB/inch<sup>2</sup>) の2倍以上の1[[テラ|T]]B/inch<sup>2</sup>にまで向上させるとしている。(Nikkei Electronics 2009.6.15 p14 - 15)</ref>。
 
=== モーター ===
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{{See also|シングル磁気記録方式}}
 
シングル磁気記録方式はその特質上[[ニアラインストレージ]]用途に適しており、システム用途やデータベース用途などのランダムアクセス書き込みが多い用途には不向きである。パーティションに置かれるファイルシステムのインデックスも一般にはデータベースの一種であるため、ホスト([[オペレーティングシステム|OS]])側の対応も必要な場合がある。
 
=== インターフェース ===
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高機能なコントローラ(主にSCSIで)は、ハードディスクドライブ間の通信をサポートしている。例えば、ファイルを別のハードディスクドライブにコピーする時、コントローラがセクタを読み取って別のハードディスクドライブに転送して書き込むといったことができる(ホストCPUのメモリにはアクセスしない。言い換えればその操作中CPUは別の仕事ができる)。また、他のハードディスクドライブのサーボ情報と連携を取り、複数のハードディスクドライブのスピンドル・モーターの回転を同調することができる(スピンロック)。これは[[RAID]]においてアクセス速度を向上させるのに役立ったが、データ読み書き速度の向上と、大容量の[[キャッシュメモリ]]を備えること、[[Direct Memory Access|バスマスター]]転送による非同期I/Oの普及により、この機能は廃れている。この機能の廃止に伴いハードディスクドライブ同士の共振による振動がアクセス速度や信頼性に影響を与えることになったが、ハードディスクドライブ・メーカーは振動を検知して共振を打ち消すようにモーターを制御する技術をスピンロックに代わり提供するようになった。
 
かつて{{いつ|date=2013年9月}}、[[Shugart Associate System Interface|SASI]]インターフェースを備えたSASIハードディスクドライブが主流であった頃、コントローラは2種類のインターフェースを持っていた。一つはホストCPUとつながるためのSASIインターフェース、もう一つはスレーブコントローラ([[ST-506]]仕様)を接続するための拡張インターフェースである。しかしベアドライブを除くスレーブとなる製品が市場にほとんど出回らなかったことから、SASIハードディスクドライブはホストCPUに一台しか繋がらなかった([[PC-9800シリーズ]]用SASI外付けドライブは、コントローラ内蔵の1台目用と、ST-506だけの増設用が別々にあった)。SASIハードディスクドライブは時代の変遷と共にその座をSCSIハードディスクドライブに譲った。時代的誤認が散見され、SASIの後継がIDEと認識されている場合があるが、SASIはSCSIの直接の先祖であり、電気的特性も近く、ソフトウエアで工夫することでSASIインターフェースをSCSIインターフェースとして動作させられるほど、この2者の関係は近い。
 
特殊なコントローラとして、[[Enhanced Small Disk Interface|ESDI]]インターフェースとSCSI・SASI・IDEインターフェースを仲介する外付けコントローラが存在した。このコントローラは旧時代のESDIハードディスクドライブ・インターフェースと、近代的なハードディスクドライブ・インターフェースの橋渡し役として機能した(初期のSASI・SCSI・IDEハードディスクドライブはこのコントローラを内蔵していた)。SCSI/SASI/IDE→ESDIに変換するタイプのコントローラの中身は、現代のハードディスクドライブのコントローラそのものに近い。ESDIはそのベースとなったST-506を改良したインターフェースIDEが作られ、その座をIDEハードディスクドライブに譲った。
 
=== フレーム ===
フレームは構成部品を保持する部品で、現在{{いつ|date=2013年9月}}<!-- See [[WP:DATED]] -->今日ではアルミ[[ダイカスト]]製の箱形として気密構造を形成するケースと一体化した物が広く普及している。初期の大型の物はケースとは独立したフレームになっていたことからこの呼び方が残っている。スピンドルやスイングアームピボットの取り付け部は特に高い寸法精度を要求されるため、単一部品のフレームにすべての部品が保持されている。フレーム内部は空気の流れをコントロールする形状に作られていて、ダストトラップと呼ばれる部品に空気を誘導して、内部で発生した塵をトラップで永久に固定する。
 
コンピュータ本体へ固定するためのネジ穴は4点で1組の構成となっているが、複数ある規格に対応できるように複数組用意されていて、一般に3.5インチドライブのネジ穴は3組、それより小さいドライブは2組以下である。
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; 8インチ
: 大型汎用コンピュータ用途。1980年代まではパーソナルコンピュータ用途でもあった。2016年現在は生産されていない。
; 5.25インチ
: 大型汎用コンピュータ、1990年代半ばまでのパーソナルコンピュータ用途。2016年現在は生産されていない。
; 3.5インチ
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=== ドライブの厚さ ===
; ハーフハイト
: 41.3mm。2000年以前の高性能3.5インチSCSI HDDに用いられた厚さで、プラッタ5枚以上・磁気[[ヘッド]]10個以上の構成となっていた。その後の記憶密度の向上により、これほどのプラッタを内蔵する必要は無くなり、現在{{いつ|date=2013年9月}}<!-- See [[WP:DATED]] -->では少数の中古品が流通しているに過ぎないった
; 1インチハイト
: 25.4 - 26mm。現在{{いつ|date=2013年9月}}<!-- See [[WP:DATED]] -->では標準的な3.5インチ型HDDの厚さ。プラッタは1 - 3枚。大容量製品には4 - 5枚もある。
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== リムーバブル・ハードディスク ==
ディスクを取り外し可能なハードディスクのこと。あるいはハードディスクドライブそのものをカートリッジに格納して可搬性を向上したもの。かつて{{いつ|date=2013年9月}}リムーバブル・ハードディスクは前者のみが存在した。初期の例では1962年の[[:en:Early IBM disk storage#IBM 1311|IBM 1311]]があり、洗濯機のような筐体に約4.5kgのディスク・パックをマウントすることができた。
 
[[リムーバブルメディア]]にはフロッピー系([[フロッピーディスク]]、[[Bernoulliディスク]]、[[ZIP (記憶媒体)|Zip]]など)、テープ系([[デジタル・データ・ストレージ|DDS]]、[[Linear Tape Open|LTO]]など)、[[リムーバブルディスク|光磁気ディスク系]]([[光磁気ディスク|MO]]、[[ミニディスク|MD]]など)、ハードディスク系など、様々な技術を用いた数多くの製品が発売されて来たが、その内のハードディスク系のものの総称として、一般的にリムーバブル・ハードディスクと呼ぶ。ハードディスクドライブのディスク部のみをカートリッジに入れ、ヘッドや駆動部からなるドライブ本体から構成されており、フロッピーディスクやMOのように使うことが出来る。