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微分(可能性)は本分野で最も基本的な概念なので、その定義式ぐらいはあったほうが良いと思い追加しました。
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{{出典の明記|date=2011年12月}}
[[File:Color complex plot.jpg|thumb|right|240px|複素関数''f''(''z'') = (''z''<sup>2</sup> &minus; 1)(''z'' &minus; 2 &minus; ''i'')<sup>2</sup>/(''z''<sup>2</sup>+2+2''i'')のグラフ。[[色相]]は[[偏角]]を表し、[[明度]](このグラフでは周期的に変化させている)は[[絶対値]]を表す。]]
[[数学]]の分科である'''複素解析'''(ふくそかいせき、{{lang-en-short|complex analysis}})は、[[複素数]]の[[関数 (数学)|関数]]に関わる[[微分法]]、[[積分法]]、[[変分法]]、[[微分方程式]]論、[[積分方程式]]論、[[複素函数]]論などの総称である。'''関数論'''とも呼ばれる。初等教育で扱う[[実解析]]に対比して複素解析というが、現代数学の基礎が[[複素数]]であることから、単に解析といえば複素解析を意味することが多いもある。複素解析の手法は、[[応用数学]]を含む[[数学]]、[[理論物理学]]、[[工学]]などの多くの分野で用いられている。
 
== 歴史 ==
複素解析は最も古くからある[[数学]]の分野の一つであり、その起源は19[[18世紀]]あるいはそれより以前にまでたどることができる。[[レオンハルト・オイラー]]、[[カール・フリードリッヒ・ガウス]]、[[ベルンハルト・リーマン]]、[[オーギュスタン=ルイ・コーシー]]、[[ワイエルシュトラス]]といった数学者や他の多くの二十[[20世紀]]の数学者たちが複素解析の理論に貢献している。
 
歴史的に複素解析、特に[[等角写像]]の理論は[[工学]]・[[地図学]]・[[物理学]]に多くの応用があるが、[[解析的整数論]]全般にわたっても応用されている。近年は[[複素力学系]]の勃興や正則関数の繰り返しによって与えられる[[フラクタル]]図形]](有名な例として[[マンデルブロ集合]]が挙げられる)の研究などによって有名になっている。他の重要な応用として[[共形変換]]に対して[[作用]]が不変な[[場の量子論]]である[[共形場理論]]が挙げられる。また[[電気工学]]における[[フェーザ表示]]、[[連続体力学|固体力学]]における[[応力関数]]、[[流体力学]]における[[複素速度ポテンシャル]]など、工学の様々な分野にも応用されている。
 
他の重要な応用として[[共形変換]]に対して[[作用]]が不変な[[場の量子論]]である[[共形場理論]]が挙げられる。また[[電気工学]]における[[フェーザ表示]]、[[連続体力学|固体力学]]における[[応力関数]]、[[流体力学]]における[[複素速度ポテンシャル]]など、工学の様々な分野にも応用されている。
 
== 複素関数 ==
'''複素関数'''とは、[[自由変数]]と[[従属変数]]がともに[[複素数]]の範囲で与えられるような[[関数 (数学)|関数]]である。より正確に言えば[[複素平面]]の[[部分集合]]上で定義された複素数値の関数が複素関数と呼ばれる。複素関数に対し自由変数や従属変数を実部と虚部とにわけて考えることができる。
: {{Indent|<math>z = x + iy ,\, w = f(z) = u(z) + iv(z),</math>
 
: ここで <math>x,y,u(z),v(z) \in \mathbb{R}.</math>}}
従って複素関数の成分
: {{Indent|<math>u = u(x,y),</math> }}
: {{Indent|<math>v = v(x,y)</math>}}
は、2つの[[実数|実]]変数 {{mvar|x, y}} についての[[実数値関数]]だと考えることができる。(学校教育などにおいて)複素解析の基本的な概念は、[[指数関数]]、[[対数関数]]、[[三角関数]]などの実関数を複素関数に拡張することにより与えられることが多い。
 
== 複素解析正則関数 ==
{{main|正則関数}}
'''複素解析[[正則関数]]'''は、[[複素平面]]のある[[領域 (解析学)|領域]] ''D'' で定義され、[[定義域]]の全体で解析的な複素関数 ''f''(''z'') をいう。複素関数については[[解析函数微分可能|解析的]]であることと[[複素微分可能]]であること、つまり任意の ''a'' ∈ ''D'' に対し極限
{{Indent|<math>f'(z) = \frac{df}{dz} = \lim_{z\to a}\frac{f(z)-f(a)}{z-a}</math>}}
が定まる複素関数 ''f''(''z'') をいう。
が定まることは[[同値]]であり、これを'''[[正則函数|正則]]''' (holomorphic) という。複素関数が解析的でない点を[[特異点 (数学)|特異点]] (singularity) という。特異点における関数値は[[不定]]であったり絶対値が[[無限大]]に発散したりすることが多いことから、特異点は定義域の外にあると考える方が妥当であるが、当然に、定義域の外の点のうち、微分不可能な点を全て特異点というべきではない。特異点とは解析関数の定義域の閉包の開核に含まれる非解析的な点であると考えてもよい。ただし、究極的には、複素解析の対象となる関数が複素解析関数であり、複素解析の対象となる非解析的な点が特異点である。何が複素解析の対象になるかについては主観の入る余地がある。
複素関数については[[微分可能|複素微分可能]]であることと[[解析函数|解析的]]であること、つまり
* 任意の ''a'' ∈ ''D'' に対して複素係数の[[べき級数]]
{{Indent|<math>\sum_{n=0}^\infty c_n \left( z-a \right)^n = c_0 + c_1 (z-a)^1+ c_2 (z-a)^2 + \cdots</math>
 
が定まり、}}
* ''a'' から一定の距離([[収束半径]])の範囲でこの級数が収束して、
* 収束値が関数値 ''f''(''z'') に一致すること
が[[同値]]である<ref>{{Citation |author=[[ラース・ヴァレリアン・アールフォルス|L.V. アールフォルス]] |year=1982 |title=複素解析 |publisher=現代数学社}}</ref>。そのため、複素解析においては'''正則関数''' (holomorphic function) 、'''複素微分可能関数''' (complex differentiable function) 、'''解析関数''' (analytic function) という用語は同義になる。複素関数が複素微分可能でない点を[[特異点 (数学)|特異点]] (singularity) という。
 
=== 特異点の分類 ===
{{main|特異点 (数学)}}
複素解析は解析的な[[領域]]を主として探求する分野であるが、複素関数に[[特異点 (数学)|特異点]]がある場合、特異点を含む領域全体に於ける大局的な挙動は特異点に支配される。従って、特異点の位置や性質を研究することは複素解析の範疇に含まれる。
 
特異点には'''[[孤立特異点|孤立した]]'''ものと'''孤立しない'''ものとがあるが、複素解析の対象となるのは主に孤立した特異点である。孤立特異点は、'''[[可除特異点]]'''、'''[[極 (複素解析)|極]]''' 、'''[[真性特異点]]'''に分類される。除去可能な特異点とは、その点における値を適当に取り直すことにより、複素函数をその近傍で解析的にすることができるときに言う。極とは、複素函数 {{math|''f''(''z'')}} の特異点 {{math|1=''z'' = ''a''}} であって、{{math|(''z'' &minus; ''a'')<sup>''n''</sup>''f''(''z'')}} において除去可能な特異点となる自然数 {{mvar|n}} が存在するものをいう。真性特異点とは、除去可能でも極でもない孤立特異点をいう。
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非孤立特異点は、特異点が[[稠密]]に連なっているために、その[[近傍 (位相空間論)|近傍]]に必ず他の特異点を含んでしまう特異点をいう。例えば {{math|1=''f''(''z'') = 1/sin(1/''z'')}} は {{math|1=''z'' = 0}} に非孤立特異点を持つ({{math|1=''z'' = ±1/''nπ''}} は {{math|0}} 以外の、孤立していない真性特異点、ただし {{mvar|n}} は任意の[[自然数]])。この他に、定義域の自然な境界([[解析接続]]によって越えられない壁)や[[多価関数]]を一価関数として扱うために導入する'''[[分岐点_(数学)|分岐切断]]''' (branch cut) も一種の特異点と考えられる。分岐切断の端点を'''分岐点''' (branch point) というが、分岐切断が有るかぎり、分岐点は孤立した特異点になりえない。然し、分岐切断は(分岐点を固定して[[ホモトピー|ホモトープ]]である限り)何処に置いてもよいものであるから都合に合わせて分岐切断を動かせば、分岐点を恰も孤立した特異点であるかのように扱える。この発想は[[リーマン面]]に通ずる。分岐点は'''代数分岐点'''と'''対数分岐点'''に分類されるが、代数特異点、対数特異点と呼ばれることもある。
 
=== 解析複素関数の分類 ===
複素関数が微分可能であるということは、実関数が微分可能であるということに比べて遥かに強い条件である。一階微分可能な複素関数は無限階微分可能であり、積分可能であり、解析的である。この事実により、複素関数が微分可能であれば正則であるという。定義域(若しくは考察の対象となっている領域)の全体で正則な関数を[[正則関数]]といい、特に複素平面全体を定義域とする正則関数を[[整関数]]という。孤立した[[極 (複素解析)|極]]を除いて正則な関数を[[有理型関数]]という。複素平面全体を定義域とする正則関数を[[整関数]]という。指数関数、正弦関数、余弦関数、[[多項式]]関数など、多くの初等関数は整関数であるが、正接関数などは極を持つから有理型であり、対数関数は負の実軸に[[分岐点_(数学)|分岐]]を持ち正則でない。[[ガンマ関数]]は負の整数に極を持つから有理型であるが、右半平面に限れば正則である。
 
== 著しい特徴 ==
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* 正則関数の重要な性質に、正則な関数の[[連結]]な領域上全体での挙動が任意のより小さい領域上の挙動によって決定されてしまう([[一致の定理]])、というものがある。大きい領域全体でのもとの関数は小さい領域上に制限して考えたものの[[解析接続]]とよばれる。このような原理によってリーマン[[ゼータ関数]]など、限られた領域上でしか収束しない級数によって定義されていた関数を複素平面全体に正則関数や有理型関数として拡張することが可能になる。場合によっては[[自然対数]]などのように複素平面内の[[単連結]]でない領域への解析接続が不可能なこともあるが、[[リーマン面]]とよばれる曲面を導入することでその上の正則関数としての「解析接続」を考えることができる。
 
上記の結果はすべて一変数に関する複素解析のものであるが、[[多変数複素解析]]に関しても豊かな理論が存在し、ベキべき級数展開などの解析的な性質が成立している。一方で[[等角写像|共形性]]などの一変数正則関数が持つ[[幾何学]]的な性質は拡張されず、[[リーマンの写像定理]]が示すような複素平面の領域に関する共形関係性など一変数の理論における最も重要な結果が高次元においてはもはや成立しない。
 
==脚注 ==
== 他の分野への応用 ==
{{Reflist}}
歴史的に複素解析、特に[[等角写像]]の理論は工学・[[地図学]]に多くの応用があるが、[[解析的整数論]]全般にわたっても応用されている。近年は[[複素力学系]]の勃興や正則関数の繰り返しによって与えられる[[フラクタル]]図形(有名な例として[[マンデルブロ集合]]が挙げられる)の研究などによって有名になっている。他の重要な応用として[[共形変換]]に対して[[作用]]が不変な[[場の量子論]]である[[共形場理論]]が挙げられる。また[[電気工学]]における[[フェーザ表示]]、[[連続体力学|固体力学]]における[[応力関数]]、[[流体力学]]における[[複素速度ポテンシャル]]など、工学の様々な分野にも応用されている。
 
== 歴史参考文献 ==
* {{cite book|和書|title=複素解析|author=[[ラース・ヴァレリアン・アールフォルス|L.V. アールフォルス]]|translator=笠原乾吉|publisher=現代数学社|year=1982|isbn=4-7687-0118-3|ref=harv}}
複素解析は古くからある数学の分野であり、その起源は19世紀あるいはそれより以前にまでたどることができる。[[レオンハルト・オイラー]]、[[カール・フリードリッヒ・ガウス]]、[[ベルンハルト・リーマン]]、[[オーギュスタン=ルイ・コーシー]]、[[ワイエルシュトラス]]といった数学者や他の多くの二十世紀の数学者たちが複素解析の理論に貢献している。
 
== 関連項目 ==